東方漂泊録   作:芳養

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今回は戦闘描写のみです。


紅い館⑤

「もうどうにでもなれ!!」

 

 俺は血まみれのうつ伏せ状態から魚雷のように美鈴に向かって頭から突っ込んだ。恥辱心を塗りつぶすためのやぶれかぶれの特攻だ。気分は某ソシャゲのひっぱりハンティング。

 

「見え見えですよ!」

「ぐほぉッ!?」

 

 片足を後ろにずらしたことよって半身だけで体当たりを躱されそこにボディブローがかまされる。横へ飛んでいた勢いはなくなり、無防備な姿で空中に打上げられた。

 隙は逃さないとばかりに浮かび上がった俺の腰に両腕を回してブリッジの状態となって後方へ反り投げた。相手を頭から落とすシャーマンスープレックスだ。ここにきてプロレス技かよ。

 

「ごおっ?!?!」

 

 情報を司る脳が激しいショックで揺さぶられて目の焦点が合わなくなり視界が湯気で包まれたように締まりがなくなった。ぼやける世界のままに腰の拘束を振り解いて急いで床に蔓延する黒霧に身を隠してほふく前進で距離を空ける。

 

「ア゛ッ!?」

 

 霧から頭だけを出したところに両目にすっぽりとナイフが刺し入った。出た瞬間を潰すもぐらたたきを思わせる狙いを済まされた二本の刃。今度ばかりは視野は完全に暗転してしまい背後に頭から倒れた。

 なんとか眼球に刺さったナイフを抜き取り、足元がふらつきながらも立ち上がる。

 

「な……なかなか、やるじゃねえか」

 

 流れ出る血を腕で拭いながら二人に向き直る。

 十を数えるまでもない間で視界は光を取り戻していく。当たり前のように負った傷はすぐさま快癒した。

 

「いい加減この鬱陶しい霧について教えてくれないかしら。傷が治るのは蓬莱人ってわけでもなさそうだし」

 

 咲夜は刃先をこちらに向けて額に青筋を浮かべている。見たところ噓は許さない様子だ。

 ほうらい人というものはわからないがもうここまで自分の力を隠す理由はないので素直に口を開く。

 

「これは………そうだな。『否定する程度の能力』とでも言っておこうか。よくわからねえだろ?俺もよくわからねえ」

 

 右手のひらを下に向けてそこから作り出した霧を垂らしていく。

 

「ただ一つだけ言えることは違うと念じればそれはそうなるらしいぜ。傷も力も、そして存在そのものも」

 

 モクモクと霧を作り出しながら見せびらかすように振り撒く。

 咲夜は半分驚愕、半分納得といった反応だった。

 

「でもあなたの腕を見る限りその力は使いこなせていないようね。そのまま消えるまで時間の問題とみたわ」

 

 俺の薄れていく腕を指してこの力で自滅していくとでも言いたいようだ。彼女が出したその分析は正しい。

 

「やばいのは俺じゃなくてあっちの方だと思うんだが」

「…ちょっと美鈴!?」

 

 腕だけの自分と違って全身が消えかかっている美鈴に指を向ける。息苦しそうに胸を抑えており、その顔色は優れていない。その様子を見た咲夜は慌てて彼女に駆け寄る。

 

「だ、大丈夫です。まだ、いけます」

「美鈴…」

 

 身体が薄れていく彼女はきりりと引き締まった雰囲気で拳を構えた。

 

「それに消えるまでにあいつを倒せば済む話です!」

「ならどっちが先に消えるかチキンレースといこうじゃねえか!」

 

 最後まで戦おうとするその心意気に嬉しさで震え上がってしまう。両手を広げて二人を待ち受ける体勢に入る。

 

「さあ第二ラウンドだ!」

 

 美鈴はすぐさま俺に向かって駆け出して顔面に目掛けて容赦のないパンチを繰り出した。

 俺は静かに迫りくる拳の先端に小指を当てて外側に逸らした。鈍器にも劣らない拳は耳を掠めて顔の横をすり抜けた。

 

「オラァ!!」

 

 拳が空振りガラ空きとなった美鈴の胴体にヤクザキックをお見舞いした。

 

「ぐうっ?!」

 

 もろに喰らった彼女の身体は物凄い勢いで向かい側の壁へ飛ばされて背中から叩きつけられた。

 蹴りを放ち終えた後の隙を突くように何本ものナイフがこちらに飛ばされてくる。

 

「もう見切った!」

 

 全てのナイフの背を手刀で叩き落とし、それを飛ばした張本人へ向かって走り抜ける。咲夜は投擲が破られるとすぐさまナイフを両手に取って接近戦の構えをとった。

 俺は何も臆さずに低姿勢となり肩を突き出して自分の身体をぶつけにいった。

 

「う゛っ?!」

 

 ノーガード故に頬を深く切り裂かれたが見事にタックルは彼女に直撃した。そのまま少しもスピードを落とすことなく身体を押し込んで咲夜の身体を館の壁とサンドウィッチにする。

 月面のようなクレーターができた壁から身体を離すと彼女は体当たりに耐え切れなかったようでその場にへたり込んでしまう。

 

 素早かった咲夜に一撃与えることができていささか気が緩んでしまった。

 背後から近づく美鈴に気付かず、俺の脳天に重力を存分に掛け合わせたかかと落としをかまされた。

 

「ブーーーッッッ?!?!」

 

 真上から降り注いだ烈しい衝撃が身体中を巡り、鼻から途轍もない量の血が一気に飛び出した。そのせいで一瞬であったが思考停止の状態に陥ってしまった。

 それを見逃すほど軟な相手ではない。

 

「さっきのお返しよっ!」

 

 咲夜はすぐさま立ち直り、ナイフを握って胸を斜めに大きく切り裂いてきた。振り落とした一閃だけじゃ終わらずに切り傷を怒涛の如く増やしていく。

 

「ぐおあああぁぁぁ!!!」

 

 深く刻まれていく痛みに思わず叫び声を上げる。咲夜の着ているメイド服は自分の返り血で赤く染まっていくが彼女は全く気にも留めていない。

 ナイフの猛襲を止めるために歯を噛みしめて痛みに耐えながら前腕を力いっぱい上から振りかざした。

 

 それを彼女はスライディングで俺の股下をくぐり抜けて難無く躱した。視界の内から逃さないために後ろへ振り向くとすぐそこにはいまにも掌底を放とうとしている美鈴の姿があった。

 

「what's?!」

「ハアアアァァァ!!」

 

 腹に手の平が叩き込まれると内臓がかき乱されるような感覚に襲われた。今まで受けていた殴打と違って外側からでなく内側に衝撃がかけ巡る。

 

「おぉぉう?!?!」

 

 あまりの衝撃に堪えきることができず全身の筋肉が言うことを聞かなくなり、白目をむいて膝から崩れ落ちる。意識が飛び去り、立っていられる気力が失われた。

 

 しかしただで終わらないのが蒲公英クオリティ。

 

 すぐさま意識を取り戻して前のめりに倒れそうになる勢いをそのまま活かし、でんぐり返しをした。正面に立つ美鈴を前転をしながら迂回し、咲夜に向かって転がった。投じられるナイフを蛇腹の軌跡を辿りながら避け、速度を上げて距離を詰めていく。

 当たる寸前で丸まって転がる俺を咲夜は闘牛士のようにひらりと横へ飛び上がって回避する。

 

「同じことが通用するかよ!」

 

 でんぐり返しのままで九十度にも近いカーブをつゆも速度を落とさずに曲がり切った。床にタイヤ痕を残しながら目にも止まらぬスピードで咲夜を突き飛ばした。

 

「かはっ?!」

「咲夜さん!!」

 

 美鈴の悲鳴にも近い声が響く。

 前転は止まらずに急旋回を始め、次の狙いを美鈴に定めて一直線に突進する。

 

「よくも咲夜さんを…!」

 

 美鈴は回転しすぎて大玉のようになっている自分が迫り来るタイミングで蹴り上げで迎え撃とうとする。

 俺は脚の長さが届かないないギリギリの間合いで前転を急停止させた。

 

「なっ?!」

 

 タイミングをずらされたことによって蹴りは虚しく空振った。

 脚を振り上げて隙だらけになった彼女目掛けて急加速させたでんぐり返しをぶち当てた。まともに喰らった美鈴の身体は勢いよく地面へ傾倒した。

 

 

 

「オロロロロロロロロロロロロ」

 

 あまりに回り過ぎたせいで胃の中が思いっ切りシェイクされて両手を床につけて口から吐しゃ物を広げる。これは魔封波並に自身への反動がなかなかに大きい禁断の技だ。もう二度とやらん。

 ひとしきり吐いた後に起き上がるとボロボロに傷を負った状態の二人が霧を払いながら姿を現した。

 

「あなた…実力を隠していたのね」

「そんなつまらないことはしてないぜ。あんなに何発もバカスコやられてたら慣れてきただけだ」

 

 今の自分は頭の中が冴え渡っており不思議な感覚に囚われている。飛んでくる拳もナイフも全てがスローモーションに見ることができている。集中力が限界を越して時間がゆっくりと感じられるゾーンと呼ばれる状態なのだろうか。

 

「早く続きをやろう」

 

 そんなことはどうでもいい。胸の高鳴りがうるさく響き渡り収まる気配がない。頬を流れる血から伝わる温もりが心地良い。脳は興奮剤の役割をするアドレナリンの分泌を止めてくれない。この苦しくとも熱を持つ時間が愛おしいとすら思えてくる。

 

「どうやらすぐに決着をつけた方がいいみたいですね」

「そうみたいね。私の力はもう使えるようになったからいけるわよ」

 

 二人は何かを示し合わせると鳥のような翼が無いのにも関わらず、その場から徐々に上へ昇っていった。そして到底手が届かない高さにまで位置してこちらを見下ろす。

 

「え、飛べるの?」

 

 まさかの飛行能力に啞然としてしまう。普通の人間であれば飛ぶことなど不可能なことだ。そのことに俺は例外ではない。地に足をつけて接近戦(インファイト)しかできない俺にその事実は物理的に手も足も出ない状況になってしまったことを意味してしまっている。

 

「華符“セラギネラ9”!」

「幻符“殺人ドール”!」

 

 二人はカードを取り出して技名のようなものを宣言した直後、無数のナイフと虹色の光玉が交差する弾幕が降り注いだ。その二種類の弾幕が織り成す光は目が釘付けになってしまうほどの美しさを放っていた。

 

「馬鹿め、そんな豆鉄砲が俺に効くわけがな痛ッデエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」

 

 光弾の一つが額に着弾すると小さな爆発を起こし、燃えるような火傷の痛みを覚える。

 弾幕のシャワーは嵐の中に包みこむかのように自分に降り注いでいく。あまりの物量に腕で身体を庇うことで精一杯となり顔を上げることが敵わない。二本の腕だけじゃ激しい弾幕を受け切ることはできず全身から軋むような嫌な音が出始める。

 

「面白れぇ…やってやろうじゃねえか」

 

 空を飛べないことなんて関係ない。肉弾戦しかできないから戦えないなんてことはない。戦うのには充分な自分に取り巻く憎々しい能力があるじゃないか。

 不可能を否定しろ。覚悟ならとっくにできているはずだ。

 

「いくぜぇ!!!」

 

 飛んでくる弾幕を足場代わりに飛び跳ねて咲夜に近づいていく。研ぎ澄まされた感覚を活かして光弾とナイフの軌道を見極めながら空へ昇る道を切り拓く。降りゆく弾幕にグレイズすることなく被弾していくが足は止めない。

 

「ッ?!」

「タンポポキーック!!」

 

 あっという間に咲夜へ詰め寄って彼方へ蹴り飛ばす。蹴った反動を使って空中のまま我が身を美鈴の方角に向かわす。

 

「テヤァッ!!」

 

 彼女はブオンッと凄まじく空を切る音を出しながら右の拳を放った。それを紙一重で身体を捻って躱して出された腕にタコのように自分の両足を絡みつかせた。

 

「し、しまっーーー」

「口開けてっと舌嚙むぞ」

 

 足を離さないようにがっしりと締め付けながら彼女の飛行能力を打ち消して自分諸共に真っ逆さまに地面へ落ちていく。全身で激しい向かい風の如くに空気抵抗を受け止めながら。

 

「黙ってやられるわけにはいきませんよ!」

「オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ、オ゛ッ!!」

 

 縛られていない反対の拳で俺の脇腹を鈍い音を出しながら何度も殴りつけてきた。胴体から骨盤までが叩き壊されてもおかしくはない威力だ。それでも俺は一切足の力を緩めずに腕の拘束を離さなかった。

 そのまま隕石のように直線へ落下していき地面に着弾すると外の濃い霧と大差ないほどの砂ぼこりを上げる。シャンデリアから落ちた自分にとって若干のデジャヴを感じさせる。

 

 中の様子が見通せないぐらい濃密な砂塵は漸進的に晴れていく。

 そして腰から上をすっぽりと埋まらせて下半身を床からサンゴのように生やしている俺の姿が露わになっていった。着地をミスってしまった。

 

 ちょっとカメラ止めろ。

 




蒲公英「セリフのほとんどが悲鳴の主人公がいるってマジ?情けねえヤツもいたもんだ。親の顔が見てみたいわ」
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