ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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七か月振りです。

大変お待たせいたしました。

第七十七話を投稿いたします。


 第七十七話

 

 長身異形の亜人の出現と同時に、性能限界を超えて加速していた『ウプウアウト』号は、高空で静止していた。その周囲には『ウプウアウト』号を追尾していた十数体のゴーレムとそれらから放たれた光弾が同じく、その場で時を止められたかのように空中で停止していた。本来であれば急制動を掛けられた艇内は慣性によって凄惨な状況に陥っているはずだが、姿勢を崩した者は一人もいない。セルの念動力による強引な慣性制御の結果であった。

 僅かな間をあけて操舵室の静寂を幼い歓声が破る。

 

 

 「セル!!」

 

 

 「うわあああん! 怖かったよぉ、セル!」

 

 

 「やっぱり来てくれた!」

 

 

 「ほら! ぼくが言った通りだろ! セルなら絶対に助けてくれるって!」

 

 

 「あたちが言ったんだよ!」

 

 

 「いや、ぼくだよ!」 

 

 

 子供達は弾かれた様に長身異形の亜人に駆け寄り、その逞しい外骨格に縋りつく。彼らが見知っているはずの亜人とは似通っているものの明らかに異なる容姿の『セル』に。

 

 

 (まさか、第二成体に変化しているとはな)

 

 

 表面上は如何なる感情をも見て取る事ができない長身異形の亜人も、僅かながら困惑していた。自らの変化と子供達の反応に対してである。かつて、ガリア王女であったイザベラに召喚された際もセルの肉体は第一成体から『人造人間17号』を吸収した第二成体へと変化していた。容姿は変化したが、『気』の絶対量には増減が無かった為、セル自身は『虚無の担い手』ではないメイジに召喚された事による不具合ではないかと推察していた。その後、担い手であるヴィットーリオに召喚された際は容姿の変化が起こらなかった事から自らの推察への確信を深めたセルであったが、ティファニアによる召喚が彼の説を否定する結果となったのだった。さらに追い打ちのように、姿の違う自分に全く変わらずに懐いてくる幼子達。

 

 

 (幼少期の純粋さと無知とが、危機的状況に晒された事で正確な状況把握を阻害したか)

 

 

 セルは召喚者たるティファニアの反応を探る為に、あえて曖昧な言動を取った。

 

 

 「フフフ、この私が来たからには何の心配もいらない」

 

 

 自らにしがみ付く子供達を両腕と尾を使って抱き上げるセル。子供達は喜びの声をあげる。

 

 

 「……あなたは『セル』、よね?」

 

 

 おずおずセルと子供達に近づいたティファニアが自信なさげに訊ねる。

 

 

 「いかにも私は、セルだ。はじめまして、召喚者殿」

 

 

 「うーん、まあ、そう、うん。『今』はそれでいいわ、セル。私はティファニア。これからもよろしくね」

 

 

 (私『達』が分身体である事を看破したとは思えんが、拭えない違和感を感じているといったところか)

 

 

 セルにとってはティファニアと子供達の反応以外にも懸念点があった。

 

 大降臨祭の折、港湾都市ダータルネスにて密かに開かれた、ロマリア連合皇国を除いた主要諸国会議である。『ルイズ・セル』と『イザベラ・セル』に加え、『ゲルマニア・セル』もその場で姿を見せていた。『第一成体』の姿で。

 

 

 (肉体の変化については、ルイズやイザベラにも言及してはいない。元より『真のセル』を目指す我々だ。特に問題はないはずだが、さて)

 

 

 その時、ティファニアがさらにセルに近づく。

 

 

 「えーと、契約、いい?」

 

 

 「承知した」

 

 

 抱え上げた子供達を慎重に下ろし、その場で跪くセル。ティファニアがコントラクト・サーヴァントを詠唱する。

 

 

 「我が名はティファニア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

 

 僅かに震えるティファニアがセルに接吻する。何人かの子供達が赤面しつつ顔を背ける。中には興味津々に見守る、『ませた』子もいた。やがてセルは自身の胸に熱を感じた。その逞しい胸板の中心にルーンが刻まれる。

 

 ここに『四体の長身異形の亜人』が『四体の虚無の使い魔』となったのである。

 

 本体である『ルイズ・セル』は『神の左手・ガンダールヴ』としてあらゆる武器や兵器を自在に操る能力を持つ。セルにとっては自身の肉体こそが究極の兵器である為か、分身体のセルに比べると『気』の絶対量が僅かながら上昇していた。分身体の一体である『イザベラ・セル』は『神の頭脳・ミョズニトニルン』としてあらゆる魔道具を自在に操り、無数の知識に通じる能力を持つ。さらにセル自身の『物質出現術』を組み合わせる事でハルケギニアの魔法的常識を遥かに逸脱した魔道具を無尽蔵に作成可能であった。同じく分身体である『ヴィットーリオ・セル』は『神の右手・ヴィンダールヴ』として幻獣に限らず、ヒト種を含むあらゆる生物を自在に操る能力を備える。そして、『ティファニア・セル』は『神の心臓・リーヴスラシル』として自らの『気』を魔力に変換。担い手に限らず、自らが選ぶ全てのメイジに無尽蔵の魔力を供給可能である。ちなみに本来であれば、その名称すらも秘された『リーヴスラシル』であるが、『イザベラ・セル』が『ミョズニトニルン』となった時点で、全てのセルがその知識を共有していたのだった。

 

 

 「はあ、とうとうやっちまったね、テファ」

 

 

 深いため息をつきながら、フーケことマチルダ・オブ・サウスゴータがティファニアに歩み寄る。

 

 

 「あ、姉さん、ごめんなさい。ほとんど相談もしないで決めてしまって……」

 

 

 「なに言ってんだい、昔っからこうと決めたらテコでも動かなかったあんたじゃないか」

 

 

 「姉さん」

 

 

 「……あんたの好きにやりな、テファ。あたしに出来るのはあんたの覚悟を一番傍で見守る事だけだからさ」

 

 

 「……うん、ありがとう」

 

 

 背後から近づいてきたフーケに振り返りながら答えるティファニア。二人の表情は、セルからは見えない。二人の間で交わされたアイコンタクトも見えていない。少なくとも二人はそう考えた。そして長身異形の亜人も思考する。

 

 

 (ふん、随分としおらしい事を云う。フーケよ、お前と子供達にはまだ役割がある。その時までせいぜい懊悩するがいい)

 

 

 (やっぱりテファもあいつには違和感を感じていたみたいだねぇ。四体の長身異形の亜人、互いを不倶戴天の敵とみなしている、だって? 本当にそうかい?)

 

 

 (姉さんも気付いたみたい。確かに私が召喚した『セル』は、私たちと過ごした『セル』とは違う。でも、やっぱり『セル』なんだわ。詳しい事は何も解からないけど。今は戦争を何とかしないと。私と、ううん、私達とセルならきっと何とかできる)

 

 

 三者三様の考えに耽る中、周囲ではラーイドやルクシャナ達が、セルの念動力を受けたまま放置されていた。

 

 

 「あ、それじゃ、セル? エルフの人達を自由にしてあげて」

 

 

 「承知した。だが、その前に」

 

 

 セルが右手を軽く振る。

 

 

 ババシュ!!

 

 

 空中に静止していた光弾が瞬時に消滅する。再度、右手を振るセル。

 

 

 ズガズガズガズガン!!

 

 

 今度はゴーレムが次々と衝突を繰り返し、十数体のゴーレムはひしゃげた団子状態と化した。それらをごく短時間観察するセル。

 

 

 (六千年前のハルケギニア、いやアルケイディア大陸だったか。あの時遭遇した異常な防御力を備えていたゴーレム軍団『ヴァリヤーグ』。このゴーレム共は、その残党だとでも言うのか? ブリミルとサーシャの話では『ヴァリヤーグ』は『漆黒の弦月』から稼働エネルギーを供給されていたという。あの人工天体が次元の狭間に消えた以上、『ヴァリヤーグ』は稼働できないはず。現在のハルケギニアやネフテスの技術でも模倣は困難……む?)

 

 

 その時、セルに念話が届く。他の分身体からではない。セルの『息子』達からであった。

 

 

 (……ほう、エレオノールが地下の大陥没を発見したか)

 

 

 セルはかねてから、ハルケギニア大陸の地下に拡がる魔法鉱石の鉱脈が食い荒らされるかのように消失している事を把握しており、自身の息子達である『セルジュニア』を各地に派遣していた。その内の一群がトリステイン王国領のノルパド鉱山内の陥没を調査中に、同じく調査に訪れていたヴァリエール公爵家の長女エレオノールとの邂逅を果たしていた。さらに鉱脈消失の要因と思われる超巨大な触手と接触。エレオノールを伴い、追撃中との事であった。

 

 

 (サハラ砂漠の『聖地』から放射状に拡がる大陥没。その中心部から侵攻していた巨大な触手)

 

 

 長身異形の亜人の脳裏に閃くものがあった。六千年前へのタイムトラベル。始祖ブリミルを名乗る地球の少年、平賀才人と初代ガンダールヴにしてエルフ氏族の姫巫女サーシャとの邂逅。その最終局面において、セルは『漆黒の弦月』に強大な気功波を放ち、下部構造体の一部を地表に落着させていた。

 

 

 (あの時の構造体がもし、現在まで稼働していたとすれば、説明はつく)

 

 

 亜人はほくそ笑む。

 

 

 (エルフ共もそう長くは持つまい。いずれはハルケギニア各国で共食いでもさせるかと考えていたが)

 

 

 遥かな歴史の彼方から蘇った始祖ブリミルの真の怨敵、『ヴァリヤーグ』軍団。

 

 

 (締めくくりとしては、悪くない)

 

 

 ビシュッ!

 

 

 『精霊救済戦争』後について思考を巡らすセルは超高速移動によって操舵室から後甲板へ移動し、自らの念動力で団子状態のゴーレムを下降させる。その遥か先にはゴーレム達、『ロボット兵』が発進した偽装格納庫が存在していた。セルは自身の右手、三本ある指の内、中指に『気』を集中させる。

 

 

 そして、中指を天に向けて突き上げた。

 

 

 クンッ

 

 

 ズァオ!!!

 

 

 団子状態のゴーレムを巻き込み、偽装格納庫の周囲数百リーグが瞬時に微塵と化す。かつて、地球という惑星に襲来した異星人の一人、ナッパが使用した『ジャイアントストーム』である。本来は自身の周囲あるいは前方に破滅的破壊を齎す気功技だが、セルは改良を加え、大幅に射程距離を伸ばしていた。

 

 凄まじい爆風が『ウプウアウト』号に到達するが、セルのバリアに阻まれ船体はこゆるぎもしない。それとほぼ同時にエルフ達の拘束が解かれる。

 

 

 「ば、馬鹿な、『精霊石兵器』でもこんな破壊は……」

 

 

 「こ、これが『悪魔』の力……」

 

 

 「お、大いなる意思よ、ご加護を……」

 

 

 ネフテス軍でも選りすぐりの精鋭で構成されたビダーシャル直属の諜報班も、セルの圧倒的な力の前に恐慌寸前の状態だった。ある程度は承知していたはずのルクシャナとアリィーも体の震えが止まらない。

 

 

 (や、やっぱり『アルアンダルス』なんて、やるべきじゃなかったんだ)

 

 

 (ヴァリヤーグすら問題にもならない。『悪魔』、ううん、そんな次元ですらないわ。一体、あの亜人は……)

 

 

 

 

 

 

 「あの、ラーイドさん。お願いがあります」

 

 

 他の士官達と同じく茫然自失となっていた『ウプウアウト』号の責任者ラーイドに、セルを従えたティファニアが話しかける。

 

 

 「て、ティファニア様?」

 

 

 「ラーイドさんに命令をした、エルフの偉い人に私達を会わせてほしいんです」

 

 

 「な、何故そのような事を……」

 

 

 「分からないのか? 主の御心が」

 

 

 困惑するラーイドにセルが答える。

 

 

 「我が主におかれては畏くもハルケギニアとネフテスの全面戦争を甚く憂いておられる。このまま状況が推移すれば遠からず、ネフテスはおろか全エルフ氏族が絶滅の憂き目を見ることになるだろう。だが、そのような結末は主の御心に沿うものではない。故に『虚無の担い手』にして、この私『セル』の主たるティファニア・ウェストウッド御自ら和平交渉仲介の労を厭わぬとの仰せなのだ」

 

 

 「もう、セルったら! そんなに仰々しく言わないで。私はただ、少しでも助けられる命があるなら助けたいだけ」

 

 

 「無論だ、我が主よ」

 

 

 「おお、ティファニア様、なんという気高き御心を……」

 

 

 ラーイドはまるで教祖を目の前にした信者の如き崇拝の眼差しをティファニアに向けていた。後方から眺めるルクシャナが僅かに顔をしかめる。

 

 

 (ライード老はもうすっかりあのハーフエルフにとりのぼせちゃっているわね……まあ、あの亜人の絶対的な力も見せつけられちゃっているから無理もないけど)

 

 

 セルがヴァリヤーグの集団とその拠点を一瞬で破壊した力は、エルフが知る最大の破壊力を備える『精霊石兵器』すらも超越していた。ルクシャナはさらに思考する。

 

 

 (でも、悪い話じゃないのかも。あの亜人はともかく、ティファニアって娘に嘘は無いように思う。叔父様とあの娘が交渉役になれば、蛮族側も無視はできないはず。こちら側としては……)

 

 

 ルクシャナの表情に僅かな変化が現れる。長年を共に過ごしたアリィーだけがその変化に気付いた。

 

 

 (ルクシャナ……よくない事を考えているな)

 

 

 (あのいけ好かないエスマーイルとその取り巻き共には戦場で消えてもらわないと、ね)

 

 

 この時、ルクシャナは自身が知り得る限りの『災厄撃滅艦隊』と『アルアンダルス』に関する情報を蛮族域である『ハルケギニア』へ漏洩させる事を決意していた。

 

 

 




第七十七話を投稿いたしました。

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