—追記—
内容を変更しました
灰色のIS『暮桜』に身を包み壁を突き破ってきた千冬姉。彼女に喜んで近づこうと思ったが何やら様子が変である。呼吸は乱れきり、武器とそれを持った腕は震えが酷い。
「ち、千冬姉……?」
「──さまか。貴様かぁぁぁ!!」
般若の様に髪を振り乱し、彼女は俺に──いや、背後にいる三之川へと斬りかかってきた。彼が咄嗟に俺ごと飛び退いたことで、再び壁に大穴が空く。
外から戻ってきた千冬姉の顔を見て愕然とする。試合中の凛々しさは面影がなく、目はこちらを向いているが視ていない。
「一夏を返せ、返せぇぇぇ!」
「ど、どうなってんだよ……」
「──
三之川がポツリと呟く。顔を向けると、意図を汲んで説明をしてくれた。
「学術的根拠は今の所無いが、事実としてISは操縦者の意思に左右される。あの様に極めて昂った感情をぶつけられた場合、それを増幅し続ける状態に陥ることがある」
「そんなことが!?」
「あの人がお前に抱く思いは格別だからな」
彼の言葉を聞くにつれ、俺は段々と冷静になれた。暴走である以上、普段よりはパフォーマンスが落ちている筈だ。しかし、流石にさっきの女性のようには流石にいかないだろう。
「どうするんだ?」
「……一夏。今から見る物を誰にも喋るな」
「え? あ、あぁ……」
三之川はそう告げると、コートの中から先程より大きめの弓を取り出した。そして、あの衝撃矢をタイミングをズラしながら二本、千冬姉に射る。それはシールドに阻まれることなく刺さり、彼女の行動を阻害する。
その間に彼はオータムの元へと走り、何故かISに触れた。
「……借りるぞ」
次の瞬間、彼の手に幾筋もの青い線が走り始める。機械的な見た目のそれはISの装甲にも現れ、全体に広がっていく。しかし、あと少しのところで立ち直った千冬姉が文字通り飛んでくる。
「三之川っ!!」
「きぇぇぇぇ!」
彼女の代名詞であるレーザーブレード《
「……なんだ?」
「……始末書、嫌だな」
千冬姉の困惑とは真逆の、むしろ状況にそぐわないとぼけた言葉。恐る恐る顔を向け直すとそこには──
褐色のISを纏い、フードを被った三之川が立っていた。
どうにか
パワーはゴリラ顔負け、スピードも化け物染みている。あと少しでも機体の掌握が遅れていたら、危うく三途の川を渡ることになっていただろう。
「あいにく、六文銭の持ち合わせはない!」
「くっ!」
至近距離かつ相手は暮桜──時代に取り残された第一世代──なので丁度いい威力となって彼女を牽制する。
「違法IS……『
「ある意味間違っちゃいない。こいつの元の持ち主はな」
相変わらず伸びてる茶髪女をハイパーセンサーで視認する。ここまで動かないとなると、もしや死亡したのでは……と思っていたが呼吸があって安心した。
犯罪者といえど、殺すのは原則アウト。きちんと法で裁かれるべき──それが俺の所属する『
閑話休題。
こうやって関係ないことを考えた方が、ISというのは案外素直に動いてくれる。詳しい仕組みはまるで知らないが、要約すれば──
(イメージが大事、以上! シンプルでありがたい限り!)
「三之川! この後どうすんだ!?」
「あー……今のやつをあの人にもすりゃいいんだが……」
千冬さんをちらっと確認するが、当然ながら一分の隙も無い。まさに『腐っても鯛』である。
「アレにはちょっとばかし
「……姉さんならやりかねないな、マジで。というか結局どうやって──」
「なのでこうするぞ」
俺は一夏を抱き上げて
流石は
当然、暮桜は追いかけようとするが────壁にデカい穴が二つ、扉が破損。そんでもって建物自体がずっと前の代物だ。限界を迎えたそれは盛大に崩れ落ち、彼女もそれに巻き込まれる。
「よし、成功」
「す、凄え……」
「まだ王手じゃないがな。さて一夏、掴まれよ。全速力で飛ばす!」
「えっちょ──うぁぁぁぁ!?!?」
燃費も負担も知ったこっちゃない、とにかく速度を出しまくる 胸元の親友がブルドックに転生しかけてるが、まあ
そうやって数分間飛ばし続けていると、
そこのちょっと手前で
安心して一息ついた瞬間、凄まじい頭痛。それでもなんとかISを待機形態に戻し、見慣れた水色の髪でうすい頭の方に向かう。
「ただい──」
「てっめこら三之川ぁ!!」
手を振りながら挨拶をしようとしたら、おっちゃんは怒鳴りながら俺の胸ぐらを掴んできた。目に浮かんでいるのは心配と怒りが半々だ。
「あのなぁてめぇ、ちったぁ待つってことを覚えやがれ! 野良犬かこの野郎!!」
「……その呼び方は嫌いなんだけど」
「一歩間違えたら死んでてもおかしくねえんだぞ!? 反省しやがれってんだ、ったく……」
俺を地面に下ろしそうやって愚痴りながら電子タバコを吸う彼だったが、
「──てめえら離れろ! 暮桜が来る!」
「なんだと!? バカな、この距離を移動できるエネルギーなど残って」
「こっちの常識がISに通用するか!」
軍人らしき男性の言葉に乱暴な返事をするおっちゃん。それと同時に服の中から大型の機械を取り出し*3、居合の構えを取る。
「何をするつもりだ!?」
「あいつは
そんな会話をしている間に暮桜が水平線から姿を現し、どんどん近づいてくる。
あと数秒でこちらに斬りかかれる間合いに入った瞬間、おっちゃんの気配が変質する。まるでこちらの首筋に刃を当てられているような感覚だ。
「きさまらぁぁあぁ!!」
「────はっ!」
一機と一人がすれ違い、止まる。おっちゃんのスーツが焼き焦げて思わず不安になるが……次の瞬間、暮桜が崩れ落ちた。
「は、え? ミスター、何を……」
「あ? 見てわかんねえのか? PIC*4全部斬ったんだよ」
抜き放った高周波ブレードを機械仕掛けの鞘にしまいながらおっちゃんはそう告げた。
間違いなく神業の類であり、周囲の人間は感心────どころかドン引きしてる。普通シールドをちまちま削るのだから、この反応は正しい。
「んじゃ、後始末はこちらでやっておく。あんたらは弟さんの面倒見ててくれ」
「え、えぇ。分かりました」
軍人たちが去って行くのを確認し俺はISに近づく。頭痛は相変わらずで手も震えてきた。とはいえ、このまま暮桜を放置はできない。
意を決して機体の背部に触れ、リヴァイヴにやったアレ──『オーバーライド』を使う。
「はぁ、くっ……」
暮桜の全体に青い線が走り終わると、機体は解除されて千冬さんは地面に落ちる。腕に張り付いたシール状の物からして、どうやら成功のようだ。
「おい三之川、大丈夫──っておまその汗!?」
「おっちゃん、なんか甘い物……」
瞬間、視界が横に倒れる。おっちゃんや一夏の声が遠くから聴こえるように感じながら、俺は意識を手放した。
なんか化け物ばっかだな……
次回、『憧れと心配』
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