崩れ去って、もはや文明のかけらも見えない都市の跡地で、倒れた並木の一つに腰を掛け、座る黒い旅人と何かを白い鳩に託し飛ばした白い旅人の姿が見えた。
黒い旅人、ミリアルはアリアルが鳩を通して手紙のやり取りをしてるのを知っていたが、何を誰とやり取りしてるのかは知らず、気になったアリアルは聞いてみることにした。
「ねぇねぇ、アリアルって偶に誰かとやり取りしてるみたいだけどさ、誰とやり取りしてるの?」
遠くに飛んでいく鳩を見送るかのように視線を向けていたアリアルはミリアルからの質問を聞いてそちらに意識を向けた。
「ん?あぁ………。この世界で生きてる私の知り合い?みたいなものさ。さっきのはコトノハに当てた文書だね」
「コトノハさん?会ったりしにいかないの?」
「最近はあんまりだね。ほとんど旅で時間を使っていたから。旅の記録とかを雑にまとめて送りつけているんだ」
アリアルはこともなげにいうが、ミリアルはアリアルの知り合いという存在に興味津々だ。
「ねぇねぇ、アリアル?その、コトノハさんとかに私も会ってみたいんだけど……。」
「んー、ならコトノハに聞いてみようかな。たぶんアイツなら快く会ってくれると思うよ。というか、定住してるのはあいつぐらいだしね」
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数日後、アリアルの案内でミリアルはコトノハと合うことになった。
目的の場所へ行くとそこは山の中のこじんまりとした小屋のようで、和の空気を醸し出していた。
アリアルがその家に向かって大きく声をかける
「おーい!久しぶりだねコトノハ。元気してるかい?」
その声に反応したのか小屋の中から二人の女性が出てきた。容姿は瓜二つで、片方が赤髪を後ろでまとめた女性。その後ろから青髪を乱雑に伸ばした女性の姿が見える。
「おぉ!久しぶりやなアリアル!何年ぶりぐらいやろか。」
「お久し振りですアリアルさん。妹の葵です。あっちは姉の茜。その子が私たちに会いたいと言っていた子ですか?」
「そうそう。私の義妹のミリアル。」
朗らかに笑う赤髪の女性は茜。その後ろから来ていた青髪の女性は葵といい、姉妹だという。
急に話を振られたミリアルは緊張しながら二人へ挨拶をする。
「は、はじめましてコトノハさん。いつも姉がお世話になっています……。」
ミリアルがそう挨拶すると、茜はおかしそうに笑って答えた。
「あぁ、気にせんでええ、気にせんでええ。そいつの放浪癖とか今に始まったことじゃないからな」
「そうです。アリアルさんの旅好きは昔からずっとなんですから。多分猫かなんかの生まれ変わりなんですよ。」
「ひどい言いようじゃないか…。流石の言い草にアリアルさんは涙が止まらなくなってしまうよ?」
「はいはい、わかったから。ずっと外なのも変やし上がっていき。ごっつ美味いもん集めといてるから。葵の料理は美味しいから期待しててええで。」
「腕によりをかけて作ったので。お二人もぜひ召し上がっていってください。」
茜と葵とアリアルの自然な会話の流れにミリアルはこの人たちは本当にアリアルと仲がいいんだなぁ……と少しズレた感銘を受けていた
「ありがとうございます。上がらせていただきますね。」
「ふぅ……申し訳ないね。ありがとう葵。」
「なぁなぁ、アリアル?うちに感謝は?」
「茜だしいらないでしょ」
「アリアルゥ!!!」
コトノハの家の前でくだらない話をしながら、四人は中へと入っていった。
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茜と葵が次々と料理をおいていき、コトノハ宅はまるでパーティー会場かと思うほどに豪華になっていった。
アリアルが料理に舌鼓を打つ中ミリアルは気になっていたことを茜と葵に聞いてみることにした。
「そういえば、義姉からお二人は語り部だと聞いたんですが、語り部って一体何なんです?」
「あれ、アリアルから聞いてないんか?」
茜はアリアルに話を振る。アリアルは口に含んでいた唐揚げを飲み込んで答えた。
「まぁね。私が話をするよりも直接聞いたほうがわかりやすいだろう?」
「んー、うちは説明ベタやからなぁ……葵?」
茜は節米に少し悩んだ後に、妹に丸投げにすることにした。料理の片付けをしていた葵は片付けを茜に任せ、説明をすることにする。
「はいはい、わかったよおねーちゃん。これ運んどいて?」
「はいはい。」
「じゃあ、ミリアルさん。姉に変わって私が説明しますね?」
「あ、はい。……お願いします。」
「と言っても、実は語り部っていうのは基本的にナーンもしません。」
説明をするといったあとの一言目から衝撃の事実を聞かされ驚くミリアル。
「え?そうなんですか?」
思っていたより良い反応をするミリアルに、葵は少しだけ笑って、理由を説明した。
「えぇ、そうなんです。ほんとに何もしてないですよ。理由もしっかりあって、基本的に私達が何かをするのは生きている人に対してだからなんですよね。」
「というと…?」
「私達はコトノハ。名は体を表すといいますしそれはミリアルさん達が一番わかると思うんですが、私達は“言葉”なんです。未来を生きている人たちに今を伝える。または、今を生きてる人たちに過去を伝えます。」
葵が説明してもミリアルの頭の中にははてなマークが回っていた。その様子を見て難しく説明しすぎたと葵は苦笑いをする。
「ごめんなさい、ちょっと分かりづらかったですかね。簡単に言うと生きる博物館みたいな感じです。この前お二人で博物館の残骸へ行ったのでしょう?」
ミリアルは首を降る。いつも以上に真剣に話を聞くミリアルを見ていたアリアルは何が面白かったのか笑っていた。
「博物館は実際のモノで視覚的に歴史を説明しますが、私達は言葉を紡いで相手の人に対して歴史を聴覚的に説明するんです。」
葵の説明に、アリアルと片付けを終えた茜が補足を加える。
「この前言っただろう?歴史がないと同じ過ちを繰り返すって。茜と葵がいないと私達は過去をしれなくなってしまうかもしれないからね。必要なんだよ、コトノハは。」
「そーゆーこっちゃ。人がおらんと仕事にならんからなぁ………あんまりすることはなくても一応必要な存在と言われたら、ここにおるしかないからな。」
「まぁ、そんな感じです。伝わりましたかね……?」
「なんとなく。本人から直接聞いてなんだか勉強になりました。」
「それなら良かったです。」
先ほどとは違いしっかり伝わった様子のミリアルを見て葵は笑顔を浮かべた。
その後もたくさんの話をしていって、言の葉の二人と白黒の二人の夜は更けていった。
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満月が輝き、明るい夜にコトノハ宅から出ていこうとするアリアルたちとそれを送る茜たちの姿がみえた。
「それじゃあ、私達は満月が出てるうちにお暇することにするよ。久しぶりに会えてよかった。」
「食事とお話ありがとうございます。」
「いえいえ、また来てくださいね。」
そう葵が返す中茜は対象的に不貞腐れたかのような態度で言った。
「あーあ、せっかくなら止まってけばええんに。」
「無理だよおねーちゃん、アリアルさんは放浪癖のある変人なんだから家に居ようとすると体が爆発しちゃう。」
葵は茜に対してフォローをしながらしれっとアリアルのことを馬鹿にした。
「いや、流石にそんなことはないからね?」
「いや、アリアルならありえるでしょ。」
「ミリアル???」
アリアルは思わぬところからの追撃に驚く。
ミリアルは別に日頃の恨みが溜まっていたわけではない。たぶん。
そんな様子を見ていた姉は大笑いをしてあリアルに声をかける。
「ハッハッハ!!おもろいなぁあんたの妹。二人の名も良さそうやし………あんたに預けても大丈夫そうや。」
「それなら良かったよ。私も“琴葉”ってのはいい字だと思うよ。」
アリアルがそう返すと茜は嬉しそうに頬を緩めた。
「そう言ってくれてよかったわ。葵と一緒に結構考えたんやで?」
二人でそんな話をしていると葵から声がかかる。そろそろ別れのときが来たみたいだ。空を見ると満月は雲の後ろに隠れようとしていた。
「ほな、またなお二人さん!」
「またいつでも来てください。お二人の旅路の無事を祈ってます。」
「ああ、またね茜、葵。」
「ほんとにありがとーございました!!」
こうして二人の旅人と二人の語り部の楽しい晩餐は終わりを告げた。二人の旅人と語り部は互いに姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
二人の旅人と語り部の姉妹が対面したこの日。語り部の語る話には旅人達とのくだらない雑談がその日から追加され、旅人たちには友好関係と少しの物資が追加された。
ミリアル'sMemo[丹青の語り部]
手紙:30日に一度ぐらいのペースでアリアルが書いているもの。中を見たことはない。今回の茜さん、葵さん以外にも数人手紙をおくってる人がいるらしい。
伝書鳩っていうので相手に届くらしい。
琴葉茜さん:赤い髪をした女性。少し変わったイントネーションで話していておおらかな性格だったように思えた。アリアルの知り合いであるコトノハさんの一人。語り部をしていて葵さんのおねーさんらしい。
茜さんが基本的に人に話をするらしいけれど、最近は野蛮な人が多くて困っているらしい。コトノハ宅には武器なんかが少ないと言っていた。いくつか武器をあげたのでぜひ有効活用してほしい。
…………姉が妹を守ろうとするのはどこの世界でも変わんないみたいだ。
琴葉葵さん:青い髪をした女性。しっかりものな雰囲気をしていて、丁寧な方だった。茜さんと同じ語り部で茜さんの妹。実は怖いのが苦手だと茜さんが言っていた。
葵さんの茜さん呼び方は私達の前では“姉”だったけど、茜さん相手だと茜さんのことをおねーちゃんとよんでいてびっくりした。今度アリアルにもやってみようかな………