第七十六話を投稿いたします。
ドラゴンボールの全世界人気投票において我らが『セル』が第3ステージ8位となりました。
「すごい! はやい!」
「うう…落ちたりしないかな?」
「ふふ、大丈夫よ、みんな」
ネフテス空軍が威信を懸けて開発した、『アヌビス』級長距離偵察艇二番艇『ウプウアウト』の艦橋に複数の幼い声とそれに応える涼やかな声が響く。
「……よろしいのですか? ラーイド様。幼子ばかりとはいえ、蛮族をゴルドバ軍港に伴うなど」
「構わん。全ての責は、この私が負う」
「はっ」
配下の疑問に決然とした言葉を返すラーイド。『ウプウアウト』号の艇長であり、ネフテス国上席評議員ビダーシャル直属の諜報班の長でもある。だが、ラーイド自身は今だけは自らをシャットーダ部族の親衛官であると自認していた。かつては守る事が出来なかった主の忘れ形見を今度こそ守る為に。
(シャジャル様、あなたの御子たるティファニア様は、我が身に代えても必ずや御守りして見せます)
飛行艇の物珍しさに騒ぐ子供達を甲斐甲斐しく世話するティファニアの後ろ姿を見つめるラーイドの瞳には悲壮なまでの決意が込められていた。
(ラーイド老、かなり思い詰めているわね。まあ、守り損ねた主君の一粒種と偶然出会ってしまったのだから無理もないけど……ん?)
ラーイドの決意に危うさを感じたルクシャナは隣に立つ婚約者にして護衛である騎士アリィーに注意を向けた。淀んだ雰囲気を纏ったアリィーは何事かをぶつぶつと呟いていた。
「うう、これから一体……」
「はあ、アリィーあなたねぇ、何時まで偵察艇徴発とか不慮の墜落とかを気に病んでいるのよ? あんなにネフテスに帰りたがっていたのに」
「そうじゃないよ、ルクシャナ。ネフテスのこれからを考えていたんだ」
「ネフテスのこれから?」
アリィーの言葉をオウム返しに答え、首を傾げるルクシャナ。
「とうとう『アルアンダルス』は発動されてしまった。多くの者たちはこの戦いで蛮族域も、『悪魔』も、我々エルフの脅威となる存在は全て駆逐出来ると考えている」
「自滅兵器まで総動員だしね」
「でも、本当にそうなのか? 蛮族だって自分たちが種族として滅ぼされると知ったら、死に物狂いで抵抗するはずだ。それに『悪魔』の力はボクたちも知っている」
アリィーは一呼吸置いて、愛するルクシャナの目を見つめて言った。
「……ボク達は、『エルフ族』は、もしかしたら、取り返しのつかない過ちを犯しているのかもしれない」
「アリィー」
ルクシャナは衝動的にアリィーを抱きしめていた。さして広くない偵察艇の艦橋だが、操舵の邪魔にならぬ様、ティファニアと子供達は右舷の窓近くに固まっており、ルクシャナ達は左舷の窓、一人フーケが操舵輪から最も遠い位置に陣取っていた。艇長席のラーイドに先ほどの部下がさらに声をかける。
「それと……」
「まだ、何かあるのか?」
「航路について、その」
言い淀む部下に嘆息しつつ答えるラーイド。
「……『シャイターンの門』を通過する事か」
「はっ、数十分の通過とはいえ、精霊流が枯渇した地を航行するのは」
「致し方あるまい。今は一刻でも時が惜しい。それに建前上ではあるが、今回の我々の任務は『新型偵察艇の慣熟飛行』なのだからな」
ラーイド達が使用している『アヌビス』級長距離偵察艇はネフテス空軍の最新鋭のフネである。上席評議員たるビダーシャルが自身の影響力を公式、非公式を問わず最大限に行使する事で、どうにか運用をもぎ取った経緯がある。『アヌビス』級に搭載されている新型の魔導機関は精霊流が枯渇した空域であっても、一定時間であれば通常の航行速度を維持出来る画期的な性能を備えている。水軍への対抗心に燃える空軍技術廠が唱えるお題目を実践にて証明するのが表向きのラーイド達の任務であった。その為、本来であれば忌避されて当然のはずの禁忌の地『シャイターンの門』、かつて『大災厄』が封印された忌むべき地の上空を時間短縮と性能試験を名目に航路に設定していたのだ。
程なく。
「まもなく禁則地空域に到達します」
「各員、全周警戒を密に。数十分とはいえ気を抜くな」
「「「はっ」」」
ラーイドの言葉に艦橋のエルフ達が緊張の表情で答える。
「……オヤ、オキャクサンノヨウデスネ」
管制空域への未確認飛行体の侵入を感知した指揮管制個体は、当該飛行体の拿捕、ないし『撃墜』を麾下の装甲騎兵、『ロボット兵』に命令。偽装格納庫から10機の『ロボット兵』が緊急発進し、当該飛行体に肉薄する。
1000メイル以上の高空を常識を超えた速度で航行する長距離偵察艇が補足されるまでに要した時間は、わずか『数秒』であった。
ガシンッ!!
「きゃあ!」
「うああっ!」
「な、何事だっ!?」
禁則地空域に侵入してから数分、順調に航行を続けていた『アヌビス』級長距離偵察艇『ウプウアウト』を突然の衝撃が襲った。
「ラーイド様、飛行型のゴーレムが本艇上部に取りついた模様です!」
「ばかな! 『アヌビス』級の航行速度に追随出来るゴーレムなど存在しないはずだ! そもそも観測手は何をしていた!?」
「それが突如出現したとしか」
「そんな事があるはずが……」
ラーイドが部下を振り返るとその視線の先、艦橋の窓から偵察艇の周囲を複数のゴーレムが包囲しつつ飛行しているのが確認できた。
「あ、あいつら、まともなゴーレムじゃない。なんで魔力を全く感じないんだ」
土系統のトライアングルメイジであるフーケは、周囲の人型が彼女がよく知るゴーレムとは完全に別物である事を瞬時に把握していた。
さらに、ルクシャナがアリィーに支えられながら、ゴーレムを視認すると驚愕の表情とともに呟いた。
「う、うそでしょ……ヴァ、『ヴァリヤーグ』」
「ル、ルクシャナ! 『ヴァリヤーグ』ってまさか!?」
『ヴァリヤーグ』
6000年前に世界を襲った『大災厄』。その元凶たる『漆黒の弦月』から放たれた無数のゴーレム軍団。それこそが『ヴァリヤーグ』であった。全長3~4メイル程でありながら、エルフの精霊魔法はおろか『虚無』の魔法や『精霊石兵器』ですら耐え切るほどの異常な防御力を備えており、当時の全世界を滅亡寸前まで追い詰めた、正に『悪魔の軍団』であった。
ルクシャナは、自身の専門である考古学研究の過程において秘匿されていた『大災厄』関連の資料を文化探求院の書庫において無断で閲覧した経験から、周囲のゴーレム軍団を『ヴァリヤーグ』と判断したのだった。
「くっ、緊急事態だっ! 機関室、最大船速! 限界まで廻せっ!」
ラーイドの号令一下、秒を置かず『アヌビス』級が加速を開始する。精霊魔法の行使手として、ブリミル教圏においては『悪魔』の如き存在として恐れられるエルフ達も、精霊流が枯渇し、『精霊』との契約自体が不可能な禁則地では無力にも等しいのだ。離脱を即断したラーイドの意志を反映し、ハルケギニアのフネとは一線を画す速度で航行する偵察艇だが、『ヴァリヤーグ』と思しきゴーレム軍団は苦も無く追い縋ってくる。
「こ、怖いよっ! テファ姉ちゃん!」
「うわあああん」
「み、みんな、大丈夫よ! お姉ちゃん達がついているから!」
「セル、助けてっ!」
突然の襲撃と船体の急加速に怯える子供たちと、それを必死に宥めるティファニアを見やるフーケは懐から一本のナイフを取り出した。
(くそっ、またこいつに頼るしかないのか!)
フーケが取り出したナイフは、かつて長身異形の亜人セルから与えられた特異なマジックアイテムだった。最も、実際にはセルが自らの物質出現術を応用し、何の変哲もない投げナイフを変化させた代物だが、フーケには知る由もない事だった。
それは、自身に放たれた魔法を全て吸収し、純粋な魔力に変換。持ち主の魔力に上乗するという能力を持っていた。ハルケギニアのメイジにとっては命綱とも云うべき、魔法の発動体である杖はエルフによって没収されていたが、基本的にハルケギニアの人間を劣等種と見なす傾向が強いエルフ達は、ナイフ程度であればと携帯を許していたのだ。
(餌となる魔力や魔法がないとこいつも役には立たない。精霊流とやらが無いこの空域じゃあエルフ共はダメだ)
ナイフから視線を戻したフーケがティファニアを見つめる。
(テファの『虚無』の魔法なら……いや、まずい。今エルフ共にテファが『虚無』の担い手だとバレるのは避けないと)
その時、フーケの視線に気付いたティファニアが懐から青い宝石をあしらった指輪を取り出し、フーケへ投げて寄越した。
「姉さん! その指輪を使って!」
「テファ、あんた!」
「そ、それはまさか、シャジャル様の!」
ラーイドにとっても見覚えのある、その指輪はティファニアの母シャジャルが成人の儀において父である部族長から贈られたシャットーダ部族の秘宝であった。死者すらも蘇生させ得る『水の精霊』の力をその内に秘めているという。指輪を受け取ったフーケに大きく頷きかけるティファニア。表情を引き締め、頷き返すフーケ。
(申し訳ございません、シャジャル妃殿下! ですが、テファだけは必ず守って見せます!)
手の平の指輪にナイフを振り下ろすフーケ。その切っ先が青い宝石に触れた刹那。
キンッ!
ヴァオッ!
宝石は澄んだ音とともに砕け散り、膨大な『水系統』の魔力が溢れ出す。それは瞬時にナイフの短い刀身に吸収され、『土系統』の魔力へと強制変換される。以前、ロマリアの修道騎士会を退ける際に使用した時とは比較にならないほどの強大な魔力を得たフーケはその場に跪き、船体に触れる。
「まずはこいつを引きはがすよ!」
フーケは『錬金』を発動した。『アヌビス』級長距離偵察艇の船体に劇的な変化が起こる。
「ば、蛮族ごときの魔法が、何重もの対魔法処理を施した新型船体を変化させるなんて!」
メキメキメキ!!
驚愕するエルフの航法士官を尻目に偵察艇の両主翼の付け根から巨大な石の腕が見る間に形成されていく。
「とっとと降りな! ゴーレムもどきが!」
バガァンッ!!
偵察艇の船体上部に取りついていた『ロボット兵』が巨碗の一撃を受け、吹き飛ばされる。だが、すぐに空中で体勢を立て直し、周囲の『ロボット兵』と共に『アヌビス』級の追跡を再開する。渾身の一撃をまともに喰らったはずなのに損傷は無いように見える。
「ちっ! 頑丈だねぇ!」
フーケは逃走を優先し、『アヌビス』級をさらに加速させた。すでにネフテス空軍が誇る最新鋭偵察艇はフーケの手足も同然であった。本来の性能を遥かに超えて速度を増していく『ウプウアウト』号。『ロボット兵』は対象の拿捕を断念。主要目的を『撃墜』に変更した。先頭の一機が右腕に装備した光弾砲を突き出し、『アヌビス』級に狙いを定める。
バシュッ!
ホーピー!
ズガンッ!
放たれた光弾が『アヌビス』級の右主翼と『錬金』された石腕を破壊した。激しい揺れが艦橋を襲う。
「うあっ!」
「被害報告!」
「くっ、右主翼、大破!」
揺れに耐えながらフーケは驚きを隠せなかった。
(い、今のは、まさか『破壊の籠手』!?」
かつて、フーケがトリステイン魔法学園の宝物庫から奪取した『場違いな工芸品』と称された珍妙な物品、『破壊の籠手』。自身が造り出せる最大のゴーレムさえも一撃で破壊してのけた兵器と非常によく似た衝撃にフーケの首筋を冷汗が伝う。
(あいつら全部が『破壊の籠手』を装備していたら、こんなフネ一瞬でおしまいだ! くっ、なんとかテファ達だけでも脱出を……)
フーケがティファニアに視線を向けると彼女もまた、フーケを見つめていた。決意と覚悟をその瞳に込めて。
そして、一つ頷くと詠唱を開始する。
「テファ! 待ちな!」
「我が名はティファニア。五つの力を司るペンタゴン」
詠唱に気付いたアリィーがルクシャナを振り返る。
「ル、ルクシャナ! もしかしてあのハーフエルフ、『悪魔』を!?」
「黙って、アリィー! 今は他に方法なんて無いのよ!」
ルクシャナが、剣を抜こうとするアリィーを制する。
「我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」
詠唱の完了と同時に『ロボット兵』10機から光弾砲が放たれる。
バババシュッ!!
キィィィン
光弾が到達するよりも前に『アヌビス』級長距離偵察艇『ウプウアウト』号の艦橋に銀色のゲートが出現する。
ギュピ ザン
特徴的な足音と共に、一体の長身異形の亜人がその場に姿を現した。ほんの一瞬前まで、帝政ゲルマニア擁する皇帝艦隊カイゼル・フロッテの総旗艦『ヒルデ・ブランド』号艦橋にて、皇帝アルブレヒト三世の傍に侍っていたはずの、人造人間セルの分身体の内の一体である。
その容姿は、『人造人間17号』を吸収した後の、第二成体に変化していた。
10発の光弾は、空中で静止していた。
第七十六話を投稿いたしました。
ご感想、ご批評のほど、よろしくお願いいたします。