IS学園入学前の、ちょっとしたお話。
EX-command_1 卯月の思い出
ふと、美味しそうな匂いで目が覚めた。床に敷いた寝袋の中からもぞもぞと抜け出てキッチンを向けば、見慣れた白いエプロン姿の一夏が立っていた。
「ふあ〜ぁ……おはよう」
「あ、おはよう三之川。あけましておめでとう!」
「……あぁ、そういやそうか」
新年の挨拶を返しながら彼の元へと足を運ぶ頃にはすっかり頭も冴えており、同時に豪華な食材の数々に思わず涎が出てきた。
「このハムと刺し身美味そうだな……って、伊達巻買ってたかお前?」
「あぁ、さっきまで作ってたんだ。味見ようのやつ残しておいたし、食うか?」
「んじゃ……」
小皿に乗せて差し出された焦げ茶の切れ端を摘んで口に放り込めば、しっとりとした食感と卵の風味が口いっぱいに広がる。
「なあ、どうだ?」
「……美味いな」
「ならよかった! それじゃあ、一緒に運んでくれるか?」
「あいよ」
そこからはトントン拍子で進み、俺たちは向かい合わせで椅子に座る。
「「いただきます」」
慣れない祝い箸に戸惑いながらも、俺はおせちを黙々と口に運んでいく。雑煮の餅をうにょーんと伸ばしながら味わい、濃いめに淹れられた緑茶でそれを飲み込む。
そうやって三十分ほどで料理を平らげた後は、初詣前の小休憩だ。一夏が食器を洗う音を聞きながら元旦の特番に目を通す。
「あ、もう駅伝始まってる?」
「……面白いかこれ? 複数人で四十キロちょっと走るだけだろ?」
「
「そういうもんか……」
こたつに肩まで入り込みながら、デカい建物を背景に走り出す選手たちを俺はじーっと見つめるのであった。
十一時頃、俺と一家はとある場所へと足を運んでいた。こじんまりとしていて人もあまり訪れていないそこが、かの
「あら、一夏くんじゃない。新年あけましておめでとう。隣の子は?」
「あけましておめでとうございます、雪子さん。彼は俺の友人の三之川です」
「どうも、初めまして」
目の前の柔らかな笑みを浮かべた女性に挨拶を交わす。聞けばどうやら、一夏の幼馴染が家族と一緒にこの神社を去ってしまったので、代わりに管理しているのだという。
彼女に案内されるままに階段を上がっていくと、かなり年季の入った本殿と色褪せた賽銭箱があった。二人でそこに五円を投げ入れ、二礼二拍手一礼。
(どうか、この任務が無事終わりますように。……ついでに、一夏の衝動買いが治りますように)
「三之川、今なんか変なこと祈っただろ」
「っぶね。無駄に勘がいいよなお前……」
左から一夏が肘で突いてきたのをさっと避ける。ゲーセンで
閑話休題。お守りを買ったついでに雪子さんの手伝いで境内の落ち葉を掃除しながら、俺は疑問を口にした。
「そういえばなんですが、雪子さん」
「あら、なにかしら三之川くん?」
「この神社って、何を祀ってるんですか? 石像が狐じゃないから稲荷とかじゃないとは思うんですが」
「俺もそれは気になるな。箒には聞けずじまいだったし」
一夏と二人でわちゃわちゃしている間彼女は何度も頭をひねっており、暫くしてからやっと話し始めた。
「そうねぇ……たぶん土地神様だとは思うのだけれど、詳しい資料は戦争の時に焼けちゃったのよねぇ」
「あー……それは、なんというか……」
「でも、篠ノ之流が剣術として残っているから『刀』か『武術』の神様なのかもしれないわ。……オフレコだけど、女性用の実用刀が見つかったこともあったからね」
「女性用の刀、か……」
ふと、どこかでそんな話を誰かから教えられたように感じて記憶を探る。しかし、結局は思い出せず俺は落ち葉掃除を続けるのであった。
────剣呑な視線を、どこかから注がれながら。
改めまして、あけましておめでとうございます。大晦日までだるまに目を入れ忘れていた黒い烏です。
おみくじで大吉を引いたから多分、きっと、大丈夫、メイビー(弁財天様に100円玉を持ってかれたけど)
相変わらずの不定期投稿になるとは思いますが、今年も拙作をよろしくお願いいたします。