とある飛空士への召喚録〜新世界大戦全史目録〜   作:篠乃丸@綾香

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久しぶりにこちらも投稿いたします。


第4話〜軍艦の行進〜

 

中央暦1641年6月10日

神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス

 

 港にひしめく人工の波。風ひとつない水面の上を掻き分ける巨大な船達。その巨大さと力強さを感じさせる艦影達が、隊列を整えて海原を突き進む。

 神聖ミリシアル帝国の玄関口港町カルトアルパスにて、待ちに待った観艦式が執り行われようとしていた。

 

『さあ皆さま! これより神聖ミリシアル帝国主催、皇帝陛下即位1000年記念、特別観艦式を開催いたします!』

 

 アナウンスが叫ぶ港湾の都市部から、民衆達の歓声が上がった。

 

「すごいよ見て見て! お船がいっぱい!」

「あれはミスリル級戦艦だ! カッコいいなぁ!」

「あっちはロデオス級! いろんな種類の船がいるよ!」

「他の国のお船もいる! すごい光景だ!」

 

 沖から眺める子供の眼前には、木造ながらも殺意の高い戦列艦、ムーの機械式戦闘艦、そしてミリシアル帝国では見慣れた魔導艦がひしめいていた。

 見栄えが強力で未だにその価値を有し続ける魔導戦艦、多数の航空機を搭載して奇襲を仕掛けれられる航空魔導母艦、オールラウンダーの巡洋艦、それらの護衛たる小型艦。

 そして……

 

「あ、見て! お空にも!」

 

 その言葉を教えてくれた、異世界から舞い降りし空を飛ぶ艦艇が、空からカルトアルパスへと侵入して来た。

 巨大で存在感のある飛空戦艦、中型ながらも禍々しさと強さを見せる巡空艦、多数の航空機を搭載した飛空母艦、そして小型で従者の様に周りを固める飛空駆逐艦。

 

「すごいよ……本当に空を飛んでいる……!」

「スッゲェ……本当に強そうだ!」

「でもミリシアルの方がすっごいぞ! なんてったって世界最強の海軍だからな!」

 

 船の数は優に100を軽く超える。まさに軍艦の博物館であった。

 

「くぅぅぅう!! 今年は大盤振る舞いだ!!」

 

 と、子供達の後ろ側から大声が聞こえて来た。港町カルトアルパスの港湾管理局、港湾管理局責任者のブロントである。彼は管理局の窓の外の港湾の様子を見ながら、もはや手がつけられない興奮状態だった。

 それもそのはず彼は昔から軍艦好きで、それが昂じてこの職業を選んだ人間である。彼にとって観艦式は、誕生日や記念日よりも遥かに楽しい一大イベントだった。

 

「海だけじゃない! 空にも噂の飛行戦艦たちがひしめいている!! まさに軍艦のオンパレード! 嗚呼、もう最高だ!!」

 

 と、子供たちよりも明らかに高らかに叫び散らかすブロント。両手にカメラを抱えて写真を撮りまくっていたり、手を振りまいて興奮が覚めやまない。

 

「あ、あのおじさん……すごい人だね……」

「う、うん……あの人も軍艦が好きなんだろうね……」

 

 その光景に、子供たちは少々圧倒されて引き気味だった。しかし、彼とは軍艦の話で良い話ができるかもしれない。子供達はそう思った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

中央暦1641年6月10日 10:00

神聖ミリシアル帝国 御召艦〈コールブランド〉

 

 今回の観艦式は、観覧艦が停泊してその前を軍艦が通る通る碇泊観艦式である。

 参加する艦艇はカルトアルパスを北上し、湾の奥に停泊した一般人が乗る観覧艦2隻と、皇帝と軍人が乗る御召艦の1隻の前を横切り、そのまま進路を変えて南下して戻ると言うローテーション形式だ。

 

『皆さま、ご紹介しましょう! あちらに見える銀色こそ、先導艦として抜擢された魔導巡洋艦〈ゲイボルク〉です!』

 

 先導艦たるシルバー級魔導巡洋艦〈ゲイボルク〉が先頭に着き、導かれるように御召艦と観覧艦の前を通り、湾の中央部に停泊する。

 

「荘厳な光景ですね」

 

 御召艦には皇帝ミリシアル8世が乗り合わせていた。その長く蓄えられた白髭と長い白髪も相まって、その威厳は計り知れない。

 その彼と対等に接する様に、ドレスを着た女性がいた。着飾られたティアラに身を包んだ、宝石に例えるのもおこがましいほど大袈裟なまでに美しい女性。

 神聖レヴァーム皇国執政長官、ファナ・レヴァームであった。

 

「自惚れではないが、彼らがいれば世界のどんな敵が相手でも対等以上に戦えると自負する。自慢の艦隊だ」

 

 ミリシアル8世とファナ・レヴァームは、魔導戦艦〈コールブランド〉を御召艦として今回の観艦式に特別来賓として参加していた。

 名誉ある御召艦という特等席から見て、この港湾は確かに壮観な光景だ。普段軍艦を見慣れているファナですらも、フォーク海峡に集まった軍艦の美しさには良いため息が出る。

 2人が直接目の前で会うのは、今回が初めてである。ミリシアル8世はちょうどいい機会なので、この美貌の女性に対して色々な探りを入れる事にした。

 

「其方らの艦隊は立派だ。戦艦が空を飛ぶという偉業、其方らの技術と努力が感じられる……そして何より煙を吐かない、美しさと強さを兼ね備えていると受け取れる」

「ありがたいお言葉です。新世界一の魔道文明国に認めてもらえるならば、我々としても光栄です」

 

 ミリシアル8世はぎこちないながらもレヴァームの事を持ち上げれば、ファナは上手くあしらうようにミリシアルのことも持ち上げた。

 どうやら彼女は男の扱いも、割と心得ているらしい。よくもまあ、並の男を調子に乗らせるような上手い事を言うと、ミリシアル8世は感心した。

 

『さあ! ムー連邦海軍機動艦隊がやって来ました! 機動艦隊とはムーで最初に考案された部隊編成で、空母を中心とした……』

 

 さて、次に出て来たのはムーの艦隊だ。

 ムー海軍はご自慢の機動艦隊が参加ということもあり、軽装で足の速い艦艇が揃っている。

 

『上空をご覧ください! 空母に搭載されているムーの新型艦載機〈マリンⅡ〉が編隊飛行しております!』

 

 上空には観艦式の為に編隊飛行をするスラリとした艦載機が飛んできた。今まで配備していた複葉機の〈マリンⅠ〉とは違う、洗練された低翼の単葉機だ。

 機体も練度も、このパフォーマンスのためにどれだけ時間をかけたのだろうか、とても素晴らしい出来栄えだった。世界二位の科学文明国の名に恥じない、彼らの努力が垣間見える。

 

『そしてなんと! ムーは今回の観艦式の為に新造艦まで派遣してくれました! 名前は〈ラ・ガリソニエール〉!ラ・ガリソニエール級軽巡洋艦の一番艦として就役した、ムーの新星です!』

 

 艦隊に再び目を向けると、中に一際新しく目立つ、浮いた艦影がいくつか見えた。

 司会進行役が指差す先で、一隻の美しい軽巡洋艦が航行し、観客の前に現れる。

 

『本級は空母の護衛として建造されました。軽巡として標準的な15.5センチの軽砲を三連装3基搭載し、手数で大きく勝ります。さらには対空砲も充実しており、まさに空母の従者と呼ぶべきでしょう!』

 

 司会進行役が、機密でない限りの情報を提示する。その言葉を聞いたファナは、感心しながら呟く。

 

「なるほど、情報戦はすでに始まっているのですね」

 

 ファナの言う通り、司会の言うことには少し語弊があった。

 ムーの新しい軽巡洋艦はレヴァームや天ツ上からすれば標準的だが、ムーやミリシアルにとっては軽巡洋艦で初めて舷側装甲を分厚く張った事で画期的な船である。

 さらに言えば、ラ・ガリソニエール級はグラ・バルカス帝国海軍の軽巡洋艦や通商破壊に対抗するための船だ。空母の従者とは少し違う。

 それを知っているのはここにいる軍人数名だろう。一般人には欺瞞情報を鵜呑みにしてもらうくらいが防諜になる。そういう意味での情報戦は、すでに始まっている。

 

「国家同士の争いには三段階ある。互いの情報を盗み合う情報戦、外交の場で話し合う舌戦、直接殴り合う戦争。今は一番最初の段階だ」

「嫌なものですね。互いの腹を探り合うというのは」

「だが、それをせねば次の段階の外交や戦争で裏を掻かれる」

「だからこそ、必要な考えなのですね」

 

 ファナ自身もそれは分かっているようではあるが、内心は平和を願っているようにも見える。国家同士が仲良くするのに越したことはない。しかし、それができたら苦労はしないというだけだ。

 このことからわかるように、彼女は決して理想主義者というわけではない。武力は平和の為に持ち続けているし、時には相手を威嚇する事だって厭わない覚悟のある人物だと、ミリシアル8世は感じ取っていた。

 

『さて皆様! 本日の二つの目玉のうちの一つをご紹介いたします! 西と東の空をご覧ください! そう、空です!』

 

 司会が興奮した様子で話す。

 

『来ました! 西と東の空を飛んで現れたのは神聖レヴァーム皇国、そして帝政天ツ上の空中艦隊! 空を飛ぶ艦隊の登場です!』

 

 東西の湾の空を横切り、北東と北西に向かって航行するのが、ファナの故郷たるレヴァームとその同盟国天ツ上の飛空艦隊だ。

 

 レヴァームの先導はアギーレ級駆逐艦〈オペラシオン〉。

 その後ろに、重巡空艦〈シウダ・レアル〉、スセソール級航空母艦〈ガナドール〉。

 最後にエルクレウス級戦艦〈エスペランサ〉。

 

 天ツ上側の先導艦は島風型駆逐艦〈雷〉。

 その後ろに龍王型重巡空艦〈市房〉と新鶴型飛空母艦〈白鷹〉。

 そして、敷島型戦艦『敷島』の順番。

 

 合計8隻が空に浮かび、人々の注目を集める。

 

『レヴァームの重巡空艦は〈シウダ・レアル〉! レヴァームと天ツ上では空中巡洋艦のことを「巡空艦」と呼びます。巡空艦は同じ空中の目標を素早く捉え、正確な砲弾を投射する能力を持っています。ちょうど、我が国の魔力探知レーダーとの連携射撃と同じ仕組みです』

 

 実際は機械かそうでないかの違いはあるのだが、これも防諜の一環だ。力を誇示し続ける代わりに、力の秘密は教えない。

 

『さあ、お次に現れましたのは天ツ上の飛空母艦〈新鶴〉! 天ツ上の主力空母として活躍しているこの船は、搭載機数はなんと50機以上! 力強いこの空母は、レヴァームの主力空母スセソール級と並んで第三文明圏最強と名高く……』

 

 新鶴はそのまま北へ北上し、その他のレヴァーム天ツ上艦と共に過ぎ去っていく。まるで力をミリシアルに見せつけるように。

 

「ミリシアル8世陛下」

「何か?」

「ひとつお聞きしたいことがあります」

 

 ファナは一呼吸置く。

 

「国にとっての力とはなんでしょうか?」

 

 ファナは真面目な目でミリシアル8世を見据える。ちょうどその時、上空の戦艦部隊が上空に向けて祝砲を撃ち始めていた。

 その目はひとつも濁っておらず、純粋な宝石のように輝いていた。自分のような老人が彼女に応える事すらおこがましいとすら、一瞬思ってしまった。

 

「国にとっての力、か。……それは様々だろう」

 

 ミリシアル8世はその言葉を続ける。

 

「何を力とするかによる。経済、国土、資源、国民……軍事だけでなく、力というのは様々だ。パーパルディアのように見せかけだけの力では何もできまい」

 

 その言葉に、ファナも頷く。

 

「私は国を導く者として、パーパルディアのような過ちを犯すわけにはいかない。専制者として私は国を良い方向に導き、諸外国との平和を表向きだけでも保つ」

「素晴らしいお考えです」

「それは其方も同じであろう?」

 

 ミリシアル8世は、分かっている上で知らないフリをしているファナに問いかける。

 

「其方の国も専制政治。権力で国を統治する、それが良い方向か悪い方向かその違いでしかない」

「ミリシアル陛下も良い方向でありませんか?」

「私は良いとは限らない。我がミリシアルにだって属国が存在するし、そこから様々な資源や価値を吸い上げて来た」

「それは私の国も同じです」

 

 ファナは窓の外を見ながらそう言った。

 

「かつてレヴァームも同じように隣国の天ツ上から搾取し奪い、苦しめて来ました。やがて戦争に発展するまでには」

 

 思い出す様なその言葉に、ミリシアル8世も思わず彼女を見る。

 

「過去の専制者が武力を誇示し、力に溺れ、その結果の大損です」

「武力を誇示する専制者、か……」

「ええ。その意味では、昔のレヴァームはかのパーパルディアと代わりないでしょう」

 

 確かにそうかもしれない。ミリシアル8世も改革前、ファナ・レヴァームが執政長官に就く前のレヴァームの横暴さは調べて聞いたことがある。

 過去の事なのでさほどミリシアル8世も気にしもしなかったし、天ツ上も許している様子だったが、ファナ自身にとっては忌むべき過去なのかもしれない。

 いや、もしかしたらそれはレヴァーム国民すべての総意なのかもしれない。レヴァーム国民が抱く、忌むべき過去。

 

「専制政治は武力の一極集中を呼び起こし、権力による暴力を作り出します。社会は階級化し、一つに集まった権力は時に無能によって国を滅ぼします」

 

 専制政治はこの世界では一般的だ。むしろ連邦共和制を採用しているムーや、立憲君主制の天ツ上の方が珍しいのかもしれない。

 

「しかし、その一方でカリスマ性のある専制者は民衆の心をつかんで離しません。ちょうど陛下ご自身がこの国の心を掴んでいるように」

 

 しかし、カリスマ性のある権力者が必要なときもあるのは確かだ。民衆達はいつの時代もカリスマ性のある人物について行きたがるのである。

 

「……民衆というのはおかしなものだ。権力者に権限が集まるのを嫌う傍ら、心の奥底ではカリスマ性に溢れる専制者を求めているのだからな」

 

 ミリシアル8世は民衆があまり好きではない。カリスマ性に着いて行くという事は、それは人任せにしたい心の表れであり、自分で行う気がないという事だ。

 身勝手すぎるとミリシアル8世は思う。それで専制者が腐り果てたり後継者がいなかったりした時、自ずと団結は崩壊してしまう。

 人間は『主義』や『思想』のためには戦わない。それを体現した人間に対してのみ、戦える生き物だ。

 つまりは自分で責任や政治を引っ張る事が出来ないという事である。だから専制政治は失敗しやすい。

 

「しかし、専制政治も悪いことばかりではありませんよ」

 

 と、ミリシアル8世の思考を読み取るように、ファナが補足を加える。

 

「専制政治というのは社会の一形態に過ぎないものです。重要なのは、それを社会の為にどうやって運営していくかです」

 

 ミリシアル8世はその言葉に興味を示す。

 

「私がレヴァームの重役についてから、様々な改革を行ったのはご存知ですか?」

「知っている。階級社会を無くそうと努力したことも」

「はい。実は、私がレヴァームをここまで改革できたのは専制政治であったおかげなのです」

 

 一呼吸置き、ファナは続ける。

 

「改革に必要な手続きも、審査も、会議も、専制政治なら全て省くことができます。反対意見は勿論出ますが、賛同者を集めるのも簡単です。専制政治の方が改革をスムーズに行えるのです」

 

 確かにそれもそうだ。専制政治は権力が集中している分、腐った体制を立て直すのに役に立つ。

 周囲の反対を押し切るだけの権力があれば、自ずと改革はスムーズに行く。

 

「しかしそれが終わった後、権力者は自らの権力を捨てなくてはなりません」

 

 しかし、専制者に権力が集中したままでは意味がない。専制者の最後は権力から身を離すべきだ。

 静かに権力を捨て、ひっそりと消えて行くのが改革者の望ましい最後だ。

 

「どうやら其方は私の思っている以上の素晴らしい政治家の様であるな」

「お褒めの言葉、感謝いたします」

 

 ミリシアル8世はファナの事を自分よりはるかに知性のある政治家だと認めた。

 4000年も生きた自分が人間種に追い越されるのは少し悔しかったが、それでもここは帝王らしく引き下がった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

中央暦1641年6月11日 10:00

神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス海軍基地

 

 次の日、カルトアルパス港は出港管理に忙しかった。港から水上の船が次々と出港していく。

 第一文明圏、第二文明圏の港は既にミリシアル艦隊とムー艦隊で埋め尽くされており、そこから次々と艦艇が出航していく。

 さらに奥の飛空船用の入江では、巨大な飛空艦達が揚力装置を起動していた。垂直に飛び上がる飛空戦艦に飛空空母。その勇姿は目に見えて力強かった。

 

「すごい光景ですね……」

 

 ムーの情報通信部の制服を着た、一人の若々しい女性が若干興奮していた。窓から見える湾の光景は、これから始まる史上最大の合同演習の予感を強々と感じさせていた。

 

「これは史上最大の合同演習になりますよ。我がムー海軍はどれだけ活躍してくれる事でしょうか?」

「どうだろうな、相手はあのレヴァームと天ツ上のチームだから……」

 

 技術大尉のマイラス・ルクレールにそう咎められるが、技術少尉のカーナ・ツーベルクは軍艦がひしめくこの状況下に自信があった。

 

「マイラス大尉は自分の国に自信がないのですか? 我がムーとミリシアルが手を組んで共に戦えるのです。いくら異世界の強国とはいえ、互角以上に戦えますよ!」

「そうは言っても……」

「まあまあマイラス君、彼女もムー人として興奮しないわけがないのだろうよ」

 

 と、マイラスを宥めるように小太りの中年男性がそう言う。

 彼は海軍の軍服に身を包んでおり、階級は大佐として数えられている。彼はかつてラ・カサミ級戦艦『ラ・カサミ』の艦長を務めていたミニラル・スコットという男だ。

 

「カーナの自信はわからんわけでもない。これだけの軍艦が一同に介し、合同で訓練を行うのはムーでもミリシアルでも初めてだからな」

 

 もう一人の情報通信部の戦術士官ラッサンも、そう言って今回の演習に対しての興味が多かった。

 ここはミリシアル海軍の軍港に設けられたカフェテリアで、演習の様子を観戦することができる。そのため参加するミリシアル、ムー、レヴァーム、天ツ上の全ての将校がここに集まって演習の様子を見守っていた。

 演習のルールはこうだ。

 

「マグドラ諸島沖に敵国の空母機動艦隊の侵攻を確認。艦隊はマグドラ諸島基地に展開する航空隊と連携し、これを撃退せよ」

 

 つまり、"神聖ミリシアル帝国領内に敵艦隊が侵入してきた"という非常に斬新な想定で行われるのだ。

 ミリシアル帝国の領域を舞台とした演習は初のため、各国の軍人の関心が高い。

 カフェの中央には戦況が確認できる地図が置かれている。演習の状況が動くたびに通信が入り、審判が設けられた作戦図の駒を動かし、撃沈被撃沈をわかりやすく表すのだ。

 

「そういえば、今回の演習ってマイラス大尉とラッサン大尉が提案したんですよね?」

 

 カーナはマイラスとラッサンに聞く。

 

「ああ。随分前、まだ準備が始まっていた頃"せっかく各国の艦隊が集まったのだから、観艦式の後に合同演習を行ってはどうか?"ってムー政府に頼んだんだ」

「政府もそれに興味を示してくれて、ミリシアルに掛け合ってくれた。それにレヴァームと天ツ上も興味を示してくれて、"ならばやろう"っていう形で纏まったんだ」

 

 ムーとミリシアルは互いを警戒し、探り合いを入れていた事はあったが、それでも外交上や防共上は協力関係にあった。だからこそ、この頼みを快く聞いてくれたのもある。

 

「へぇ……なるほど、今回の演習で各国が連携を強化できれば、グラ・バルカス帝国に対して牽制にもなります。納得です」

「そうだな。本国の方では新造艦が続々と就役している。この演習も、グラ・バルカス帝国に対する牽制としては十二分だろうな」

 

 二人は憶測を言うが、実際の目的は全く違う事をマイラスとラッサンだけが知っていた。

 

「ミニラル大佐は、どっちのチームが勝つと思いますか?」

「そりゃもちろん、我々ムーとミリシアルの艦隊だろうに」

 

 と、ミニラルは自信をあらわにした。

 

「相手は空母機動艦隊が編成の中心なようだが、こちらには戦艦が複数いる。あのミスリル級もだぞ? 空母が戦艦に勝てるわけがない」

「ですね、我が海軍だって相当強化されますし……古い船だって機関を改装して、速力で新造艦を追いつける性能になりました。これで負けるわけがないでしょうよ!」

 

 と、二人はそう言って自信をあらわにした。しかし、マイラスとラッサンはそれに苦笑い。

 まあ、それも致し方ない。今までのムー海軍の考え方からしたら、戦艦こそが艦隊戦で最強なのだ。戦艦が配備されていることに絶対的な自信を感じられる心理がある。

 マイラスは今回の編成表を再び確認した。

 

『ムー連邦統治海軍 第一空母機動部隊』

・戦力

ラ・カサミ級戦艦6隻

ラ・コスタ級航空母艦4隻

ラ・エス級重巡洋艦『ラ・エス』

ラ・ガリソニエール級軽巡洋艦『ラ・ガリソニエール』

ラ・グリスタ級巡洋艦4隻

ラ・シキベ級軽巡洋艦20隻

・内訳

旧式戦艦6隻

航空母艦4隻

重巡洋艦1隻+旧式4隻

軽巡洋艦1隻+旧式20隻

 

 

『神聖ミリシアル帝国海軍 第零、第一魔導艦隊』

・戦力

ミスリル改級戦艦『コールブランド改』『クレラント改』

ゴールド級魔導戦艦『ガラティーン』『ティソン』『バリアント』『フリルラ』

ロデオス級航空魔道母艦『シェキナー』『ハーキュリーズ』

シルバー級魔道巡洋艦『ゲイボルク』『ゲイ・アッサル』『アラドヴァル』

ブロンズ級魔砲艦『ムンゼルグ』『ガエ・ブアフネッフ』『キニェル』

クリスタル級小型艦『タガー』『ダーク』『スティレット』『プギオ』他20隻

・内訳

戦艦6隻

空母2隻

重巡洋艦3隻

軽巡洋艦3隻

駆逐艦24隻

 

 その多くがまだ古く、改造や改装を受けていない。新しく建造、または改装された艦はこの中では少数だ。

 対するレヴァームと天ツ上の艦隊は、以下のようである。

 

 

『神聖レヴァーム皇国空軍 第7艦隊』

・戦力

エクレウス級戦艦『エクレウス』『エスペランサ』

スセソール級飛空母艦『ガナドール』『スエーニョ』

アルマダ級軽飛空母艦『シエラ・カディス』『トレバス』

ボル・デーモン級重巡空艦『ボル・デーモン』『サブライム・パレンティア』

アドミラシオン級軽巡空艦『アドミラシオン』『ピエダー』

アギーレ級飛空駆逐艦20隻

・内訳

戦艦2隻

航空母艦2隻

軽空母2隻

重巡洋艦2隻

軽巡洋艦2隻

駆逐艦20隻

 

 

 第7艦隊はレヴァーム空軍の遠征艦隊として有名だと聞いた。練度も性能も十分だろう。

 戦艦の数から言えば、ミリシアル帝国海軍の艦隊には僅かに及ばないが、実際はどうだろうか。

 

 

『帝政天ツ上海軍 第三艦隊』

通称

・戦力

薩摩型戦艦『敷島』『薩摩』

新鶴型飛空母艦『白鷹』『翔鷹』

飛鷹型軽飛空母艦『飛鷹』『隼鷹』

龍王型重巡空艦『市房』『祇園』『皇海』

筑後型軽巡空艦『吉野』

島風型飛空駆逐艦『電』『雷』

梅型駆逐艦『紫陽花』『彼岸花』計14隻

・内訳

戦艦2隻

航空母艦2隻

軽空母2隻

重巡洋艦3隻

軽巡洋艦1隻

駆逐艦16隻

 

 

 一方こちらは第三艦隊、帝政天ツ上随一の練度を誇る最強機動艦隊と名高い。

 天ツ上は常設の遠征艦隊は有していないらしいが、有事になればいつでも遠征可能であるとされている。

 

 これに対し、マグドラ諸島を防空している神聖ミリシアル帝国陸軍航空隊が数多く加わる。艦隊戦も防空態勢もガッチリと整えられているのだ。

 どう見ても、レヴァーム天ツ上側が艦艇数的に不利であり、ミニラルとカーナが自信を顕にするのも頷ける。しかし、マイラスはこの飛空母艦達の性能が恐ろしいものだと知っていた。

 マイラスはなんだか結果がわかりきった気がして、深くため息をついた。

 

「はぁ……」

「ん? どうしたんですかマイラス大尉、浮かない顔をして」

「いや、この演習の結果を予想してしまってな」

「ああ。まあ、レヴァームと天ツ上の連合艦隊はご愁傷様と言った感じですからね……」

「いや、ご愁傷するのはムーとミリシアルだ。この戦力差は空母によって覆る」

 

 マイラスが突拍子もない事を言う。その言葉にカーナとミニラルは共に顔を見合わせ、首を傾げる。

 

「いやいや……いくらなんでもこの戦力差で負けるなんてあり得ないですよ」

「そうだぞマイラスくん。空母が勝敗を決する訳がなかろう。君は戦力分析が得意なはずなのに、どうしてそう言えるんだい?」

 

 まあ、カーナとミニラルの反応も頷ける。彼らは旧艦艇派ではない。新造艦がムーにとって一番必要であることは理解しているし、レヴァームと天ツ上の実力も認めている。

 しかし、さすがにこの戦力差が空母によって覆るとは思っていないらしい。それも当然だ。今までのムーとミリシアルの航空機では、戦艦を沈められるほどの性能を有していなかった。

 爆弾の威力だって足りない上、航空爆撃だけでは戦艦は沈みにくいからだ。その意見もまあ、分からないでもない。

 

「そうですね……本当は機密なのですが、この演習で結局明らかになるので言いましょう。相手の空母と艦載機の性能は、我々を圧倒しているのです」

「そうなのか?(そうなんですか?)」

 

 二人が食いつくので、彼らの疑問を晴らしてやる必要がある。

 

「まず、レヴァームの主力飛空母艦のスセソール級。この級の搭載機数は120機以上です」

「「え?」」

 

 驚くべき数字が出てきたのか、ミニラルとカーナの動きが止まる。先ほどまでの余裕も、少しだけ消えていた。

 

「う、嘘でしょ……」

「な、なんだそれは……! 搭載機数120機以上なんて、一個飛行場並みではないか……!」

「はい、その通り。レヴァームの空母は空飛ぶ飛行場といっても差し支えありません」

 

 二人の顔が青く染まる。

 彼らは観艦式の時に明らかになった『搭載機数50機』と言う性能が本当だと思っていた。それが欺瞞情報だと言う事は薄々気づいていたが、まさか20機も超過しているなんて思わなかった。

 

「さらに言えば天ツ上の方。彼らが運用する主力飛空母艦の『新鶴型飛空母艦』の方は搭載機数は64機〜72機ですが、飛行甲板には防御装甲が施されており、500kgの爆弾にも耐えられる設計です」

『何ぃぃぃぃ!!?(何ですって!!?)』

 

 その言葉にカーナとミニラルは再び絶句した。

 ムーには艦載型爆撃機として、『フレイム』という機体が存在するが、爆弾搭載量は250kg爆弾まで。その威力では完全に威力不足だと言う事を思い知らされた。

 

「じ、じゃあ……新鶴型に関してはムーでは対処できない、と?」

「ああ、これに関してはミリシアルの万能攻撃機ジグラントⅡに対処をお願いするしかないね。彼らなら700kgクラスの爆弾を運用できるはずだから」

 

 まさか、空母の性能で完全に負けているとは思っていなかった。

 しかし、まだムー側も最新型のラ・オレアダ級航空母艦を用意してきた。なんとか空母の艦載機同士で互角に持ち込められないか……

 

「そして、レヴァームと天ツ上の艦載戦闘機の最高時速は、両者とも700km以上です」

「は????」

 

 しかし、その希望も儚く打ち砕かれる。

 

「な、ななな700キロおおぉぉぉ!?」」

「馬鹿な……マリンⅡでも勝てないではないか……」

 

 マリン型戦闘機から進化し、単葉機として実用化されているマリンⅡの時速は470km。脚部が固定式から抜け出せなかった為、これ以上の増速は望めなかった。

 そんな苦労をしたマリンⅡですら軽々と追い越される性能を、レヴァームと天ツ上の艦上戦闘機は持っているらしい。こんな絶望があり得るか、と二人は言いたげだった。

 

「し、しかし……演習とは言え何が起こるかは分からないですよ」

「そ、そうだ。もしかしたら、戦艦部隊が相手の空母部隊に追いつける可能性も……」

「……最高速力200ノット」

「「え?」」

「スセソール級と新鶴型の最高速力は時速200ノットです」

 

 二人の表情から、余裕が完全に無くなった。

 

「当たり前じゃないですか。だって空を飛んでいるんですよ? それくらいの速さは当然ですよ」

「まあ、いつもその速度が出せるとは限らないらしいけどね」

 

 二人もそこまで聞き、ようやくこの演習に勝ち目がない事を知った。まあ仕方がなかろう、これは彼らのような考えの軍人を()()()()()()演習なのだから。

 

「えっと、じゃあこの演習は……」

「ええ、ムー海軍史上……いえ、ミリシアルにとっても前代未聞の大敗北になることは間違い無いでしょう」

 

 マイラスは多くの人間が取り囲む演習図を見る。

 両者ともに所定の位置に付き、まもなく演習が開始されようとしていた。その結末が決まっているとも知らずに。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

中央暦1641年6月11日 12:00

神聖レヴァーム皇国空軍 第7艦隊

旗艦エクレウス級戦艦『エスペランサ』

 

 演習が開始された。

 両者は500km離れた位置から演習開始の合図が出され、行動を開始した。

 今はまだお互いの位置を知らない、まずは偵察行動からスタートする事になる。

 

「相手は戦艦、空母がそれぞれ6隻。なるほどかなり有力な相手ですが、どうしますかな?」

 

 レヴァーム艦隊の旗艦〈エスペランサ〉に、指揮官のマルコスと共に艦橋で指揮をとる一人の人物がいた。

 今回は副司令官となったマルコス中将が、指揮官席にあぐらを掻いて座る男に聞く。

 

「そうだね……数的にはこちらが不利。全ての艦艇の数で負けている」

「厳しい演習ですな」

 

 たしかに厳しい。はっきり言って不公平な演習条件だとおもう。せめてハンデが欲しいところだ。

 

「こんな不公平な演習、実戦だったらすぐに白旗を上げているよ。審判への異議申し立ては許可されていたかな?」

「ダメだそうです」

「なら、最大限やるしかないね」

 

 その男はあぐらを解き、体制を崩して座席から前へもたれる。男の名は"ライムンド・スプルアンス"。神聖レヴァーム皇国空軍所属、第7艦隊司令長官の空軍大将だ。

 外見はレヴァーム人らしい金髪碧眼だが、髪は帽子に隠れるほど短く切られている。顔はごくありきたりなハンサムと言った印象。

 

「重要なことは常に状況を作る立場になり、敵に主導権を与えないことだ」

 

 本来なら、彼は大物なのでもっと大規模な艦隊を率いる時に指揮を取る人物だ。

 だが今回の合同演習はレヴァームの第7艦隊と天ツ上の第三艦隊を同時に指揮する必要があった為、彼が適任である。

 実はレヴァームと天ツ上の間には、最近締結された『指揮官協定』というものが存在する。これは有事の際、状況に合わせて艦隊や部隊の指揮を一括する事のできる条約であった。

 もちろん両軍指揮官の了承が必要ではあるが、こうする事で指揮系統の混乱を避けられる。同盟関係でなければできない指揮系統の簡略化だ。

 

「だが、それには相手の行動を読んで、相手の考えに立つ事が必要だ」

 

 スプルアンスはそう言って艦長座席を立ち、大海原を見据える。

 今レヴァーム天ツ上連合艦隊はレヴァーム中心の第71任務部隊と天ツ上中心の第72任務部隊に分かれ、二手に分かれている。

 

「やるのは気に入られる為の配慮じゃない。確実に嫌われる嫌がらせさ」

「ですが、嫌われて最後に負けてしまったらどうするのです?」

 

 それを言われたスプルアンスはそれを考えていなかったのか、少し唸ってから答えを出した。

 

「ん? ああ、その時は頭を掻いて誤魔化すさ」

 

 その後、ライムンドは帽子を被り直して指揮を取る。史上稀に見る演習大海戦が、今始まろうとしていた。

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