邪神討伐後の世界でユグノア国王として色々苦労してる主人公をベロニカがデートに誘うだけのお話
「勇者とは孤独なものだ」
イレブンが最初に古代図書館を訪れた時、偶然に手に取った勇者ローシュの手記にその一文を見つけた。伝説の勇者の書いたものが今でもまだ残っているのは驚きだったが、流石に長い時を経て紙はボロボロになっており、内容のほとんどは読むことが出来なかった。しかしその一文だけははっきりと解読出来た。そしてその時はまだ、その言葉の本当の意味はイレブンには良く分かっていなかった。確かにイレブンも「悪魔の子」などと呼ばれ、故郷の村を焼かれて追われた身だ。しかし今は多くの仲間に囲まれて旅をしている。幸いにして、寂しいとか孤独だとかはあまり感じたことがない――その時は、そう思っていた。
魔王ウルノーガが復活し、激しさを増す戦いの中で、この言葉は身に染みてよく分かるようになってきた。勇者はパーティの要でありリーダーだ。しばしば冷徹な決断を強いられる。たとえば魔物の攻撃で複数の仲間が傷ついた時、誰から治療をするのか。パーティ全体のリソースを考えるとすぐに全員を回復できるとは限らない。それはつまり血を流し悶え苦しむ仲間を放置することを意味する。時には誰かを捨て石にするような作戦も立てなければならない。いくらザオリクがあるとはいえ、仲間を死なせてしまった決断の重さはイレブンの両肩にのしかかってくる。もちろん仲間のみんなは的確なアドバイスと優しい言葉で少しでもその重さを分かち合おうとしてくれる。しかしどんな時でも最終判断はイレブンの責任なのだ。そしてその責任の重みの先にはパーティ全員の命だけでなくこの世界に暮らす全ての人々の命がかかっている。ラムダの里の木の下で見つけたベロニカの亡骸の浮かべていた表情は片時もイレブンの脳裏から離れなかった。その表情が穏やかだったのがせめてもの救いだが、もう二度と誰かを犠牲にするなんてことはしたくない。イレブンは人とは違う荷物を持った者の孤独を日に日に感じるようになっていった。
魔王を倒した後、忘れられた塔から過ぎ去りし時を求める旅に出てからは、さらにその思いは増していった。魔王復活後の世界から時を超えてやって来たという誰にも話せない秘密を抱えた。魔導士ウルノーガと邪神ニズゼルファを無事に倒し、世界に真の平和を取り戻した時に初めて、イレブンは心の底から満たされたと感じた。しかし意外にも、その後のイレブンはまた新たな苦悩を抱え込むことになった。ユグノア王国の復興。イレブンに課せられた新たな責務は、魔王や邪神との戦いとは全く性質の異なる難しさがあった。物理的な施設や建物の再建、国を運営する大臣や部下たちの人選、法律や税制の再構築。それら全部、今この世界を生きる人は誰も経験したことの無い大仕事だ。それらを一つ一つ地道に片付けていかなければならない。全てが手探り状態だった。もちろんロウの知恵を借りることは出来たが、それでも、特に学を積んでいる訳でもなく、イシの村でのんびりとした少年時代を過ごし、その後は冒険と戦いに明け暮れていたイレブンにとっては荷の重い仕事だった。国というのは複雑な一体のシステムとして運営されていて、それが倒れてしまった時に「せかいじゅのしずく」もベホマズンも無いのだ――そんなことをイレブンは嫌でも思い知らされた。
ある日、イレブンは朝の謁見の時間を終えていつものように執務室で書類の山と格闘していた。領地で事件が起こるなど必要があれば視察に出かけることもあるが、この時間は王の決定を求める様々な書類や陳情書に目を通し、まだまだ復興途中の王国で起こる様々な問題に頭を悩ませるのが日常だった。しかしこの日は侍従のノックの音でイレブンの思考は遮られた。イレブンに来客があるのだという。続いて案内されて来た客はイレブンにとっては見慣れた顔だった。
「よっ……イレブン。久しぶりね。いや、そうでもなかったかしら? とにかく、たまたま近くまで来たから寄ってあげたわよ。どう? 仕事の方は」
赤い三角帽子に赤いスカート。ブロンドの三つ編みに、子供のように小柄な容姿に似合わない大きな杖。イレブンと一緒に世界を救った仲間であり、かつてイレブンが時を超える旅に出る最大の動機にもなった少女、ベロニカだ。仲間達がユグノア城を訪ねてくるのは珍しくはなかったが……ベロニカが訪ねて来てくれる頻度は他の仲間よりも多い気がする。大体は他愛ない話やお互いの近況報告などで終わるのだが、この日は少し疲れがたまっていたせいか、いつも無口なイレブンにしては珍しく愚痴り気味にベロニカの挨拶にこう返すのだった。
「各国の援助のおかげもあって街並みはだいぶ整って来たけれど、中身の方はまだまだ…。一度いなくなってしまった商人や職人をもう一度育てて、国の産業として定着させるのは並大抵の労力では実現できないよ。ゴールド銀行は無利子でお金を貸してくれているけれど、まだ十分な税収もない中で返済資金をどう調達するのかもそろそろ考え始めないと……」
後半はほとんど独り言のように消えたイレブンの言葉を聞いているのかいないのか、ベロニカはイレブンと鼻と鼻がくっつきそうなくらいに顔を寄せてくる。イレブンの顔をまじまじと眺めているようだ。そこまで顔を近づけられると流石にちょっと恥ずかしい。口を開きかけたイレブンを制するようにしてベロニカはこう言った。
「イレブン、アンタ酷い顔してるわよ……。ちゃんと夜寝れてるの? 国の事を考えるのもいいけど、長い仕事になるんだから、休める時はちゃんと休んでおかないとダメよ。……そうだ!」
ベロニカは良いことを思いついたという顔をするとその場を離れ、部屋の入り口で控えていた侍従と何かを話し始めた。イレブンは働かない頭でそれをぼーっと眺めていたが、しばらくするとベロニカはイレブンの座る執務椅子のところに戻ってきた。
「アンタの部下とちょっと話して、今日この後のアンタの仕事は全部キャンセルにしてもらったわ……。書類仕事も、ランチタイムの有力貴族との会食もなし。今のアンタに必要なのは休息と気分転換よ。そうと決まれば、さあ、私と出かけるわよ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんな訳で、イレブンは半ば強制的に城を連れ出されてしまった。こういう勝ち気で突っ走るところは本当に昔から変わらないな、とイレブンは苦笑する。どこに連れて行かれるのかと思ったら、ベロニカからルーラで飛ぶように指定されたのは意外な場所だった。ネルセンの迷宮。かつてローシュとともに戦った戦士であるネルセンが自ら建国したバンデルフォン王国の地下に遺した迷宮だ。いずれ現れる邪神ニズゼルファ討伐に挑む者のため、ローシュゆかりの強力な武具がそこに置かれた。イレブンは邪神討伐前に「新生・勇者のつるぎ」のレシピを貰いに一度訪れたきりだったが、強力な魔物がうろうろしていてとてもピクニックに適した場所では無かったと思うのだが……。
「邪神を倒した後に一度この迷宮に来てみたのよ。魔物は出現しなくて嘘みたいに静まり返っていたわ。多分、迷宮に入る人に試練に挑む意思があるかどうかを読み取っていて、それによって迷宮の方が姿を変えるんだと思うわ。この迷宮の中だったら私以外の人はいないし、国王としての立場を忘れられるでしょ?」
なるほど確かに、有名人のイレブンが街中を普通に出歩いたりするとちょっとした騒ぎになる。だから他の人がいないこの場所ということか。考えたものだ。迷宮の内部は、以前来た時と異なり始祖の森へと姿を変えていた。イレブンがこの森に来たのは過去に二回。一度目は、命の大樹にたどり着いた時に何が起こるのだろうという期待と不安で、二度目は、これから起こる惨劇を何としても防がないといけないという決意でイレブンの心は満たされており、景色をじっくり見る余裕などなかった。しかし改めて見ると、魔物のいないこの森は静謐で美しく、確かにピクニックにはぴったりかもしれなかった。
「ほら、あのあたりなんか眺めが良くて良さそうじゃない?」
しばらく歩いたところでベロニカが指さしながらそう言う。言うが早いかベロニカは草むらの上に敷物を広げ始めた。ベロニカはどこからともなく色とりどりの料理の入ったランチボックスを取り出し敷物の上に並べ始めた。
「ちょうどお昼の時間だったし、お城の厨房に立ち寄って今日のお昼ごはんのメニューになるはずだったものを詰めてもらったのよ。あたしの手作り料理じゃなくて残念だった? でも、今日は急な思い付きだったから仕方ないわね。今度機会があればごちそうしてあげるわ」
普段と同じ料理でも場所が変わればこれほど美味しく感じるのなのか。あるいはそれとも、食べる相手が変わったせいか……そんなことを思いながらイレブンは昼食を味わった。お腹が満たされて、森の綺麗な空気を肺いっぱいに吸うと、リラックスしたせいかイレブンはうとうととしてきた。目蓋が自然と落ちそうになる。その様子を見たベロニカはこう言うのだった。
「どうせ夜あんまり眠れていないんでしょ。ここでちょっと昼寝していきなさい!」
と言いながらベロニカは敷物の上に正座してドヤ顔で「ぽんぽん」と自分の膝の上を叩いている。膝枕で寝ろということらしい。いや……でも、ベロニカの見た目はまだ学校にも行き始めない年齢の子供だ。既に大人の、それもユグノア国王という立場もある自分が幼い少女にまるで甘えるような恰好で眠っているのは、どうなんだろう……。事案。スキャンダル。色んな言葉がイレブンの脳内を駆け巡るが、結局は眠気には勝てず、どうせこの迷宮には誰も来ないのだから良いだろうと思って、気付けばベロニカの膝の上に頭を横たえていた。
「おやすみなさい、イレブン。大丈夫、アンタが眠っている間はこのベロニカさまが守ってあげるわ。なんたってあたしはこう見えてアンタよりもお姉さんなんだから……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
不思議な夢を見た。イレブンとベロニカはどこかの荘厳な建物の中に二人きりでいた。それはもしかすると忘れられた塔の中だったのかもしれない。夢の中ではよくあることだが、イレブンは自分の意思とは関係なく喋っていた。イレブンはベロニカにある告白をしているのだった。それは、イレブンが墓場まで持って行こうと思っていた秘密のこと。ベロニカを助けるために時を遡ってきたことだ。イレブンは最初に命の大樹を訪れてから起こった出来事を訥々としゃべり続けていた。命の大樹でホメロスの裏切りにより敗れたこと。仲間たちは散り散りになったこと。魔王と六軍王との壮絶な戦いのこと。多くの人の死と苦しみを見て来たこと。ラムダの里で、ベロニカは魔王からイレブンを救うために力尽きていたことを知ったこと。魔王を倒してからも、片時もベロニカを忘れることは出来なかったこと――
話し終わると、ベロニカは黙ってイレブンの頭を胸に抱きよせた。夢の中なのに、少し熱いベロニカの体温と春の花のような香りをリアルに感じられた。ベロニカはしばらく無言で抱きしめ続けた後にこう言った。
「何となく、そんな気がしていたわ」
「命の大樹に向かう前のアンタ、ちょっと様子がおかしいというか、一瞬で何か大きな変化があったというか……。まるで悲しいものをたくさん見てきて、それを必死にこらえているような目をしていたから。それに、私も命の大樹に向かう前夜、とてつもなく嫌な予感がしてた。結局、その予感は外れたんだって思っていたけれど……。まさかアンタにそんな思いをさせていたなんてね」
「ありがとう。本当は私が背負うはずだったものまで、今までたくさん背負ってくれて。でも、安心していいわ。もう私はどこへも行かない。こうやってずっとアンタの隣にいてあげる。少しは肩の荷を下ろしてもいいのよ……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目が覚めるとベロニカの顔がすぐ近くにあった。変な夢を見ていた気がする。夢の中身を詳しく覚えていないけれど、なぜかイレブンは妙にすっきりした気持ちだった。ベロニカはイレブンが起きたのに気付くと、苦笑いしながらこう言った。
「イレブンったら、本当に良く眠っていたわよ。あまりに穏やかな寝顔だったから、起こす気になれなかったくらい。でも流石にそろそろ起きた方が良いわね。今から迷宮の奥に向かい始めれば帰る頃にはちょうど日が暮れるくらいになるわ。帰りもルーラじゃ味気ないでしょ」
ベロニカの膝の上に名残惜しさを感じながらもイレブンは立ち上がった。ベロニカと二人、始祖の森を散策しながら迷宮の奥へ向かう。この森はその名の通り、命の大樹から迸るエネルギーを世界で最初に受けた場所だ。ロトゼタシアの全ての生命の先祖を辿るとこの森に行きつくとも言われている。ロトゼタシアの他の場所では見られない、樹齢何千年を経てごつごつした奇妙な形に成長した樹々。赤、青、黄色、紫など、色鮮やかに発光する花や菌糸類。人の歩ける道を一歩でも外れると、地面全体が鬱蒼としたシダ植物に覆われており、植物の世界が人間の誕生以前の太古の昔から広がっていることを強く主張してくる。そんな大自然の雄大さに圧倒されてか、それともベロニカの膝枕で眠って睡眠不足が少しは解消したせいか、イレブンには自分の抱えていた悩みがちっぽけなものだったと思えてくる。過去に来た時は随分苦労して歩いた記憶のある道のりだが、邪魔してくる魔物がいないと早いもので、ベロニカと楽しくお喋りを過ごすうちにいつの間にか迷宮の最深部へとたどり着いていた。
「よくぞここまで辿り着いた、勇者よ……と言う台詞で迎えるのは、変であったかな。お前は邪神を見事に倒し、勇者としての役目を果たし終えたのだからな……」
最深部では、戦士ネルセン(が魂だけとなった存在)が、昔と変わらずに待っていた。もっとも、邪神亡き今となってはこの迷宮そのものも存在意義を失ったせいか、どこか所在なさげな様子で、台詞も締まらない感じになっていたが……。
「ネルセンさん! お久しぶりです。先日は武器のレシピをありがとうございました……」
形通りの挨拶から入ったイレブンとネルセンの会話は、世間話を経て、平和になった地上の国々の今の様子へと話題が移り変わっていく。ネルセンも自分や自分の仲間が建国した国々で今どのように人々が暮らしているのか、興味津々のようだった。
「……それでネルセンさん、こういう時はどうしたら良いと思います?」
「ふむ、やはり十分な税収を確保できるだけの国力を蓄えるのが先であろうな。しかし大商人が力をつけ過ぎるのは癒着の原因ともなる。奸臣が国を滅ぼした例は歴史上でも枚挙にいとまがない。国の中で誰か一人に権力を集中させ過ぎないよう、定期的な役職の入れ替えと、重要な役職に就く者の資質の調査の徹底を……」
「なるほど……」
いつの間にかイレブンの建国苦労の相談にネルセンが乗る流れになっているようだ。確かに、イレブンと同じ仕事を背負っている人はこの世にはいないので、同じ建国仲間であるネルセンとしか分かち合えない仕事の悩みというのはあるのかもしれない。イレブンとネルセンの二人は短い間でずいぶん打ち解けたように見える。男の人って何だかんだ仕事の話してる時は妙に生き生きしてるのよねぇ……とベロニカはその様子を眺めながら苦笑した。そうしているうちに、男たちの会話はまた違う方向に流れ始めた。
「そういえば、迷宮の試練って、まだ挑めるんですか? 当時は武器のレシピだけ貰って放置しちゃってましたけど……」
「それはもう出来ないようになっている。平和な世では大いなる力は存在するだけで争いのもとになり得る。この世界に邪神の気配がある時にだけ、試練の扉が開かれる仕組みにしたのだよ」
「そうなんですか……願い事を叶えてもらえる権利が今でもあるのなら、欲しかったんだけどな……」
それを聞くとネルセンはほう、という顔をする。
「邪神を葬り、伝説の勇者としての名声を得、一国の王となってもまだ私に叶えて欲しい願いがあるか……大体のことは自力で叶えられるのではないかと思うが……。私にかつてのように願いを叶える力はないが、まだもう少しだけ蓄えていた力がある。お前にその気があれば聞くだけでも聞いてみるから、言ってみてはどうだ」
「はい。では……だいぶ街の復興は進んで来たとは言え、まだまだユグノアでは住むところのない人や仮住まいの人たちもいます。みなが住めるだけの数の頑丈な家が欲しいです。食料も十分に行き渡っていないけれど、畑を耕す道具が足りないんです。十分な数の農具と馬が欲しいです。やくそうとどくけしそうも大量に必要です、病気の人へ治療も行き届いていないから。それからあと、道や施設を整備する資材も足りていないから石材や木材、各種材料も……」
まだまだ言葉を続けようとするイレブンをネルセンは苦笑いしながら制した。
「おいおい、私を買い被り過ぎだ。流石にそんなに何でもかんでも叶えられん。それに、それらは全部お前の願い事ではなく、国王としての願い事ではないか。仕事熱心も行き過ぎは感心せんぞ。もっとお前の個人的なことを願え」
「個人的なこと……?」
イレブンは虚を突かれたような顔になる。しばしの沈黙ののちに、ネルセンが再び話し始めた。
「まるで個人的な願いなど考えたことが無い、という顔だな。それでこそ勇者、と言いたいところだが、今のお前はもはや勇者ではないのであろう。あまり自分自身をないがしろにし過ぎるのは感心せんな。どこかお前の表情も疲れているように見えるしな……。そう、今のお前が願うべきは『幸せになりたい』であろうな」
「……幸せ?」
「お前は世界の全ての人を救った。その者らがその生を今後どのように生きるか、幸せになるかどうか、それは彼らの問題だ。お前は誰よりもまず自分の幸せを願うべきだ。何しろ世界を救ったのだからな、それくらいは願う権利があると思うぞ。それに、国王たるもの、まず自分が笑顔でなければ国民は笑顔には出来ん」
「幸せ、と言われても……具体的に何をすれば……」
「それを私の口から言わせるか……。ふむ、幸せの形は人により色々ある。全ての人にとってそれが幸せだと言うつもりはないが、たとえば大切な人と結ばれるのは一つの幸せの形であろうな。……コホン! イレブンよ、これは人生の先輩としてアドバイスしておくが……、二人でデートに来て膝枕してもらうほどの仲でありながら、いつまでも関係をはっきりさせずにおくのはあまり褒められたことでは無いと思うぞ?」
そう言うとネルセンは意味深にイレブンとベロニカの二人を交互に見る。そうか、ここはネルセンさんの試練の迷宮の中だから、僕たち(私たち)のしてたことも全部ネルセンさんに見られてたんだ……そう気づき、イレブンとベロニカの二人は揃って顔を赤くする。二人の間に一瞬気まずい沈黙が流れるが、やがて意を決したように口を開いたのはイレブンの方だった。
「あっ、あのっ! ベロニカ! 今ネルセンさんが言ったこと、じ、実は僕も思っていて……。何だかこんな流れで言うのは恥ずかしいけれど、でも本当の気持ちなんだ。僕はベロニカと一緒ならきっと幸せになれると思っている。それに、ベロニカのこと、大切に思っている。君のためならば全てを捨てて、時空の果てにまでだって行けるくらいに……」
「ちょ、ちょっとアンタ!? よく恥ずかしげもなくそういう台詞を堂々と言えるわね!? でも、しょ、しょうがないわね…。まあイレブンは勇者の時でさえ頼りなかったんだから、勇者でなくなったなら、なおさらこのベロニカさまがつきっきりでついて守ってあげないとね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから程なくして、イレブンとベロニカとはイシの村での休暇を経た後、ベロニカを正式にユグノア王妃として国に迎え入れるべく、城での結婚式を挙げた。復興間もないユグノアの財政では盛大に式を執り行うことは出来なかったが、贅は尽くさなくても工夫を凝らして国中を楽しませた。そして誰よりも幸せそうだったイレブン王とベロニカ王妃の姿は、復興の苦難の道半ばにあったユグノア国民に希望を与え、この結婚式はロトゼタシア中の人々に後世まで語り継がれ続けたという。