東方漂泊録   作:芳養

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ウーバーイーツを倒すとお昼ご飯が確定ドロップします。


紅い館⑨

 先に動き出したのは俺の方だった。

 本棚から悲鳴を上げて固まっている少女目掛けて口を封じるためにとびかかろうとした。だが本棚にぎちぎちにはまっている状態からそんなスマートさが求められる行動ができるわけがない。

 

「うぇっ?!うおおぉぉ?!?!」

 

 枠から飛び出すつもりが詰まった体が抜け出せなかった。飛び出ようとした勢いは本棚全体にかかり、それが大人数人がかりで扱うような大きさの本棚ごと少女に倒れかかる結果を生み出してしまった。

 

「きゃあああぁぁぁ!!!!」

 

 悪魔風の少女は轟音と共に悲鳴を出しながら本の土砂崩れに飲み込まれていった。

 

 

 

 

 俺は倒れた本棚の内側に閉じ込められたがすぐに突き破って本の山から顔を出す。

 

「やっべ!あの()は!」

 

 落ちる寸前に赤髪の少女が巻き込まれていることを目視している。辺りを見回すがその少女の姿はどこにもない。まだ本棚の下敷きになっているのだろう。

 

「今助けるぞ!」

 

 自分のせいとはいえこのまま放置しとくわけにはいかない。本棚を持ち上げ、元の場所に立て直して本の山に沈んだ少女の捜索にあたった。

 

 

 

 

「きゅう~…」

 

 なんとか目をぐるぐると回して意識を失っている少女を助け出すことができた。不幸中の幸いか目立った外傷はどこにもなく、気を失っているだけのようだった。

 さて問題はここからだ。

 

「この()………どうしよう」

 

 気を失っているだけとはいえ、どこか寝かせられる場所で安静にさせてやりたい。医務室のような場所でもあればいいがそんなところ知らない。

 

「そうだ」

 

 頭に考えが浮かび、彼女を背中におぶって来た道を引き返した。

 

 

 

 

 少女をどこに向かって運んでいるのかというとさっき見かけた本を読んでいた紫色の少女のところだ。誰にも知らせないよりかは全然マシであろうと考えたからだ。

 裸足でペチペチと足音を立ててしばらくしてすると先ほどの読書スペースかのような開けた場所に戻ってきた。そうして机を挟んで、変わらず本を読み続けている少女の向かい側に立った。

 

「あなたはさっきの」

 

 本から目線を少しだけ上げて声をかけてきた。気づかれる前に隠れたつもりだったがどうやらばれていたらしい。あえて気づかないフリをしたのか、はたまた面倒くさくて無視をしていたのかは彼女のみが知る。

 

「あの…これ、どうすればいいっすか?」

「それはそこに置いといていいわよ」

「あっ、それ扱いなんすね」

 

 おぶっている少女を見せると彼女は顎でくいっとソファを指してそこに寝かせてやれということらしい。読書の手は止めず、その優先順位は悪魔の少女より高い様子だ。

 背中の少女をソファに寝かせて彼女に問いかける。

 

「大丈夫なんすかこれ?」

「普通の人間と比べてよっぽど小悪魔の方が丈夫よ。少しすれば目を覚ますはず」

「ほえ~」

 

 適当に相槌を打ちながら彼女の向かいのイスに腰掛けてふんぞり返る。

 どうやら気を失わせてしまった少女は小悪魔らしい。それが名前なのか種族の名なのか。

 目の前の少女の目線は俺に向けずに本の内容に向き続いている。

 

「あんたは俺を殺しにかからないのか?まだまだ元気いっぱいの侵入者だよ」

「私は進んで命を危険に晒すような真似はしない主義なの」

 

 戦う意志どころかイスから立ち上がる気配すらない。彼女の様子からして俺の能力をもうすでに知っているようだ。紅魔館の情報伝達のスピードは計り知れない。

 

「だけどあなたがどうしても戦いたいというなら抵抗ぐらいはさせてもらうわ」

「そんなわがままボディで俺に勝てるとでも?」

「ぶち殺がしてやろうかしら」

「すみませんでした」

 

 ドスの効いた声に両手を上げて降参の意を示す。そもそも俺には戦いたいという気持ちはもうない。そのことを伝えると

 

「なんでここにいるの?出口はあっちよ」

 

 遠回しにさっさと帰れと言われた。ぴえん。

 

「いや、まだ俺には用事があってですな」

「それは何?」

「この館のどこかにいるレミリアさんの妹に会いにーーー」

 

 少女はバッと顔を上げて険しい表情で俺を睨みつける。

 

「ーーー会いに行きとう存じます。ハイ」

 

 急に空気がピリピリし始めたものだから思わず古風な言い方になってしまった。

 

「彼女をどこで知ったの?」

 

 まるで取り調べを受けているかのように鋭い声音だった。

 

「それは…」

 

 俺はレミリアから妹のことを教えてもらったことを伝えた。心象世界で見たことは伏せたままに。

 

 

 

「そう、レミィがあなたに…」

「ちなみにレミリアさんなら今は多分寝てまっせ」

「ちょっと黙ってなさい」

 

 彼女は俺の話を聞いて少し考え込んだ。

 ちなみに考えを巡らせている途中の彼女に名前を教えてほしいと頼んだら「今聞くのか」と有り得ない表情をされながらも「パチュリー・ノーレッジ」とだけ答えてもらった。俺はそれに合いの手を入れるように「たんぽぽ!」と返したら舌打ちされた。

 

 パチュリーは考えがまとまったのか一息ついてから俺の方を向く。そして彼女は首にかけていた鉄製の鍵を外してそれを机に置いた。

 

「レミィのことだからフランのことを伝えたことに何かしら考えはあるはずでしょうしね。私はそれに合わせるわ」

「んあ?この鍵は?」

「地下室の鍵よ」

 

 この鍵を出してきたということはレミリアの妹に会わせる意味であろう。だが普通に考えて館の当主の妹に半裸侵入者を会わせることはしないはずだ。気でも狂ったか。

 

「どうしてこれを?」

「長く友人をやっていると理解できなくても納得できることがあるのよ」

 

 俺にはなんのことかさっぱりわからない。だけど鍵を渡してくれるなら大人しくその好意に甘えよう。ここを通りたければ私を倒していけと門番的なことを言い出さなく本当によかった。

 俺は机に置かれた鍵を手に取る。

 

「この鍵で会いに行けるんだな」

「ええそうよ。その鍵には導きの魔法が刻まれているからそれ通りに行きなさい」

「了解した」

 

 鍵に魔法が込められているとかマジパネェ。キーブレードかよ。

 

「あの子に会いに行く前に一つだけ約束してちょうだい」

 

 真剣な眼差しにぐっと口を閉じて耳を傾ける。

 

「あの子を…恐がらないであげて」

「そりゃ当然だ」

 

 いろいろと疑問が残りそうな含みのある言い方であったが、俺は二つ返事でそれを受ける。

 

「他にも言いたいことはあるけどあなたはしぶとそうだし大丈夫そうね」

「誰がしぶとさゴキブリ並じゃ」

「そこまで言ってない」

 

 パチュリーは呆れたツッコミすると小さく咳払いをして気を取り直した。

 

「もしもあなたがその力であの子を危険な目に遭わせたら承知しないからね」

「あぁ、わかってるさ」

 

 俺はイスから立ち上がりパチュリーに背を向ける。そしてその場から立ち去るのをパチュリーは見届けると再び本を開いて読書に戻っていった。

 

 

 

 

 

 パチュリーから受け取った鍵は地下室のあるだろう方向に向けると先端部が淡く光り出す。俺はそれをダウジングロッドのように正面にかざしながら書庫の道を進んでいく。

 しかし、鍵は最短距離の一本線で方向を示してくるのに対してこの場所は迷路のように本棚が並んでおり、すこぶる相性が悪い。鍵はあっちに行けというのにそこに本棚が立ち塞がっているということが何度もあり、その都度回り道を要求されている。まるで精度の悪いカーナビを使って運転しているような気分だ。

 

「おのれあのクソ(アマ)ァ…不良品を押し付けやがって」

 

 なにが導きの魔法じゃ。この鍵に詰まっているのはイラ立たせる魔法の間違いのはずだ。だが俺の屈強な精神とめげない心でなんとか正解のルートを探し出して進んでいく。

 

 そうしてある程度の時間が過ぎた時、鍵が一段と強い光りを放ってきた。

 

『目的地に近づきましたので案内を終了いたします』

「ファーwww」

 

 まだ目的地に着いてないよ。ていうか音声案内の機能があるなら最初からしてくれ。

 

「えっ、ちょっ、待っーーー」

 

 光は徐々に弱くなっていき、初めに渡された時の変哲のない鍵へと戻っていってしまった。目的地に最後まで連れていってくれないとか完全にこれカーナビだろ。

 

「………仕方ない。いっちょやるか」

 

 光を失う鍵が最後に示した方向を頼りに強行突破することにした。本棚があろうが壁があろうが拳で穴を空けて進んでいく。

 

 

 

 

 そうしているうちに丸石の積まれた壁にはめ込まれた鉄の扉を見つけた。その扉の鍵穴に持っている鍵をさしこみ、左に反時計回りに捻るとガコンと大きめな音が鳴った。どうやら解錠できたようだ。

 扉を開けようとすれば錆びた鉄が軋む音が耳につく。建て付け悪いなこれ。

 扉の向こう側には身震いしてしまうほどの冷たい空気と地下へと続く石段が存在していた。俺は何の迷いなくその階段を降りていく。

 

 

 

 冷えた石段を裸足で歩くことは氷の上を渡っているように痛みを感じる。いつ足裏の皮膚がもっていかれてもおかしくはないだろう。

 階段を降り終えると上の扉同様に強固な作りがされているドアが目に入る。俺はそのドアに数回軽くノックする。

 

『入ってきていいよー』

 

 可愛い声の反応が返ってきた。

 俺はその返事を聞いてドアノブに手をかけてゆっくりと開く。

 

「あれ?咲夜でもお姉さまでもない。あなたはだぁれ?」

 

 紅い部屋にはお姫様が寝るような天蓋付きのベッド、高級そうな絨毯の上に綿の飛び出たぬいぐるみが四、五体ほど散乱していた。一目で子供部屋だと捉えられるその場所の中心に声の主は立っていた。

 レミリアと瓜二つの少女。あの殴り合いの最中に心の世界で見えた少女だ。

 少女は片手にテディベアを持ちながらパタパタと俺に駆け寄ってきた。

 

「はじめまして。俺は蒲公英っていうんだ。お嬢ちゃんの名前はなんて言うんだい?」

「私?私はフランドール・スカーレット。フランって呼んでね」

 

 フランは初めて会う俺に興味津々といった様子で、宝石の羽をパタパタと動かしながら頭の先から足の指までまじまじと観察している。

 

「そうかそうかフランっていうんだね。今日、お兄さんはフランと遊びたくて来たんだよ」

「あなたが新しいお人形さんなのね!」

 

 遊び相手のはずが人形だと思われているのか。そのことは子供独自の価値観でお互いの認識に軽いズレが生じている程度だと考えていた。

 

「でもお人形遊びは飽きちゃったところなんだよね」

 

 しかし、このズレは吸血鬼と人間の価値観の違いのせいである。

 

「だからあなたはいらないや。壊れちゃえ」

「んあ?」

 

 突然口を三日月のように形を変えて笑い出す。牙を見せるその笑顔にどこか不気味なものを感じた。

 そしてフランはおもむろに右手の平を俺に向けてきた。握手をするつもりでないことだけはわかる。

 

「きゅっとしてドカーン」

 

 出した手を握り込む。

 その瞬間、俺の身体に何かしらの力が加えられ、内側(・・)から粉々にはじけ飛んだ。空気を入れ過ぎた風船のように。

 

「痛ッデエエエエエエエエエエェェェェ!!!!」

 

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