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「全員揃ってますねー。それじゃあ
電子黒板の手前で女性副担任こと山田
やや低めの身長は生徒のそれとほとんど変わらず、しかも服がだぼっとしているので、ますます本人が小さく見える。ついでに黒縁眼鏡も若干ずれている始末だ。
なんだか、『子供が無理しています』的な不自然さ……というかは背伸び感がするのだが、そう思うのは
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「…………」
しかし、教室の中は変な緊張感に包まれていて、誰も彼女の言葉に応えなかった。
「……じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
ちょっとうろたえる副担任が可哀想なので、せめて俺ぐらいは反応するべきなのだろう。だが、いかんせんそんな余裕はない。
その理由はとてもシンプルで──俺ともう一人を除き、クラスメイトが全員女子だからだ。
今日は高校の入学式であり、新生活の初日。むしろ喜ぶべきなのだろうが……
(視線が……多い……!)
自意識過剰ではなく、本当にクラスメイトほぼ全てからの視線を感じる。
いくらかはもう一人……親友の三之川鉄也に注がれているが、俺のいる席が真ん中&最前列とかいう目立つ要素しかないので、比率でいったら1:3は余裕でありそうな程だ。
(ほんとなんでだよ……いきなりホテルにぶち込まれて、携帯持ってかれて、軟禁したあげくこの仕打ちとかさ……)
マイナスの思考ばかりが浮かび上がってしまい、机に突っ伏せる。そしたら更にこっちに向く目が増えたよちくしょう。
「……くん。織斑一夏くんっ!」
「は、はいっ!?」
いきなり大声で呼びかけられ思わず声が裏返ってしまった。案の定、周囲から笑い声が聞こえてきて、ますます落ち着かない気分になる。
「あっ、あの、ごめんなさい。でもね、自己紹介、今『お』の織斑くんなんだよね?」
山田先生は俺にぺこぺこと頭を下げていた。しかし、赤べこみたいに何度も繰り返すので、微妙にサイズが合ってない眼鏡がずり落ちそうになっている。
(……っていかんいかん、現実逃避してる場合じゃないよな)
「だ、ダメかな?」
「いやあの、自己紹介しますから、先生落ち着いてください」
「本当? 本当ですね? や、約束ですよ?」
がばっと顔を上げ、彼女は俺の手を取って熱心に詰め寄ってきた。これ以上注目を浴びたくない俺はさっと立ち上がり、後ろに振り向く。
(うっ……いや圧がすごいなこれ……俺は珍獣か何かかよ……)
今まで背中に感じていただけの視線が一気に向けられているのを自覚する。その中に幼なじみの
「えー……っと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
儀礼的に頭を下げて、上げる。──いや待て、なんだその『もっと喋ってよ』的な目は。そしてこの『終わりじゃないよね?』って空気はなんだ。
喋ることはないぞ本当に。料理だって趣味というよりかは生活の術だし。
(いかん、マズイ。このままでは根暗のレッテルを貼られてしまう)
俺は呼吸を一旦止め、そして深呼吸し、思い切って口にした。
「以上です」
その瞬間、何人かの女子がずっこける。どんだけ期待してるんだよ。あと三之川も便乗するな。
「あ、あのー……」
背後からかけられる涙声。もしやしくじったか?
「──
「いっ──!?」
パァンッ! 脳天に走る激痛にそこを押さえると同時に、あることが頭をよぎった。
この叩き方──威力、角度、速度といい、なんだかすごいデジャブを感じるのだ。恐る恐る振り向けば……。
「げえっ、項羽!?」
「誰が生涯無敗の英雄か、馬鹿者」
パンッ! 再び頭部に衝撃が走る。それをしたのは、黒スーツにタイトスカート、すらりとしているが決して細すぎる訳ではないボディライン。狼を思わせる鋭い吊り目。
そう、俺の実の姉にして世界最強のIS操縦者。織斑
(……いや待て。なんで千冬姉がここにいるんだ? ずーっと家に帰ってこないこの人が)
「あ、織斑先生。会議は終わられたんですか?」
「あぁ、山田君。挨拶を押し付けてすまなかったな」
「い、いえっ! 副担任ですし、これぐらいはしないと……」
聞いたこともない優しい声で副担任に話しかける彼女。その慈悲の一欠片でもいいから俺にくれませんか?
「さて諸君、私が織斑千冬だ。君たち新入生を一年で使い物になる操縦者まで育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。いいな」
有無を言わせぬ強い語調。これはまさしく俺の姉。だがしかし、教室内には困惑ではなく黄色い声援が満ちた。あまりの声量に俺は机に腰をぶつけ、三之川は耳を抑えている。
「きゃ────! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「あの
きゃいきゃいと騒ぐ女子達を、彼女はかなりうっとうしそうな目で見る。
「……毎年、よくこれだけ馬鹿が集まる。感心させられるな。それともなんだ? 私のクラスにだけ集中させているのか?」
これがポーズではなく本当に心の底から思っている言葉なのが千冬姉だ。しかし、それはむしろクラスメイトの興奮を掻き立ててしまう。まあ、そのお陰で俺はむしろ落ち着けた。
「で? 満足に挨拶もできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は──」
「織斑先生と呼べ」
スパァンッ!! 本日三回目にして最大の一撃が振り下ろされる。
ちなみに、このやり取りのせいで俺と彼女の関係がバレて一悶着起きたのは言うまでもないだろう。
「三之川、助けてくれ!」
「馬鹿かお前は……」
二時間目の休み時間、
一時間目から様子が怪しかったが、入学前に貰った参考書*1を電話帳と間違えた上、あろうことかそのまま捨ててしまったのだ。地頭は良いはずなのだが、こいつは偶にこういう大ポカをやらかすのでどうにも気が抜けない。
「取り敢えず、まずはさっきの──」
「ちょっとよろしくて?」
「ん?」
いきなり割り込んできた声に意識を向けると、そこには鮮やかな金髪の女子が立っていた。肌の白さからして白人で、アクセントの癖からして英国出身だろうか。
そんな少女の透き通った碧眼が、やや吊り上がった状態でこちらを見てくる。ロールがかった髪による高貴なオーラも相まって、『いかにも』現代の女子──女尊男卑に染まっていますよ、という雰囲気を出していた。
「訊いてますのよ? お返事は?」
「あぁ、すまないな。それで、なんの用件だ?」
こういう手合は下手に謙ると却って増長しやすいので、失礼にならない程度の語調で答える。しかし、彼女はそういうありきたりなタイプではなかったようだ。
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄ですのよ?」
「へぇ、そうかい。ってことは、あんたが噂の代表候補生か」
俺は少女──第三世代の専用ISを持つ数少ない操縦者の一人であるセシリア・オルコットに逆に問いかける。彼女は左耳の青いアクセサリーを弄りながら、感心したような声を上げた。
「あら、知っていましたのね。そう、わたくしこそイギリスきってのエリートですわ!」
(高飛車ぁ……)
思いっきり胸を張る英国淑女にドン引きしていると、余所者扱いされてた一夏が会話に割り込んだ。
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々の要求に答えるもの貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
周りの女子数名と一緒に俺は思わずずっこける。いやまじか、この流れでそれを聞くかお前。
「あなたっ。本気でおっしゃってますの!?」
「おう」
「し、信じられませんわ……常識ですわよ、常識……」
オルコットは蒼白い顔でぶつぶつ言い出した。しょうがないので俺は
「あ〜……雑に言うと、お前の姉さんみたいな国家代表になる前の雛みたいなやつらだ」
「なるほど、そんな感じか」
(飲み込みはやたら早いんだよな……)
「それは置いといてなんだけどさ、さっきの授業の──」
キーンコーンカーンコーン。
彼が話題を切り替えようとした所でチャイムが鳴り、いつの間にか集まっていたクラスメイトが急いで席へと戻っていく。そうしなければ織斑先生に制裁されるのが目に見えているのだろう。
「っ……! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
眦を決しながら去っていくオルコット。その後ろ姿を見送りながら、思わずため息を吐いてしまうのだった。
(二時間目のアレコレも入れると長過ぎるので)ないです。
この辺のセッシー、高飛車すぎてハーブ生えそう……生えそうじゃない?
感想や評価があったら更新が早くなるかもしれない(希望的観測)