東方漂泊録   作:芳養

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私に優しく話しかけてくれるのがどうぶつの森の住民ぐらいしかいないことに気付きました。


紅い館⑪

 フランが堅牢な壁を破壊しながら禍々しいオーラをまとった姿を見せた。彼女から咲夜や美鈴の放っていた一点集中の鋭い殺気とは違い、四方八方広範囲にむやみやたらにばら撒く強力な殺気を肌で感じ取る。

 

「ヤット追イツイタ!鬼ゴッコハ終ワリニシテ今度ハ弾幕ゴッコヲシヨウヨ!ダカラ…蒲公英モ咲夜モ簡単二壊レナイデネ?」

 

 俺たちの返事も聞かずに弾幕を展開させて紅い色の光弾の雨を降らせる。一発が石造りの紅魔館の床を穿つほどの威力をしており、今まで受けた弾幕と比べても桁違いだ。光の弾丸ひとつひとつが命を刈り取る死神の鎌である。

 

「おい!フランがこうなっちまったときはいつもどうやって止めてるんだ!」

「いつもならお嬢様かパチュリー様が直接お止めになっているの!お二人がいらっしゃらない時は妹様がお疲れになるまで耐え凌ぐしかないわ!」

「何かの方法で気を失わせる選択肢は!」

「それができるものならやってみなさい!下手すれば命はないわよ!」

 

 際限のない弾幕による轟音でお互いが大声を出さなければ耳に届かない。無数の光弾を咲夜は空中を飛び回り、俺は地上を駆け回って避けていく。咲夜の言うことが本当ならば、今の最善手はとても広いとはいえ同じ館内にいるであろうパチュリーの到着まで持ちこたえることだ。

 咲夜は弾幕を除けながらも反撃の隙を伺ってナイフを飛ばすが吸血鬼の反射神経の前では軽く躱されて無意味となっている。俺も反撃しようとするが、フランに近づこうにも光弾の威力が高すぎるため足場として利用できず接近できなかった。もしも足を乗っけようとするものなら欠損は免れない。

 

「キャハハ!楽シイネ!蒲公英タチモソウデショウ?モットモット楽シクナロウヨ!」

 

『禁忌“レーヴァテイン”』

 

 フランは先端がトランプのスペードの形をしている歪な線をした黒杖を取り出して真紅の炎を纏わせる。そして身体の数倍以上巨大な炎の剣を形作った。通常なら一振りするだけでも苦労しそうな大きさをフランはそれを感じさせずに無邪気に振り回す。

 

「俺に任せろ!タンポポラリアット!!」

 

 振りかざされるレーヴァテインに合わせるように霧を纏わりつかせた右腕をぶつけていく。二つが衝突する度に石床がめくれ上がる程の衝撃波が巻き起こる攻防だった。

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜、状況は?!」

「パチュリー様ー、置いてかないで下さいよー!」

 

 パチュリーが目覚めたばかりの小悪魔を後ろに連れ、飛んで駆けつけてきた。これだけの騒ぎになればすぐ気付くはずである。

 

「ご覧のとおり、暴走状態の妹様に蒲公英(馬鹿)が応戦中です」

 

 戦線を蒲公英に任せて一時離脱してパチュリーの達の前に時を止めて姿を現す。なんのひねりもなく蒲公英を貶しながら状況を説明した。

 

「うへぇ、妹様と正面からやり合えるなんて一体何者なんですかね彼は」

「あれが本当に否定の力なら人間で間違いないわよ」

「パチュリー様、彼について何か知ってるんですか?」

「今はそんなおしゃべりをしている場合じゃないでしょ」

 

 パチュリーは小悪魔の問いを流して抱えていた魔導書を魔法で浮かせてパラパラと捲り始める。

 

「蒲公英が気を引いている間に早くこちらもーーー」

 

 ボキィッッッ!!!!

 

「「「あ」」」

 

 太い木の枝が折れたような鈍くて低い音が蒲公英から鳴ったため、三人は視線を向ける。

 すると蒲公英の右肩が脱臼しており、伸びきった腕をだらんとぶら下げている光景が映った。レーヴァテインと打ち合っている際に競り負けたのだろう。

 

「ちょ、ま、待って!!」

 

 夢中になっている子供を待っての一言で止められるなら世の中のお母さんは苦労しない。

 フランは右腕の使えなくなった蒲公英を真紅の剣で容赦なく斬り飛ばす。防御も遅れてモロにそれを喰らった。

 しかし、飛ばされる寸前に腕の霧をレーヴァテインに絡みつかせ、腐食した金属のようにボロボロと崩れさせる。

 

「ぬがアッッッ!!!」

 

 

 

 蒲公英の身体は三人の元へと吹き飛ばされたが、咲夜が片手で受け止める。

 

「もうちょっと時間を稼げないの?」

「勘弁してくれ、肩が外れまったんだよ」

「まったくしょうがないわね…」

 

 蒲公英の目に咲夜の姿が一瞬だけブレて見えた時、右肩に激痛が走った。

 

「痛ッダアアァァァ!!!」

 

 外れてしまった肩を停止した時間の中で無理矢理はめ直したのだ。そのせいで痛みが一瞬で身体中を駆け巡ったため悲鳴を上げる。

 

「少しぐらい我慢しなさい」

「痛いのや!やーやなの!ぶっ殺すぞ」

 

 注射を嫌がる赤子のように抗議するが、氷よりも冷たい心を持つメイド長には届かない。

 そして立ち直った蒲公英は駆けつけてきた二人に顔を向ける。

 

「あんたらはパチュリーさんと…えっと…」

「小悪魔です!あなたには色々と言いたいことがあるんですけどね!」

「蒲公英です…っと、吞気に自己紹介はできそうにないぜ」

 

 蒲公英はフランの方へ向き直る。

 彼女はまだまだ遊び足りないといった様子で口角を上げて空中から蒲公英たちを見下ろす。

 

「パチュリート小悪魔モ来タンダ!一緒二弾幕ゴッコシヨウヨ!」

 

 フランは見開いていたハイライトのない瞳を少しばかり細める。

 

「デモ、チョット多クナッテキタヨネ」

 

 右手を小悪魔に向けて手中に彼女の“目”を捕らえて握りしめようとする。

 蒲公英は小悪魔に向けられた殺気とその予備動作から咄嗟に手を広げて間に割って入る。

 

「そうはさせねえ!」

「キュッとしてドカーン!」

 

 小悪魔の目の前で蒲公英が下半身を残して爆散した。

 

「ぎゃッ??!!」

 

 爆風に押されて小悪魔は後ろへ勢いよく尻餅をついた。

 そして彼女が先ほどまで立っていた場所に目を向けると足だけとなった蒲公英が落ちていた。

 

「た、蒲公英さん…?そんな…噓ですよね…」

 

 自身を庇って惨たらしい姿になってしまった青年に小悪魔は呆然として口を開く。

 彼の名前を呼びかけるが、言うまでもなく返事は返ってこない。

 

「汚い花火ね」

「何をしてるの小悪魔。さっさと立ちなさい」

「あ、あなたたちに人の心はないんですか?!」

 

 ドライ過ぎる二人の物言いに小悪魔は思わず抗議の弁を唱えた。

 

「あれを見ても同じことが言えるかしら」

「へ?」

 

 パチュリーが蒲公英の亡骸へ指を差して小悪魔がそちらへ意識を向ける。

 蒲公英は足だけとなった姿だけで立ち上がり、霧を収縮させて消失した身体の部位を成形していく。そしてフランに破壊される前の姿へと戻っていった。

 

「おいおいフラン。他の奴に目移りするなんて嫉妬しちまうじゃねえか。俺だけを見てくれて構わないんだぜ」

「ソウダヨネ!ヤッパリ蒲公英ハソウコナクチャ!」

 

 壊しても元通りになる蒲公英にフランは嬉しそうに声を響かせる。その興奮度合いは恋に酔いしれる乙女のように。

 小悪魔は当然のように復活した蒲公英とそれに対する周囲の反応にもうついていけないと少しばかり放心状態になる。

 

 

 パチュリーはフランの動きが蒲公英を破壊した折に止まったのを見逃さず、即座に魔法を詠唱して球体状である流水の檻に閉じ込めた。

 

「「おお!」」

 

 パチュリーの見事な手際に蒲公英と小悪魔は揃って感嘆の語を発した。

 吸血鬼の数ある弱点の中に流水が苦手というものがある。そこを突いた水の檻だ。魔法を扱うものにしかできない芸当である。

 

「ギャンッ?!」

 

 水の膜に触れたフランは電流が流れたかのように疼いた。やはり、吸血鬼の例に漏れずフランにも効果は絶大であった。指一本檻の外へ出ることが敵わないといった様子。フランはその中で何もできず、ただ俯いて佇んでいることしかできなかった。

 このままパチュリーがフランの狂気が静まって正気を取り戻すまで球体の檻を維持させていればこの事態は収束するのは容易に想像できた。

 

「さっすがパチュリー様です!」

「毎度素晴らしいお手並みで」

「魔法ってあんなこともできんのか、すげえな」

 

 各々がパチュリーへ称賛の言葉を送る。それを当然かのように眉毛をピクリともさせず涼しい顔で受ける。

 そして彼女は蒲公英へ歩み寄り、彼の頬をつねった。

 

「フランがああなった原因は十中八九あなたでしょうね。危険な目に遭わせたら承知しないって言ったわよね」

「こ、これには事情があるんだ!」

 

 パチュリーは怒りを隠すこともなく蒲公英を責め立てる。蒲公英は自分に非があることを弁えているために強気に反論ができない。

 

「モウコレデ…オシマイ二ナッチャウノ?」

「ええ、おしまいよ。大人しく自分の部屋に戻りなさい」

 

 パチュリーは我が子に言い聞かすように言い放った。

 蒲公英は色々と思うところがあったが、ここはあえて口を挟まなかった。時間が経ってフランの気が落ち着いたらまた地下室にお邪魔しに行けばいいだけと考えていた。

 

「ソンナノ嫌ダ………………嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ」

 

 フランの帯びている空気が一変、静まりかけていた狂気がぶり返して強烈なオーラを放出し始めた。

 流水の檻は徐々に不安定になり、一定の形を維持できていない。フランの感情が導火線に火の付いた爆弾のように起爆寸前だった。

 

「これは…まずいわね」

 

 パチュリーが額から数滴の汗を垂らしながらそう呟いた。

 小悪魔はどうしてよいかわからずその場であたふたし、咲夜と蒲公英は最悪の場合に備えて構えをとった。

 

「モット遊ブノ!!!!!!」

 

 シャボン玉が弾けるようにフランを封じ込めていた檻は内側からパリンと音を立てて破壊された。

 そして一際大きな破壊のオーラが放たれ、紅魔館全体を揺らす。柱や壁には亀裂が走り、耐え切れなかった天井の一部分は重力に従って降下していく。

 

「これで終わりじゃなかったのかよ!」

「今までならこれで抑えることができてたのよ!だけど今は何かがおかしい…」

「もしかして…蒲公英が妹様に能力を当てたからかも」

 

 咲夜は過去の暴走と比べて違うことを否定の能力による狂気への干渉によるものだと推察した。実際、それは正しく、そこにいち早くたどり着けたのは完全で瀟洒なメイドといったところだろう。

 フランのうちに潜む狂気もただで消されるわけではないということだ。

 

「アナタタチガイケナインダヨ………邪魔スルカラ」

 

『禁忌“フォーオブアカインド”』

 

 フランは自身の影から容姿も声音もまったく同じである分身を三体作り出した。

 

「「「「オ人形サンハオ人形サンラシク壊レテヨ!!」」」」

 

 計四人となったフランによる絨毯爆撃の弾幕。一人の時でさえ手に余る程であったのに今度は単純計算でその四倍ときた。密集した光弾の嵐は容赦なく蒲公英たちがいた場所を逃げ場なく埋めた。一発でもまともに被弾したらアウトの破壊力。

 

「うおおおおお!!!」

「へっ?」

「むきゅっ?!」

 

 咲夜は時間停止の能力を使いながらナイフと光弾を相殺させ、蒲公英は小悪魔とパチュリーを肩に担いで咲夜の作った逃げ道から地を蹴ってその場から離脱した。

 

「おい!あれを一気に止められる魔法はないのか!」

「………あるにはあるわ。でも詠唱にとても時間がかかる」

 

 蒲公英は走りながら肩の上にいるパチュリーに聞いた。一朝一夕にいかないとはいえ、止められる魔法があるという答えだけで蒲公英には十分だった。

 

「聞いたかメイド長!」

「しっかり聞こえたわ!」

 

 返事が聞こえ、後ろで弾幕を捌いている咲夜を背に蒲公英は大きく跳躍をして四体のフランからかなりの距離をとった。

 

 

 

 

 そして着地をして肩の二人を降ろしたところに咲夜が瞬間で隣に現れる。

 距離はとれたがフランのスピードであればすぐに追いつかれる程だった。

 

「パチュリー様、その魔法の準備をお願いできますか。その間の護衛はお任せください」

「ええ、任せるわ」

「小悪魔はパチュリー様の傍で流れ弾からお守りしなさい。蒲公英は私と妹様の足止めよ」

「こうなったらやるだけやってみせますよ!」

「いいぜ、今だけはお前に従ってやるよ」

 

 咲夜の的確な指示に小悪魔と蒲公英は了解の意を示した。パチュリーは彼女たちの反応を見てさっそく魔法の詠唱に取り掛かった。足元には魔法陣が浮かび上がって彼女を照らし上げる。

 呟くような小さな声であるが、その芯には理解できなくとも意味が含まれていると感じ取れるような深い言葉の羅列が並べられていた。

 

 詠唱を始めた彼女の前に咲夜と蒲公英が揃って歩み出る。

 

「半分ってことは二人のフランを同時に相手にしなきゃならないのか…いけるか?」

「誰に言っているのよ。あなたこそいけるのかしら?」

「フランを止めるためだ。いけるじゃなくていくしかない」

 

 

 近づいてくる四つのジェット機のような轟音。

 二人は息を吞んで待ち構える。目的はパチュリーの詠唱が完了するまでの時間を稼ぐこと。それだけでも命がいくつあっても足りるかわからない至難のことである。

 

「「「「私カラ逃ゲラレル訳ナイデショ!!」」」」

 

 四人のフランが姿を見せた時、蒲公英は即座に黒霧の壁を展開させて自分たちとパチュリーたちの場にラインを引くように遮った。

 

「さあフラン、俺たちと遊ぼうか!」

「少々おいたが過ぎます妹様。早く大人しくなった方が身のためですよ!」

 




蒲公英さんはどんぐりさえあれば咲夜さんに勝てると思っています。
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