憂鬱の魔神   作:萎える伸える

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 一万と四千


【幕間】憂鬱なる『希死念慮(デストルドー)
『罵倒、葛藤、戦闘』


 

◆◇◆

 

 

 静まり返る深夜の森。

 パチパチと火の粉の舞う音が響き渡る。

 何も見えぬ暗闇の中、唯一の光源である焚火の傍には、ユウの上着を被さり枯草を枕にして眠るフェリスの姿があった。

 

「──スピンクス」

 

 すやすやと眠っていたフェリスはしかし、ユウの呼び声にすぐさま反応してスピンクスとしてその瞼を開いた。

 

「……なんだい?」

 

「フェリスを頼む」

 

「……あぁ、そういうことか。了解した」

 

 一瞬容量を得なかったスピンクスだったが、周囲の状況を確認してその言葉の意味を理解した。

 

 

『グルルルル……』

 

 

 ユウたちは今、周囲を魔獣に囲まれていた。魔獣たちは酷く弱った格好の得物を見つけて集まってきたのだ。

 

 ホクトの障壁は頼りにできない。これはユウの責任だ。ユウが後先考えずに動いた結果。

 

 ユウは本当は一人でフェリスを守り抜くつもりだった。しかし、ユウは頼ることにした。信用ならなかった、聖域まで出番はないと言って憚らなかった相手に、

 

「──『エルドーナ』。あぁ、早くも名誉挽回の機会を得られてうれしい限りだ。……君はボクに頼ることを拒むと思ったが、どういう風の吹きまわしかな」

 

 少し前の、昨日までのユウならあり得ない選択、決断。

 しかしユウは迷わなかった。

 

「……僕は…………僕だけじゃ、フェリスを守れない。……それがわかった。だから、お前の手を貸して欲しい。虫のいいことを言っているのはわかってる。これは、僕一が人でやるべきことだ。僕がフェリスと一緒にいる為に、できなきゃいけないこと」

 

 それはフェリスを連れ出したユウの責任。しかし、ユウはそれを果たせなかった。だから頼る。恥を忍んで。

 

「……絶対に守り切るって自信はある。それでも、万が一がある。僕のつまらないプライドで、もうフェリスを傷つけることはしたくないんだ。だから、フェリスを守ってあげてくれ。──頼む」

 

「……ボクを信用すると、そういうことかい? …………ボクが言うのもなんだが、それは些か浅慮に過ぎるのではないかな?」

 

 しかしそれに対してスピンクスが返したのは疑問の言葉だった。

 

「今日のことだけでボクを信用するなんていうのは、あまりに軽率だとボクは思うよ。確かにボクは君に対し誠実であろうと努めているし、約束を違える目論見などないが? それが信用を得る為のただの演技でないとどうして言い切れる?」

 

 まるで迷う様子もなく、スピンクスを頼るユウ。それに対してスピンクスはユウの軽率な選択に疑念を抱きその真意を問う。

 

 ユウは己のちんけなプライドの問題だと言うが、スピンクスからすれば問題はそこではなく、どうして信用できるのか、ということだ。

 

 そう、理性的に考えるなら、信用なんて一生できるはずがない。なぜなら彼女は、魔女で、悪人で、自分の目的のために愛しい子に憑りついている悪魔の類だ。

 

 合理的じゃない。愚考だ、愚策だ、愚かな選択だ。

 

 それでも、ユウは迷わない。

 根拠はない。確信はない。それでも自信がある。

 

 ──心が、彼女を信用できると感じている……信じたいと思っているから。

 

「ふっ……ああ、お前が言うことじゃないな。……別に、お前のそれが演技じゃないって言い切れるわけじゃない。僕は、お前のことを何にも知らない。お前が何を考えているのか、僕にはわからない。でも、僕はお前を信じる。僕は、お前を信じたいって思えた僕の心を信じたい。だから根拠なんてないし、納得させられる理由なんてのはないよ」

 

「…………そうか。『心』……か。……ならば、期待には応えねばなるまいね。ボクの威厳にかけて、今度こそ役に立ってみせよう。この子の身の安全はボクが保障する。──気を付けて」

 

「あぁ──ありがとうな」

 

「………」

 

 ユウはスピンクスに話をつけて森へと向き直った。スピンクスはとどめていた土魔法を起動させ、防壁を完成させる。それを確認してユウは剣を構える。

 

 

 

「「「ガルルルルッ」」」

 

「──かかってこい。そうして死に晒せ、畜生共」

 

「「「ガウガァッ!!」」」

 

 犬型の魔獣ウルガルムの群れが襲い来る。

 夜が明けるまでの、狩りが始まった。

 

 

◆◇◆

 

 

 斬って、斬って、斬り尽くす。

 的確に、淀みなく、その首を切り落とし、胴を薙ぎ、脳を突く。

 

 清廉された剣技が獣を狩る。其れは天下の剣聖の模倣。完全ではないにせよ、その技術は英雄に足る。獣ごときに敵うものではない。

 

 しかし、獣は獣であるが故に、畜生どもは無謀に無鉄砲に本能のままに、その数を頼みに襲いかかる。

  

 ──数が多い。

 

 ユウは獣を狩りながら思考する。ユウは己の身を囮にしてスピンクスのいる場所から少し離れたところで魔獣と戦っていた。

 

 もう三十ばかり殺しているが、その勢いは一向に衰えない。どれだけ凄まじい剣技をもった剣士だろうと、その体力には限りがある。獣は獣なりに狩りのプロである。獲物の殺し方を経験として知っている。

 

 だが、それはユウの並の剣士であったなら、あるいはただの人間であったなら通じる戦法だ。

 

 ──このままだったら問題ないな。

 

 ユウは体力など問題にしない。ユウに体力など存在しない。ユウは『疲労』なんてとっくに失っている。

 

 どれだけ疲弊しようと怪我をしようと筋肉も心臓も脳でさえも、次の瞬間にはきれいさっぱり回復していることだろう。

 

 舞う、舞う、舞う。

 それは剣舞。それは狩り。それは武闘ではなく舞踏。踊り、振るい、屍の山を築く。

 たかだか数百の魔獣など、相手にならない。

 

「──ふぅ」 

 

 しばらく戦っていると、魔獣の攻撃が止んだ。ユウはその合間に一つ息を吐く、それだけで息の乱れは落ち着き、戦闘状態が解ける。

 

 

「………」

 

 

 しばらく魔獣は来ないだろう。しかしこうして一か所にとどまって戦っている以上、それを嗅ぎつけた魔獣が森中から続々と集まってくるはずだ。

 

 魔獣とはそういうもの。その脳にあるのは捕食、殺戮、戦闘。そこに獲物がいるのなら、血を嗅ぎ分け、音を聞き分け、駆け付けてくる。

 

 

「……ホクト」

 

 

 そうして、魔獣が止んだ合間にユウは──ホクトとの対話を試みた。

 

「……どうして裏切った」

 

 ユウは問う。どうして力を貸してくれなかったのかと。そのせいでフェリスが死にかけたんだぞ、と。そう怒りを込めて。

 

 そして、

 

 

『は?』

 

 

 返答は、ユウの怒りを遥かに上回る激怒だった。その一言、一音には、計り知れぬ激情が込められていた。だが、ユウは理解しなかった。ユウは、ホクトが何を考えているのかわからなかった。

 

「──? どうして力を貸してくれなかったんだ。それに『権能』のことも、なんで教えてくれなかった。そりゃ、天候の変化を想定してなかった僕のせいだけど、お前が手を貸してくれればあそこまで事態が悪化はしなかったはずだ」

 

『──お前。それ本気で──あぁ、本気なんだろうな。クソが、反吐が出る』

 

「あ? 何怒ってんだよ、怒りたいのは僕の方だ。どういうつもりだ、何考えてる」

 

 そうだ。ユウは間違ってない。自分が何もできなかったのは反省してる。後悔してる。しかし、それでもあの場で助け合うことをせず突き放したホクトに怒る権利が、ユウにはあるはずだ。

 

『……イラつくなァ、あァ、不愉快極まる。お前──いつからそんな腑抜けちまったんだ?』

 

「……なんだって?」

 

『お前さァ、もしかしてオレを都合のいいお助けアイテムかなんかだとでも思ってんのか?』

 

 酷く、それは、酷く底冷えのする声だった。

 

「……え」

 

『どうして? なんで? 何考えてるか、だってェ……? ──ダボが、なんでオレがお前の女ァ助ける為に汗水流さなきゃなんねぇんだ? バカか? あ?』

 

「は、なに言って……だって、お前は僕の味方だって……」

 

『……へぇ、そう、だから勘違いしちゃったわけ。へぇ、へぇ~、何度も言ってんだけどなァ、あァ、バカに説明するってのは本当にダルいよなぁ? 『ナナホシ・ユウ』クン?』

 

「………」

 

 その声には、悪意が詰まっていた。

 最近は聞いていなかった。もう、仲間だと思っていた。自分に協力してくれる、頼りになるもう一人の自分なのだと、それは、それこそが、勘違いだったのだろうか……?

 

『──甘ったれんじゃねぇぞ。お前──気持ち悪いよ。心底……心の底から、反吐が出る、お前を見てると』

 

「……っ」

 

 罵倒、それは言葉の凶器。

 ユウは、声が出なかった。

 言い返そうと、言葉を考えるも、言葉は浮かばず、それどころかホクトは更に更に侮辱の言を重ねてくる。

 

『お前がァあのガキと、キャッキャ、キャッキャと馬鹿みてぇに浮かれてるところォ見てんのはうんざりなんだよ。あァうんざりだ、うんざりする、憂鬱ダ……──お前、満足してただろ』

 

「──。」

 

『外出て、救えて、クルシュと袂を分かって、あのガキと生きてくって、安易に容易に軽率に愚鈍に脳死で考えたんだろォ? 満足か? あァ、お前は満足した。ガキと相思相愛になれてよかったなァ! あァよかったよかった、おめでてェな。オメデトウ! ──ホントはもう飽きてんだろ、オメェ』

 

 ホクトは言う、ユウは満足していると。

 確かに、ユウは満足、すなわち幸せを感じていた。

 

 フェリスと一緒にいられること、フェリスと想えること、想われていること。すべてが幸せだった。彼女が大切だった。彼女を守りたい、幸せにしたい、愛してるって何度でも言いたい。

 

 ……そう思うことの、何が悪いというのだろうか。

 ユウにはわからない。ホクトの言いたいことが、何一つわからない。ただ、わかるのは──。 

 

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

『………』

 

「………ならもういい、お前なんて──要らない。お前にはもう頼らないよ。お前に協力する意思がないなら──」

 

 

 ──シャッ!!

 ──キキィッ!!

 

 

 ホクトの口撃を軽く流すユウ。そうしてそこへ追加の魔獣の群れが現れた。

 今度はサル型の魔獣マジーラと言ったか。集団で獲物を狩るすばしっこい赤毛の猿だ。

 

 

「……今度は猿か、犬よりは面倒そうだな」

 

『………』

 

「──ふッ!」

 

 

 襲い来る猿どもを切り裂こうと、その剣を振るおうとした。

 ──だが、

 

 

「………が、あ、なん………」

 

 

 ユウの身体が硬直し、痙攣し始めた。

 それは──。

 

 

『──オレが、要らない。オレが、オレが、オレが──俺が何の為にお前に身体を渡してやってると思ってるんだ? 要らないのは──お前の方だよ──『ナナホシ・ユウ』』

 

「……オ、マエ……!! ぐ──ッ」

 

 

「──オレはオレだ。オレの目的の邪魔ァするってんだったら、この身体──オレに寄越せ」

 

 

 もう一人の自分は悪辣に、ユウから肉体の制御を奪い取った。

 

 

「──あは♪ 久しィぶりの身体だなァ! いい、いいねェ、やっぱり生きるってのはこうでなきゃ……! あは、あははっ? アハハハハ!!──『デスピア』ッ!!」

 

 夜の暗闇に強く輝く紫の光の爛々と輝き周囲を照らす。それは力の波動、暴力の結晶、破壊の衝動。輝きは集約し一振りの矛となる。紫紺の槍はホクトの叫びと共に魔獣に向かって解き放たれる。

 

「「「ギィャッッ────!!」」」

 

 一撃で相当な数の魔獣が消え去った。その槍は矛先にあるすべてを穿ち、貫き、この世から存在を消し去る。ホクトの編み出した『憂鬱の権能』、最強の矛である。

 

「あァ……イイ。ほら──来いよ」

 

「ギ、ギギィ……」

 

 そう言って魔獣に対し手招きするホクト。その眼光は狂気の光を発している。その威圧感は並大抵のものではない。

 

 普通の魔物とは違い狡猾で知恵の働くマジーラは恐怖する。近づけない、本能が危険だと囁いている。あれは邪なもの、あれは敵わないもの、あれは、あれは──それは魔獣の根源的な恐怖の象徴──。

 

「──来いって、言ってんだろォ──ッ!」

 

 ホクトの身体から凄まじい『瘴気』が噴出する。

 

「「ギギッガァァァァァアアアア!!!!」」

 

 すると猿どもの目から正気が失せ、狂気に染まり、発狂の咆哮とともにホクトへと一斉に群がった。あれを殺せと、本能が獣を唆す。

 

「クックック──いい子だ。ちゃァんと殺してやる。大人しくオレの糧になれ」

 

 ホクトが手を翳せば、そこに一本、二本、三本と、紫紺の槍が生成されていく。ホクトはその手を一周させ、自身の周囲に二十近い槍を具現化する。

 その大きさは投げ槍程度であり、先ほどよりも少し小さい。

 

 

「──『(アジャラ)』」

 

 

「「「「「──ッッッ──」」」」」

 

 そして、その言葉と共にホクトの周囲、上下左右三百六十度を埋め尽くしていた魔獣の群れは、一撃で血しぶきに代わり、その肉体を爆ぜさせた。

 

 ポタポタと血の雨が降った。

 そして、周囲の()()()()()()()が、ホクトへと取り込まれていった。

 

「あァ……力が満ちていく……!! 戦いってのァこうでなくちゃァな……! アハッ、アハハッ!…………はァ」

 

 少しは、気が晴れるかと思ったが、そんなことはなかった。

 

「……こんなモブじゃあ物足りねェよなァ? ま、いっか。久しぶりの運動だ、このぐらいで満足しとくかァ──んじゃ、どこへいくとするか──っとォ?」

 

 途端、平衡感覚が失われる。

 絶好調だったホクトはその場に膝をつく。

 

 

『──『返せ』」

 

 

 ユウの虹彩が赤く染まる。

 

「いひッ──『傲慢』!」

 

「──僕の身体だッ!!」

 

「あはっいいじゃねぇか、減るもんじゃないだろッ!」

 

「黙れッ! 僕は──あの子と生きるんだッ!!」

 

 

 ──身体の奪い合いが始まった。

 

 代わる代わるにその口で言葉を話す二人にして一人。傍から見れば頭のおかしい人間だ。ころころと表情を変え、口調を変え、右で笑い、左で怒る。

 

 その右手は左手を押さえ、別々に動く足によってまともに立つこともできないでいる。

 

 

「──お前、なんなんだッ──なんなんだお前はッ!!」

 

「だからァ何度も言わせるなよユウクン──オレはお前さッだから、安心して身体を寄越しな!」

 

「お前……ッ──『魔女人格』ってやつなのかッ!?」

 

 

 『魔女人格』。ユウもよく知らないそれは『魔女因子』の副作用とも呼ぶべきもの。宿りしものの魂を歪め、その者に適した『権能』を授ける正体不明の『魔女因子』という代物には、数少ない代償のようなものがある。

 

 力を手に入れるには相応の対価がいるというのはよくある話だが、『魔女因子』の対価とはすなわち資格だ。権利だ。力に相応しい意思を示すことだ。

 

 選ばれたことは始まりに過ぎず、そこから因子と魂の融合が始まる。因子はオドに寄生し溶け合い、力を与える。

 

 しかし、魂を弄られるなどまずまともな結果にはならない。魂が変化すること、それはつまり──。

 

 ──生まれ変わるのだ。

 

 力を得るのは簡単、しかし力を制御するには相応の意志が必要となる。それが足りていなければ力は暴走し、魂を穢し、精神を汚染する。

 

 そうして──新たな『別の人間』になる。

 

 それが『魔女因子』の人格なのか、本人が打ち勝つのか、はたまた互いに溶け合い一つになり、まったく別の人間になるのか、それは各々次第である。

 

 だが──『ナナホシ・ユウ』はそのどちらでもなかった。彼はその魂を完全に別ち、一つの身体に二つの人格が誕生した。

 

 ホクトとは『魔女因子』の人格であり、ホクトが言う“オレはお前”というのは嘘であると、ユウはそう考えた。しかし、違う。違う違う、全然違う。

 

 

「───。」 

 

「──っ?」

 

 

 ガチ、と、肉体の動きが止まった。ユウは動かそうとしても動かず、ホクトは沈黙している。

 

 

「……オレが、『魔女因子』から生まれた“偽物”の人格かって……? なァ──オイ」

 

「──ッ!!」

 

 

 ホクトは、その左拳でユウの頬を殴りつける。自分で自分を殴りつける。

 

 

「──不快不愉快腹立たしい厭わしい忌まわしい鬱陶しい。何も知らねェで、何もかんも忘れて、ペットの生き死に如きに一喜一憂しやがって」

 

「……あ?」

 

「よかったなァせっかく拾ってきたペットが死ななくて! せっかく懐かせたもんな! あァ……女々しいったらありゃァしない」

 

「……──殺す」

 

「きひっ? おわッと──」

 

 ユウの右手に風が宿り、不可視の刃がその減らず口を削ぎ落し黙らせようとする。しかしホクトの左手がその手首を押さえつけ、風刃はホクトの顔の真横を通り過ぎその頬を少し裂くだけに終わった。

 

「おォおォ一丁前に切れてんのかァ!? ──お人形チャンがッ!!」

 

「黙れッ!!」

 

「イィヤ黙らないね! うんざりなんだよ! お前の、お前らのママゴト見せられんのはァ! 何がごべんなさいぃだッ! なァにが愛してるゥだ! バッカじゃねェの? バカだろッ! あァペットと──」

 

「彼女はペットなんかじゃないッ! 取り消せッ!」

 

「……自覚、ないんだ、ないよね、ないよなァ知ってた! お前ェあいつのこと一度だって──『女』として見たことなんてなかっただろ」

 

「──ッ!」

 

「お前はあいつを女として愛してるんじゃァない。かと言って男として愛してるわけでもない。純粋に好きというにはドロッドロ、親愛というのも烏滸がましい。そういうのォ庇護欲って言うんだよ! ペットに対するな。ペット、ペット、ペット、何度だって言ってやるよ! お前が好きなのは自分を愛してくれる、自分を必要としてくれる弱くてひ弱で矮小なテメェに都合のいい愛玩動物! そうだろうがッ!」

 

「……違う! 違う違う、違う違う違うッ!!──僕はッ!!」

 

 

 ──アオォォォォォン

 

 

 口論し自爆を繰り返すユウたち。そこへ第三陣がやってきた。巨大なウルガルムに、それに引き連れられた通常種、更に猿というよりもゴリラに近いボスマジーラに通常種、他にも岩豚やギルティラウと言った有名な魔獣たちが一斉に集い、ユウたちを取り囲んだ。

 

 

「チッ、オマエ、何の為に力ァ得たんだよ」

 

「……僕、は……フェリスと幸せに、フェリスを、幸せに……僕はフェリスを助けたいだけだッ!」

 

「──ハッ、助けたい、助けたいってか、クッハハハハハ! あァそりゃァ質の悪い冗談だな。あァ反吐が出る。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いったらありゃァしない」

 

 

 ただただ心に兆し胸を満たす思いの丈を言葉にして告げるユウに、ホクトはただ邪悪に悪辣に陰険に、その言葉を否定する。

 

 

「──薄っぺらだ。ぺらっぺらだ。オマエのそれは口だけだ。──取り繕うな。見栄張るんじゃねぇ、あの無様で女々しい泣きっ面がお前の本性だろォ? 記憶なくしたことも伝えられないビビりで臆病者で卑怯者なテメェが、好きだ、想いだ、愛してるだなんて語んな。死ね。軽いんだよ。甘ェんだよ。気持ち悪ィんだよ。助けたいなんて妄言を吐くな。愛してるだなんて虚言を恥ずかしげもなく宣うな。テメェがそんな綺麗事口にできる立場だとでも思ってんのか?」

 

「……もういいッお前の戯言なんてどうでもいいッ! 『フーラ』ッ!!」

 

 

 言葉の限りにユウを罵るホクトに対して、再びユウの魔法が振るわれる。頭、両腕、両足、それぞれの制御権を奪い合う。ユウとホクト、二心一体で武闘を舞う。

 

 頭を狙った魔法はまたも外れ、しかし背後から迫っていたウルガルムを切り裂いた。

 

 

「僕はフェリスを助ける! 死なせない! もう絶対死なせない! 守るんだ! 助けるんだ! そう決めたんだ! 誓った! 約束した! 僕とフェリスの邪魔をッするなァ──ッ!!」

 

「キャウン──ッ」

 

 

 赤き眼光が輝きを増す。ユウの意思に呼応して肉体に力が入り、制御を奪い取る。迫りくる畜生に剣を振るい、その決意を森に響かせる。

 

 

「──しゃらくせェ! 『デスピア』! 『デスピア』! 『デスピア』ァ!!」

 

「ガ、ボァ……」

 

 

 しかしすぐにホクトが制御を奪い取る。『権能』を用いて紫紺の槍を生成し、そこかしこにいる畜生どもに手当たり次第に打ち込み、その身を爆ぜさせる。

 

 

「『デスピ……』」

 

「──『アルフーラ』ッ!」

 

 

 権能は中断され、紫紺の槍は翡翠の槍となって敵を穿つ。ユウは周囲を確認し、群れのボスらしき魔獣を先に倒そうと包囲網から脱出……しようと跳躍したところでホクトが主導権を奪い返す。

 空中で取り返したホクトだったが体勢を崩すことはなく、そのまま剣に『憂鬱』を宿してボスを斬る。

 

 

「──そうだ、そうだよ、こうでなくちゃァなァ!! なァ!? 『ナナホシ・ユウ』!!」

 

「────知るかッお前の言ってることはッなにっ一つ理解できない!」

 

「気持ちいいだろォ力ァ解放するのはッ! 生き物を殺すのは! 快楽そのものだ!」

 

「黙れ、これはフェリスを守る為の力だッ!」

 

「守れてねェ癖に偉そうに言うな!」

 

「──ッ!」

 

 

 剣を振るい、槍が飛び交い、魔獣の断末魔が響き渡る。そんな戦闘中に、しかし未だ二人は口論を続ける。二人には魔獣など眼中になく、身体の奪い合いに全力を注いでいる。

 身体の奪い合いは精神と意思で行う綱引きのようなもの。ホクトはユウの心を乱そうと言葉を連ねる。

 

 

「……守れると、思った……! 守れると、思ってたんだよ……僕が求めてたのはこんな、こんな役に立たない力じゃないッ!」

 

「………。」

 

「『フーラ』ッ……それでも、守るって決めたッ! だから、スピンクスにも頼るって決めた! だから……お前にも、手を貸して欲しいって、だから──ッ! うぐ──ぁ」

 

「──傲慢。あァあんだけ死んで、死んで、繰り返して。覚悟を決めて、少しはマシになったかと思えばあっという間に元通りだ。──クソガキ。お前のそれはただの『甘え』だ。何の覚悟もねぇただの思考放棄。あのクソ魔女に頼ろうなんてのァ思い違いもいいところだ」

 

「……スピンクスは……」

 

「──絆されたんだろ? 辛いときにちょっと優しくされただけで。……牢獄でのことォ忘れたのか? 忘れちまったんだろう。だからちょっと優しくされただけで赦しちまえるってか! バカも休み休み言えッ!」

 

「……っ」

 

「──赦せるはずがない。信用なんてするはずがない。信じるな。頼るな。……『頭でわからなくてもいい。心でわかればいい。信じたいって心で思えたから』──ッ! そんなのはただの思考停止なんだよ! 助けたいなんて綺麗事を抜かすな! ──助けたいならクルシュに引き渡せカスが。違ェだろ? お前が決めた覚悟は。そんなちんけなもんじゃァなかったはずだ!もう忘れちまったってのかァ?!」

 

「……僕……は……」

 

 ──ただ、フェリスの声が聴きたかった。独りは嫌だった。フェリスと一緒に居たかった。ただ、それだけだった。それは──

 

「──そうさ、お前は助けたかったんじゃァない。助けたのは手前勝手な『欲望』の結果だ。お前はお前の欲望の手段として救いを選んだだけだ。それを恩着せがましくも助けたかった、だなんて言葉で着飾って自覚すらねェなんて、これで反吐が出ねェやつがいるか? いぃやいないねッ!」

 

「……僕は……。……お前、何が言いたいんだ」

 

 ホクトが延々とユウを悪し様に罵倒する言葉の中に、ユウは何かの想いを感じ取った。言葉は聞くに堪えない言葉の数々、ユウはほとんど理解できていない。

 

 しかし、想いが、伝わってくるのだ。身体を奪い合う中で、感情が、意思が、想いが、混ざり合い、重なり合い、交錯する。

 

 ホクトは言う。

 

 

「──もっと欲張れ。満足なんてするな。考えて考えて、考えて、考えて! ──考え続けろ! 心で分かればいいなんて思考停止の先にあるのはテメェに都合のいい善悪で物事を語る下らねぇつまらねぇ何の価値もねぇ──偽善者(ゴミ)だけだ。──そんなんじゃァお前は、オレたちはいつまで経っても至れない」

 

「………」

 

「──強欲に貪欲に欲深になれ。生きている限り満足なんてするな。そうでなきゃお前に終わりは来ない。望み、高め、そうして至れ。想えることが──愛せることが当たり前だなんて思ってんじゃねぇ……! 相思相愛で満足なんてしてんじゃねぇ!! そうでなきゃオレは……! ……オレは何も想えない。想えないんだよ! 感じないんだッ! オレにだって記憶がある! 意思がある! なのに! オレにはあの子のことなんてこれっぽっちも想えない! オレがニセモノだからか! オレがお前が受け入れられないことを受け止める為だけの人格だからか! その為だけに生まれたからか!」

 

「………」

 

 

 支離滅裂だった。ユウはホクトの気持ちが理解できなかった。それでも、同調し、共鳴し、身体を奪い合う中で、伝わってくるものがある。

 

 それはホクトの感情。ホクトの心。そうしてわかる。──ホクトの心は空っぽである。何もない。虚無。虚空。

 

 ユウもまた空っぽだった。

 『死に戻り』が、その代償としてユウの魂を穢し、精神を常人から逸脱させた。

 

 それでも、ユウにはフェリスがいたから。フェリスとの幸福な時間が、フェリスの存在が、ユウの心を少しずつ満たしていた。ユウの心は満たされてた。

 

 しかし、ホクトの心は空っぽのままだった。ホクトは、ホクトの心が満たされるには戦いしかない。力の行使しかない。ホクトにはそれしかできない。

 

 ユウがホクトの立場だったら、気が狂っていたかもしれない。自分は乾いていく一方なのに、隣では満たされているやつがいる。しかもそれがもう一人の自分だとしたら、思うだろう。──どうしてオレじゃないんだ、と。

 

 

「──オレは消えない。オレは死なない。オレは消えてなくなってなんかやらない。オレは生きている。オレがここにいることを誰にも否定させなんかしねェ。お前にもあのガキにもこの世の誰にも! ──オレの『憂鬱』を無視するなんざ許さねェ! そうさ、オレは自由に生きるんダ! アハックハハハハッ」

 

 

 ホクトは嗤う。嘲る。それは決して愉快だからじゃない。ユウにはわかった。そしてそれがわかって尚、ユウには──。

 

 

「………わからない」

 

「……あ?」

 

「……お前が言いたいこと。思ってること、考えてること、ぜんっぜんわかんねぇ……」 

 

 

 ユウにはわからない。理解なんてしてやれない。分かってやれるなんて言わない。

 

 ホクトが本当に同じ僕なのだとして、それでも全部を分かってなんてやれないんだ。記憶も同じ、経験も同じ、もとは同じ人間。でも──今は違う人間。ユウは分かり合えないと知った。

 

 可哀そうだから身体をやるなんて言えない。言ってやらない。ユウはフェリスと約束したから。

 でも、こいつも僕と同じだから。それはわかったから。

 だから──。

 

 

「……でも、お前も僕だと言うのなら──受けて立つ。いつでも、何度でも、身体を奪おうとしてみればいい。僕は負けない。僕の心にフェリスがいる限り、僕がお前に負けることなんて在りはしない」

 

「───上等じゃねぇか。吠え面かくんじゃねぇぞ」

 

 

 相容れない二人。互いにその意志は固く、考えを曲げることなどしない。二人は決別し、対立し、ただ一人の人間としてただ求めるモノを勝ち取らんとする。

 

「グルガァァァ──!!!」

 

 そこへ到来する、機会を伺っていた獣たち。自爆し自傷するユウたちに今がチャンスだと言わんばかりに突っ込んでくる。

 

「──馬鹿が、オラッ!」

 

 しかし、瞬時に反応したホクトが剣を振るう。剣に纏わりつくオーラは振るわれた刃から斬撃として放出される。それは視界にいる魔獣すべての身体を泣き別れさせ、周囲を囲う重厚な木々までも一撃で切り裂き転倒させる。

 

「──『アルフーラ(天嵐)』」

 

 そうして反対側からも続々と迫りくる獣をユウの生み出した巨大な嵐が一網打尽にする。獣は暴風と狂風の吹き荒れる風の檻に閉じ込められてミキサーのように切り刻まれミンチと化す。

 

 肉体の主導権が高速で入れ替わり続ける。

 

「『戯』!」

「『フーラ(三連星)』!」

「「死ねッ!」」

 

 『権能』が、『風』が、剣線が舞う。

 肉体の支配権は入れ替わり続けているはずなのに、その動きに淀みはなく、凄まじい速度で魔獣の間を駆け巡っている。そうして凄まじい速度で潰えていく獣に、積み重なる屍の山。

 

「くッ」

「このッ」

「ふッ」

「らッ!」

 

 全身全霊のぶつかり合い。それは目には見えぬ精神の争い。意地の張り合い。

 肉体の制御権を奪い合う精神力を競う綱引き。

 どちらも一歩も譲らず、綱は互いを行き来する。

 

「ハッ! もう疲れてきたかァ!?」

「まだまだッ!」

「力ァ弱ってきてんぞォ!」

「一気に引き抜くためだよバーカッ!」

「うがッ、こんのッ」

 

 そんな会話をする最中も、肉体は自由自在に空を闊歩し、地を駆け、獲物を狩る。

 全力で動き続けるというのは多大な疲労を呈するが、それは精神も当然同じ。互いに、互いの疲労が積み重なって加速度的に倦怠感が増していく。

 

「ハッ、何意地張ってんだかッ! あの子が求めてるのは『お前』じゃァないってのにな!」

 

 ホクトはそんなユウの精神を乱そうと語り掛けてくる。

 

「ふッ!」

「ぬぐおッ」

 

 だが、それは失敗する。ユウはホクトの戯言を意に介さない。

 

「もうお前の言うことなんかに惑わされないッ! あの子が求めているのが僕じゃないなら、彼女が求めてくれる僕に、僕がなればいいだけだッ!」

 

(こいつッ)

 

 ユウの意思は固い。ホクトがユウを惑わそうと油断した隙に、逆にホクトが隙を突かれてしまった。

 

 ホクトは思考する。このままでは負ける、と。何故、こんな泣き虫の臆病者にオレは負けようとしているのか。ホクトは理解できない。オレとこいつで何が違う。決まってる。あのガキだ。

 

 ホクトには理解できない。それが強さに、至る為に必要なものだなんて思わない、想えない。信じない。

 

 ──なにか、こいつを動揺させる言葉をッ。

 

 ホクトは思考し、次々と暴言を吐く。

 

「なんも知らねぇで! 都合の悪いことッ都合よく忘れて! 女とイチャイチャしてるだけのやつには、あァ! わかんねぇだろうな! 自分の記憶取り戻す気もねぇんだろ?!」

 

「フェリスが望むなら取り戻す、そうでないなら、そんなもの何処へなりとも捨ててやる! 僕は僕の為、あの子の為に、あの子の望む存在になる為に僕のすべてを捧げてみせる!」

 

「──ッ」

 

 固い。頑固にも程がある。ただの思考放棄だ。自分で考えないで、判断を他人に委ねて、自分は何の決断もしない、楽したいだけの屑の妄言だ。

 

「はッ今度は開き直りか! おめでてェな! 判断を他人に委ねてりゃ楽だもんナ!」

 

「僕は彼女を、彼女たちを信じる! そう判断しただけだ!」

 

「チッ」

 

 曲がらない。最早考えることをしていない。意思の固い奴のなんと面倒なことか。

 

 ──あァ余計な方向にキマッちまってやがる。クソだりぃ。

 

 そうさせたのは紛れもなくホクトであるが故にいら立ちは募るばかりだ。

 

 ──あァクソッ、思考が鈍ってきやがる。

 

 ──守る! 守る! 守るんだ! ──今度こそ絶対に!

 

 ──うるせぇ、黙れ。

 

 隣でキンキンと叫ぶユウの心。それが猶更ホクトの思考を妨げる。うざいったらありゃァしない。

 

「あァあァアァァァ!!! うっぜェんだよ! さっさと身体を寄越しやがれ! クソ傲慢野郎ッ!」

 

「知るかッ! クソ根暗野郎!」

 

「ハッ、テメェ口が悪くなってきてるぞォ! 意識保つの辛くなってきたんじゃねェかァ……!?」

 

「そりゃお前も一緒だろッ!」

 

 ホクトだけではない。ユウだって疲労している。もうずっと二人で身体を動かしているような状態だった。実際には交互に高速で入れ替わっているのだが、二人の意識が重なり合い互いの次の行動を自ずと理解するようになっていた。

 

「バカがッ!」

「うるせぇ!」

 

「クソガキッ」

「性悪がっ!」

 

「偽善者めッ」

「くそエゴイストッ!」

 

「泣き虫!」

「サイコ野郎!!」

 

「死ねッ!」

「お前が死ね!」

 

「ウぉぉぉオオオ!!!」

「あァァァあああ!!!」

 

 もう、二人ともまともな思考はしていなかった。ただウザイ、キモイ、気に食わない、そんな単純な思いで互いを罵り合い、殴り合い、奪い合う。暴力と暴言を使った対話。

 それは要するに──喧嘩、である。

 ただ、二人は喧嘩して、想いをぶつけあっているのだ。

 

 

「──このカラダはッ」

「──この身体はっ」

 

「「──(オレ)のだッ!!」」

 

 

 二人が互角に競り合う中、その一方で、片手間に蹂躙される哀れな哀れな獣たちがいた。

 

 

◆◇◆

 

 

 夜闇に包まれる暗黒の森に、待望の光がやってくる。

 日が昇ってきた。朝日の陽光が森に差す。

 

 そんな森のとある場所では、広大な円周上に木々が倒壊し、五百はくだらない獣の死体が散乱していた。

 

 そんな広場の中央に、大の字に倒れ込み、仰向けに寝っ転がっている男がいた。

 

 

「……はぁ……『はぁ』……ハァ……『ハァ』……」

 

 

 荒く呼吸を取り乱し、疲労困憊な男。その男は目を閉じたまま、ただ息を吸うことに集中していた。無呼吸で叫び続け、戦闘し続けた当然の代償だ。いくら力があるとは言え無理を通しすぎた。

 男はもうまともに動くことも敵わない。

 

 ──決着はついたのだ。

 

 男はその瞼を上げた。そこに写る瞳は──深紅に染まっていた。

 

 ──勝ったのはユウであった。

 

 

「……勝った……」

 

 

 ユウの想いが、意思が、精神性が、ホクトを上回った。

 

 

『……オレはッ負けて、ねェ……』

 

「……いや認めろよ。それで認めなかったら……何の為に、はぁ、こんな、面倒なことを……」

 

『……知る、かッオマエが、勝手に言ったことだろうが……』

 

「……もう二度とやらないからな」

 

『あァくそッダリィ……』

 

 

 疲れ切っていた。これから朝だと思うと憂鬱で仕方がない。

 ああ、でも、いかなければ。

 

 

「……はぁ……フェリスが起きる前に、いかないと……あぁ……ちょっとだけ眠るの赦してくれるかな、フェリス……」

 

 

『……』

 

「……」

 

 

 そうして、沈黙して時が過ぎた。

 あんな殺伐としていた場所なのに、そこに日の光が当てられただけで、まるで長閑な草原のような、自然を感じる場所になった。

 そこには爽やかに風が吹き、木々が揺れ、多少の血生臭さはするが、自然の香りのするいつもの森だった。不思議だ。

 

 

「……あのさ」

 

 

 そんな森で日向ぼっこ状態だったユウは、そう言って切り出した。

 

 

「……お前の言ったこと、ほとんど覚えてないし、お前が、何なのかも結局わかんなかったけど……でも、お前のおかげで、踏ん切りがついたよ。なんか、スッキリした」

 

 

 ユウは、考えていた。ずっと、ずっと、考えていた。生まれてから死ぬまで、牢獄でも、どこでも、いつでも、考えることをやめなかった。それはスピンクスを信じると決めたときだって同じだ。

 

 心で決めたと言っても、心で決めると決めたのは結局ユウの頭だ。紛らわしいけど。

 それが間違ってないか、自分は間違ってないか、考えないなんてできない。怖いから、考え続けるしかない。自分の罪、フェリスのこと、スピンクスのこと、将来のこと、考えるべきことは尽きることがない。

 

 だから、初めてだった。

 

 何にも考えずに、ただ力をぶつけること。ただ思いをぶつけること。ただ、喧嘩するみたいに。

 

 そうして思いを受け止めてくれること。それは、とても、あぁ……愉快で痛快だった。とても心地のいい疲労感。心の膿をすべて吐き出したような爽快な気持ち。

 

 

『……あっそ……』

 

「……きっと、またお前に頼るのが必要な時がくる。その時は、無理にでも手伝わさせてやる。だから──」

 

『……はァ、知るか……勝手にしろ』

 

「うん」

 

『はぁぁ……憂鬱だ……──』

 

 

 それっきりホクトの声は聞こえなくなった。あいつも疲れただろうし眠ったのかも知れない。あいつが眠るのか知らないけど。というか寝たいのは僕の方だけど。

 

 

「………」

 

 

 ユウは目を閉じ、触覚に集中して、肌に当たる暖かい日光を、吹き通る涼しい風を、全身を受け止めてくれる雄大な大地を、快く感じた。

 

 

 そうして時間が過ぎて行って……ユウは寝坊した。

 

 

◆◇◆

 





 グングニル使い損ねタ。いや、多分ホクトは使ってる、多分ギルティラウをそれで殺してル。描写もされなかったけどナ!

クルシュとフェリスと過ごした五年間のお話読みたいデスカ?

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