デジモンサヴァイブの前日譚的なもの

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廃校にスマホだけ見つかるタイプの導入

 

三鷹スバルは物心ついたときから口と同時に手が出るタイプの少年だった。セキュリティに捕まり死にかねない拷問を受けてマーカーをつけられたわけでも、袖を破いた服でセキュリティ狩りをして、デュエッと叫んだりしたわけでもない。

 

ただレアカードを転売するやつを見かけたらルールを守って楽しくデュエルといいながら胸ぐら掴んで笑いながら揺さぶるタイプの少年だった。生まれる世界が違えばそうだったかもしれないくらいには選択肢として暴力がナチュラルにでる少年だった。

 

周囲はスバルに同情的だった。それがなおさらイライラさせたし、スカッとするために口実を探す羽目にもなった。生まれたばかりの弟と再婚相手の女性を実家まで迎えにいった実の父親が昨今話題の煽り運転に巻き込まれて死んだら、そうなるのも仕方ないのかもしれない。さすがに父親が死んだのに一緒にいるのも気が引けて、なかなか家に帰らず友達の家を渡り歩いていたら、父方の祖父に呼び出しを食らったのだ。

 

どうもスバルがこのままでは犯罪者になると未だに母さんと呼べない女性が泣きついたらしい。適当に覚えた喧嘩殺法なんて師範代の祖父にかなうわけもなく、そういうわけでスバルは都会からど田舎に島流しに遭い、夜遊びするくらいならと無理やり道場に入れられてしまったのだ。

 

祖父母と同居しはじめてもうすぐ1年になる。今から帰ると連絡するためLINEを開いたら、誕生日おめでとう。そろそろ一緒に住まないかというメッセージが目に入る。昨日のLINEを既読無視していることを思い出してイライラしていたスバルは、いつもならスルーするイザコザに顔を出すことにした。

 

「お礼参りなんてくだらねえことしてんじゃねえよ」 

 

高卒で就職するために取りまくっている資格試験の帰り道だった。すでにギコギコいっているお古の自転車をわざと音を立てて倒したスバルは、ギョッとする周囲をものともせずに向かった。被害者はでかいが見慣れない顔だ。この辺りは小中がひとつしかないため高校は推薦入試じゃなければ顔馴染みしかいない。加害者は古馴染みだが被害者は見かけない顔、なら中学生だろうか。それとも転校生か。

 

三鷹スバルだと気づいたのか、ろくに名前も思い出せない自称知り合いが正当性をうったえてくる。被害者の男子は中2で小5の妹がおり、知り合いの弟の同級生で転校生。ケモノガミがどうとか祟りがどうとか口走る不思議ちゃんで弄って遊んでいたらいきなり被害者が乗り込んできて流血沙汰になった。小5の弟を含む数人が何針も縫う大怪我をして病院送りになり、その報復にきたらしい。思わずスバルは笑った。

 

お礼参りといいながら、被害者の方が意外と激しく抵抗しているらしかった。暴言の数々を聞いてなかったらどっちが被害者か迷うところだ。この中学生、本気で人を殺すつもりで殴ったことあるな、しかも抵抗なく選択肢に入る頻度で。そんなことを思いながらスバルはいうのだ。

 

「じゃあなんで大勢で押し掛けてんだよ、あほらし。せめてタイマンだろ、中学生1人にどんだけビビってんだよおまえら」

 

さすがにカチンときたのかヘイトがこちらに向くのがわかった。あとはもう行き場のない想いから逃れるための暴力のはじまりである。

 

「......ありがとうございました」

 

スバルが高校生だとわかったからか、バツ悪そうに目を逸らしたまま意外と礼儀正しい声が聞こえてきたが、助けてなんていってねーのにと本音まで自転車を起こしていたらボソッと聞こえたのでスバルは笑った。

 

「俺いっつもこの時間帯に帰ってんだ。目立ってしゃーねーから嫌なら次からここですんなよ、カイト」

 

「......」

 

カイトは頭をかいた。お礼参りの暴言で連呼されていたことを思い出したらしい。スバルはそのまま、またどっか壊れたのか、いよいよチェーンが怪しくなり始めた自転車を押しながら帰路に着いた。農家によくある間取りの二階の一室に帰ってきたスバルはスポーツバッグを開けた。

 

「だーもー!!スポーツバッグまで雑におかねーでくださいよ、スバルの旦那ァ!!」

 

中から剣道の防具をつけた爬虫類が飛び出してくる。

 

「うっせえ騒ぐな、じいさんに聞こえたらどうすんだよ。ケモノガミってバレたらやべーんだから黙れ。つーかなんなんだよ、お前。いきなり」

 

「いやー俺が何者だって?興味もってくれて嬉しいなあ!!どこのどいつだか教えてさしあげやしょう。北方を司るシェンウーモン様一の子分にして丑の方角を守護するヴァジラモンたあ俺のことだぜ」

 

「嘘つけ、ヴァジラでググったらソシャゲの女の子しか出てこないじゃねーか!だいたいヴァジラって金剛力士ってでてきたぞ!?なんで牛なんだよ!!」

 

「そいつは当然だろう?なんたってデーヴァってのは十二神将から来てんだ。その板で調べてみなせい」

 

スバルはしぶしぶググった。

 

十二神将とは仏教における薬師如来を信仰する者を守護するとされる十二尊の仏尊である。このケモノガミがいう仏尊は梵語では伐折羅と書き、ヴァジュローマハーヤクシャセーナパティであり、訳すと「ヴァジュラ(という神格の)偉大なヤクシャの軍の主」、すなわち大夜叉将軍=神将と意訳される。元々は夜叉であったが、仏と仏法の真理に降伏し善神となって仏と信者を守護する。

 

十二神将は、薬師如来の十二の大願に応じて、それぞれが昼夜の十二の時、十二の月、または十二の方角を守るという。そのため中国や日本では十二支が配当された。

 

「つまり、俺は丑の方角を守護してっから

ヴァジラモンなのさ」

 

「いやだから、そもそもお前牛ですらねーじゃん。どっちかってーと爬虫類じゃん。なんか剣道の防具つけてっけど。これで牛は無理あるだろ、だまされねーからな!?」

 

「俺の目をしっかりと見とくれよ、スバルの旦那。嘘をついてるように見えやすか。俺はマジなことしかいいやしねえよ。頼む、この通り、お願いしやす。俺を信じてくれ、この通り!」

 

「それが人に物を頼む態度かよ。面とれ、面。防具つけたままお願いする奴があるか。俺の焼きそばパン食いやがって、この野郎。どうやって食ったか気になりすぎて夜も寝れんわ!」

 

「それだけは勘弁してくだせえ、スバルの旦那!必死こいて記憶引き継いで転生できたし、やっとのことで神と主の目を掻い潜ってあの世界から脱出できたんだ!ばれたらドエライことになっちまう!」

 

「つーかさあ......なにしにきたんだよ、お前」

 

はあ、とスバルはため息をついた。

 

「なにってスバルの旦那に遠路はるばる会いにきたにきまってるじゃねーかい。俺たちが眷属に勝てなかったのは写し身たる人間がいねえケモノガミだったからに他ならねえ。そしたら今回の転生で初めて俺に運命の人間が現れたってんだ、どんだけ嬉しかったと思ってんだい!!」

 

ばしばし足を竹刀で叩かれてスバルは痛いからやめろと取り上げた竹刀でしばき返した。

 

「あ、そうそう、今の俺はコテモンつーんでさあ、ヴァジラモンてことはくれぐれも内緒で頼んますどうぞこの通り!」

 

「いやだからなんでだよ」

 

いい加減頭が痛くなってきたスバルは初めから説明するようコテモンに促した。

 

「つまり、コテモンはシェンウーモンの任務でここにきたけど、敵のせいでこうなったと」

 

「そうでさあ。ああ、渡る世間に鬼はなし、ってのはホントだねい。捨てる神あれば拾う神もありときた。ありがてえありがてえ」

 

通学用に使っているスポーツバッグから飛び出したコテモンは、スバルの部屋のベッドに座る。道着をきているせいか正座が様になるデジモンである。

 

「つまり俺の世界とケモノガミの世界がやべーから助けてくれと。わかった、なんか面白そうだし、いいぜ」

 

スバルは笑った。

 

「ありがとうごぜえやす、スバルの旦那!パートナーってのはスバルの旦那みてえなお人をいうんでしょうね!あった瞬間にビビビッときたんだ、間違いない。俺は一秒でも早くもとの姿を取り戻さなくちゃなんねえってのに、右も左もわからねえときた。すまねえ、すまねえ」

 

「で、具体的に何すりゃいいんだよ」

 

「そりゃもちろん俺たちの世界に来てほしいんでさあ!!」

 

一方その頃。ミウにうっかりお礼参りのことを話してしまい、スバルにお礼がいいたいとしつこく言われたカイトは仕方なく同じ時間帯に待つ羽目になる。その日を最後にスバルは兄妹の前に姿を表すことはなかった。探し人求むと近くの掲示板に張り出され、カイトたちの顔が青ざめるのは1週間後のことである。

 

すぐに自分たちも後を追うことになるなど2人は知る由もないのだった。


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