「ララちぃ〜」
ある日の体育終わり、里紗が声をかける。
なんでもスタイル維持の秘訣を聞きたいという。
「うーん、あんまり気にしたことないなぁ」
『ララ様のスタイルはお母様ゆずりですからね』
「まぁララちぃの場合、栄養が全部ここに集中してるもんなー」
「きゃっ、やだ、くすぐったいよぉ〜!」
いつものように里紗はララの胸を揉みしだく。
「それにこのか細いウエスト!はちきれんばかりのヒップ!」
リトの前で。
「やっぱ男としてはララちぃくらいのスタイルがたまらないでしょ結城ィ〜」
「いっ、いきなり俺にふるな!」
里紗にからかわれるリトを見ながら、春菜は思う。
「私もララさんくらいスタイルがよかったら......」
「───なんて考えてんじゃないの?春菜ちゃん」
「ひゃ!?」
猿山が急に話しかけたことで、春菜は可愛らしい悲鳴を上げた。
「さ、猿山くん」
「あのねぇ、問題はそこじゃないのよ」
「も、問題?」
「大事なのはバランス!ただボンキュッボンなら良いというわけではないんだわ」
「ほぉ〜?言うじゃん猿山ぁ。アンタはえっちなら誰でも良いんじゃないの?」
「とりあえず一考の余地ありでやんすな」
「おいっ!」
「へぶっ!」
先程「大事なのは中身」と言葉を放っていたリトに頭を叩かれる。
「なにハレンチな会話をしてるのあなた達!」
「あ、唯」
「全く、風紀を乱すような行動はつつしんで欲しいわ!」
里紗は構わず、唯の身体に手を伸ばす。
「とか言ってェ、実はけっこうハレンチな身体してるくせにィ」
突然胸を揉まれたことと、それを見てしまったことで唯とリトは真っ赤になった。
「いいかげんにしなさいッ!!」
「ちょっとリサ!」
「てへ☆」
唯の怒鳴り声から逃げるように教室から出た後、里紗、未央、春菜の3人は彩南校の女性陣からスタイル維持の秘訣を聞き回っていった。
例えば現役アイドルのルンは。
「銀河通販で色々買うんだけど、なかなか続かなくて......結構苦労してるよー」
「あーわかるわかる!」
「結局使わなくなっちゃうんだよねー!」
例えばヤミは。
「戦うことです。実戦に勝る鍛錬はありませんから」
「さ、さすが......」
「なんならお相手しましょうか」
「パ、パスパス!」
例えば彩南校の女子生徒なら。
「うーん、おやつを我慢する位かなぁ」
といったように色々な意見を聞いたものの、「これだ!」という方法は中々見つからなかった。
「あ、肝心な人忘れてた!」
その肝心な人とは。
3人は職員室へ向かった。
「あまりそういうことは意識してないわね」
「それでそのスタイル......さすが御門先生」
「けど、そうねぇ......キレイになりたいなら恋でもしてみると良いんじゃない?」
「おお!大人の意見!」
「恋をすれば、自分を磨くことに努力するでしょ」
御門の言葉に、里紗と未央は拍手する。
そして。
「負けるつもりの恋なら別だけど」
その言葉が、春菜の心に刺さった。
同時に、お静が職員室へ入ってきた。
「御門先せ───」
「何か最近スタイル良くするためにやってることはあるの?」
「とりあえず最近、朝飯抜きにしてんだけど......」
「まぁ......そういうダイエットは身体に良くないわよ」
「でもさぁ、多少ムリしてでもやせたいじゃん」
「ダメですよそんなの!!」
「あ、お静ちゃん」
お静はいつもより強い声で言った。
自分の生きていた時代では食べたくても食べられない人が沢山いたと。
人々はやせ衰え、とても苦しんだと。
「なんで無理してまでやせる必要がありますかっ!」
あまりにごもっともな言葉に、3人は何も言えなかった。
その直後ララがダイエットできる発明品として、化け物じみたスピードで走る馬のメカを作り上げた。
「どわぁああ〜!!」
そのメカに乗ったリトは高速道路でしか見ないようなスピードで廊下を爆走していった。
それを見た里紗は一言。
「や、やっぱ今のままでいいわ......」
「そうそう。里紗ちゃんは焦るタイミングじゃないでやんすよ」
「うわっ、アンタどっから出てきた!?」
「やー、一言物申しとこうかなと思ったんだけど、お静ちゃんの熱弁が凄かったからタイミング逃しちゃって」
「あー、やっぱご飯ちゃんと食べるべきだよね」
「ほんとにそう。今度皆で食べ放題でも行こうよ」
「オイ、太らせにきてるでしょ」
そんなやり取りの後。
保健室で。
「御門先生、やっぱ恋を諦めんのってもったいないすよね」
「そうね。誰かのために、とかそういう理由だったら尚更ね」
「やっぱ貪欲にいかなきゃだよなぁ」
「猿山くんは積極的な女性ってどう思うかしら?」
「すげぇ好きですねぇ。積極的な程嬉しいんだから」
「ふーん......」
「......!?」
猿山は悪寒を感じたので、逃げるように保健室から出た。
後日。
沙姫からの連絡で目を覚ます。
「......うぃす」
『ケンイチ?今日のお昼にウチに来れるかしら?久しぶりにお茶会しない?』
「お、良いすねぇ。楽、し......み......」
口ではそう言うものの、電話越しでもわかるほど眠気混じりだった。
『ねぇ、そんなに眠いならまた今度にしても大丈夫よ?』
「や......絶対行きたいっす......」
『そう言ってくれるなら待ってるわ。もしダメそうなら言ってね』
沙姫との連絡を終え、何とか目を覚ました猿山は早々と支度を済ませる。
「何が食えんのかなぁ......お?」
天条院家に向かっていると、1匹の犬を抱えたナナが凄まじい勢いで自分に向かって来ていることに気づく。
「おいおいおい!?」
猿山は咄嗟にエクセリオンを装着する。
「さ、猿山ケンイチ!?よ、避けろっ!」
ナナの慌てた様子から勢いあまって止まれないこと、助けようにもワイヤーを出すのが間に合わないことを察して手を広げる。
そして無理矢理ナナと犬を受け止めた。
「うぶっ!」
「ちょ、マジか───」
だが、あまりに強かった勢いに押され、猿山もそのまま橋から転落してしまった。
下は水。
地面は少し離れている。
「ナナちゃん、ちゃんと掴まって!」
「わ、わかったよ!」
「ワンちゃんも絶対離れんなよ!」
「バウッ!」
猿山はナナと犬が怪我をしないように手で頭を守りながら、エクセリオンのワイヤーを橋に巻き付けてターザンのようにぶら下がった。
「(とりあえず地面まで!)」
そしてすぐ近くの地面まで勢いをつけて着地し、ナナと犬の無事を確認する。。
「ナナちゃんもワンちゃんも怪我ない?」
「ワン!」
「うん、助かったよ。急に突撃してゴメンな」
「いいよいいよ」
なんでもなさそうにしている猿山だが、内心は焦りまくりだった。
「(あっぶねー!上手くいって良かったー!)」
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!ていうか、さっきのあれどういう状況なの?」
ナナ曰く、抱えていた犬が車に轢かれそうになっていたところを飛び込む形で助けたところ、勢いがつきすぎたという。
「なるほどねぇ。リード付いてるし、飼い主とはぐれた感じかな?」
「とりあえず私はこいつの飼い主探すよ。心配してるだろうし」
「俺も手伝いたいんだけど......行くとこあるからあと任せるね!」
猿山は大急ぎで天条院家へ向かった。
途中で寄った駄菓子屋の袋をパンパンにしながら。
「お嬢ぉおお!お待たせぇぇぇ!!」
「あらケンイチ、何をそんなに慌てて───」
滑り込むように門をくぐると、沙姫は優雅に庭で待っていた。
「......凄い汗ね。ほら、こっち来なさい」
ハンカチを取り出し、猿山の汗を拭う。
「あ、すんません」
「良いのよこれくらい。準備は済ませてあるから、早く行きましょう?」
「うす」
沙姫の部屋の扉を開けると、彼女の気品に違わぬエレガントな光景が広がっていた。
様々な洋菓子がスタンドに並べられている。
「今日は凛と綾が2人で出かけてるの。ちょうど良いタイミングだと思わない?」
その中で、椅子が2つと丸いテーブルが1つ。
「流石でやんすな」
テーブルの上に置かれているのは、ジェンガだった。
「いつも通り、抜いた数に応じてお菓子をゲットするってルールで」
これが沙姫と猿山の”お茶会”である。
「いくぜッ!!」
半ば分かりきっている結果をものともせず、猿山は威勢よく戦いを挑んだ。
「(......まずは無難に真ん中を......と言いてぇが、強気にいくぜ!)」
猿山は1番下の端を抜き取る。
するとタワーがやや不穏な動きを見せる。
「ハッ!?」
が、何とか持ち直した。
「よ、よしっ。次お嬢すよ」
「一手目からあんなに慌てて、相当焦ってるんじゃない?」
沙姫は余裕の笑みを崩さない。
「な、なにおう!?全然余裕ですけど───」
強がる猿山に対して、沙姫はデコピンの要領で適当なブロックを弾き飛ばし、格の差を見せつけた。
「───おおお!?」
「さ、ケンイチの番よ」
そう言って足を組みながら座る沙姫の姿は、さながら女帝だった。
「や、やったらぁあああ!!」
それからのゲームでは涼し気な沙姫とは正反対に、猿山は魂でも賭けているかのような熱量だった。
「......はぁ」
「おおおおおお!!!」
1時間後。
「勝てねぇ......!」
ぶっ続けで戦い続けていた2人だったが、猿山はとうとう床に倒れ込んだ。
一片の悔いなしとでも言わんばかりに豪快に。
結果として、猿山が持ってきた駄菓子は全て沙姫に掻っ攫われてしまった。
「分かってたとはいえ、ケンイチも懲りないわね」
「次こそは、次こそは1勝もぎ取る......!」
猿山はここ最近ゲームで負けることがお約束のようになっている現状に悔しがりながら涙を流す。
「......あのねケンイチ、私は勝負事をしたい訳じゃないの」
そんな中、沙姫は小さなチョコを1粒摘んでK.O.されている猿山の元へしゃがみ込む。
「ほら、立ちなさい」
そして口元へ近づける。
「はい、お口開けて?」
「あざす......」
猿山は立ち上がり、その1粒を大事そうに食べた。
「こうやってあなたとお菓子を食べて、お話ができれば良いの」
「でもさぁお嬢、こう......ヒリつきがあった方が楽しいじゃない?」
「バカね、分からない?」
沙姫は猿山の言葉をまるで的外れとでも言うように一蹴した。
「ケンイチがいればそれで良いって言ってるの」
目を合わせてそんなことを言われてしまったことで、猿山は思わず顔を逸らす。
その耳は少し赤い。
「とはいえ、ゲームをする分には問題ないわ。それも楽しいことだものの。でも───」
沙姫は猿山の手を引いて椅子に座らせ、天条院家が用意したケーキを1つ皿に乗せて渡す。
「今はゆっくりお話しましょう?」
「......うす」
2人は互いの菓子を交換し合いながら、凛と綾が帰ってくるまで楽しいひと時を過ごした。
それからしばらくした頃。
ルンに呼び出された猿山は、ため息を吐く彼女にどうしたのか聞いた。
「マジカルキョーコぉ?」
「うん、敵役で出ることになってね。気乗りしないんだけど......リトくんが楽しみにしてるって言ってくれたからさぁ」
「ちなみに敵役ってのは?」
「これ」
ルンに渡された資料を見て、猿山の顎が外れた。
問題は役柄ではなく、衣装である。
「と、とんでもねー格好だなぁ......ん?』
ページを捲っていくと、他のキャストの資料が。
「主演・霧崎恭子......なーんか火ィ吹きそうな名前だなぁ」
「手のひらからは出すけど、吹いたりはしないわよ?」
「へぇー、こんな可愛い顔して意外と怪獣みたいというか」
「......ちなみにその娘、レギュラー番組7本の現役高校生アイドルよ」
「おぉ、属性多いね」
ルン以外のキャストの格好は、比較的まともだった。
「ルンはその子の引き立て役ってワケ。嫌になっちゃうわ」
「嘘だぁ。腹に一物抱えてんじゃないの?」
「あ、やっぱわかる?」
ルンは邪悪な笑みを浮かべる。
「ま、変に欲出して作品を台無しにするのも嫌だし、大人しくしとくわ」
「おー、流石の配慮」
そして迎えた撮影当日。
猿山はルンに引きずられる形でケア役として参加した。
「ルンちゃん大丈夫?」
「大丈夫じゃないし、なんで校長もいんのよぉ......」
「あの人マジでどうやって嗅ぎつけてんのかねぇ?」
撮影でルンは監督から「バカ笑いしながら喋るように」と指示をもらい、半ばやけになった事で疲れてしまっていた。
今は2人で撮影陣から少し離れたベンチに座っている。
「はぁ〜、もう帰りたい......」
「だーいじょうぶだってぇ!ハマり役じゃんか!」
「褒めてないでしょそれ!」
先程までの疲れはどこへやら、ルンは猿山を空高く殴り飛ばした。
地面に落ちたあと、猿山はピクリとも動かなくなった。
「はぁ......」
「RUNちゃん、お疲れ様」
「(げっ、キョーコ!)」
「さっきの演技!凄い迫力だったよぉ」
「そ、そう?」
ルンはいつものように良いリアクションができなかった。
「......どうかした?元気ないねぇ」
「見ての通り疲れてるのよ」
「じゃあコレ!一緒に食べよ!」
キョーコが持ってきたのは、ルンが好きな店のシュークリームだった。
ルンが驚いた様子を見せていると、横から目を覚ました猿山が現れた。
「食欲をそそるかほりでやんすね」
その頬は腫れ上がっている。
キョーコは少し驚いた。
「だ、大丈夫ですかぁ?」
「全然平気ですよ!ところでキョーコさんもそのシュークリーム好きなんすか?」
「RUNちゃんのブログに「お気に入り」だって書いてあったから」
キョーコは明かした。
自分がルンのデビュー時からのファンであり、CDも全部持っていること、仕事が上手くいかない時に励まされていることを。
「だからさ、RUNちゃんがこの番組に出てくれるってわかって、スッゴイ嬉しかった」
「!」
ルンは、勝手に敵対心を抱いていたことに罪悪感を覚えた。
「さ、早く開けて食べよ!猿山さんも一緒に!」
「あ......うん!」
「やっぱりキョーコさんしか勝たんですよ!」
3人がシュークリームを食べようとすると、突然服を脱ぎ捨ててパンツ1枚になった校長が全速力で突撃してきた。
「RUNちゅわ〜ん!ボクの体にサインして〜!!」
「げっ、校長!」
「なっ、なんですかあなた!」
キョーコはルンを守ろうと咄嗟に前に出る。
「うひょー!こっちもカワイー!」
校長は構わずターゲット変更し、キョーコに迫る。
キョーコは抵抗しているが、今にも校長の毒牙にかかろうとしていた。
「キョーコから離れなさいよこのケダモノッ!」
「校長ぉ!?キョーコさんはさすがに───」
ルンと猿山が校長を止めようとすると、キョーコの手のひらから突然炎が現れた。
「「へ?」」
2人が驚愕に目を見開いていると、キョーコは勢いよく校長に手のひらを向ける。
「ヘンターイ!!」
「ぎゃふん!」
するとCGではない本物の炎が、校長を一気に黒焦げにした。
「ル、ルン疲れてるのかな?」
「お、俺もルンちゃんのパンチ効き過ぎてんのかな?」
2人は目を擦る。
景色は変わらない。
目を閉じて深呼吸する。
それでも変わらない。
「って、どう見ても異星人よね」
「だよね」
2人がそう言うと、キョーコは慌て始めた。
「へっ!?ち、違うよ!?今のは手品で......」
「隠すことないよ。私もメモルゼ星人だし」
「えっ?」
詳しく聞くと、キョーコはフレイム星人と地球人のハーフで、熱や炎を出すのは生まれつきの特技であり、「マジカルキョーコ」という番組も、彼女の特技を活かそうとプロデューサー(宇宙人)が通した企画なのだという。
「でも地球ではまだ宇宙人は公じゃないから、ほとんどの「手品」で通してるんだ」
「なるほど......」
「にしても炎出せるのってめちゃくちゃカッコ良くないすか?」
「そういう男の子の感想いいから」
「あのー、猿山さんも異星人なんですか?」
「俺はただの人間でやんす」
「あ、そうなんだ」
猿山はキョーコの真似をして手のひらを振っていた。
「この人......というか、私の周りはちょっと特殊なの。それより」
「?」
「今日のことブログに書いていい?」
「え!?ダ、ダメだよそんなっ!」
先程公じゃないと話した手前、慌てるキョーコ。
「ちーがーう」
「ルンちゃんが言ってんのは「キョーコちゃんとお友達になりました」......って事でしょ?」
「そ。とりあえずメアド交換しようよ、ね?」
「う、うんっ!」
「あ、じゃあ俺も───」
ルンからの2度目のパンチをもらった。