老若男女の笑い、あらゆる言語の入り混じった叫び、様々な感情を帯びた怒鳴り。
そんなごちゃ混ぜの喧騒に包囲されたバリアの中では、二人の女性が機械の鎧で鎬を削り合っている。
『モンド・グロッソ』、ISを用いた世界大会。その準決勝を
フランクフルトだかレーゲンスだかよく分からずに雰囲気で買ったソーセージを頬張っていると、前方から風が吹いてくる。
「ヴッ⁉︎」
「……大丈夫か、三之川?」
シュペッツィ*1をちびちびとストローで吸いながら、一夏が俺の心配をしてきた。味の分からなくなった肉の塊をどうにか食道に押し込み、俺は返事をする。
「はぁ、はぁ……ちくしょう、どうして風下なんだよ……お陰で飯もまともに味わえねえ……」
「そんなに酷い匂いがするのか?」
「……お前はいいよな、鈍くて」
「どういう意味だよそれ!」
横で騒ぐ親友の声を聞き流しながらアプフェルショーレ*2を喉に流し込む。炭酸の刺激で悪臭──男性の倍ぐらいいる女性たちの香水が混ざり合った空気──から気を逸らし、試合の方に目を向けた。
バリアの中では、真紅の流線的なイタリア製IS『テンペスタ』と、前回モンド・グロッソ開催国フランスの新型である『ラファール・リヴァイヴ』は一進一退の攻防を繰り広げていた。
手に汗握る展開────といった所なのだろうが、自分としてはどうにも興味を引く物ではなくあくびが出てしまう。
「つまんねえなぁ……王手からずーっと逃げてるんじゃねえよ」
「え? どういうことだ?」
「あー……そういやお前、
『来る』と言おうとした瞬間、それは発動した。真紅の機体が眩く光ったと思いきや周囲に全く同じ見た目の分身が生じたのだ。
会場の興奮は最高潮になり、テンペスタのパイロットを応援する声で染まっていく。
「
「す、すげえ……」
「今使われたのは確か、
俺が説明している間に、試合は大きく動いていた。
分身を形作る風は超高速回転をしており、リヴァイヴの盾を容易く削り取って破壊する。そんな代物が一体どころか三体に増え、テンペスタの勝ちがほぼ確定したような状態だ。
「
「……いや、三之川。あのパイロット、まだ諦めてないぞ!」
「は?」
一夏の言葉を訝しんでいると、リヴァイヴは分身二体に対してグレネードを放った。風で切り刻まれて無意味になるはずの攻撃だったが──赤髪の分身は凍りつき、地面に落ちて砕け散ったのだ。
俺は思わず口を開けたままになり、観客たちも驚きを隠せない様子である。
「氷の爆弾かあれ? どうやって作ったんだろうな」
「……いや、あれは────────『オーバーコマンド』だ」
「……なんだそれ?」
一夏の疑問はもっともだ。何せ俺が口にしたものが試合に使われたのは、今回が初めてなのだ。
とある筋から得た情報を、さも当然のように説明する。
「一夏、ISの数に限りがあるのは知ってるよな?」
「あ、あぁ。確か……500個ぐらいだっけ?」
「それよりちょっと少ないな。本来は数倍ぐらい作って量産する予定だったが……開発者が行方をくらましたせいで計画は
詳しい経緯は割愛する。開発者の動向が如何せん意味不明すぎて説明出来る気がしないからだ。
「ISの数が減ってしまった以上、単体でのスペックを上げなきゃならない訳だ。各国はその方法を模索し──」
「見つけたのがその……オーバーなんたら、なのか?」
「……ちっ」
「痛ぁ!?」
先に言われてしまったのでデコピンをお見舞いした。まったくこいつは、勘がいいのやら悪いのやらよく分からないやつだ。気を取り直して説明を続ける。
「ま、そういうことだ。とはいえ、
「完璧な乱数?」
「要するに、どんな効果か予測は絶っ対に不可能。入手してからのお楽しみ、みたいな感じだ」
「あー……ってことは、何度も掘らないとダメってことか?」
一夏の言葉に首を縦に振る。某狩猟ゲームで乱数に踊らされる数馬と弾を見てきた彼のことだ、その恐怖はよく理解できるだろう。
実際は拡張領域を要求するから継戦能力が下がるという問題もあるが、こっちはそこまで重くはない。近接装備を担げば解決するからだ。
「それで結局のところ、どこの国もワンオフに並ぶ性能のOCを掘れてはいない。今リヴァイヴが使ってるやつも、多分そこまでいい代物じゃない」
「じゃあ、なんでわざわざ?」
「んー、『OCの使用も考慮してますよ』アピールとかかもな。リヴァイヴは売れ筋だし」
「数限られてるのに?」
「…………」
正論に対してどうはぐらかすべきか言葉を探していると、不意にブザー音が鳴った。アリーナを見れば、勝利したのはテンペスタだった。予想通りと言いたいところだが、どうやら氷グレネードにだいぶ手を焼いたのだろう。両者とも機体はボロボロであった。
「なんというか、色々と歴史に残りそうではあるな────っ!」
「どうした三之川?」
「は…………腹が痛え……!」
手で押さえながら原因を考え、ソーセージのことを思い出す。随分ジューシーだと思っていたがおそらく脂を追加で練り込んであったのだろう。
そこに冷えたジュースなのだから、当然の腹痛だ。俺は思わず席から立ち上がり、トイレに向かう前に一夏に注意をした。
「いいか一夏、絶対にここから離れるなよ! 誰が来てもだぞ!」
「中学生に言うことかそれ!?」
「とにかくそこに居とけ!」
その言葉を聞きながら、一気に階段を駆け上がっていく。少しばかりの懸念もあったが、漏らす不安の方が勝っていたのでとにかく急いで走るのだった。
量産機なんて言ってるんだからもっとIS作る予定だった可能性が微レ存…?
次回『予想外』