お盆ということで、無題のスピンオフを書きました。
1.5部の#15と#16の間辺りのエピソードになります。
「またか」と思う方もいるかもしれませんが、どうかお付き合い下さい。

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無題奇譚外伝 ~The Day of Festival of the Dead~

城南大学の夏休みに入って数日。

俺、泊亮一は地元・松ヶ崎町に帰省していた。

この帰省にあたり、俺はどうしてもやりたいことがあった。

「なあ、ちとせ。明日の午後、時間あるか?」

『え?特に予定はないけど‥、どうしたの?』

「少し‥、付き合ってほしいんだ。」

 

翌日。

俺はちとせと共にとある場所に向かっていた。

「ねえ、いい加減どこ行くのか教えてくれたっていいでしょ!」

「現地につくまでのお楽しみ、ってヤツだ。」

「もうー!」

 

歩いて向かった場所に、ちとせは驚いたようだった。

「え、もしかしてここって‥。」

「ああ。L.D.研究所跡地、異能夜行の戦場跡地だ。」

「なんで、ここに‥?」

「お盆の時期だからな。‥光と日向、つばめたち皆を悼もうと思って。」

彼らの遺体はない。正確に言うと、光の遺体は木っ端微塵になり、つばめの遺体は春風郭公が、日向の遺体は苛内が持ち去った、らしい。伝聞だから確証はないが。

なので、3人の墓はない。だから悼むとしたら、ここに来るしか思いつかなかった。

「そういうこと、か。でもお盆ってさ、ご先祖様を悼むものなんじゃ?」

「地域によっては、ご先祖様に加えて、大戦で亡くなった親類縁者を悼むんだとさ。」

「そうなんだ。‥私たちにとっては、逆浪君たちも親戚みたいなものだものね。」

「ああ。」

ちなみにだが、「皆」と言ったのには理由がある。

彼ら3人だけでなく、螺鈿會との戦いで亡くなった裏の世界の人たちも悼むつもりだからだ。

その中の1人、霧風才斗は人助けを始めてすぐの頃会ったことがあった。茨羽さんが裏の世界の人たちを連れて螺鈿會に来たときに、その中に彼の顔を見つけたときは驚いたものだ。

まあ、向こうが気づいていたかどうかはもう知る由もないんだが。

 

持ってきた線香の束から2本を取り出し、ライターで火を付ける。

火は間もなく消え、煙が細く棚引くのみになった。

手を合わせようとしたところで、聞き覚えのある声が響いた。

「泊さんに、高凪さん?」

「マスター?」「それに、葉月さん?」

車椅子に乗ったマスター=夢羽と、それを押す木野がいた。

「2人とも、こっちに帰ってきてたんですか?」

「すまん、明日顔を出そうと思ってたんだが‥。」

「折角お盆の時期ですから、みんなを悼もうと思って‥。」

「私たちと一緒だったんですね。」

「あ、後の人たちも来ますよ。」

マスターが示した先には、見知った皆さんがいた。

「泊君に高凪さん、君らも来てたのか。」

「茨羽さんと陽香さん、それに夜月さんと亜美さん。お久しぶりです。」

茨羽さん夫妻とは度々会っていたが、夜月さんたちに会うのは本当に久しぶりである。

「茨羽たちからあいつらを悼むって聞いてな、山から下りてきた。」

そう言って、夜月さんは楽しそうに笑った。

「あれ、無銘さんは‥?」

「ああ、あいつなら少し遅れるって言ってたが‥、ほら、あそこだ。」

茨羽さんが示した先には、子供を腕に抱えた無銘さんがいた。

「悪い夜月、茨羽。ちょっと遅れ‥、泊君?高凪さん?君らもか。」

「無銘さん、お久しぶりです。あの、もしかしてその子って‥。」

「知ってたのか?」

 洞ノ院のニュースは東京でも伝えられた。一時期螺鈿會にいた俺たちは、螺鈿會の関係施設の一つとして洞ノ院の存在を聞いたことがあった。

「はい、東京でも少しニュースになってたので、気になって茨羽さんに伺いました。」

「そうか。その通り、この子だ。」

「そういえば、暁月さんとイアさんは‥?」

「あー、あの2人は来られないって。代わりにこれが届いたぞ。」

そう言って、綺麗に纏められた花束を掲げる茨羽さん。

みんな、想いは同じのようだ。

 

「さて、じゃあ始めますか。」

1人ずつ、2本の線香に火をつけ、煙を生じさせる。

計18本の線香が、もういない者たちを迎えるように、煙を高く上げていた。

「では、皆を偲んで、黙祷。」

茨羽さんの号令で、俺たちは一斉に黙祷をした。

 

―俺たちは、彼らの死に際し、何も出来なかった。

その事実は、きっと一生、俺たちをむしばみ続けることだろう。

しかし、幾ら泣こうが喚こうが悔やもうが、彼らが戻ることはない。

ならば、俺たちが出来ることは決まっている。

彼らの想いを、生き様を、忘れないことだ。

彼らは間違いなく、血と涙で彩られたこの世界に生きていた。理不尽な運命に、圧倒的な力に翻弄されつつも、それでも生きていた。

そんな彼らを、俺たちは忘れてはならない。

そして、彼らの想いを無駄にしないために、俺たちに出来ることは何なのか。

それを考え、そして実行する。

それが、生き残った俺たちの、未来がある俺たちの、責務なのだと、俺は思う。

 

手を合わせたあと、久しぶりに全員で雑談に興じることになった。

「折角だし、このまま夢羽ちゃんの喫茶店行かねえ?」

「お店は今日臨時休業にしてあるので大丈夫ですよ。」

「ようし、行こうか!」

「「「おー!」」」

そんな流れで喫茶店に向かおうとした俺は、誰かの気配を感じ振り返った。

しかし、そこにはやはり誰もいない。

「泊君、どうしたの?」

「いや‥なんでもない。」

「変なの。さ、行こ!」

 

お盆は、死者が現世に帰ってくると伝えられている季節。

俺はオカルト的なものは信じないが、それでもこの日。

 

――――みんな、ありがとな。

――――見守ってるからね。

――――ありがとうございます。

――――アイツらのこと、頼むぞ。

 

彼らが、そこにいたように、俺は感じた。

 


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