「うう…………」
「あぁぁー……」
放課後、
専門用語を解説する為の専門用語を解説する為の〜、みたいな専門用語の羅列の教科書、やたら集まってくる
「三之川、俺、今なら動物園のパンダの気持ちが分かるかもしれねえ……」
「そうだなぁ……こっちは飼育員の気分が理解できそうだ……」
「へぇ、なるほど──って誰が世話されてる珍獣だ!」
「言ってねえよ」
現実逃避でこうやって駄弁っていると少しずつ気分が良くなってくる。それは彼も同じようで、顔色がさっきよりも明るくなっていた。
「ああ、織斑くんと三之川くん。まだ教室だったんですね」
「ん、山田先生ですか。どうしました?」
こちらにやってきた副担任にそう聞くと、抱えていた書類の中から二枚引き抜いてこちらに差し出してくる。四桁の数字がかかれたそれに首を傾げていると、先生が口を開いた。
「お二人の寮の部屋が決まりました。あ、鍵はこれです」
「あれ? 前に聞いた話だと、俺と三之川は一週間は自宅通学ってことでしたけど」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを強制的に変更したらしくて。……そのあたりのことって政府から聞いてます?」
最後の方は俺にだけ聞こえるように耳打ちしてきた。彼女や織斑先生には俺の素性が明かされているからなのだろうが、心当たりがないので軽く首を横にふる。
「いえ、特に何も。ただ、俺らの希少性を考えたら妥当な判断でしょう」
「そうですね」
そうやって囁き返していると、周囲の目線が集まりつつあったのを感じたので顔をさっと離す。
ここからどう話すべきかと考えていると、不意に一夏が話し始めた。
「あのー、先生。なんで俺と三之川の部屋って別々なんですかね? 一緒にしておけば色々楽だと思うんですけど」
「あ、それは──」
「私が決めた。何か文句があるか?」
いきなり割り込んできたのは我らが担任兼寮長の織斑先生。威圧的な雰囲気を纏っているので彼も反論が出来なさそうだ。
「別々の部屋なら、どちらかが襲われても両者を失うことにはならない……要はリスクの問題だ」
「……千冬姉が言うなら、そうかもしれないけどさ」
「織斑先生と呼べ。あとはそうだな……織斑、お前の荷物を手配しておいた。着替えと充電器で十分だな?」
「アッハイ」
生気の抜けた表情で返事をする一夏。流石に可哀想だが、下手にフォローしたら絶対拗れる。こっちに助けを求める目線を送られてるのが痛いほど分かるが、無視せざるを得ない。
「それでは、時間を見て部屋に行ってくださいね。あと、大浴場があるんですが……お二人は今のところ使えません。各部屋のシャワーでお願いします」
「分かりました。それでも大丈夫だよな、一夏?」
「ウン、ダイジョウブ」
(後でメンタルケアしないとダメだなこれ……)
二年間一緒に過ごして分かったことだが、俺の親友は案外精神強度が低い。正確に言えば普段はかなり頑丈なのに、時折やたら弱くなる。今回もそうなのだろう。
「それじゃあ私たちは会議があるので、これで。道草くっちゃダメですよ」
教室から二人が出て行くのを見送って、俺はため息混じりに立ち上がった。未だに騒がしいここにいるよりかは、さっさと寮に向かった方がいいだろう。
そう思いながら一夏も立たせ、二人でこの場を後にするのだった。
目的地にたどり着いて別れた後、俺は何分かかけて自分の部屋を見つけた。『1035』と記されたドアに鍵を差し込み、挨拶をしながら入室する。
「ただいまー」
「お帰り〜。……ってあれ、みのっちだ〜」
(なんだそのあだ名……)
出迎えてくれたのは狐っぽいパーカを羽織った少女。おそらくはクラスメイトであろう彼女は、しかし名前が分からなかった。
「同居することになった三之川鉄也だ。そっちは?」
「わたし〜?
「へ〜。……って布仏!?」
俺は思わず叫び声を上げてしまう。
布仏────それは、『更識』において当主一族の補佐を代々担ってきた存在。言わずもがな、俺みたいな下っ端とは天と地ほどの差が存在する程に偉い。
そんな人間とクラスメイトで、それに加えて同居人と来たのだ。ビビるなというのが無理な話である。
「あはは、そんなにキッチリしなくても大丈夫だって〜」
「そうは言われてもな……」
気まずいので視線を合わせず周囲を見渡すが、どう対応すべきかが全く思いつかない。そもそもの話、こうやって同年代の女子*1と会話するのに慣れていないというのもある。
そうやって頭を捻っていると、問題の少女は俺の悩みなど微塵も気にしてないような明るい声を出した。
「あ〜、そうだー! みのっち、キャンディー食べる?」
「あ、えっと……」
萌え袖の両手で彼女は飴を差し出してくる。片方はセロハン紙に包まれたちょっとお高めな物で、もう一つは袋入りの安物だ。
数秒ほど迷い、のほほんさんの左手に置かれた安っぽい物を選ぶ。そのままポッケに仕舞おうとしたらジト目になったので、封を切って淡い緑色のそれを口に放り込む。
「ん、青りんご味……」
「どう、美味しい?」
こちらの表情を伺おうとする彼女から顔を背けながら首を縦に振る。『布仏』のことだ、これもある種の心理テストなのだろう。
どうにも疑いを捨てきれないまま、俺は荷解きを始める。数分程でそれを終えて振り向いたら、いつの間にかのほほんさんがいない。訝しんでいると、いきなり視界が布か何かで覆われた。
「うわぁ!?」
「えへへ、驚いた〜?」
「…………」
目を細めてニヤニヤしている少女の姿に、怒る気力すら失せてしまう。
それが切っ掛けとなってか、どっと疲れが押し寄せてくる。俺はベッド*2に倒れ込んで、ため息をついた。
「どうしてこうも面倒ばかり起きるんだよ……来週も
「それってセッシーたちのこと?」
「……オルコットのあだ名か。ああ、アレだ」
事の発端は午前中の三時間目。授業を中断して行われたクラス代表*3決めである。
まず最初に一夏が知名度や希少度を理由に推薦され、何故か俺にも飛び火。そこからまあ色々あって例の金髪少女がブチ切れて学園や日本に対しての不満を暴露。
そして最終的には、何故か俺も含めた三人でIS戦をやる羽目になったという訳だ。しかも来週の月曜日に。
「一週間で何が出来るってんだよ……俺はまだしも、一夏は文字通りの素人だし……」
「まぁまぁ、大丈夫だって〜!」
のほほんさんは相変わらずの能天気な口振りでそう言ってくる。これ以上反応するのもアレなので、俺は今後どうするべきかを考え始めようとした。
────しかしその瞬間、ちょっと離れた場所から凄まじい破壊音が聞こえてきたのだ。
「わ〜!」
「なんだ!?」
一緒に部屋から飛び出ると、当たり前だが辺りはラフな部屋着の少女ばかり。それを掻き分けて騒動の元へと駆け寄れば、そこには見慣れた顔があった。
「またかよ一夏……」
「三之川、助け──」
ズドン、という音と同時に部屋の扉から木刀が生え、引っ込んではまた生えてくる。
一夏はそれを間一髪で避け続けているが、流石に疲弊し始めていたので無理矢理立たせてこちらに引っ張った。
「ひでえなありゃ……お前の同居人はバケモノか?」
「なっ!? いくらお前でも俺の幼馴染みにそう言うのは許せねえぞ!」
売り言葉に買い言葉で口論していると、穴だらけの現代アートに変身した扉から剣道着の少女が出てきた。
日本刀のように鋭い目付きの彼女は何故か俺を睨みつけると、ズンズンと歩み寄って一夏の腕を掴んだ。
「あっちょっ、箒ぃ!?」
「……来い」
有無を言わせぬ口調でそう告げた少女は、腰ほどまであるポニーテールを振り回しながら部屋へ戻っていく。それを俺たちは見送ることしか出来ず、暫くしたら自然と他の少女たちも自室へ足を運んでいくのだった。
原作とそこまで変化ない場所はビシバシ切り捨てていく予定。全部書いてたら進みようがないし、多少はね?
次回、『下準備』