※起承転結の起までしか思いついていないためチラ裏公開
文字を読むタイプのオタクではあったけれど、異世界がどうとか令嬢がこうとか、異世界転生した悪役令嬢がどうこうみたいな小説はほとんど読んでこなかった。
商業作家じゃない素人仲間が書く文章なら、一次創作より二次創作の方が好きだった。
一次は一次で素晴らしいと思う。新しい世界を一から作り出すなんてすごい。ただ私は、偉大な原作を皆で共有して、IF展開を考えたり、オリキャラを出してみたり、それを見せ合ってわいわいしてる、みたいなのが好きだった。
それに、私の生前に流行りまくっていた異世界転生ものは、見るたびに「どうして元の世界に戻りたいと思わないんだろ」と思ってしまって気が散って読めなかった。
多分探せば、元の世界に戻りたがってる転生ものもあったんだろうとは思う。私の観測範囲に入ってなかっただけだろう、そもそも探していなかったから。
支部とかハーメルンで皆の小説読むの、楽しかったな。
検索欄に「users」って入れたり、平均評価8以上の赤いバーのやつから読んだりして。
死ぬ直前にハマってたNARUTOは人気作で小説の母数もすごく多かったから、そういう贅沢な読み方ができた。
そうこうしてるうちに大病患って死んだんだけど。
ショックだったな、なんか最近身体がおかしいぞと思って病院行ったら「お前、余命一年な」って言われたの。
それまで病気らしい病気したことなかったのに。「ドラマかよ」て思ったもんな。
親は泣くし、友達も泣くし、やっとできた会社の部下も泣くし、私自身は当然泣きたいし、泣いても治んないし。
だけど死ぬとき、あんまり怖くなかった。
未練だって後悔だってたくさんあったけど、それでも、悪くない人生だったと思えたからだ。
もう一回遊べるドン! て神様的な存在に言われたとしても「いえ結構です」と返すくらいには、私は私の人生に満足して死んだ。
轢かれたら転生できるらしいトラックに正面衝突されるでもなく、私は普通に、病院のベッドで息を引き取った。そのはずだった。
なのにどうして。
どうして私はここにいるんだろう。
「────板間。なあ、オレと一緒に茸狩りにでも行かないか」
おかっぱの少年が、気づかわし気に私に────『オレ』に声をかける。
彼のことを知っている。
千手柱間。木ノ葉の里の初代火影になる男性。今はまだ十歳の子どもで、弟である私を、オレを気遣って声をかけてくれている。
彼だけじゃない。もうふたりの「兄者」の千手扉間も、千手瓦間も、常に鬱々としているオレを気遣って、口に出さなくてもずっと見守ってくれている。
でも、ごめん、違うんだ。
あなたたちの弟は私じゃないんだよ。
望んでもいないのに、乗っ取ってしまったんだ。
私の心は千手板間じゃない。
平成に生まれて令和で死んだ、平凡な、でもそれなりに頑張ってた、社会人の女なんだよ。
多分私は気が狂っている。
どこかで見たような剣と魔法の世界とか、無能な王子に追放されるお嬢様とか、そういう世界観ならよかった。知らない世界ならよかった。知らない世界で知らない人として生まれて、それでこの記憶があったなら、私には前世の記憶があるんだ、特別なんだとはしゃげたかもしれない。
けどさぁ、これは、違うじゃんか。
千手柱間も、扉間も瓦間も、キャラクターであって人間じゃない。ここは現実じゃない。漫画の中で人間は生きられない。「そういうの」は二次創作の中だけの話でしょう。
じゃあ私は誰なんだ? 「キャラクター」の弟で、漫画の世界の中にいる、私は何なんだ?
せめて一人の、ただひとりの「私」として生まれていたら。それならこの世界を現実として割り切って、生きていけたかもしれない。
でも私は千手板間だ。
NARUTOの、確か60巻とかそのあたりで、ほとんど描写されることもなく死んだ、千手柱間と扉間の幼い弟。
漫画の世界に転生して、漫画のキャラクターに成り代わって、現実感なんて欠片もないのに、私は生きている。
そんなことがあるはずない。
私は狂っている。
これは悪夢だ、狂ってしまった私の。
三十代で余命宣告されて、それがあまりに辛くて、おかしくなって見ている夢だ。
(ちゃんと、死にたかったなあ)
私こと千手板間、いや千手板間こと私だろうか。
本当の私とは、世界も、性別も、何もかもが違う彼に成り代わってしまった私は。
自分の正気も信じられないまま、『オレ』を見る『柱間兄者』に曖昧に微笑んだ。