モノクロの旅人達   作:アルカトヌ

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知識の中の天動説

【天動説】

 

太陽を浴びすくすくと育った雑草がある一つの教会を覆い尽くしている。祀られていた神も、祀っていたであろう神父ももういない静かな協会の中で二人の旅人は休憩をしていた。

 

 

「ミリアル。知ってるかい?長い間地球は太陽系の中心だと考えられていたんだ。」

 

 

協会の長椅子の一つに腰を掛けたアリアルはミリアルにそう声をかける。

ミリアルは床の掃除をしながらアリアルの方へと向いた。

 

 

「なんだっけそれ、地動説だっけ?聞いたことはあるよ。それがどうしたの?」

 

「逆だよ。地動説は地球が太陽を中心に動いているという説で、天動説が今回の話で上げた地球が太陽系の中心だという考え方だよ。」

 

「あ、そうなんだ。」

 

 

ミリアルの反応は薄い。アリアルが急に突拍子のない話を始めるのはいつもどおりだし、今回もそんなアリアルのおしゃべりな一面が顔を出しているだけだろう。

 

 

「そうなんだよ。でだ。この天動説は一説によると紀元前………つまり3000~4000年前にはすでにアリストテレスという人物が唱えていたとされるんだ。そしてこれは2000年ほどの間信じられていて、誰一人として疑わない常識だったんだ。」

 

「へ~、でも実際には太陽系の中心は太陽だよね?」

 

「そう!そこにこの話の本質がある。年数が正しいかは置いておいて、実際に千年単位で信じられていたのは事実だし、だれも疑わなかったし、疑った人物は処刑されるなんてこともあった。なんでだと思う?」

 

 

ミリアルはアリアルから質問されて初めてて掃除の手を止め考えた。アリアルの言う話は突拍子もないが、話す理由がないわけではない。わざわざ疑問を飛ばしてきたということはそれなりの回答をアリアルが求めていることを知ってるからこその対応でもあった。

 

 

「う~~ん。やっぱり確認するすべがなかったからとか?あとはそう考えたら都合がよかったとか、そう誤解する何かがあったとかかな。」

 

 

アリアルはその答えを聞いて満足そうにうなずく。どうやらお気に召したよう。

 

 

「さすが私の義妹。大体すべてが答えだし、多分これには決まった答えはない。でも私はこう考える。『人々が考えることを止めたからだ』とね。」

 

「で、結局アリアルはそれを通じて何が言いたいわけなの?」

 

「さぁ?これはただミリアルに知識として入れておいてほしいものだよ。こんなふうになりたくなければ……ね?」

 

 

アリアルはそう言うと長椅子に所狭しと並ぶ十字架を掲げて事切れた無数の死体を指さした。ミリアルはちらりとそれに視線を向けて掃除を再開する。教会には元の静寂が戻った。

アリアルはその様子を見て空を見上げる。

 

 

「まぁ受け売りは嫌いなんだがね。」

 

 

アリアルのつぶやきは空へと消えた。

 

 

 

 

 

・地動説

 

昔の話。立派な都市群が炎にのまれ、逃げまとう人々。そんな地獄のような光景を遠くの山から眺めている二人の人間がいた。

片方はきれいな白髪を乱雑に伸ばた少女。もう一人は不思議な雰囲気を持つ薄桃の髪を持つ少女。

 

 

「あんたは地動説って知っとるか?」

 

「どうしたんだいコトノハ。急にそんな話をして?」

 

 

コトノハと呼ばれた薄桃の髪を持つ少女は遠くの燃盛る都市を目にいれながら話している。隣にいる少女もそうであった。

 

 

「まぁまぁ、最後まで聞きや。地動説ってのは地球が太陽を中心に回ってるっちゅう話やな。」

 

「そうだね。金星かなんかの動きから地球が動いてることを証明したんだっけ?」

 

「そうやな、しかしこの話の本質はそこじゃない。例えば、実は地動説は嘘やねんって言ったらあんたはどうする?」

 

「どうもこうも、コトノハの頭もついにおかしくなったと思うぐらいかな。」

 

 

桃髪の少女からの質問に対して一切の時間差なくそう答えた白髪の少女。桃髪の少女はその回答を聞いてはっはっはと豪快に笑った。

 

 

「ちゅうことは真面目に捉えへんわけやな?」

 

「まぁ、私は知識として地球が動いていることを知っているからね。」

 

「それはどうやってや?実際に見たんか?」

 

 

白髪の少女は予想外の返しをされて困惑する。地球が動いているのを知識で知っているが、この少女は無傷で宇宙空間に出て地球が動いている様子を実際に見たわけでもなければそんなことを考えたこともなかっただろう。

 

 

「いや、まぁ見てないけどさ…?文献にもそう書いてあるだろう?」

 

「甘いな。それを思考停止っちゅうねん。バカ正直に自分より賢いやつの言うことを信じる。これがあかん」

 

「常に情報を疑え。常に人を疑え。自分の中で吟味しろ。自分が愚者だと思うなら愚者なりに頭を回せ。そういうこと。」

 

 

話を聞いた白髪の少女は少し目をつむって考える。そして少しした後薄く微笑んだ。

 

 

「面白い考え方だね。」

 

「まぁ、うちの人生観よ。ほんまに。」

 

「まぁ心にとどめておこうかな。」

 

「そうしとき。年長者の言葉を甘く見たらあかんで!」

 

 

町の炎はより一層燃盛り、たくさんの命を奪っている。そんな地獄を高みの見物する言葉の奴隷と旅人となる少女の昔の話。

 




アリアル’s Memo [鉗の天使の地動説]
教会の中には無数の遺体が座っていたよ。神に祈りをささげるかのように天を仰ぎ十字架を握りしめていたんだ。

今まっでの安寧が壊されて、人が普通ではいられなくなったときに人が頼るものは超常的な存在なのかもしれないね。かくゆう私もそんなことになったことがあるし。

いつも通りの穏やかな旅のはざまにはいろいろな過去の残骸が残っている。まぁ、ちょっとぐらい覗いて行っても問題ないさ。
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