IS オーバーコマンド   作:黒鉄48号

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 盆の隙を見て投稿。雨が多くて墓参りも難しい。


command_5 契約更新

 (三之川)が一夏の護衛として自宅に住まわせてもらうようになって、そろそろ二年が経とうとしていた。

 当初は、あいつにホの字な(ファン)に根掘り葉掘り色々聞かれたりしたが、なんだかんだ上手くやれてきた。一夏の飯は美味いし、護身術の飲み込みも想像以上に良い。教えているはずのこっちが逆に学ばせられることもしばしばあるぐらいだ。

 

 そんな中、一夏は二年生の初めの頃は就職志望だったのだが、千冬さんに色々言われて進学へと方向転換した。それを知った更識の上層部は、俺に彼と同じ学校へと入ることを命じてきたのだ。

 それをあいつに伝えたら、何故か喜んで受け入れてくれた。実を言えば未だに理由は分からないのだが、とりあえず都合はよかった。

 

 一夏が志望したのは、学費の安さと卒業後の進路ケアに定評があるという私立藍越(あいえつ)学園。

 たまたま同じ所を目指していた五反田と御手洗も巻き込んで地獄の詰め込み学習を実行し、その成果もあってか模試の判定はA。普通に受ければ普通に受かるレベルへと至ったのだ。

 

 さて、ここまでは順風満帆だったが……問題は受験の二日前に起きた。

 昨年起きたカンニング事件のせいで各学校が入試会場を知らせるのがその日になる、という話は予め中学から来ていたのだが……その場所がとにかく最悪だった。

 藍越は織斑宅の最寄りなのだが、なんと会場は四駅先にある多目的ホール。公共事業のアレコレで作ったはいいものの、デザイン重視の代償で使い心地が最悪。設計したデザイナーに頼むはずだった仕事を全部別の人間に持ち込む羽目になったという、とんでもない曰く付きの場所である。

 

 その知らせを聞いた時、当然だが俺たちはキレた。

 御手洗はスマホをぶん投げて画面を破壊。五反田は壁ドンして祖父から拳骨。一夏は狂ったように手の込んだ夕食を作り、俺はそれをヤケ食い。

 次の日も、ショックから立ち直るだけで一日を費やしてしまったのだ。

 

(今になって思えば、そのフラストレーションは勉強に向けるべきだったのかもしれんな)

 

 そして今、俺と一夏は最低最悪の多目的ホールへと足を踏み入れた。受験者は他にも大勢いて、その殆どが案内板を見て頭を抱えている。

 

「なぁ三之川、あれ絶対アテにならない地図だよな?」

「だろうな。導線がとにかくデタラメだし、こうも立体的だとな……」

 

 一緒に歩き回るが、どうにも目的地への道筋が見えてこない。『本格的な迷路を作りました!』とか言われたらつい信じてしまいそうな程の複雑さだった。

 

 そして十数分経った頃、藍越の会場にはたどり着けたが……何故か一夏がいない。慌てて周囲を見回していると、運良く五反田たちがいたので話しかけた。

 

「なぁ、二人とも」

「お、鉄也(てつや)じゃねえか! よくここまでこれたな」

「久しぶりだね、鉄也。……あれ、一夏は?」

 

 元気に挨拶を返す五反田に対し、御手洗は異常にすぐに気づく。流石は眼鏡キャラ、気が利くやつである。

 

「どうやら、逸れちまったみたいでな。そっちは見たか?」

「いや、全く。数馬が上手いこと案内してくれてな」

「ただ覚えてただけだよ……それで、どこまでは一緒だった?」

「あー〜……ガラス張りの廊下で文句言ってたのは覚えてる」

 

 そうやって記憶を辿って口に出していくが……どうやらその特徴を持った場所はどれも複数箇所あるらしく、絞り込めやしない。

 三人で唸っていると、にわかに周囲がざわつき始める。受付係の人も何やら驚いているようだ。

 

「おいおい、何があった……ってまじか!?」

「どうした五反田、持ち機体に下方でも──」

「一夏が、ISを動かしやがった!!」

「「……は?」」

 

 ……これが、一週間前に起きたことである。

 

 

 そして今日、俺とおっちゃんはさっきまでこってりと更識のお偉方に絞られていた。本家の屋敷からの帰り道、小石を蹴飛ばしながら俺たちは愚痴る。

 

「けっ、あのジジババどもめ……お前が成果を上げても褒めないくせに、こんな時ばかり関わってきやがる」

「すまないな、おっちゃん。俺がしくじったせいで」

「謝るんじゃねえ、三之川。今は気分が悪い」

 

 彼は懐から取り出した電子タバコを咥え一息に吸い込み、むせる。いつもの癖に辟易しながら、俺はため息を吐いた。

 

「あの場所、アリーナじゃないのになんでISがあったんだろうな……」

「げほっげほっ……確かに、そりゃ変だな。国のだか学園のだかは分からねえが、謎だな」

「俺から一夏に連絡を取れたらいいんだけど、どうやら携帯とか取り上げられてるっぽいですし」

 

 打つ手なし、と言ったところだろうか。こうやって上層部にしごかれるばかりで、物事の進展は皆無。そろそろ夕飯時だけど、手料理に慣れた今じゃレトルトで澄ますのも憂鬱だ。

 そんな俺を見かねたのか、おっちゃんは煙を吐き出しながら呟く。

 

「……ラーメン、行くか?」

「そっちが大丈夫なら。脂っこいのとかそろそろキツいんじゃ?」

「馬鹿言うんじゃねえ。てめぇのせいで髪はやべぇが、それ以外はまだまだ若者だぞ」

(いつも健康に良いほうじ茶頼んでる人が言っても説得力ないんだが……)

 

 そんな言葉を胸の中に隠しながら、彼の後ろを付いていく。しかし、通い慣れた店まで後少しといったところでおっちゃんが立ち止まった。

 

「……出てきな。尾行をするならもっと上手くやれ」

「ん? 誰もいないように──」

「あら、バレちゃった♪ やっぱり現場の人間は凄いのねぇ」

 

 突然聞こえてきた声に振り向けば、そこにはやたら大柄な男が立っていた。俺ですら気配を察知出来なかったその技術の高さに関心するが、その気持ちは即座に吹き飛ぶ。

 鍛え抜かれた四肢は太く、肌は浅黒い。それだけなら良かったのだが……キツ〜く指されたアイラインとド派手な口紅。アバンギャルドな服装がそのカッコよさを打ち消し、悍ましさすら感じさせてくる。

 

「あらやだ、そんなに怖がらないで坊や。わたし、こう見えても淑女なのよ?」

「バケモノの間違いでは??」

「……悪人ってわけじゃなさそうだな」

「えぇそうよ、Mr.ムラ──」

「その名前で呼ぶな!」

 

 おっちゃんが声を荒げ、凄まじい殺気が放たれる。今まで経験したことのない程にドロドロしたそれに俺は気圧されるが、オカマ野郎はへっちゃらのようだ。

 

「……すまねえ。そいつにはいい思い出がないんでな」

「そうだったの、ごめんなさいね。それじゃあ……単に『ミスター』と呼べばいいかしら?」

「あぁ、それで頼む。んで、なんで俺たちを追跡してた? そもそも誰だてめぇ?」

(それな)

「それもそうね」

 

 彼(又は彼女)は後ろポケットから手帳を取り出し名刺を二枚差し出してきた。それを一枚ずつ受け取って内容を確認する。

 

「えーっと……『IOMO(国連IS運用管理機関)*1!?」

「ネイザン・バーン……あんたみたいなお偉いさんが、なんのようだ?」

「うーん、そうねぇ……」

 

 オカマ……バーンさんはしばらく思案し、ポンと手を叩いて口を開く。

 

「──ディナー、一緒に食べに行きましょ♪」

「「……はぁ?」」

 

 

 こぢんまりとした店……いわゆる『回らない寿司屋』に案内され、俺は出された料理に舌鼓を打っていた。

 

「このマグロうめぇ……ワサビもそんなに辛くないから気が楽だ……」

「でしょう? ミスターはどう?」

「あ〜……懐かしい味だな。ガキ以来だぜ、こんないい店に来るの」

 

 サーモンに醤油をちょんっと付けながら口に含み、おっちゃんはそう答える。オカマさんの方はイクラ軍艦を箸で頂いており、とても外国人とは思えない程に上手な使い方だ。

 そんなことを思いながらハマチ、エンガワ、赤貝と次々注文を取っていると、やっとおっちゃんが口を開く。

 

「なぁ、バーンさんよ。結局なんで俺と三之川に接触してきたんだ、あんた?」

「確かに、そろそろ教えないといけないわね……大将、海鮮丼を頼むわ」

 

 彼の言葉を聞いた板前さんが厨房に向かったところで、バーンさんは改めて話し始める。

 

「Mr.オリムラがISを動かしたのは当然知ってると思うのだけれど、彼、IS学園に入れられることになったの」

「ほう。まぁ、妥当な判断だな。あそこは今現在、世界一安全な場所の一つだしな」

「えぇそうね。だけど問題は、それに合わせて多くの代表候補生……それも第三世代ISの操縦者が追加で入学するということなの」

(第三世代……?)

 

 聞き慣れない言葉に首を傾げる俺に気づいてか、彼は補足の説明をしてくれた。

 

「第三世代っていうのは、イメージインターフェイスを用いた特殊武装を運用するISのことなの。第二世代の亜種みたいなものね」

「なるほど……特に危険性はなさそうなんだが?」

「問題は機体(ツール)ではなく操縦者(ユーザー)よ。あれらのISはその特性上、イメージ力が強い…………悪く言えば精神的に未成熟な人物に適正が現れやすいわ」

「おいおいおい、それってつまり──」

「暴走を起こしやすい、ってことか!?」

 

 食い気味に発したこちらのセリフに、バーンさんはコクコクと頷く。それを見た俺とおっちゃんは思わず頭を抱える。

 

「ガワだけなら暮桜より強い奴らが暴走しやすいってそりゃ……設計者は変なもん食ったのか?」

「イメージで動くのも最悪だな。要はインコムとかそういう武器を使うんだろうし」

「なんだったら各国での試験運用の段階でちらほら事故を起こしてるわ」

「「最悪だな!?」」

 

 二人してツッコミを入れ、どうにか落ち着く為にお茶を飲む。底に溜まった渋みの塊もこういう時に限ってはありがたい。

 

「はぁ……それで、俺たちに何を求めてるんだ?」

「単刀直入に言わせてもらうわ────坊や、わたし達(IOMO)と契約をしてくれないかしら?」

「…………」

「Mr.オリムラと一緒に入学。彼を守りながら代表候補生の暴走を未然に防ぐ……主な内容はこの二つね」

 

 彼はあっさりと言ってのけるが、中々骨の折れる仕事だろう。受けるべきかどうかを悩んでいると、おっちゃんが口を開く。

 

「バーンさん、俺のほうはどうなるんだ?」

「そうねぇ……この契約を更識と日本政府に飲ませる手伝いをして欲しいわ」

「とんだ無理難題だな。確かにあいつらは俺らを少し価値の高い駒としか思っていないだろうが、だからといって他人に使わせはしないぞ」

「でしょうね。でも、本当にあなた達二人が必要なの。その為の()()も進んでるわ。それに──」

 

 バーンさんはスマホを取り出しその画面を見せてくる。そこには今まで目にしたことのない桁の数字が映されていた。

 

「これは月の給料。働き次第ではボーナスも出るわ」

「……おっちゃん、どうする?」

「あぁ、そうだなぁ……」

 

 彼はボリボリと襟足を掻いており、かなり悩んでいるようだ。

 それから数分経ち、ようやくおっちゃんは答えを言った。

 

「その話、()()だ。こいつ(三之川)をちゃんと評価してくれるんだ、断れるわけがねぇ」

「ふふ、それならよかったわ。……あら、ちょうど海鮮丼が出来たみたいね」

 

 バーンさんの言葉通り、大将が様々な魚介を惜しみなく使った丼を出してくる。

 マグロ、サーモン、そしてイクラ……俺たちが最初に頼んだ寿司の具材を使ったそれは、まるでこの交渉の行末が既に決まっていたかのように思わせるのだった。

*1
国連の専門機関の一つ。ISコアの管理やIS運用協定の編集を担当する。




強烈なキャラ付けをしようとすると大体オカマが生えてくる説

次回、『男二人に女が沢山(ボーイズ・ミーツ・ガールズ)!』
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