モノクロの旅人達   作:アルカトヌ

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※死人に口はありませんしタイトルに意味はありません


業な右翼と狂言

 

「いやー、ゆっくりできるところがあってよかったよ。」

 

「ホントだね。持ち主の方にはちょっと申し訳ないけど……」

 

 

そういったミリアルの目線の先には椅子の上で眠るように事切れた初老の男性の姿があった。

 

 

「すでに事切れている人物は文句を言わないからね。死人に口無しだよ。」

 

 

アリアルが外を見るとあたりには森の木で狭められた月光だけが僅かにてらす暗闇だけが広がっていた。

 

 

 

「この人は元々旅人だったのかな?」

 

 

ミリアルはその辺に落ちていた地図のようなものを広げながらアリアルに聞く。

アリアルはアリアルで遺体をどけてその下にあった残された手記のようなものを読み漁っていた。

 

 

「そうみたいだね。この人はどうやらユートピア目指して旅を続けていたみたいだよ。ミリアルも読むかい?」

 

 

「読みたい読みたい。私以外の旅人の人に合うことあんまりないからどんな感じなのか気になるし。」

 

「あー……うん。この人を一般の旅人と当てはめるのは語弊があるかな…。」

 

「どういうこと?」

 

「まぁまぁ、読んでみなよ」

 

 

疑問は残るもののアリアルに促されミリアルはその手記を開いた。

 

 

ーーーーーーー

862日目

ところどころ日記を書き忘れているからか正確な日数を覚えていない。今は前と同じ小屋に引きこもっている。やはり神なんてくそくらえだ

 

桃源郷もユートピアも天竺も所詮は人間の作り話に過ぎないのか。

神秘はびこる今だからこそ、出現して然るべきだっただろう!!!

 

クソが。体が動かない。腕の左はもう動かせなくなってしまった。神に祈ってやったにも関わらず理想の地へ導かぬ神への永遠の恨みを込めて私は死ぬのだろう。

覚えておけ。私神へと必ず報いをうけさ

ーーーーーーー

 

 

ミリアルはそこまで読むと顔を上げた。

 

 

「日記ここで途絶えてるね。」

 

アリアルはどこからか取り出したインスタントコーヒーを飲みながらミリアルの方を見る

 

「そうだねぇ。きっとこれを書いている途中に彼は死んだんだろうね。」

 

「うん。それよりそのインスタントコーヒーどこから出したの?」

 

「そこの戸棚に入ってたよ」

 

「私にもちょーだい」

 

「ん。」

 

ミリアルはアリアルにコーヒーを頼むと次のページをめくった。

 

ーーーーーーー

853日目

最近体の調子がおかしい為、無事だった山小屋に拠点を置くこととした。

身体中が痛いが泣き言を言ってられない。

わざわざ退屈な地下から飛び出して理想郷を、ユートピアを、私にとっての桃源郷を探しに来たというのにここであきらめるという選択はないんだ。

 

あぁ、神よ。私はいつでもあなたのことを信心しております。どうか私に理想郷への導きをお与えください…。

 

 

 

851日

最近体の調子がおかしい。

左手がまともに上がらなくなった。四十肩かとも思ったが無理やりあげようとすると腕が避けるかのような激痛が走る。

 

食べ物も食べられないことが多くなった。

最近はコーヒーや果汁で済ませてしまっている。物を食べようとすると吐き気が止まらなくなる。

 

どこかゆっくりできるところで休んだほうがいい気がする。

あぁ……神よ。私にあなたのご加護を……。

 

ーーーーーーー

 

 

そこまで読んだところでアリアルがコーヒーを持ってくる。ミリアルはそれを受けとりアリアルに質問をする。

 

 

「なんか……人変わった?10日ぐらいしか日付変わってないけどこんなに変わる……?」

 

 

アリアルはゆっくりとコーヒーを味わってから質問に答える

 

 

「人間は死に際に本性が出るって言うしねぇ。そんなこともあるんじゃないかな。」

 

 

「あと、その辺は何も進まないからもっと前から読んだほうがいいと思うよ」

 

「わかった。ありがと」

 

ーーーーーーー

 

363日

やはりあのような限界集落に住む下民は神にあだなす者だった。

 

私は神への供物として作物の要求をしただけなのにもかかわらずあのガキどもと女は自分たちの我が身恋しさにその要求を拒否した。

だから私が天罰を下してやった。女は原型もなくなるほど切り刻み、子供の首は晒してやった。

 

すると神にあだなす愚か者は私に危害を加えようと襲いかかってきた。

しかし、老衰した下民共は今私の目の前で聖なる炎のもとに天へと登っている。

 

やはり神託を受けた私こそが正義だったのだ。

拠点にできなかったのは残念だが食料庫に溜め込んでいた薄汚い食物のおかげで当分飢えることはない。

このような汚れた者たちの食物を捧げるなど神に失礼に当たるため私が責任を持とうではないか。神よ!私はまた一つ善行を積みました!

 

 

362日

生き残りの集落を見つけた。

かなりの人数と物資があるがほとんどがヨボヨボの老人だ。女は数人、その中でも若いやつは二人ほど。子供に関しては3人しかいない。

いわゆる限界集落だ。

 

無償で物資はもらえたがここは私の求めた桃源郷ではない。

 

場合によっては奪うのもありだろう。

神の名において私は行動するだけだ。

 

ーーーーーーー

 

 

ミリアルはその内容に嫌悪感を覚え反射的にその手記を投げ捨てた。手記は埃を舞わせながら床を転がっていく。

 

ミリアルはそれを気に求めずに死体の方へと大股に歩き拳を振り上げたが、そこでアリアルがそれを片手で止めた。

 

 

「とめないで!一発殴らないと気がすまない!!!」

 

「落ち着け。どうせもう死んでいるんだから放置すればいいだけの話だろう?」

 

「……………ごめん」

 

 

ミリアルは大きく息を吸いホコリを吸ってしまったのか激しく咳き込んでから大人しく席についた。

アリアルはミリアルが落ち着いたのを確認してから尋ねる。

 

 

「それで?予想してたとはいえあそこまで冷静さを失うなんて珍しいじゃないか。どこを読んだんだい?」

 

「……集落で子供と女の人を晒し首にして老人達を燃やし殺したってところ。」

 

「あーあそこか。まだマシだね」

 

 

その言葉を聞くとミリアルは驚きのあまり目を見開いてアリアルに聞き返す。

 

 

「あれでもまだマシなの…?」

 

「あれにはもっと酷いことがたくさん乗ってたよ。大都市になりそうだった集落一つをたった一つの嘘で崩壊させたり、人間を生贄だと言って躊躇無く殺害したり。」

 

 

 

 

「この人は何がしたかったの?桃源郷とか、ユートピアとか……居場所を探してたんだとしても自分から居場所を壊してるようにしか見えなかった……」

 

 

アリアルは少しだけ死骸となった彼に視線を向けたあと疑問に答えた。

 

 

「彼はどうやら下の住民だったみたいでね。太陽の光すら浴びれないし監視はきついしで彼にとってはストレスが溜まっていったみたいだ。だから彼は自分が満足できるような理想郷を探すたびに出た。」

 

「………たしかに理解できなくはないけど、その考え自体が贅沢だよね」

 

「それには同意する。第一、彼は最初神なんて信じていなかったんだよ。」

 

「……は?」

 

「神を信じ始めたのはどこかで廃墟となった神殿を見つけたときだって書いてあった。そこにある神の記述を見て信仰があれば誰でも願いを叶えてくれるんだと思ったみたいだよ」

 

「……」

 

 

ミリアルが黙ったのを見て席を立つ。インスタントコーヒーはお互いに飲み終わっており、外が暗い事以外を除けばそとへ出る準備は整っていた。

 

 

「とりあえずどうする?ミリアルが“それ”を無理だって言うならここを離れるのもやぶさかじゃないけど。流石の私も気分が悪いしね」

 

 

それを聞いたミリアルは以外の方を睨みつけながら思考する。アリアルが早めに出ていこうとしたときミリアルは自分の意志を口に出した。

 

 

「アリアル。……土に埋めるのだけはしてここから出よう。」

 

「“それ”を?」

 

「うん。」

 

 

アリアルは心底不思議そうにミリアルのことを見る。

 

 

「さっきの話聞いてただろう?それは救いようのない屑だよ?」

 

「それでも。死体を放置するってことは生命を適当に扱うってことだから。私はこんな人と同じようなことしたくない。」

 

 

アリアルは反論しようとも思ったがミリアルの真剣な目を見ると肩をすくめて言った。

 

 

「やれやれ。そう言うなら手伝うよ。」

 

 

 

 

 




ミリアル'sMemo[強欲な桃源郷]
桃源郷:本来は俗界を離れた他界・仙境のことを指し「武陵桃源」との別名があるらしい。
中国という国でできた書物からくる単語で意味としてはユートピアとか理想郷とおんなじ意味。

手記:思い出すだけで吐き気がしてくる。あの手記は遺体と一緒に土の中に埋めた。残しとくべきかとも考えたけれど私はあんな記録が残っていることが耐えられなかった。
……私もあんな奴と一緒なのだろうかと不安になる。

神:誰が考えるかによって変わる定義。誰かにとっては無差別に自愛を振りまくものであり、誰かにとっては都合のいい存在であり、誰かにとってはなにかの邪魔となるもの。私達にとって神は何なのだろうか。


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