東方漂泊録   作:芳養

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あけましておめでとうございます。2025年もよろしくお願いいたします。


漂泊者の真髄②

「おい霊夢!早くこの結界を解くんだ!じゃないとあの人間が死んじまうぞ!」

 

 ここは蒲公英が囚われている結界の上空。それを維持する霊夢と藍のもとに三人の人物が結界を解くよう詰め寄っていた。

 一人は箒に跨った金髪、金色の髪をした三角帽子にエプロン姿の少女。“霧雨魔理沙”であった。

 

 萃香の殴打は結界でも封じ切れないほどの衝撃波を蒲公英を通して生み出しており、それを人里で察知した彼女は近くにいた二人を引き連れて駆け付けたのだ。すると目に映った光景は萃香が勝負とも言えないほど一方的に中性的な顔をした男を痛めつけていた。それを人間の味方であるはずの博麗の巫女が見ているだけでなく、手助けするかのように閉じ込めているのだから穏やかでいられなかった。

 

「こんなことするなんていつもの霊夢さんらしくないですよ!」

「藍さんもどうしてこんなことを…?」

 

 緑のロングヘアーにトレードマークのような蛙の髪飾りをつけた“東風谷早苗”と、二振りの刀を携えて半霊という幽霊の半身を引き連れた“魂魄妖夢”は魔理沙と同じように訴えていた。

 

「うっさいわね。あんたたちには関係ないことでしょ。私だってこんなやり方気に入らないわよ」

 

 霊夢はお祓い棒で無愛想にしっしと追い払うように振って取り付くシマすら与えなかった。

 

「お前たちには悪いが諦めてもらおうか。今回ばかりは邪魔立てするなら私とて容赦はできん」

 

 藍にも訴えは届かず、結界を解くつもりはさらさらない。いつもの弾幕ごっことは違った本当の殺気を放って三人を牽制した。だが、妖夢の耳にだけ届く声で「理由は終わったら話すからここは退いてくれ」と、二人の仲ではの懇願があった。

 

 魔理沙は浴びせられる殺気に一瞬身を震わせるが、それが自分の中の闘争心を刺激したようでむしろ苛立ちが湧いてきたようだ。その怒りの矛先は主に霊夢の方へ向いていた。そして一歩も譲歩する気のない彼女へ怒鳴りつけるように言い放った。

 

「それでも博麗の巫女かよ!!」

「博麗の巫女だからこそよ」

 

 その肩書きが持つ重みは魔理沙たちも知っている。幻想郷の危機、あるいはそれに相当する場合を意味していた。彼女が異変解決を生業としているのはこの為である。

 その言葉一つで並々ならない訳があることは彼女たちは充分過ぎる程に理解できた。

 

「あの男に………何かあるんだな?」

「わかったなら黙って見てなさい」

 

 駆け付けた魔理沙たちはこれ以上口は出さず、眼下の二人の行く末を黙って見届けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さま………これは一体どういうこと?」

「フ、フラン!?」

「い、妹様!?ばれてしまいますよ!」

 

 水晶を囲むように映像を見ていたレミリアたちの元に本棚の影からフランがおずおずと姿を現し、後ろに美鈴も申し訳なさそうに続いて現れた。

 どうやら目が覚めていなくなった蒲公英を美鈴に協力を頼んで二人で館中を探し回っていたようだ。そして図書館の不穏な空気を感じ取って物陰から覗き見、もとい様子を窺っていた。フランはそこで映し出される蒲公英を目にすると身体は思わず前へ動き出していた。

 

 レミリアは間が最悪な時に妹の登場に動揺が隠せなかった。

 

「それとあなた。蒲公英のこと何も知らないくせにデタラメ言わないでよ。壊されたいの?」

 

 紫に手のひらを向けてお前なんていつでも破壊できるぞと脅しをつける。それは狂気の一歩手前といったぐらいピリピリと殺気立っていた。

 しかし、向けられる当の本人は彼女を待ってましたと言わんばかりに不気味な笑いを浮かべている。

 

「あなたこそ彼を苦しめているのに一丁前にご主人様気取りかしら?」

「えっ、苦しめている…?」

「違うのフラン!そいつに耳を貸しちゃダメよ!」

 

 紫のその思わぬ言葉に手を下げて殺気は引っ込んで思考が止まってしまう。姉はこれ以上耳を貸すなと言うが、その理由を聞かずにいられなかった。

 

「自覚がないのなら教えて上げるわ。あなたが一度壊した彼の魂、実はまだ完全に治りきってないのよ。それどころか再び崩壊し始めているの。最初は小さな綻びだったけれど着実に彼を苦しめているわ。そう、あなたのせいでね」

「おい!」

 

 最後の一言を強調してフランに言い放った。レミリアは妹を庇おうと必死に反論しようとするが悔しいことに何も良い言葉が思い浮かばず歯嚙みする。何故ならばそれはフランに対して残酷すぎる現実であったからだ。

 パチュリーを除いた紅魔館の面々もその事実を今初めて知ったようで驚きで何も言葉を出せなかった。その中で特に咲夜のショックが大きかったようで、世界が暗転したかのような錯覚に囚われてしまっていた。

 

「う、噓よ…。だって蒲公英は執事になってくれたんだもん…。私が本当に苦しめているならなってくれるはずがないよ…」

 

 フランは押しつぶされそうになる罪悪感と正常でいられない動揺から弱々しくも反論をする。彼が今まで見せてくれた笑顔が偽りのものだと信じたくなかった。

 

「それならあなたのお姉様がよくご存知じゃなくて?彼の弱みに付け込んで執事から逃れられないようにしたのよ」

「言い方というものがあるでしょうが…!」

 

 実際、紫の言い分は見方を変えれば正しいのだからレミリアは強く出れなかった。無理に反論しようとすれば妹を余計に苦しめて紫の思う壺であるため、下手に口を開けない。彼女のやり口はあまりにも無慈悲で残酷だった。

 

 しかし、レミリアは蒲公英に執事へ身を移すよう押しつけにも近い説得で勧誘したのは彼を守るためでもあった。あのまま漂泊者としてどこかへほっつき歩くような真似をしていればまず間違いなく幻想郷の守護者たちが彼の命を狙いに来るはずだ。

 それから守るために自身の庇護下に置く必要があった。そうすれば外部の者が簡単に手出しできなくなるからだ。

 

 その行為が彼の本質(・・・・)に反することであっても、魂の自然崩壊と天秤にかけてその方が良いと判断したからである。

 

「そのことが蒲公英が執事になることとどのように関係するのかまったく理解できません!紅魔館(ここ)にいることが彼の魂を傷付ける因果がどこにあるのでしょうか!」

 

 それまで静かに事の顛末を見ていた咲夜が急に声を荒げて割り込んできた。いつもの彼女なら有り得ない冷静さを欠いた様子だった。レミリアですらここまで落ち着きを失った彼女を見たのは初めてであった。

 紫はキョトンと驚きの表情を見せたが、すぐに先程までの調子を取り戻して淡々と語りだした。

 

「彼は生来的に漂泊者の気質よ。何者にも寄り付かず、何処にも定着しない。だからこそあんな忌々しい能力を手に出来ている。だけど、人とは生き方を簡易に変えられるものじゃない。無理に変えようとしてしまえば存在の根底が揺らいでしまって力を失ってしまうもの」

 

 紫は隠す気のないあからさまな様子でフランへ視線を移す。それは彼女を責め立てるように追い詰めていた。

 

「あなたの我儘で蒲公英という彷徨の民を縛り付けているのよ。ほら、そのせいで彼も思ったように力が出せずに困っているわ」

 

 水晶の映像を扇子で差すと萃香が蒲公英の首を掴みながら彼のシャツをビリビリに引き破っていたところだった。

 

『あーあ、あんなガキんちょ一人のためだけにこんなボロボロになっちまって』

 

 むき出しの素肌が露わになることで晒される傷跡だらけの身体。これは今さっきついたような傷ではなく、傷がついてから時間が経過しているものだと誰もが見て理解できた。

 このような身体にしてしまったフランには身に覚えがあり過ぎた。その光景が彼女の罪悪感に岩を積み重ねるかのように加速させていく。

 

『あの妹を見捨てればあんたは能力でこれを治せるはずさ』

『これに、フラン様は何も関係ねえよ。昨日階段で転んだ時についた傷だ』

『あんたも懲りないねえ』

 

 それが噓だということは言うには及ばなかった。虚言が嫌いな鬼に噓をついた代償は高くつく。

 萃香は蒲公英の脇腹、特に深く抉られていたところ目掛けて思いっ切りの膝蹴りをかました。そして彼の身体を地に投げ飛ばす。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!』

『その傷だってやられたんだろ。恨む道理はあっても仕える義理はないんじゃないか?』

 

 今までとは違って腹を抑えて苦しみ悶えるように続いた悲鳴であった。

 萃香の蹴った場所はフランに貫かれて内蔵を雑ぜ返された跡だった。傷口が開き、手だけじゃ止めようがない量の血が漏れ出て足元に小さな水溜りを作っていた。

 

 自分が背負わせた傷跡で苦しむ彼の映像がフランの心を鋭利に刺していく。水晶から響き渡る悲鳴に目を伏せて耳を塞ぐが、声が途切れることはなかった。膨張する罪悪感は彼女の心を確実に削いでいた。

 

『そこまで固執する理由を当ててやろうか。吸血鬼の妹と自分を重ねたんだろ?孤独で苦んでるやつを救うことで自分も救われた気になる自己満足のためだけに』

『ハァ……ハァ……ハァ……』

『目的なら果たしただろ。ならその嬢ちゃんはもう必要ないはずだ』

 

 自分が彼に必要ない、その言葉が決め手となってフランの心が限界を迎え、瞳からポロポロと涙がこぼれ落ち始める。その涙にいち早く気づいた美鈴が彼女を抱きしめて背中をさすった。

 

「妹様、落ち着いて下さい。蒲公英さんがそのように思っているはずがありませんから」

「だ、だって…蒲公英には今までずっと酷いことして迷惑かけてたから…私のことを嫌いなはずかもしれないし…。だから、大事なことも内緒にして話してくれなかったんだよ…」

「それはあなたに心配をかけーーー」

「お姉さまだってそうよ!蒲公英の秘密のこと知ってたくせに教えてくれなかったじゃない!二人とも私のことが嫌いだからそうしたんでしょ!」

 

 レミリアがフランに声をかけようとするが、紫にせいで知るところになった秘密が仇となって火に油を注ぐ結果となってしまった。

 これは蒲公英がフランに無駄な心配をかけたくなかったがためにした配慮であったが、今ではそれが空回りして悪い方向に進んでいる。それともそうなることすらも紫の計算のうちであったのか。

 

 早急に結論付けて取り乱しているフランを尻目に紫はそろそろ頃合いと見計らい、スキマを通して顔を彼女のすぐ近くに出してきた。

 

「彼への想いに偽りがないのならただ一言、それだけ送ることで彼を救ってあげることができるのよ」

「そ、それは何…?」

「あなたはこれ以上妹様に変なことを吹き込まないでください!主への侮辱と見なしますよ!」

 

 美鈴が気迫を込めて紫に口を噤むよう警告するが、彼女は右から左に聞き流すかにこれはあくまでアドバイス、善意から言うものだと気にも留めなかった。

 フランは蒲公英のためになるならと普段なら耳も貸さない紫へ藁にも縋る思いだった。そしてそんな彼女の衰弱しきった心理状態をつくように紫は悪魔の囁き声を放った。

 

「“あなたはもう執事じゃない”。それだけ伝えれば十分よ」

 

 紫の狙いははじめからそれだけであった。蒲公英が執事でなくなってしまえば彼を庇う名分をレミリアは失ってしまう。

 彼の後ろ盾を引き剝がすために紫はフランの想いを利用して漂泊者へと戻そうとしていたのだ。その目的に気づいたとしてもフランはとうに憔悴しており、今の状態では何を言っても焼け石に水なようでレミリアはこれ以上ない悔しさが募っていた。彼女は紫に流されずフランが正しい判断をしてくれることを祈るしかなかった。

 

「さあ、ここに声を。そうすればあなたの大好きな彼に届くはずよ」

 

 紫は萃香の持っていたものと同じ人型の形代を取り出してフランに手渡す。どうやらこの紙には電話のように声を届ける機能も備えられているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「………言いたいことは、それだけか萃香?」

 

 それまで痛みに転げまわっていた蒲公英であったが、腹の傷を片手で抑えながらゆっくりと立ち上がる。ボロボロな姿だったが彼らしからぬ低い声に威圧感のあるオーラを放ち、それが水晶越しの彼女たちの会話を中断させて視線を集めた。

 

 そして右の手を脇腹の傷口へ運ぶとその部分をおもむろに力を込めて引っ張り出した。

 

「あっ、オイ!?」

 

 これには萃香も驚きを隠せなかった。

 握力だけでブチブチと肉の糸を千切って腹の一部を力づくで取り除いたのだ。先程までとは比べ物にならない血を垂れ流し、全身に走る激痛でその血に負けない量の汗が噴き出ていた。そして腹であった肉塊を目の前の彼女へ見せつけるように突き出す。

 

 突然の正気の沙汰とは思えないその行動に映像を通して見ていた紫だけでなくレミリアたちまでもが言葉を失って啞然とした。

 

「ハァ……ハァ……フラン様にやられた傷なんてもうどこにもないぞ。これで恨む道理はなくなったな…」

「へえ、やるじゃないか」

 

 自分のつけた傷で上書きすることでフランの傷を帳消しにする強引な行為に萃香は好戦的な笑みを浮かべて口角を吊り上げる。一人の少女のために身体を引きちぎるなど並大抵の精神じゃなかった。

 口の端からから血をこぼしながらも蒲公英は言葉を続ける。

 

「お前の言うとおり、俺は自分とフラン様を重ねていたさ。はじめはそれだけの気持ちで地下室まで会いにいったんだ」

 

 身体の一部だった肉塊を握り潰し、雑巾のように血が溢れ落ちて手に残ったのはもはや何だったのか判別できない絞り屑であった。

 

「どうやら俺には他人が強く想っていることを覗き見れる能力(・・)があるらしくてよ………それでレミリア様から見えたフラン様は狂気的だったけどどこか寂しそうだった。だからあの子を笑顔にしてみたいって思ったのさ」

 

 蒲公英は本人に聞かれていることも知らずに自分の想いを語り続ける。

 

「子どもってのはシャボン玉みたいに少し目を離せばどこかへ消えてしまいそうで、だけど逆に縛り付けようとすれば割れて壊れちまうんだ。だから割れないようにそっと愛で優しく包み込んでやらなきゃいけない。愛し愛され愛に生きていく、それが人間の生き方だよ」

 

 親が子に無償の愛を捧げなければならないのも蒲公英の考えと同じであった。

 

「仕える理由だあ?んなもん愛しているからの一言で十分過ぎるぜ!嬉しさも寂しさも愛おしさも全ての想いのひとカケラとて取り零さぬ!それが華月蒲公英だ!!」

「あっはっは!そこまで馬鹿を突き通せば見事ってもんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 それを聞いていたフランは再び涙をポロポロとこぼし始めた。その涙はさっきのものと違ってショックから来たのでなく嬉しさから来たものであった。

 

「良かったぁ………良かったよぉ…。蒲公英が私のこと嫌いじゃなくて良かったよぉ…」

 

 拭っても拭っても止まらない嬉し涙が彼女の涙腺を走り続ける。先程までの不安や危惧で緊張して凝り固まった筋肉が蒲公英の言葉一つで一瞬に解けて美鈴にもたれかかった。

 そして喜びを分かち合うように抱きしめた。

 

「良かったですね妹様!殿方にあんな風に言ってもらえるなんて妹様は幸せ者ですよ!」

「うん…!うん…!」

 

 紫は蒲公英の想いと覚悟が予想を上回っていたがために計算が大きく狂ってしまい、必死に軌道修正しようとさっきまでとは打って変わって無言になって考えを巡らす。レミリアも蒲公英に驚かされてばっかだった。

 だが彼の覚悟がここまで堅いのならもう全て信じてもいいだろう。

 

「フラン、蒲公英はあなたを最後まで信じてくれたのよ。今度はこっちがお返しする番ね」

 

 さっきまでは利用されるがままにしてやられたが、次は逆に利用してやるとレミリアは仕返しに取り掛かった。

 すぐ傍まで歩み寄り、フランの形代の持つ手に優しく自身の手を重ねて彼女に声を届けるよう促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『全部聞いてたよ蒲公英』

「え、フラン様?!」

 

 蒲公英はこの場にいない主人の声がどこからか突然耳に届いたことにきょとんと目を見開いた。

 

『ありがとう。愛してるって言ってくれて』

「えへへ、聞かれちゃいましたか」

 

 萃香だけだと思って話した心の内が聞かれていたことに気恥ずかしさで顔を赤くしてポリポリと髪をかいた。

 

『漂泊者に戻らないと蒲公英は生きていけないんでしょ?』

「多少生き長らえるぐらいで後のことはこいつ次第だねえ」

『あなたはお呼びじゃないの。蒲公英のこといじめてたくせに。黙ってて』

「おー恐い恐い」

 

 萃香が代わりに答えるとフランの怒りが返ってきた。

 どうやら声のする方向的に発信源は萃香の胸元、能力を無効化された形代から聞こえてくるものであった。そのスマートフォンのような多機能さに蒲公英は逆に関心していた。

 

『漂泊者になって大丈夫だよ。どんなに遠くに行っちゃっても見つけて迎えにいくから』

「いいんですか?」

『それぐらい任せてよ。帰ったらまたいっぱい遊んでね』

 

 それは帰ってくると信じているからこそ従者を送り出す主人の度量であった。少し前なら片時も離したくないと駄々をこねそうだったが、今は成長したかのように大人びていた。

 すると向こうから『少し代わるわね』ともう一人の主人の声がした。

 

『こっちのことはもう心配しないであとは自分のことだけ考えなさい』

「レ、レミリア様まで?!」

 

 紫の道具を使って話を通してくるあたり紅魔館での状況が掴めないが、この様子だと咲夜など他の面々も同じように見ていたのは感じ取った。

 

『あなたに生きて欲しい気持ちは私もフランと同じよ。分かったならさっさと漂泊者になってその生意気な鬼をやっつけなさい。それでなるべく早く帰ってくるのよ。負けたら承知しないんだから』

 

 先程までは蒲公英が萃香に力比べで勝てるとは思えなかったが、彼の一連の覚悟がそれを可能にしてくれると思わせてくれる。今度はこっちが信じる番だとレミリアは蒲公英を信頼していた。

 

『絶対に負けないでよ!』

 

 そのフランの言葉を最後に通信はブツンと切れてしまった。短い会話だったがそれだけで今までにない程の勇気を貰えた。

 

「あんたの主人は甘やかされるだけじゃないようだねえ」

「ああ、俺が見誤っていたようだ」

 

 萃香は途中から声が聞き取りやすいよう形代を取り出してくれたり、敵である蒲公英にさり気ない気遣いを送っていた。

 

「先に礼だけ言っとくよ。全部知ってて俺に気付かせるためにしてくれたんだろ?」

「はて、なんのことやら」

 

 蒲公英の主人との気持ちのすれ違いを萃香ははじめから気づいていたのかもしれない。それを知らせてくれるために自分の本音を吐かせたんだと推察するが、彼女にはそれを知ってか知らずか惚けられてしまう。

 

 

 あとのことは全て二人の主人に任せられる。彼女たちがそうしてくれたように自分も信じて身を委ねよう。もう怖れることは何も無い。ただ自分は自分らしく翼を羽ばたかるのみ。

 

「…待たせたな。お望み通り見せてやるよ。漂泊者の本当の力を!!」

 

 指先を揃えた手に漆黒の霧を纏わせて自身の胸を勢い良く貫き、一度壊されてしまった魂をもう一度握り潰した。

 




蒲公英の花言葉は「真心の愛」「愛の神託」です。
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