夕焼けの赤い陽光が照らす第二アリーナの中、
わたくしの専用機にして、我が祖国
それを規定の回数、規定のコースで何度か繰り返した所で本日の訓練は終了。優雅に地面に降りISを解除しますと、いつの間にか見覚えのある御方──二年生のイギリス代表候補生の『サラ・ウェルキン』がいらっしゃいました。
「お久しぶりでございますわ、ミス・ウェルキン」
「やぁ、セシリア。今は私と君だけだから、そんなに畏まった呼び方はしなくてもいい」
「……サラ、何の用ですの?」
わたくしは訝しげに問いかけますわ。何せ彼女、
「まずはそう……BTの調子はどうだい?」
「なんの問題もありませんわ。BITはわたくしの思った通りに動いてくれますし、スターライトも絶好調ですわ」
「そうか、なら安心だ。それじゃあ次は──『グレムリン』、かの奇っ怪な
「……またあの碌でもない噂についてですの?」
わたくしは思わず呆れてそう言ってしまいましたが、もし噂のことを知っている人が他にいれば十中八九同じ反応をするでしょう。
グレムリン──一般的には機械にイタズラを施す妖精のことですが、代表候補生の間では専ら『所属不明のエリート操縦者』のことを指しますの。彼女*1がそう呼ばれる理由としては、元となった妖精のように色々な機械をおかしくしてしまうらしいからですわ。
曰く……『携帯電話から世にも悍ましい声が流れた』だとか、『ISの手足の操縦が逆になった』とか、特におかしな物だと『ISを乗っ取られた』なんてことも言われてますわね。
「相変わらずロマンがないね」
「当然ですわ。現実を見ていなければ、
「まぁ、そこも君の美徳ではあるか。それでなんだが……例の妖精さんだが、どうやらSISがその尻尾を掴んだらしくてね」
「なっ……本国の諜報機関が動いたんですの!?」
「あぁ、私もびっくりだ。そして、分かったことが二つある」
ブルーのショートヘアを弄りながら、サラはわたくしの目の前で指を立てましたの。子供が秘密を共有するような仕草ですけど、彼女の緑眼は本気でしたわ。
「一つ目。グレムリンが初めて活動を開始したのは五年前。そして二年前のモンドグロッソを最後にその姿は確認されていない」
「つまりは三年間……それにしては随分と有名になってますわね?」
「あぁ、どうやらその期間は
「なるほど、随分と買われてますのね。それで、二つ目は?」
続きを促すと、何故か彼女はばつが悪そうな表情を浮かべましたの。わたくしが訝しみますと、サラはやっと口を開きましたわ。
「……グレムリンは、日本人だということだ」
「まるで役に立たない情報じゃないですの!?」
「いやぁ、全くそのとおり。
「……はぁ」
思わずため息をつきますわ。ただでさえあの不躾な『
わたくしや他の生徒と違って、彼らは試験を──よりはっきりと言うなら
その怒りを治めるべく、わたくしは再び訓練を始めましたわ。
「へっくしょい!」
バーンさんに付いていくこと十数分間、
そして、やっとこさ目的地らしき場所に辿り着く。校舎や寮からかなり離れた海沿いで、そこにあるのは小さな体育館みたいな施設。
「……なんというか、まぁ、うん」
「安っぽいでしょう? あぁ、安心してちょうだい。これでも設備は最新鋭なの」
「……ほんとかねぇ」
ぼやきながら建物内に足を踏み入れると、いくつかのIS用ハンガーと警備員の方々*2がいて、オカマさんが彼、彼女らに俺を紹介する。
「さぁみんな、こっちを見なさい! この坊やが私たちの新たな仲間、三之川くんよ!」
「……思ったより小せえな」
「アネゴと並んだらそりゃそうなるだろ……」
「170ないだろアレ」
「潜入任務とかには向いてそうじゃないかしら?」
割と容赦のない言葉がグサグサと刺されて、思わずうめく。確かに一夏や弾と比べたら背が低いかもしれないが、流石に癪だ。
「確かに見た目はそこまでだけど、スゴイわよ彼」
「はいはいお褒めに預かりまして! ……それで、ここに来た理由は
俺がそうやって指差す先には、シートの被さった何かがあった。シルエットでなんとなく察しの付いたそれを剥がそうと近づくと、ふと後ろから足音が聞こえてきた。
「ちょっとネイネイ〜! こっちに寄ってからだって言ってたでしょー!」
「あら、ごめんなさいね、のほほんちゃん。うっかりしちゃったわね♪」
「……お目付け役か?」
「大正解〜!」
こちらの方にトテトテと回り込んできたのは、予想通り布仏本音である。人選がなんかおかしいと思いながらも、改めて俺はカバーを外した。
そこにあったのは、日本の第二世代IS『打鉄』である。全体的に侍のような意匠のその機体は、しかし極めてありふれた量産機だ。
「さて、坊や。これがあなたの専用機となるISよ。この前交わした契約に基づいて、武装の変更やある程度の改造は自由に行えるわ」
「ついでに言うとー、私が専属メカニックになるのだ〜!」
「ふむ、そういうことか。にしてもまぁ、こんなのを用意するとは……」
如何にも作りたての新品といった感じの打鉄に触れながら呟く。適当な貸出機を貰えれば御の字だったのだが、与えられたなら活用しない手はない。
「それじゃあ、のほほんさん、ちょっとばかし相談いいか?」
「ん〜、なになにー?」
「まずは……
「それはねー、去年ぐらいに開発された特殊繊維で────」
知識が二年前で止まっているこちらの質問に対して、彼女は的確に答えてくれる。何度もそれを繰り返して、彼女の持つ知識量に思わず舌を巻く。IS単体だけではなく、武装の組合わせや細かい仕様の変化にまで精通しているのは、一年生であればこの人ぐらいしかいないだろう。
「──なるほど、色々と進んでるんだな」
「そうだねー。それで、何か改造とかする〜?」
「お、もういいのか? それじゃあまずは……」
俺はすぐ近くの埃を被っていたPCを起動し、それにインストールされてあったCADソフトを立ち上げる。周りに何人か集まってきたがそれは気にせず、マウスカーソルを走らせながら口を開く。
「とりあえずの方針としては、推力の強化と機動性の向上だな。だからまず、リアのブースターにパーツを噛ませて可動化したい」
「わぁ、大胆だねぇ〜。それで次はー?」
「サイドスカートが大きすぎるから、切り詰めて重ねるつもりだ。スラスターが増設出来るならそれもやりたいな」
「でも坊や、それだと脚部のレスポンスが間に合わなくなるわよ? どちらかと言えば遅い方だし」
バーンさんが口を挟めば、警備員たちも同じ意見なのか一緒に頷く。俺は少しばかり考え込み、ソフト上の打鉄の脚部を取っ払って代わりにラファール・リヴァイヴの物に変更する。
「打鉄のOSは拡張性と柔軟性に優れているから、脚部の制御だけリヴァイヴのシステムを組み込むのはどうだ?」
「んー、出来なくはないけど……
「それなら問題ないな。オーバーライドを使えば生身みたいにISを動かせる。イメージ・インターフェイスのちょっとした応用でな」
この改造にはもう一ついい点がある。言わずもがな、ラファール系列の
「おいおいおい、なんかゲテモノになってきてないか?」
「いやぁ、だって両手が塞がると大変だし。蹴りもありっちゃありだが、壊れたら飛べなくなっちまうからな」
「メインのPICがあるもんねー。あとさ、みーのん。スカートの代わりに脚の方にブースターはどうかなぁ?」
「採用!」
「いやお嬢ちゃんも大概ね……」
そこからはもうアイデアが出るわ出るわで止めどころが見つからず、最終的には寮への帰宅時間を大幅に過ぎてしまったことで織斑先生がやってきて、CADを最初に立ち上げたからという理由で俺だけが拳骨を落とされたのだった。
サラ先輩の容姿はオリジナルです。
次回、『貴族と野良犬』
感想・評価を貰えたら嬉しいです