理想を掲げた皇帝と理想に殺されたトレーナー   作:リョナ専マン

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大切なものを自ら手放した者は何を思うのか。

そして彼女たちはどうなっていくのか…。

彼を手放した皇帝の胸の内。


皇帝のその後

 

 

私は人を殺してしまった。

 

掲げた理想が大切な人を殺した。

 

私の伸ばした手があの人の首を絞めたんだ。

 

 

トレーナーが部屋に残した書置きの情報を頼りに再捜査が行われ、トレーナーの無実とウマ娘側の謀略が露呈し、過重暴行を加えたウマ娘達も捕まった。

 

直接暴行を加えた彼女達の刑罰は無期懲役らしい。

未成年の犯行ということもあり世論では懲役刑の説が濃厚だったが、彼女たちの持つ凶器〝脚〟や常軌を逸した集団暴行を咎められたそうだ。

 

だけどもう遅い。

 

 

彼は死んでしまったのだから。

 

 

 

 

この件は新聞やニュースで大々的に取り上げられた。

 

【ウマ娘が持ちうる闘争本能の危険性】

 

という見出しの記事があちらこちらで配られているのを目撃した。

外に出れば後ろ指を指され、出入り禁止にされる店舗も出てきているそうだ。

人を蹴り殺せる相手が隣にいては何をするにも気が気ではないだろうし、この判断は妥当といえる。

 

 

トレセン学園にも非難の声が烈火の如く押し寄せてきた。

 

 

どうしてウマ娘を庇ったんだ、トレーナーの主張は何故通らなかったんだ、地面ではなく人を蹴る脚を育てているのか、等と疑問や罵詈雑言、誹謗中傷などが後を絶たない。

 

けして多くはないが学園前で抗議のプラカードを携えた人々も見た。

 

 

連日続いた対応で窶れた理事長が記者会見で深々と謝罪をした映像が記憶に新しい。

 

しかし〝元〟とはいえ担当トレーナーを失った私にたいする世間の反応は同情や哀れみなどが大半であった。

 

他のウマ娘達が怪訝な目で見られる中、私は道行く人達に慰めの言葉をかけられる。

 

「辛いだろうけど頑張るんだよ」「皇帝さんは悪くないからね」

 

励まそうとしてくれるのはわかる。

 

だが違うんだ.......今のウマ娘達の基盤を作ったのは私だ。

 

トレーナー君を殺してしまったのは...私自身なのだ。

 

 

誰かに優しくされる度に自分が作り出した罪が襲ってくる。

 

最近ではトレセン学園の中から私を非難する者達が出てきた。

 

当たり前だ。何もしてない自分たちが軽蔑されて、その頂点に君臨する私が擁護されているのだから、彼女たちにとってはそれこそ〝冤罪〟だ。

 

学園内を歩いていると恨み辛みの籠った視線を感じるようになった。

 

最後に会ったトレーナーもこんな視線を浴びていたのだと思うと息が詰まりそうになる。

四方八方から浴びせられる憎悪、嫌悪、酷悪の視線や言葉。

 

私への世間の反応と他のウマ娘達の対応が全くの正反対な事によって生じる板挟みのような状態。

この状態のせいで私の心はゆっくりとすり潰されていった。

 

 

 

 

 

最近は生徒会の仕事も休んでトレーナーの部屋に籠りきりになっている。

 

エアグルーヴ達には申し訳がないと思うが正直職務を全うする自信が無い。

人前に出た私へ向けられる視線に『お前の理想が私達を苦しめている、お前のせいだ』という意思を汲み取ってしまい過呼吸に陥るようになってしまった。

 

「怖いんだ、助けてくれトレーナー君.......」

 

立てかけてある写真に縋り付く

 

その写真に写る笑顔を見て私は再び吐き出してしまう。

 

「ぅ.......ぉぇッ....」

 

びちゃびちゃと音を立て飛び散る吐瀉物はもはや胃液のみとなっていた。

 

写真の中のトレーナーの顔を見る度にどこからともなく聞こえる彼の声が頭の中に永遠と響く。

 

そして今日はその声が一つ増えた。

 

『お前は助けてくれなかった』『俺を捨てたくせに』『信じていたのに』

 

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! 私が悪かったんだ...謝るからそれ以上言わないでくれ──」

 

 

『お前となんか歩むんじゃなかった』

 

 

 

私の心が壊れる音がした。

 

 

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