時間は流れて翌週の月曜。やってきしまった決闘の日。
例の改造しまくった打鉄も運び込まれていて、絶賛のほほんさんの最終チェック中だ。しかし、順調なこちらとは違い一夏及び何故か一緒にいる箒さんは渋い顔をしていた。
「あー、一夏。
言う必要などないかもしれないが、一夏は織斑先生の弟なので俺よりも実質的に立場が上だ。なのでわざわざ最新鋭機を渡されることになったのだという。
「…………それが、その」
「──
彼の代わりに箒さんが答える。たちの悪い冗談かと思って一夏を見るが、その表情は重いまま。
「……まじで?」
「……マジで」
「ええい全く、学園は何を考えているのだ! これでは千冬さんの堪忍袋が──いっ!?」
「でたらめを言うな、馬鹿者」
パァンッ! もはや聞き慣れた打撃音を鳴らしながらやってきたのは織斑先生。この前食らったから分かるが、あの出席簿は死ぬほど痛いのでちょっと彼女に同情する。
「見ての通りだ、三之川……全く、
「はぁ……」
(何か変なもの仕込んでそうだな。注意しておくか)
先生の言葉に適当な返事をして俺は打鉄の方へと足を向けた。外側から分かるような問題は発生してなさそうだが、念を入れてのほほんさんに話しかける。
「なぁ、ソフトの方はどうだ?」
「ちょっぴりビミョ〜。激しい動きは難しいかもねー」
「あちゃー、一零とかそっち系ダメってことか……」
そうやって
「織斑先生、オルコットさんが首を長くしているでしょうし俺が先に出ます。いいですか?」
「あぁ、問題ない。……おい待て、なんだその仮面は?」
見逃されそうになったがバレてしまった。適当な端材を集めて作ったそれについて、俺は言い訳をする。
「顔を隠してはいけないルールなんてないでしょう? あの白騎士だってこうでしたし」
「…………今回は非公式な試合だからいいが、後でIOMOに判断を仰いでおけ」
「了解」
背を向けながら返答し、ピット・ゲートに進む。それが後数秒で開きそうになった段階で、俺は『
「三之川鉄也、打鉄
「あら、そちらがお先でしたのね」
オルコットが鼻を鳴らし、腰に手を当てたポーズでこちらを見下ろしてくる。それを無視して俺はハイパーセンサーの情報に目を通す。
彼女の真っ青な機体『ブルー・ティアーズ』。全体的な色彩の派手さと背部のフィン・アーマーを除けば、英国の量産機『メイルシュトローム』とそこまでの違いはない。
ただ、その手にもつ長大な銃器──六七口径特殊エネルギーライフル《スターライトmkⅢ》──は大きな違いと言える。
「最後のチャンスをあげますわ」
「……チャンス?」
既に試合開始の合図は鳴っているのだが、彼女は腰に当てた手を、ぴっと人差し指を突き出した状態で向けてきた。しかも左手の銃の砲口を下げたままであり、余裕綽々といった感じだ。
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」
そう言って目を笑みに細める。それと同時に安全装置を解除したとISが俺に告げてきた情報を、頭の中で整理する。暫くしてから、肩をすくめながら口を開く。
「流石は英国貴族。口先だけは達者なようだが、それはチャンスと言えないな」
「そう、残念ですわ。それなら──」
──警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填──
「交渉決裂ですわね!」
耳をつんざくような独特の音とほぼ同時に『BTエネルギー』とやらで出来た閃光が迫り、間一髪でそれを避ける。
「っ! 想像よりも結構速いな……!」
「さぁ踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
決め台詞と同時に雨あられの如くレーザーが降り注ぐ。浮遊盾で防いだり先程と同じように回避運動を取りながら、ケルグレン社製HG『ポーキュパイン』*1をコールして彼女に射撃を試みる。
初速に優れるそれは吸い込まれるように当たるが──
「ワンマガジンでたったの三十ダメージ!?」
「わたくしのブルー・ティアーズを侮らないことですわ! そのような豆鉄砲で傷つくことなどあるわけがないでしょう!!」
オルコットの高笑いが響く。あちらは現役の代表候補生、こっちとは持っている情報の『質』に絶対的な差が存在するのを痛感しながら、しかし俺はまだ諦めてはいなかった。
ポーキュパインを脚部ハードポイントにマウントし、防御に専念しながら逃げ回る。
「……っ、しまった!?」
「やっとか!」
相対距離四十メートルを維持しながらの鬼ごっこ。盾の一つが飛行不可になった頃、ついに彼女のライフルがオーバーヒートを起こした。
その瞬間に俺は
「そんな矮小な武器で!」
オルコットが批難を浴びせながら砲口を向けてくる。青い光が集まりつつある中、不意にそれが
戦闘時の過剰な
「──それはどうかな?」
次いで放たれた閃光とギリギリですれ違い────それは、ライフルを貫いた。
「なんですって!?」
「槍は振り回す以外にも使いようがあるのさ」
アリーナの壁に突き刺さった槍を遠隔で
「さて、あんたの得物はただの鈍器になっちまった訳だが……まだやるかい?」
「……呆れましたわね」
「──なに?」
威力と精度を見せつけたはずなのに微塵も揺るがないオルコットの視線に、少しばかりの不安を抱きそうになる。
「打つ手がないと思わせてからの逆転、見事でしたわ。──ですが、それはわたくしも同じことが出来ましてよ!」
彼女と言葉と同時に背中のフィン四枚が分離。青い光を灯しながらこちら目掛けてすっ飛んできたそれらから、俺は一目散に距離を取る。
数瞬前にいた場所をいくつもの閃光が貫く様子を見て安堵するもつかの間、青い板切れ────独立可動ユニット『ブルー・ティアーズ』が再び襲いかかってきたのだ。
『さあ、踊り続けなさい! 止まればわたくしの奴隷ですわよ!』
『それは一夏との約束だろうが…』
しかも、ビットの内こちらを攻撃してくるのは二つで、残りはISの方で充電と冷却を行って適宜入れ替わってくるのだから嫌らしいったらありゃしない。一発毎の威力こそライフルより低いが、発射レートはこっちの方が数段上なので状況は悪化してるも同然だ。
『あら、少しずつ遅くなってきましたわね? そろそろ降参したいですの?』
『たちの悪い……冗談だな!』
絶対防御を発動してしまうような攻撃こそ食らっていないが、このままではジリ貧である。どうにか起死回生の一手は無いものかとISのアシストも使って考えを巡らせる中、ある一つの方法へと辿り着く。本来ならここで使うべきではない切り札だが、四の五の言っていられない。
俺は覚悟を決め、サイドスカートの裏に取り付けておいた曳火爆雷を投げつける。細長い棒状のそれが両端に展開し、その間から大量の杭が飛び出す。
『くっ!?』
思わず動きを止めるオルコット。その一瞬の隙を狙い今度は膝部ラックから発煙弾を二発撃ち込む。
本来のISの性能であれば意味をなさない装備なのだが、競技設定下では煙幕を浴びるとハイパーセンサーが自動的にオフになり、有視界戦闘しか行えなくなるという優れものだ。
「どこに、どこにいますの!?」
いきなり視界が狭まったことでパニックを起こす彼女。こういった武装はIS戦闘の高速化に伴い採用率が右肩下がりになってきたから無理もない。殆ど実戦を経験していない
オープンで喚き散らすその音声に注意を向けながら俺は静音浮遊*2で背後に近づく。そこから右腕を収納して、そーっとブルー・ティアーズの装甲に手を触れる。
すると、見慣れた青い線が何本も相手の機体と俺のISスーツの上に走り始めた。オーバーライドによって流れ込んでくる情報を捌きながら目当てのものを見つけて軽く弄る。
「──っ!? なにを触っていますの!」
「あっぶね!」
煙幕が薄まったタイミングでこちらに気づいたオルコットが鈍器と化したライフルを振り回してきたので慌てて離れる。同時に背中へ留まっていたビットが分離し、四つの砲口が俺を狙う。
「もう我慢なりません! これでチェックメイトですわ!」
怒りに震えた声で彼女はそう宣言する────が、しかし。ビットはうんともすんとも言わず、ただ空中に浮かぶのみ。次第に観客席からざわめきが漏れ始め、オルコットの顔が青ざめていく。とはいえ最低限の理性はあるようで、秘匿通信の方で喚き散らす。
『……んで、なんでですの! どうしてわたくしがこんな猿に追いやられていますの!? まるで意味が分かりませんわ!!』
『“猿”ねぇ……』
俺は右腕を戻すと同時に全身を用いて短槍を振り回し、あっという間に四枚の青を切り捨てる。
「そ、そんな!?」
「おらあぁ!!」
そのままの勢いで彼女に近づき、体重を乗せた連撃を叩き込む。途中でスカートに偽装していた方のビットからミサイルを放とうとしたのをアーマーごと切り捨て、俺は大きく体を撓らせて大技の構えを取った。
「い、インターセプ──」
「王手っ!!」
左手で柄を支えながら、右手を思いっきり押し出す。音速に迫るその一撃は眉間の大型センサーを打ち砕き、それと同時に決着を告げるブザーが鳴り響いた。
『試合終了。勝者──三之川鉄也』
俄に沸き立つギャラリーを尻目に俺は地面で崩れ落ちているオルコットの元へと向かう。茫然自失の彼女へと手を差し出し、どうにか立ち上がらせる。
「……わたくしの、負け?」
「なーに、あんたも十分強かったさ。……でも、次の一夏にゃもっと気をつけろよ? あいつはなんだかんだ俺よりも『才能』があるからな」
それだけ告げ、『今度は誰が勝つのか』という好奇心を抱きながら、俺はAピットへと飛び立つのだった。
主人公の機体の詳しい解説は一夏戦の後に。
次回、『シロとノラ』