とある飛空士への召喚録〜新世界大戦全史目録〜   作:篠乃丸@綾香

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前作、『とある飛空士への召喚録』の71話〜のリメイクとして投稿します。
前作の71話〜90話に関しては魚拓を取ってから削除するので、ご注意下さい。


第一章〜平和という名の下準備編〜
第1話〜西の猛獣〜


 

中央暦1641年1月28日

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府

 

 この世界の暦は偶然にもラグナで使用されていた暦とまるで一緒だ。カレンダーを変えることなく、この世界でも問題なく年が明ける。

 

「着きました」

「ありがとう、また13時に来てくれ」

 

 グラ・バルカス帝国の帝都ラグナ。真新しいビルの立ち並ぶ新市街を抜け、川を挟んで反対側。歴史的建造物が色濃く残る旧市街地の真ん中に、帝国の帝王府は存在する。

 その帝王府の前に一台の国産車が止まり、中から一人の軍人が出てくる。大将の海軍帽を目深く被り、車の扉を使用人に閉めさせて帝王府へと入っていく。

 

「カイザル長官! ご無沙汰しております!」

「ああ、久しぶりだな」

「カイザル司令! おはようございます!」

「ああ」

 

 彼の名はカイザル・ローランド。グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊司令長官。階級は大将。

 彼は長年海軍で実績を挙げ、今では帝国の軍神、三大将とも呼ばれて持ち上げられている。その言葉にはグラ・バルカス政府も一目置くほどの大軍人だ。

 そのため彼が廊下を通るたび、政府関係者から声をかけられる。大半が自分とのコネを作ろうとする輩だが、だいたい知った顔なので適当に流す。

 

「来たわねカイザル」

 

 途中、年季の入った女性の声を向けられる。よく知った声なので振り向くと、目元が凛々しく釣り上がった女性軍人がカイザルと同じく書類を片手に会議室へ向かっていた。

 彼女の名はミレケネス・アンネッタ。彼女はこう見えてもカイザルと同じ大将で、帝国海軍監察軍総司令官という大任を背負う大軍人の一人だ。

 

「ああミレケネスか、今日は遅かったな」

「カイザルもいつもより遅いじゃない」

 

 確かにカイザルはいつも時間より早く来る。それはミレケネスも同じであり、軍学校の同期同クラスという似た性格を匂わせる。

 

「俺は早めに来て資料を読みたいだけだが、車が遅れてな」

「まめなところはカイザルらしいわね。私は昨日のうちに読み終わっているけど」

 

 そんなたわいのない会話をしつつ、二人は帝王府の廊下を進んでいく。

 

「それでミレケネス、心なしか目元が赤くなっている気がするのだが、どうした?」

 

 カイザルはほぼ毎日ミレケネスの顔を見ているので分かるのだが、今日のミレケネスの目元は赤く充血している。それが釣り上がった目元と合わさって化粧のようになっているのだ。気になって仕方ない。

 

「ああ、今日のスモッグ霧のせいね。まあ、充血しているだけでラグナではいつものことよ。目に影響はないし」

「ああ、今日は特に強いと聞いたな」

 

 廊下の窓から見える帝都は相変わらずの霧だ。ラグナは地形の関係上霧が発生しやすい。

 ラグナは緯度の高い盆地に形成されており、そのすぐ近くは海。海風と北風がちょうどぶつかる位置にラグナは存在する為、年中暑すぎず寒すぎずの涼しい環境だ。

 ラグナが「霧の街」と呼ばれるようになったのは産業革命以降、工業により蒸気機関や内燃機関が発展してから。

 石炭や重油を燃やす発電所や工場がラグナの至る所に立ち並び、煙を吐くようになってから霧が濃くなり、ほぼ年中霧で覆われるようになった。それを人々は「進んだ科学の象徴」と誇りに思っている。

 

「俺は車で来たが、運転手が警戒するほど濃い霧だった。今日は特にひどい」

「私も車が渋滞して信号も見えなかったくらいよ。おかげでいつもより遅れたわ」

 

 そうして会話をする事で周囲の挨拶を退け、目的地である大会議室の目の前にまで来た。

 両開きのドアをノックし、中に入るとすでに何人かの軍人や政府高官が待機している。その場にいる全員がカイザルとミレケネスを見て敬礼をした。

 

「ご苦労、着席してくれ」

 

カイザルが部下達を促す。

 

「本部長官は?」

「まだ来ていません。街の方が渋滞しているので遅れるかと」

「あの方、元々時間ギリギリに来る性格なのよね……」

 

 ミレケネスが容赦のない本音を言えるのも、彼女が帝国三将にまで上り詰めたからだろうか。カイザルはそんな彼女を横目に資料をパラパラとめくる。

 

「……今回の帝前会議はやはり資料が多いな」

「ええ、私も読むのに一苦労したわ。徹夜したもの」

「軍人に徹夜はつきものだ、せめて明日眠れるように頑張ろう」

 

 資料の中身は数日前にも配られていたが、カイザルはレイフォル鎮守府での仕事に忙しく手がつけられないでいた。

 最初の数ページは概要欄のみ。ここはすでに読んでいるため、残りの資料枠を読む。そこには来る世界会議に招待されるであろう、各国の兵器資料が載っていた。

 戦列艦、外輪式蒸気船。古めかしい前弩級戦艦。どれもこの異世界の国々が持つ兵器の数々だ。提供元は情報局局長バミダル・ザイランド。

 やはりスリムな戦艦以外、大した脅威には見えない。実際戦艦を保有している国とそれ以外では天と地ほどの卓越した技術格差があるようで、帝国の脅威にはならないだろう。

 が、気になるのはこんな野蛮国ではない。もっと本当に帝国の脅威になるやもしれない、空飛ぶ戦艦の資料。それを読み通すべく、次のページに手をかけると……

 

「やあ皆、遅れて申し訳ない」

 

 その行動は遅刻者によって遮られた。

 

「軍本部長官に敬礼!」

 

 カイザルとミレケネスの時と同じく、その場の軍人や政府関係者らが一斉に敬礼をする。遅刻者の軍人としての階級が目立ち、大きな影響力を感じる。

 

「サンド長官、おはようございます」

 

 彼の名はサンド・パスタル。グラ・バルカス帝国軍の中で最も位の高い、トップという立場だ。

 

「カイザル君か。ありがとう、座ってくれたまえ」

「はっ」

 

 と、言っても彼の上には皇帝グラ・ルークスがいる。命令を下す本当の総司令官は皇帝であり、軍本部は様々な事をまとめて実行する係だ。

 

「いやはや、なんとか渋滞を抜けて間に合った。近頃の霧は頻繁に起こるな」

「ああ、だがこれは科学の英知によるものだと感謝すべきだろう。人間が進みすぎた科学に追いつけないのが悪い」

 

 カイザルは二人目の声の主にピンと来たのか、長官の後ろにいる人物に注目した。彼は壮年で身長が高い。プロペラ髭を携えガタイがいいが、軍服は着ておらずスーツ姿だ。

 

「ギーニ議員?」

 

 その人物をカイザルは知っている。何度か新聞やテレビで引っ張りだこになっているお騒がせ上院議員、ギー二・マリクスだ。

 グラ・バルカス帝国には内閣が存在する。彼らの仕事は国の行政や各省のコントロール。主に国内の政治に関わる事を司っている。

 帝国は他にも、満25歳以上の男女からの投票により選出された『帝国議会』、そして文明国家の持つ法律で人を裁く『帝国裁判所』、そして『内閣府』による三権分立を国家体制としている。

 

【挿絵表示】

 

 そのすべての頂点に帝王府、皇帝が立ち、三つの独立した権力に対して影響力を働かせられる。グラ・バルカス帝国は皇帝がすべての頂点であり、国家元首。皇帝は神にも等しい現人神、それが帝国の仕組みだ。

 

「(ギーニ・マリクス。タカ派の過激派の筆頭として有名な議員。過激派過ぎてハト派だけでなくタカ派からも嫌われている。出身は帝国初の平民出身、そのため逆に国民からの信頼が高い。軍ではサンド長官と特に仲が良い……)」

 

 そういえば、と周りを見渡すと内閣府の人間だけでなく一部の帝国議員も出席している。全体的に政治家の数が多い。

 

「(やはり政治絡みか?)」

 

 カイザルが疑問に思っていると、奥の扉が開く音がする。

 巨大なホールのような会議室に、軍人でもスーツでもない、帝国伝統の高官服に身を包んだ二人の人物が姿を現した。その姿に、会議室の全員が席を立って姿勢を正す。

 

「まもなく帝前会議を行う。皇帝陛下はまもなく参列する」

「皆様は席を立ったまま、しばらくお待ちください」

 

 声を上げたのは帝王府長官カーツ、帝王府では皇帝の次に偉く忠誠心にあふれる帝官である。

 その隣で補足をしたのは副長官のオルダイカ、あまり表に出ないので素性が分からないと注目がほとんどない。

 二人の合図により全員が席を立ち、ピシリとした姿勢で来るべき人を待つ。

 

 数分も待つことなく奥の扉が開いた。

 

 その奥から、威厳のある皇族服に身を包んだ壮年の男性が入ってくる。それを見た軍人と政治家たちは、息を合わせて腹から声を出す。

 

グラーゾ・エンペルラ!(皇帝万歳!)

 

 称賛されるグラ・バルカス帝国の皇帝グラ・ルークスは、その整った顔立ちと表情を一切変えることなく着席する。司会進行役としてのカーツが声を払う。

 

「これより皇暦642年、第一回御前会議を始める。一同、声!」

グラーゾ・インペリウム!!(帝国万歳)

 

 御前会議の前に行う恒例事を済ませ、一同は着席する。帝国の皇帝グラ・ルークス、厳格なるお方の目前での会議。何度も行なっているとはいえ、カイザルでも身が引き締まる。

 

「概要をご説明いたします。去る1月24日、我が国がかねてより打診していた先進11カ国会議への参加が、神聖ミリシアル帝国によって認められました。

これを受けまして、皇帝陛下の掲げる世界併合計画に基づき、先進11カ国会議へ奇襲攻撃を敢行する提案を、ギーニ・マリクス帝国上院議員殿より承りました。今回はその作戦内容を立案したいと思います」

 

 と、そこまで言われて軍人サイドからどよめきが走った。それもそうだ。いくらこの世界が帝国より文明レベルが低いとは言え、先進国が集まる国際会議の場に奇襲攻撃を仕掛ける作戦を立案せよとは、前代未聞である。

 しかし、一番トップであるはずのサンド長官は表情一つ変えていない。サンド長官はこう言う時にしどろもどろになる性格なのは知っている。何か隠しているのか、それとも知っていたのか。

 

「発言よろしいか?」

「カイザル・ローランド大将、発言を許可します」

 

 カイザルは思い切って発言してみる。

 

「本作戦の立案者はギーニ・マリクス上院議員で本当によろしいか? いくつか確認したいことがある」

「ギーニ・マリクス議員」

 

 呼ばれたギーニが立ち上がってマイクを使う。

 

「無論、立案者は私で間違いない。して、聞きたい事とは?」

「この作戦の意味をお答えいただきたい」

 

 キッパリと問いを投げかけると、今度は政治家サイドがピシャリと固まった。少々無礼になるかもしれないが、今回ばかりは部下の命を預ける可能性もある為、構うもんかと質問を続ける。

 

「……意味とは? 具体的に何を答えれば良いか?」

「この作戦を行うことの意味そのものです。目的、大義名分、それによって得られる利益。それがあってこその作戦です」

 

 それがない作戦は、作戦とは言わない。目標が曖昧でチグハグな作戦など失敗するのが目に見えているからだ。

 

「……では答えよう。この作戦は、我が国に対する潜在的敵対勢力である異世界国家群に対して征伐を与えると会う、大きな戦略的目的がある」

「征伐、とは?」

「そのままの意味である。帝国に対して理不尽を働いていた異世界国家群に対しては、必ずや報復をしなければならない」

「それは大義名分です。本当の目的は? それによって発生する利益は? 国際会議を先制攻撃など、利益が無ければ骨折り損です」

 

 流石に言い過ぎたか、政治家サイドからの目線が痛い。しかし、軍人サイドからはある程度の支持は得られているため、カイザルには響かない。

 

「自論を交える事になって申し訳ないが、あえて説明させて貰う。これは大義名分ではない。これこそが真の目的だ」

 

 何を言っているのか、少なくとも軍人目線からは判断がつかない。問いただしてみる。

 

「……というと?」

「この新世界の国々は我が国に対して様々な理不尽を働いてきた。かの"ハイラス事件"をはじめとした、この世界の勝手なルールによる帝国への不利益である。

これに対して、国民の反発だけでなく国会の方でも報復攻撃を求める声が相次いでいる。これを受け、我が国は異世界勢力対して報復攻撃をしなければ、我が国はいつまでも奴らの思う壺である」

 

 報復と言う、いきなり始まったギーニの過激な演説に、政治家サイドから拍手が沸き上がった。不機嫌な表情をする皇帝陛下の前なのをまるで気にせず、わんやてんやとギーニをもてはやす。

 

「国際会議への攻撃は、その前哨戦となる。国際会議に集まった列強たちは帝国の圧倒的な力を思い知り、我が国に対する理不尽を謝罪するであろう」

「反省するという保証は? もし相手が団結して固まった場合は? 残念ながら議員の言っている事には具体的な根拠が……」

「君は本当に軍人かね? 帝国とこの世界の技術レベルを見れば、相手が烏合の衆である事は間違いない」

「それが通じない相手もいるのですよ?」

 

 カイザルの堪忍袋が破れかけ、少しばかりの怒りを込めた言葉の徹甲弾を叩き込んだ。弾着はしたのか、ギーニの言葉が詰まる。

 

「まあまあ、カイザル君落ち着きたまえ。まだ具体的な情報が明かされていないだろう? 反論質問は、それが明らかになってからでいいではないか」

「ですがサンド長……」

 

と、カイザルはその声がサンド長官から発せられた聞き逃さなかった。呆れる軍人サイドを他所に、サンド長官はギーニの肩を持つ発言をしたのだ。これは、おそらく長官が既に"あちら側"にいると言う事実であった。

 

「(なるほど……既に魔の手はこちらにも来ていたか……)失礼しました」

「……まあいい」

 

 ギーニ議員は何かを含んだような趣で吐き捨てると、言葉を続ける。

 

「それに、この作戦には軍事的意味もある。世界の列強が集まる国際会議に集まった列強の軍隊を蹴散らせば、自ずと帝国が強い、勝てないということを認識する。最小限の戦いで征服ができるかもしれないのだ。魅力的ではないかね?」

 

 なるほど、長官が遅刻してきたのはギーニ議員と密会していたからか。カイザルは全て納得した。

 

「……わかりました、質問を終わります」

 

 悔しいが、今は多勢に無勢。少しの間我慢するしかないだろう。

 

「ではまず作戦立案に当たり、各企業から兵器生産の現状報告をしていただきます。まずはカルスライン社エルチルゴ社長、お願いします」

「はい、かしこまりました」

 

 カルスライン社はグラ・バルカス帝国の航空系軍需企業の中でトップを走る会社だ。帝国海軍の主力戦闘機『アンタレス07式』を作ったのもこの会社である。

 

「現在我が社ではアンタレス07式の旧式化に伴い、設計改修の費用を要求いたしております」

「(またか……?)」

 

 カルスライン社の改修費用請求は過去に何度かあった。これで4回目である。もういい加減、この会社の改修費用請求は聞き飽きていた。

 戦闘機の進化というのは、帝国でもすぐさま追えるものではない。今後の発展を見据え、いい加減新しい戦闘機を開発したらどうなのだろう。

 

「具体的な改修内容としては、発動機を『ヴィーナスⅧ』に換装、7.7ミリは全て撤去して13ミリ機銃とします。ヴィーナスⅧの性能は離昇2000hp、水メタノール噴射装置付きの高性能発動機として既に完成しています。

これを搭載したアンタレス戦闘機は、他の追従を許さない無敵の戦闘機となるでしょう。現在、各生産ラインの構築を急ピッチで進めておりますので、政府の補助資金があれば助かります」

 

 またも金を要求するカルスライン社に違和感を覚えつつも、各企業の状況説明は終わった。

 

「では次に諜報局のナグアノ局長より情報提供をお願いします」

「かしこまりました」

 

 諜報局から派遣され、代表を務める事になったのはナグアノ・ザイランド大尉だ。用意された黒板には既に写真が貼ってあり、チョークと報告書を両手に説明を開始する。

 

「我々諜報局からは会議での作戦において相対するであろう、各国の兵器について。特にかの空中戦艦について情報が纏まりましたので、ご報告を申し上げます」

 

 ナグアノは部下から写真の入った封筒を受け取り、黒板に貼り付けた。

 映し出されたのはかなり大きめのサイズの写真。わざと大きく印刷したのだろう、画像が粗くなっていないのは、帝国のカメラ技術の高さが感じ取れる。

 

「こちらは2年前のロデニウス大陸。ロウリア王国王都ジン・ハークをレヴァームと天ツ上が包囲した先の写真です」

「なるほど、デカイな」

「本当に空を飛んでいる……」

 

 各軍人達からも、やはり驚きの声が響き渡る。それもそうだ、カイザル自身もあの規模の超弩級戦艦が空を飛んでいたら腰を抜かすかもしれない。初めて見たときの衝撃は今でも忘れていない。

 

「そしてこちらが、去年に発生した第三文明圏戦争で撮られた空中戦艦の写真全てです。こちらの方が数が多いので、具体的に説明させていただきます」

 

 ナグアノが指差し棒を伸ばし、一つづつ説明していく。

 

「レヴァームと天ツ上の保有する飛行艦隊にはいくつか種類があるようで、大きさもまちまちです。

これは洋上の艦隊と同じように駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母と目的用途によって艦種が分けられているものと思われます。

飛行原理については未だ不明。全体が若干丸みを帯びていることから硬式飛行船から発達した水素ガス式かと予想していますが、魔法由来の物質で空を飛んでいる可能性もあります」

 

 わからないのは仕方なかろう。原理がわかっていたら、帝国もとっくのとうに飛行船による飛行艦隊を復活させている。

 それがないということは、やはり帝国からしてもその原理は謎のままだ。これを平気で量産しているというレヴァームと天ツ上のトンデモ技術の底が知れない。

 

「敵の飛行戦艦の戦術は?」

「飛行戦艦の運用は主に内陸部への侵攻が大多数でした。対地支援、航空支援、それらの護衛。彼らの飛行艦隊は、空を飛べるというアドバンテージをフルに活用しています。

同じ転移国家との事でしたが、この事からレヴァームと天ツ上は戦争慣れをした世界からやってきたと推測できます。飛行艦隊に関する戦術は、彼らに直接聞く事でしかわかりません」

 

 それはつまり、諜報局でも分からないとサジを丸投げしている意味だ。まあ、空飛ぶ戦艦だなんてものを見せられたら投げたくなるのも分からんでもない。

 

「弱点などは予想できますか?」

「おそらくですが、防御力は弱いと我々は分析してします。ただでさえ空を飛ぶ飛行船はかなりの無理をしています。構造を省いて重量を軽くしたり、武装の数を減らしたりなど、その工夫は多岐に渡ります。

ですが……彼らの飛行船はどう見てもそのような無理をしているように見えません。主砲塔も三連装砲を搭載している船も何隻か確認されています上、武装は見たところ削ってはいません。むしろ増やしている傾向にあります。

その場合、削って然るべきなのは装甲です。戦艦並の巨大な船体を空へ浮かす為には、どうしても装甲が一番重石でしょう。洋上艦に比べて装甲は薄いでしょう。

そして、装甲内部の船体は可燃性のガスなどが充満しているはずです。硬式飛行船から発達したものだとしても、空を飛ぶ無理をしている以上は戦艦としては脆いはずです」

 

 言われてみればそう。いや、そうでなくてはおかしい。あれだけ巨大で大きな戦艦が空に浮いているだけでも脅威的なのに、中身も洋上戦艦と同じであってたまるかと。

 

「しかし、砲の口径はどうです? 砲を削っていないのであれば、その主砲の口径が気になります」

「砲の口径は、写真に映った航空機や人間とのサイズ比で予測しただけですので、正確かどうかはわかりませんが……40cmクラスの砲は搭載していると見て間違い無いでしょう」

 

 だとすれば相当な脅威であろう。主砲口径だけで40cm以上ともなれば、帝国の保有するペルセウス級戦艦やかのグレード・アトラスター級戦艦に匹敵する打撃力だ。

 このタイプの戦艦をレヴァームと天ツ上がどれほど保有しているかは分からないが、それでも脅威なのは間違い無いだろう。間違いなく、帝国海軍は苦戦する。

 

「これらの飛行戦艦に関しては謎の多い最重要注意事項となっています。つきましては、情報の分析をこれからも続けていく予定です」

「ありがとうございます。では、しばしの休憩を挟みます」

 

 ナグアノの説明が終わり、一旦休憩に入る事になる。各々が席を立ち、数分間の休憩の間に用事を済ませる。

 

(飛行戦艦……あの空を統べるであろう兵器に対し、帝国はどこまで太刀打ちできるだろうか……)

 

 カイザルは情報を整理しながら考察を行うが、国の行く末を考え、頭が痛くなる。下の鞄から頭痛薬を一錠取り出し、机の清潔な水でそれを流し込んだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 この会議のきっかけは四日前、場所は旧レイフォル首都レイフォリアに移る。グラ・バルカス帝国の洋上戦艦『グレード・アトラスター』による海岸線沿いの重要都市すべてを破壊され、降伏を余儀なくされた元列強レイフォル。

 国があった領土及び属領は『グラ・バルカス帝国領レイフォル州』と定められ、各地に基地や軍港が建設されている。もはやここに国は残っていない、あるのは帝国様式の傀儡だけである。

 その旧首都レイフォリアの民間用港に、1隻の巨大な戦艦が入ってくる。タグボートが煙を吐きながらその美しい船体を汚して押し、コンクリートで固められた港にゆっくりとその身を下ろす。

 その戦艦は装甲が美しく傾斜し、無駄な装備が極力省かれ、SF小説に出て来る戦艦のような見た目をしていた。

 彼女の名前は〈コールブランド〉、神聖ミリシアル帝国の誇るミスリル級戦艦の名前の一つだ。

 湾内では小型艦もとい"駆逐艦"たちが不安げにコールブランドを見守っている。彼女らが停泊したのは、そのレイフォルの南端の民間用近代港。戦艦コールブランドの艦橋部にて、この現状にため息をつく人物が何人かいた。

 

「見たまえクロムウェル君、レイフォリアの街も随分変わってしまった」

 

 盛大に皮肉を飛ばすのは、第零魔導艦隊司令官バッティスタ中将。彼が見渡すレイフォリアの街並みは、グラ・バルカス帝国によって変わり果てていた。

 

「ええ、長官。しかも黒煙を吐く街とは。随分と空気が汚れていそうですなぁ」

「元々レイフォリアの衛生面が悪かったのは聞いていたが、これじゃ空気が澱んでそうだな」

 

 今更だが、彼らは神聖ミリシアル帝国のグラ・バルカス帝国訪問使節団である。間も無く開催される先進11カ国会議の概要説明のため、第零魔導艦隊の試験航海を兼ねて遥々やってきた。

 

「新興国か……それが普通の蛮族ならばそれでよかったのだがな……」

 

 バッティスタは海の向こう側を指差す。

 少し向こう、5キロほど先にいるのは1隻の重巡。彼女はグラ・バルカス帝国の重巡で、湾内に入る時にエスコートを行なった〈アルデバラン〉である。

 

「あの巡洋艦を見たかね? 機械式で下品な黒煙を吐いているが、我が零式魔導艦隊に平然と並走して来た。こちらは速度を落とす事なく、それがさも当然の如く」

「ええ。しかもあの主砲塔の数……連装砲を5基10門とは、まるでオーガのような逞しさです。少なくとも射撃指揮装置の技術や戦術は我が国と同レベルと見て良いでしょうね」

「巡洋艦であれなのだ。戦艦は改ミスリル級と変わらんのかもしれん」

 

 軍人だからこそわかる、相手の底力。今までグラ・バルカス帝国に関しては相手の秘密主義が多く、資料も少なかった。実際に目の前にしてから、この国の実力が見え始める。

 

「外交官達の胃痛が知れるな。彼らはどう見ても我が国と同レベルの技術力を有している。そんな国を相手に初交渉を取れというのだから、プレッシャーは半端ではないだろう」

 

 そう、いろんな意味でプレッシャーは半端なものではない。実際世界最強のミリシアル帝国と対等な相手に対して、どこまで威厳を見せられるかがかかっている。

 政治は他人に任せても文句は言われない、というのは軍人で良かったと思える唯一の瞬間だ。バッティスタとクロムウェルにとっての至福である。

 

「にしても……コールブランドも随分と様変わりしましたね。外見が全く違う、生まれ変わったようだ」

 

 クロムウェル艦長はコールブランドの事になると途端に機嫌が治る。それほどこの船に愛着があるのだろう。

 少し前まで子供だった娘が、一気に凛々しくなったのを見て喜ばない父親がいないように、船が強く改修されて喜ばない艦長はいない。

 

「いきなり『主砲を四連装砲に換装する』と通知が来たときは驚きましたが、付けてみると気品が溢れますね」

「ああ、その代わり一基が二連装になってしまったがな」

「ですがあの新型の『霊式40.6cm四連装砲』は美しい……一目惚れしてしまいそうです」

 

 コールブランドは以前の主砲三連装三基を携えた以前のミスリル級とは違う。

 主砲の一部が40.6cm四連装砲に換装され、その火力を増大させた。元々ミスリル級がのちの改造を見越して余裕のある船体設計をしていた事もあり、この大改装も問題なくできた。

 さらに両舷には新しい装備が追加されている。艦橋と船体の間に埋め込むように配置された、4基の『霊式13.3センチ両用砲』だ。

 これは霊式弾を上空に打ち上げ、指定された魔素が切れたら爆発して破片を撒き散らす対空兵装だ。対空兵装に霊式砲を用いるのも、そもそも両用砲という存在自体もミリシアル初である。

 これらの装備は、今後ほとんどの艦艇に装備されるらしい。これからミリシアル帝国海軍は急速な改修と近代化を余儀なくされるだろう。

 本格的な戦争が起きるまでに、間に合えば良いが。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 街でも、ため息を吐く者達がいた。彼らは皆ミリシアル製の制服で辺りを見回し、軍港の中を歩いている。彼らこそ、グラ・バルカス帝国訪問使節団の面々である。

 

・外務省西部担当外交部からは部長のシワルフ

・国防省から防衛局情報管理部のパーシャ

・技術研究開発局総務部のゴルメス

・情報局情報官のザマス。

 

 4名以外にも、およそ25人の随行者がいる。彼らはグラ・バルカス帝国の軍人の護衛と案内の下、レイフォリアの街道を用意された自動車で移動していた。

 

「街は至って普通だな」

 

 そう言ってシワルフは復興しつつある街並みを、車窓から見ていた。

 確かに彼の言う通り、レイフォルは敗戦国となりこのレイフォリアも一度は火の海になったのにも関わらず、住民は至って普通の表情だった。

 

「火の海になったと聞きましたが、随分と復興が進んでいるようですね?」

「……ええ。植民地を統治する際、街の復興は優先度が高いですから」

 

 案内係を務める外交官に尋ねてみるが、そっけなく返される。

 だが使節団の面々は不思議に思った。普通なら、自分たちの国を滅ぼした敵国に支配されるなど、恐ろしくて仕方がないはずだ。しかし、レイフォル人は何故かグラ・バルカス人と仲が良さげだ。

 

「あそこ見てください。普通に子供と遊んでいますよ」

「お菓子を配られても怖がっていないな……まさかと思うが、普段からあんな感じなのか」

 

 グラ・バルカス人の特徴と聞いた金髪碧眼の人種と建設現場で働いていたり、グラ・バルカス人兵士にお菓子を貰う子供の姿まで見える。不思議でたまらない。

 

「情報によりますと、この地をグラ・バルカス帝国が領土として支配した後、機械や工業製品を持ってきて工場を建てたそうです。そこで現地住民を雇う制度を出したところ、レイフォル視点ではかなりの良待遇だそうなので、住民達は帝国を喜んで迎え入れるようになったとか」

「なるほど、要は経済支配か。盲点だったな」

「ええ、レイフォル人としては誇りやグラ・バルカス帝国の恐ろしさよりも、そちらの方に感謝しているとか」

 

 この世界では武力が全て。なので、相手を経済的に操ると言う思想はなかなか行われてこなかった。そもそも、それが行えるほどの経済圏を持った国が少ないと言うのもあるが。

 

「レイフォルは皇帝一族の汚職が酷かったらしいからな。国民は苦労していた、だから天職を与えてくれるグラ・バルカスに感謝していると……」

 

 そうして四人が街中を歩いていた時、近郊からプロペラの音が聞こえて来た。彼らは外務省の人間としてムーなどで飛行機械のプロペラ音を聞いているので、既視感を覚えた。

 彼らはすぐさま空を見上げ、その上空を飛んでいた多数の飛行機械を見つける。

 

「あれは……」

 

見上げた途端、一機のプロペラ戦闘機が街道の上空をフライパスした。

 

「速いな。前に見たレヴァームの戦闘機と同じくらいの速度だった」

「あれ、情報にあった"アンタレス"とはまた違いますね。新型でしょうか?」

 

 その飛行機回に関しては、外交官が当たり障りのないように答える。

 

「あれは我が国で開発中の新型戦闘機です。詳細に関して私は知りませんが、相当な性能になると言われていますよ」

「…………」

 

 外交官はニヤリと笑みを浮かべながら、自信ありげにそう答えた。それに対して特に反応する事なく無言を貫く使節団。

 しかし、何も思うところがないわけではない。世界にその実力を示したレヴァームと天ツ上。彼らが保有する戦闘機と同レベルの航空機をこの国は保有している事実は、この新興国が只者ではないことを教えてくれる。

 そんな相手に対して交渉を行うという重大さ、使節団はプレッシャーを感じていた。

 

「グラ・バルカス帝国との初対面……鬼が出るか魔が出るか……」

 

 シワルフを先頭に、4人は予定の時間ぴったりに外交施設に足を踏み入れた。神聖ミリシアル帝国の美意識とは異なる、別種の美しさを持った建物が外交窓口だ。

 建物は石と木細工を組み合わせたデザインが目立ち、どことなく角ばった印象だ。美しいのだが、どこか神経質さを感じさせる直線的なラインである。がっちりしすぎていて、息苦しささえ感じた。

 灯だけが温かい為チグハグさを感じつつ、応接室へと案内される。四人はソファに座ってグラ・バルカス帝国の外交官を待つ。しばらくして扉が開き、グラ・バルカス帝国の外交官が入ってきた。

 

「初めまして。神聖ミリシアル帝国外務省、西部担当外交部部長のシワルフと申します。このたび、貴国からの打診のあった先進11カ国会議への参加について、神聖ミリシアル帝国を代表して参りました」

 

 礼節を弁えたこちら側の対応には自信があった。だが相手側の外交官は無言で着席を手で促すと、口元を少し歪ませる。

 

「……グラ・バルカス帝国を代表させていただくダラス・クレイモンドです。今回ははるばるレイフォリアまで足を運んでくださり、ありがとうございます」

 

 ダラスは特に嫌味などを並べる事なく、そう言って自己紹介をした。普段の彼の姿を知っているなら、明日は雨が降るのでは?と思わせる丁寧な口調。

 だが実際は性格が変わったのではなく、ダラスの隣にいる女性外交官がその礼儀正しさを作り出していた。

 

「同じく、グラ・バルカス帝国を代表させていただきます、シエリア・オウドウィンと申します。以後、お見知り置きを」

 

 意外に丁寧な口調に驚きを覚えつつも、礼儀として使節団も礼を返す。

 

「さて、先進11カ国会議の件についてですが、参加の打診は認められましたでしょうか?」

 

 そして話は、先進11カ国会議の話に移る。

 

「はい。神聖ミリシアル帝国外務省、および国防省が代表を務める先進11カ国会議準備委員会は、貴国、グラ・バルカス帝国の参加を認めました」

 

 代表のシワルフが丁寧な口調で説明すると、グラ・バルカス帝国の外交官達は頷きながらメモを取り、質問を返す。

 

「……分かりました。この度は参加のご決定、ありがとうございます。では一応、理由をお聞かせ願いますか?」

「はい。理由としましては、貴国が参加枠の一つを倒したことによる繰り上げになります。列強を打ち破るほどの実力と判断され、特別枠としての参加となりました」

 

 シワルフはグラ・バルカス帝国が意外に礼儀正しいことを見抜き、丁寧な口調で返すことにした。

 本来、参加理由はただの穴埋めなのであるが、多少機嫌を良くしたシワルフは"特別扱い"という言葉を使い、相手の機嫌をもてはやす事にした。

 

「なるほど、では我が国の会議に対する持続参加については、どのような決定を?」

「それに関しては、先進11カ国会議の中で多数決で決められます。ですので、今の段階で決めることは出来ませんのでご了承ください」

 

こうして、彼らは静かなる交渉を繰り広げつつ、会議に関する内容の確認を行う。なお、その間ダラスは無言であった。

 しばらく長引いたが、確認が終了しミリシアル使節団は施設を去る事になる。

 

「意外とすんなり終わりましたね」

「ああ、意外に礼儀も弁えていたからな」

 

 使節団の面々はそういうが、シワルフは首を横に振り、それを否定する。

 

「いや、グラ・バルカス帝国は油断ならん相手だ。完全に友好的とは限らないだろう」

「なぜです?」

「……アイツらの目、何かを企んでいた」

 

 シワルフはそう言って空を見上げ、夜間飛行を行う複座戦闘機を目で追った。時刻はすっかり夜で、これから場所を変えて歓迎式典が行われる。

 だが使節団は胃に重たい料理よりも、コールブランドへ帰って紅茶が飲みたいと切に思っていた。

 




情報コラム

『コールブランド改』
ミスリル級戦艦〈コールブランド〉が近代化改装を受けた姿。主砲の霊式三連装魔導砲は『霊式40.6cm四連装魔導砲』へ換装されており、打撃力が強化。さらに霊式高角砲の設置や、プリエーゼ式防御区画の設置など、改造内容は多岐にわたる。
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