ボロボロで掘っ立て小屋のようなものが並んだ集落。
元の住民が一人いなくなった集落に二人分の影があった。
「一つ言えることは白色の子猫は何も悪くなかった。もうなにもかも黒色の子猫のせいだったのである。」
歌うようにとある小説の一説を読み上げる、白髪の少女。その足元には血を流している男の死体があり、少女の手にはその男の命を散らしたのであろうナイフがにぎられていた。
その近くには顔色を悪くした黒髪の少女がおり、白髪の少女に殺された男の死体に視線が向けられている。
黒髪の少女が白髪の少女に抱いたのは恐怖なのだろうか?いや違う。
「急に…何の話?」
黒髪の少女ミリアルがアリアルに抱いた感情は彼女が人を殺したことに対する恐怖よりも彼女がつぶやいた小説の一説に対する疑問の方だった。
「いや?これを見て思い出しただけだよ。たしか題名は鏡の国のアリス。今度読んでみるといいさ。」
「そんなこと……言えるような精神状態なのがうらやましいかな…」
「ミリアルはまだ慣れないかい?結構やってる気がするけど」
ミリアルの方は人を殺したとは思えないほど陽気に返し、ミリアルの方も少し顔色が悪いながらも普通に返す。
彼女らの足元で男の命が潰えているとは思えないほどそこは平和だった。
「まぁ、とりあえずこれの処分をしなければいけないね」
「ミリアルは……だめか。」
ミリアルに死体の処理を手伝ってもらおうと声をかけるが、ミリアルの顔色は悪いまんまでとても手伝えそうな状態ではない。
「私たちを殺そうとしてきたやばいやつなのはわかってるんだけど、さすがに……ね?」
「まぁ、これに関してはあんまりなれない方がいいと思うよ。ただ悪人に対して躊躇するようならダメだけどさ。」
そんな話をしながらアリアルはその死体を集落にある家へと投げる。
その家には、たくさんの死体の山が積んであった。
「しかし、いったいこの家は何なんだろうねぇ。」
「さぁ…?お墓変わり……とかだったんじゃない?」
少し顔色の良くなったミリアルが死体が大量に置かれた家を見てそうこぼす。アリアルは少し険しい顔で大量の死体を観察していた。
「うーん。それはそうなんだろうけど、お墓って言うよりかはどっちかというと死体置き場の方がしっくりくるかな。弔う気持ちが感じられない」
「それはそうかも……。」
「それにだ。死体の方も絞めた跡が残ってたり、やけど跡があったり。違和感が多いね。明らか自然死じゃない。」
「うん。ひどいときは足から頭まで真っ黒だったりしたから…」
アリアルはしたいまみれの部屋から視線を外すと廃墟になりかけている集落を見まわして言った。
「せっかくだし少し探索してみるのもいいかもね。」
探索を初めて数分後、アリアルが何一つまともな食糧が見つからなかったことに落胆しながら集合場所に行くと、難しい顔をしたミリアルがとある紙を持ちながら待っていた。
「なんかみつけたかい?こっちはまともな食糧はなーんにも見つからなかったよ。」
「まぁ、一応みつけはしたよ。アリアル。」
「何があったんだい?」
「これかな。」
ミリアルが持ってきたのはA5サイズの大き目の古びた紙。その紙には中央上段に簡素な文字で"生贄"と書かれており、その下には横線がひかれた人の名前が50人分近く書かれていた。しかし最後の一人と思われる人物の名前にのみ横線はひかれていなかった。
「まぁ、予想はできてたね」
「うん。そうだね。」
「まぁ、めずらしい話じゃあない。食料がつき始めて、どうにもならなくなって、地下にも逃げられずに食いぶちを減らすため集落の住民を殺して最後の一人が生き残ってた。その程度の話だろうね。まぁもういないけどさ。」
ミリアルは何でもないように事実をミリアルに告げる。ミリアルは少しかなしそうな瞳でその紙を見つめていた。
「でも……なんだかやるせないね。」
「どうせ私たちでは救えなかっただろうさ。」
「そうだね…。」
「ほら、いこうミリアル」
アリアルは少し強引にミリアルをそこから離す。
ミリアルはアリアルにひかれるがままにそこから離れた。
「ねぇアリアル。血なまぐさい。」
「うっ…痛いとこをつくね。服を洗わなくちゃいけないな。」
旅人二人は壊滅した集落を背に森の中へと目を見据え、去っていった。
ミリアル'sMemo [ある集落の末路]
■■■■:私たちを襲ってきた男の人の名前と思われるもの。襲われたし、そのまま襲われて殺されてもよかったなんて口が裂けても言えないが、彼が生きた証拠がここにあってもいいかな。なんてくだらないことを思ってしまった。
アリアルの服:本人曰くオーダーメイド。どこにどう頼むというのか。今回汚れてしまったから近くにあった川で割と乱雑に洗った。なんでかぬれたとこがすぐに乾いたのでよくわからない品物の一つなんだろう。
集落:あそこは気味が悪い。死体とかじゃなくて雰囲気が。何なのかはわからないけど。死んだ人を見た時と同じ感覚がした。
一つ言えることは~せいだったのである:鏡の国のアリスという本の一文。初めの話で毛玉にいたづらしていた子猫の話が急に始まる。きっと彼が悪いのではない。彼にああさせる何かがいけないのだろう。きっとそうだよね?アリアル。