日本 首都東京 総理官邸
「・・・如何やら、我々は事態を楽観視していたようだ。」
近藤からの報告を受け、総理官邸に集まった閣僚に対して武田は弱弱しく話す。
「いえ、総理は悪くないと考えます。地球の常識ではありえない事でしたから。・・・ですが、悩んでいる時間は我々にはあまり残されていません。早急に対策を取らないと、手遅れになります。」
「そうだな・・・。過去の過ちを反省するのは、全てが終わってからだな。」
「はい、では現在のカルトアルパス、並びにグラ・バルカス帝国の動きについてですが・・・。」
会議が始まり、防衛省を中心に今回の一件の説明が行われていく。
「カルトアルパスに入港していた大和擬きは、グラ・バルカス帝国代表団が乗り込んだ後、すぐに出港。既に神聖ミリシアル帝国領海外に退出したようです。ですが、大和擬きの出港に呼応して、アークバードが監視をしていたグラ・バルカス帝国艦隊が動き始めました。」
「例の空母機動艦隊か?その艦隊は、今どこにいるのだ?」
「今から二時間前に入った情報によりますと、神聖ミリシアル帝国領マグドラ群島へと向かったとの事です。」
「マグドラ群島?無人島ばかりの何もないところじゃないか?何か目的があるのか?」
「それが・・・、この群島、確かに無人島ばかりなのですがいくつかの島々に、カルトアルパス防衛用のミリシアル軍の防衛拠点があるのです。」
ミリシアル軍の拠点、その言葉を聞いた途端、武田の背中に冷や汗がブワッと出てきた。グラ・バルカス帝国がやろうとしている事を理解することが出来たからだ。
「・・・まさか、グラ・バルカス帝国の目的は、ミリシアル軍の拠点を破壊する事なのか!?」
「間違いないでしょう。更に現在マグドラ群島にはミリシアルの第零式魔導艦隊が滞在しています。この艦隊の撃滅も撃破目標に違いありません。」
宣戦布告と同時に世界最強の国の基地と艦隊を叩き潰す。
グラ・バルカス帝国の電光石火的な立ち回りに、誰もが唖然とする。
ふと、外務大臣の吉田が思い出したかのように話し出す。
「・・・あの、厳田さん。厳田さんはマグドラ群島の基地は、カルトアルパス防衛用のモノだとおしゃっていましたよね?」
「ええ、そうですが。何か?」
「いや、あの・・・。私は専門外の事であまりよくわからないのですが・・・。コレ、カルトアルパスへの強襲の下準備とも考えられませんか?」
吉田の言葉に厳田は顔色を悪くする。
「確かに考えられることですが・・・。いや、やるかもしれん!いや、絶対にやるぞ!!畜生、奴らの真の攻撃目標はカルトアルパスの各国の護衛艦隊か!?」
「な!?そんなバカな!?列強国の主要港と各国の艦隊を攻撃!?そんな事、有り得るのですか!?」
「いや、有り得るぞ。何しろ、グラ・バルカス帝国は列強国の一つ、レイフォル帝国を滅ぼしているのだからな。レイフォルを滅ぼしたことでこの世界の技術レベルの平均値を見抜き、上層部が他の国をも圧倒できると判断すれば、この有り得ない作戦を実行に移すかもしれん!」
「しかし、カルトアルパスには八咫烏率いる日本海上防衛軍第三護衛艦隊がいます!彼女達が抑止力となって中止するのでは?」
「逆に作戦上の不確定要素は、第三護衛艦隊しかないのかもしれない。報告によれば、うちとムー以外は帆船や外輪船ばかりだとの事だ。大体、作戦中止ならばマグドラ群島なんぞに向かわんだろう。サッサと自国に戻っているはずだ。」
「ですが、・・・・・。」
議論は白熱し、その声は次第に大きくなり廊下に響き渡るほどになる。
この喧騒を強制的に終わらせたのは、勢いよく扉を開き駆け込んできた防衛省の官僚だった。
「会議中に申し訳ありません!!アークバードより緊急報告!!マグドラ群島においてミリシアル帝国艦隊とグラ・バルカス帝国艦隊が戦闘を開始しました!!」
「何だと!?状況は!!」
「現在、両艦隊は同航戦を展開中!!両軍の航空機も交戦を開始したとの報告も上がっております!」
「絶賛交戦中か・・・。アークバードからの映像、この部屋のモニターに写せるか?直に見たい。」
「分かりました、2分程お待ちください。直ぐに準備します!」
防衛省の官僚が会議室のモニターに、アークバードの映像を映す為の準備を急ピッチで進めている中、厳田は口を開く。
「・・・総理、これは明確な侵略行為です。吉田さんがおっしゃっていたカルトアルパスへの攻撃も現実味を帯びてきました。今ここで悩めば、後手に回り要らぬ犠牲を生み出す事となります。直ぐにでも、第三護衛艦隊に戦闘態勢を取らせるべきです。」
「私も防衛大臣の意見に賛成です。この様な動きが確認された以上、グ帝の宣言は十分に宣戦布告と解釈可能です。手遅れになる前に、手を打つべきです。」
「・・・解った。先進11か国会議に於けるグラ・バルカス帝国の宣言を、我が国への宣戦布告として認定。グラ・バルカス帝国との戦争状態に入ったと解釈する。異論はないな?」
反論は誰の口からも出なかった。
その後、アークバードから映像を確認しながら、現地で起こりうるあらゆる事態を想定し、日本政府として今後の方針について話し合いを進めていった。
同時刻 神聖ミリシアル帝国領マグドラ群島沖合
「第四斉射、用意・・・。撃て!!」
神聖ミリシアル帝国が世界に誇る第零式魔導艦隊の艦隊旗艦を務めるミスリル級魔導戦艦コールブランドの艦橋では、艦隊司令のバッティスタが腕を振り上げながら艦隊の指揮を執っていた。
「敵弾きます!・・・全弾外れました!!」
「よし、此方はどうだ?」
「もう間もなく、着弾・・・。こちらも全弾外れました!!されど、敵戦艦を夾叉しました!次は当たります!!」
「いいぞ、照準そのまま!!黒煙を吐く優雅さのかけらもない愚か者どもに、我が神聖ミリシアル帝国の実力を焼き付けてやれ!!」
味方を鼓舞し、士気を高めるバッティスタだったが、内心には不安な事があった。
それは砲撃戦が始まる前に行ったジグラント2による航空攻撃の散々たる結果だった。
魚雷の存在しない神聖ミリシアル帝国において戦艦は航空攻撃では沈まないが定説であり、今回の航空攻撃も敵艦の損傷を狙ったものだった。
だが、その結果は悲惨そのものであり敵機に阻まれ、多数が敵艦への攻撃地点につくことが出来ず、辛うじて攻撃地点にたどり着いたジグラント2も敵艦の予想以上の対空攻撃に晒され、全機撃墜という神聖ミリシアル帝国の面目丸つぶれの事態となってしまった。
(やはり天の浮舟では、戦艦を沈めることは出来ない。海戦は砲撃戦によって決まる。この定説が覆ることはないだろう。・・・しかし、我が国自慢のジグラント2が手も足も出ないとは、グラ・バルカス帝国の実力は唯の文明圏外国ではありえないレベルだ。帰還したら、上に上申しなければならないな。)
グラ・バルカス帝国の予想以上の力に思考の海に沈んでいたバッティスタだったが、突然響き渡る爆音に思わす音のした方向に視線を向ける。
「ガラティーン被弾!!喫水線下を撃ち抜かれた模様!!」
「クソ!一世代前とはいえ、魔素による装甲強化されたゴールド級の装甲を貫いてくるとは!!敵艦の砲弾は我が国のモノと同等の威力があるようだな!」
「はい、科学文明とはいえ油断できぬ相手です。ですが、我らは世界最強の第零式魔導艦隊です。必ず勝ちます!」
「それは当たり前だ。重要なのは、被害をいかに抑える事と敵の情報を本国に持ち帰る事だ。・・・こちらの攻撃はどうだ!?」
「もう間もなく、第六斉射弾着弾します・・・。おっ!我が方の主砲弾、敵戦艦に命中!!敵戦艦、速力落ちます!」
「よし、よくやった!!手負いの奴から片付ける。砲撃を集中せよ!!」
「司令、敵小型艦が複数接近中!!如何いたしますか?」
「魔導巡洋艦と小型艦に迎撃を命じよ!懐に飛び込まれる前に撃滅せよ!」
双方ともに戦艦が一隻損傷し、互角に戦っているように見えるが実際にはグラ・バルカス帝国がある程度の余裕があった。何故なら、グラ・バルカス帝国はまだ本気を出していないからである。
ミリシアル最新鋭のミスリル級が互角に戦っているのは、グラ・バルカス帝国では旧式化しつつあるオリオン級戦艦であり、その他の艦艇も決して最新鋭とは言えなかった。
つまり、グラ・バルカス帝国は「手加減」をしていたのである。
そんなことは露ほども知らない第零式魔導艦隊は、深手を負ったオリオン級戦艦プロキオンに集中攻撃を加え、遂に息の根を止める事に成功する。大小20発以上の被弾を受けたプロキオンは、大爆発を起こし轟沈していった。
「敵戦艦、轟沈!!」
艦橋内に歓声が上がり、バッティスタも満足そうに頷いていた。
「思い知ったか、グラ・バルカス帝国め。このまま、もう一隻も血祭りにあげてやれ!!」
バッティスタが意気揚々と次の砲撃目標を指示した時、艦橋上部の見張り台から悲鳴のような声が上がった。
「海上に異常探知!!海の中を何かが進んできます!!」
「なに!?何かとはなんだ!?」
「白い線の航跡のようなものが・・・、ああ!!進路上にガラティーンがいます!!」
監視員からの悲痛な叫び声に艦橋内の目という目がガラティーンへと向いた瞬間だった。
浸水のせいで低速航行を余儀なくしていたガラティーンの舷側に、次々に大きな水柱が上がった。
グラ・バルカス帝国の駆逐艦が神聖ミリシアル帝国の猛攻に晒されながらも、命がけで発射した魚雷は水雷防御など全く施されていないミリシアル戦艦の船底に大穴を開け、ガラティーンに止めを刺す。
「ガラティーン、沈みます!!」
「ち、畜生!我が栄えある神聖ミリシアル帝国第零式魔導艦隊が、戦艦を喪失するとは!?」
バッティスタは自分の戦艦を沈められるという屈辱にまみれるが、グラ・バルカス帝国はバッティスタに屈辱に浸る時間を与えなかった。
「魔力探知レーダーに新たな反応!!グラ・バルカス帝国の飛行機械と思われる大編隊が多数艦隊に接近中!!数は、に、二百機以上!距離、50㎞を切っています!!」
「何だと!?クッソ、我々に追撃させないつもりか!?艦隊、対空戦闘用意!一機残らず、撃ち落としてやれ!!」
艦隊決戦から一時も置かずに差し向けられた新たなる攻撃に対抗する為に、第零式魔導艦隊は急ぎ対空戦闘態勢へと移行した。
グラ・バルカス帝国 東征艦隊旗艦ベテルギウス
「やれやれ、威力偵察のつもりがかなり手ひどくやられてしまったな。帰ったら、報告書作成が大変なことになりそうだ。」
自軍の被害状況を受けた艦隊司令アルカイドが嘆く。
そんなアルカイドをフォローしたのは、ベテルギウスの艦長を務めるバーダンだった。
「何をおっしゃいますか、アルカイド司令。この程度の戦力で異世界とはいえ、世界最強と言われた艦隊に立ち向かえと命じたのは、帝国監査軍司令長官のミレケネス様です。しかも敵の実力を測る為に多くの反対意見を押し切り、前時代的な艦隊戦を行えと命じたのも司令長官です。アルカイド司令には全く落ち度がないのは誰の目にも明らかです。」
「・・・うむ、すまんな艦長。・・・残りの敵艦隊は空母機動部隊の精鋭達に任せ、我々はグレート・ウォールとの合流を急ぐぞ。カルトアルパスに滞在する各国艦隊を撃破しなければならないからな。」
「了解、グレート・ウォールとの合流ポイントへ進路を取ります。」
北へと進路を取るグラ・バルカス帝国艦隊の頭上を、グラ・バルカス帝国海軍東方艦隊の空母機動部隊より飛び立った第1次攻撃隊200機が奇麗な編隊を維持しながら、通り抜けていく。
神聖ミリシアル帝国の最強艦隊を全滅させる為に・・・・。