ウマ娘―――それは神秘的な種族。
ウマ娘―――それは走るために生まれてきた。
純で可愛らしい彼女たちが集うトレセン学園に響き渡る発砲!爆発!ハリセン音!
波乱と波乱を掛け合わせた学園に一人の戦争バカが現れる。

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始まるメイク・ア・デビュー

 

 

 

 

「トレセン学園…って、あのトレセン、ですか?」

 

 

 

東京都調布市泉川にある都立陣代高校。

その生徒会室において呆気に取られたような声が響き渡っていた。

ポカンとした表情でそんな言葉を発した少女―――千鳥かなめの問いかけにピシャリと良い音を立てて扇子を閉じた切れ長の瞳を持つ青年、生徒会長である林水敦信はその返答した。

 

「私の知るトレセン学園と千鳥君の知るトレセン学園が同一であるならば、その通りだね」

 

林水が扇子を広げると、そこには”肯定”と達筆な文字が書き込まれている。

かなめは、「さっきまで何も書いてなかったし持ち替えたようにも見えないのに…」と口元を引きつらせながら呟きを漏らし、しかし何時もの事だとも思い直して言葉を続けた。

 

「確か、隣の府中市にある学校ですよね…その、ウマ娘レースの」

「その通り。実はあそこの理事長から交流のための生徒交換を打診されていてね、君たち二人……千鳥君と相良君に声を掛けさせて貰ったのだよ」

「なんでまた…あのですね、会長?他の面々ならともかく―――女子高に、しかもコイツを送るって考えを思いつくんです!?」

 

かなめが思わず隣を見て、冷静に問い詰めようとしたが最後は隣に居る青年を指さして語尾を荒げていた。

指差された青年―――相良宗介はきりりと引き締められた顔と”休め”の姿勢で微動だにせずに二人の会話を聞く事に徹していたが、かなめの反応に合わせて挙手をしていた。

 

「閣下、発言の許可を」

「うむ、何かな」

「千鳥が言っていましたが、ウマ娘”レース”とは何でありますか」

「おや、相良君はウマ娘レースは見たことが無いのかな?」

 

「肯定であります」とまた口元をへの字に戻す宗介。

かなめは変なものを見るような目で宗介を見る。

 

「アンタ、ウマ娘知らないの?」

「いや、ウマ娘という種族は良く知っている。昔世話になった事もある」

「そうなの!?」

「ほう…込み入った話で無ければ聞かせて貰っても?」

「はっ…といっても、昔世話になりました遊牧民がウマ娘たちで構成されていた、というだけの話なのですが」

 

何処か遠くを見つめる宗介。

「あれは6、7年前…所属していた部隊から落伍し砂漠を彷徨っていた時―――」と、話が長くなることを直感したかなめが「あーはいはい後で聞くから」と遮る。

林水はウマ娘を知っているのならば話は早いと、かなめに視線を向ける。

それにかなめは促すように一歩下がったところで、林水は口を開いていた。

 

「ウマ娘たちが本能的に走る事を好む、という事は知っているかな?」

「肯定であります」

「ならば結構。我が国を始め、世界各国ではそんな走る事が大好きなウマ娘による徒競走競技…すなわちレースが盛んである訳だが、そのレースに参加するウマ娘とて最初から”速く”走れる訳ではない」

 

府中・日本ウマ娘トレーニングセンター学園。

通称”トレセン学園”とはそんなウマ娘たちを速く走らせるために教育、トレーニングを施すための学校であると伝えれば宗介は「成程」と神妙な面持ちで頷いていた。

 

「つまり、半人前を一人前の兵士……いや、レーサーへと育て上げるブートキャンプ施設であるわけですね」

「その認識で大よそ間違ってはいないかな」

「……あれ?なんかアンタ、妙に考え方が柔らかくない?」

 

かなめが”兵士”から”レーサー”と言い換えた宗介にキョトンとする。

かなめの知る相良宗介という男は判断基準をアフガンでラ○ボーによって破壊されたような、壊滅的な”日常的常識非常識者”である。

その宗介が例えに兵士的なニュアンスを使い、思い返したように”レーサー”と言い換えた事は少々驚きを禁じ得ないものであった。

 

「千鳥、俺はウマ娘という生態を良く熟知している。彼女たちが争いに向かない、走ることに向いた精神性である事をな」

「あー……それはさっき遮った昔世話になったーって経験から?」

「それもある」

「ウマ娘ってみーんな優しいというか、そんなのばっかりって聞くけど、アンタなら正直ウマ娘のパワーとか見て兵士に向いてる~とか言いそうなもんなんだけどね…」

「確かにウマ娘のフィジカルだけであれば訓練すれば世界最強の兵士が生まれるだろう……だが、こんな話がある」

 

そう、宗介は重々しく口を開いた。

 

 

ある時、愛国心豊かなウマ娘が軍の門を叩き、軍隊へ入隊した。

厳しい訓練を耐え、見事に一人前の兵士として部隊へと配属された彼女だったが、彼女の所属した部隊が次々と壊滅する事態が発生したのだ。

それは、彼女―――全てのウマ娘に言えることだが、非常に見目麗しい彼女へとアピールを狙った兵士による無茶無謀によるもので発生した事件であった。

 

 

ちなみにイタリア軍での話である。

 

 

「男ってバカしかいないの……」

「そもそもだが、ウマ娘は民族的に長距離行軍などの人間のような持久力が欠ける節がある。俺が世話になったアラブ種族は山岳兵としてでも活躍できるだけのモノがあるウマ娘だったが―――」

 

そうしてサラブレッド族とアラブ族などのウマ娘的人種の違いを話し出す宗介であるが、話を総合すれば簡単に終わっていた。

他者を傷つける事を好まず、長距離の行軍に耐えれず、多量の糧食を必要とするなどウマ娘は兵装や通信などの技術の発展した現代の戦場には適さない。

それ故、宗介はウマ娘は”走る種族”という認識だからレーサーと表現した、と締めくくっていた。

 

「こ、こいつ……ウマ娘は戦う種族じゃないからって兵隊目線の危険性を感じてないからこんな感じなの…?!」

「肯定だ」

「なら現代、それも日本でアンタが妄想でやらかす下駄箱爆破とかラブレター爆破だって危険なんて感じないでしょーが!!」

「それは違うぞ千鳥、これも俺が中東で経験した事だが――」

 

宗介のそんな言い分は、宗介の頭へと振り下ろされる鋭いハリセンの音と共に遮られてることとなった。

 

「痛いぞ」

「やかましいっ!」

「ははは…だが、ウマ娘に対して相良君の”騒動”は発生しにくいという事はこれで分かっただろう?」

「会長、今からでも考え直してくれませんか!?こんな戦争バカをあの花園に送り込んだら少女漫画が一気にB級映画みたいになりますよ!?」

「千鳥、俺は無差別の爆破と片手で構えたLMGの乱射で悪人を倒すような筋肉ムキムキのマッチョマンではない。少ない弾薬で確実に脅威を排除するプロフェッショナルだ」

「黙ってなさい!」

 

かなめと宗介の何時ものやりとりを微笑みと共に見守っていた林水は「いいかな?」と言葉を挟む。

タイミングを見計らって差し込まれた言葉は二人のやり取りを止めるだけのものがあり、二人して林水へと向き直る。

 

「今回の件だが、先ず試験的に行われるということで派遣されるのは生徒会関係者という事が向こうの生徒会長と協議済みでね」

「で、でもそれならまだ他のメンバーも居るじゃないですか」

 

かなめが抗うように言うが、それもまた微笑みと共に返され、林水の視線は宗介に向く。

 

「……あまり言いたくないが、相良君。君は少々出席日数が危ういんじゃないかな」

「……はっ」

 

短い肯定。しかし宗介の顔にはじわりと汗が浮かんでいた。

宗介は軍事オタクのただの高校生ではない。文字通りのプロフェッショナルとして活動する現役の傭兵である。

そんな傭兵である彼が何故日本の高校に通っているかは大よそ小説23巻分ほどの説明が必要になるが、つまるところ彼は傭兵としての任務による授業の欠席がこのところ重なっていた。

そして、宗介は幼少期の事情により学業―――特に古文といった戦場の知識の応用が全く効かないものに対する成績もよろしくは無い。

 

「今回の交流はその助けになるものと私は考えているよ」

「……千鳥」

「~~~あ――――っ、もう…!分かりました、分かりましたよ!!」

 

捨てられた子犬―――なおドーベルマン―――のような視線を向けられたかなめは頭を掻き毟ると大きなため息をつき、にやりと笑う林水の提案を呑まざるを得ないのであった。

 

 

 

 

 

後日、トレセン学園へ初めて来訪した際、来客用の下駄箱を開けた瞬間に膨れ上がり破裂した色つきペイント液入りの水風船爆弾を食らったかなめと宗介。

宗介は水風船の破片に書かれた”564”の文字を「ふむ」と見やり、ゆっくりと頷いた。

 

「やはり俺が下駄箱を爆破するのは間違っていないようだったな」

「は、はは、は……」

 

”軍人スイッチ”が入った宗介に、かなめはこれからトレセン学園に巻き起こる波乱の予感を消し去ることが出来ず、引きつった笑いしか出せなかった。

 

 

 

 




仕事環境が変わってのリハビリ書き。
全人類フルメタ読め。

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