エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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後日談

 

 とある国のとある街のバーの中で、店主は外で降り続ける豪雨を見て、思わずぼやくように呟いた。

 

「はぁ。こんなに降られちゃ、商売あがったりだな」

 

 その店主の言葉を示すように、豪雨による影響からか、何時もはそれなりにいるこのバーの店内は、店主しかいないような状況だった。

 

「もう、お客さんも来ないだろうし、今日は締めちまうか」

 

 店主がそう言って、閉店の看板を出そうとしたその時、カランカランと音を立てて、入口に備え付けられていたベルが鳴る。

 その方向へと目を向けると、外套に備わったフードを顔を隠すように深く被った、旅人と思われる姿をした人物がこちらに向かって歩いて来ていた。

 

「まだやっていますか?」

「ええ、ご注文はなんでしょう」

 

 店主はその者――声からして男が客だとわかると、客が来ないことでだらけていた態度を改め、愛想笑いをしながら、注文を取る。

 

「あまり詳しくないので、おすすめのお酒を一杯ください」

「おすすめを一杯ですね。つまみなんかも用意しますか?」

「お願いします」

 

 店主はお酒を男に出し、つまみを用意しながら、手持ち無沙汰となっている男の待ち時間を潰すために、男へと話しかける。

 

「お客さん、その服装からすると旅人でしょう? こんな豪雨の中、ここまで来るなんて大変でしたね」

「ええ、まあ、対策はあったので、それほどでも……」

 

 そう言って男は酒を飲む。

 店主が男の服装を改めて見てみると、この豪雨の中を歩いて来たとは思えないほど、その服装は濡れてはいなかった。

 

(魔法か何かで、水を防いだってところか?)

 

 店主はそんな風に考える。

 そして、同時にこの客に興味が湧き始めた。

 

(そこまで高度な魔法を維持し続けるとなると貴族の血統だよな……。そんな奴が身分を忍んで、どうしてこんなところまで旅人姿でやってきたんだ?)

 

 店主一人と客一人、つまみを出して、手持ち無沙汰になったのもあって、店主は自らの好奇心から、雑談を振るように男へと話しかける。

 

「何処へ向かう予定だったんですか?」

「この街に会いたい人が居るんです」

「へぇ……そうなんですか」

 

(この街を管理してる貴族に会いに来たとか? でも、それならもっと堂々と会いに来てもよさそうなものだけど……)

 

 店主がそう推理をしながら男を見ていると、酒を飲むときに不意にフードから出てしまった、男の銀色の髪が目に留まる。

 

「お客さん、その銀髪――」

「!?」

「もしかして、神聖シーザック帝国の人ですか?」

「ぶふっ!? げほっげほ……」

「大丈夫ですか!? お客さん!」

「す、すみません……」

 

 神聖シーザック帝国という言葉を聞いた瞬間に、男は動揺して口に含んでいた酒を吹き出し、そして気管に入ったのか咳き込んでしまう。

 店主は急いでおしぼりを出して、男が吹き出してしまったもので濡れてしまった場所を拭いていった。

 

「いきなり、その名前を聞いたものですから、つい……」

「マスターは厨二っぽいその名前を嫌がってもんね」

「ん? 今どこからか女の子の声が……」

 

 店主は、自分と客一人しか居ない空間で、居るはずもない若い女性の声が聞こえ、思わずそう言って周囲を見渡す。

 すると、男が誤魔化すように店主に言った。

 

「しかし、どうして俺が神聖シーザック帝国の者だと?」

「え? ああ、話に聞いたことがあるんですよ。神聖シーザック帝国の者は、人から神へ至った初代皇帝にあやかって、髪の一部を銀色に染めたり、あるいは銀色のアクセサリーを身につけることが多いって」

「……」

 

 そう言って店主は前に旅人から聞いた話を思い出しながら話す。

 

「ただ、調子に乗って髪の毛の全てを銀色に染めると、厳罰の対象になってしまうらしいですけどね。完全な銀髪は銀の神であるフレイヤフレイと、その子供である神聖シーザック帝国の皇家に許された特権らしいですから」

「……それは神聖シーザック帝国の勝手な言い分ですよ。銀狼族とか、神聖シーザック帝国の皇家以外にも、銀髪は存在していますからね」

 

 店主の言葉に男はそう反論する。

 

(この物言いだと神聖シーザック帝国の人ではないのかな……? 確かに銀狼族は銀髪だと聞くけど――)

 

 男の言葉に、店主は内心でそう思いながら、首を傾げた。

 

「あれ? 銀狼族もフレイヤフレイの子孫の一つですよね? 確か何百年も前の遠い昔に起こったこの世界の存亡巡る戦い、フレイヤフレイが人から神へと成り上がったその時代で、銀狼族の族長の娘が、フレイヤフレイにたらし込まれて、銀の鎖入りしたと、吟遊詩人が伝え継ぐ歌で聞いた事がありますけど……」

 

 店主はかつてこのバーを訪れた銀狼族の吟遊詩人が語るその歌を思い出した。

 自分達、銀狼族を差し置いて、銀の神になったフレイヤフレイに対して、銀狼族の娘が食ってかかり、フレイヤフレイと対立することになった。

 だが、その娘に対して様々な問題が降りかかり、その問題解決をフレイヤフレイが助け、一緒に数々の問題を乗り越えたことで、娘はフレイヤフレイに恋心を抱き、フレイヤフレイの恋人となるために銀の鎖へと入り、大恋愛の末に結ばれて幸せな時を過ごした。

 そして、やがて族長となったその娘は、フレイヤフレイとの子供を――神の血を継いだ子を沢山産み、そしてそれが今の銀狼族の本流になったと。

 

 そんな一人の少女の恋物語が、数々の問題を乗り越える波瀾万丈な展開と共に、ハラハラドキドキする人気の物語として、銀狼族では語り継がれているのだ。

 

「たらし込まれて……そんなまるで俺が相手を誑かしてものにしたみたいな悪評が……むしろ襲われたのはこっちなのに……」

「敵対関係にあった貞淑な少女を、自らの身を捧げるほどに、恋心でメロメロにして落としていたのだから、たらし込んだのは間違いではないのでは?」

「……」

 

 店主の言葉に納得いかなかったのか、男が小声でそう呟くが、直ぐさま男にだけ聞こえるような音量で、そんな突っ込みが何処かから飛ぶ。

 

「しかし、改めて考えてみると銀の神フレイヤフレイは本当に凄いですよね。人から神に成り上がったというのもそうですけど、銀の鎖という専用のハーレムを持ち、現代までずっと数々の女性との浮名を流す、女好きで女性にだらしない神なのに、未だにフレイヤフレイを愛するために銀の鎖に入る人が絶えないんですから、男としてこれ以上に羨ましい存在はないですよね」

 

 店主のその言葉に、男はやけになったように酒を飲み干す。

 そして、そのまま机に突っ伏して言った。

 

「店主! おかわり!」

 

(あらら、悪い酔いしちゃってるな……。これはちょっと会話で時間を潰して、お客さんが飲み過ぎないように手伝うとするか……)

 

 店主はそんな風に余計な気を利かせて、新しい酒を男に提供しながら、先程までの話を続けていく。

 

「今でも良く聞きますよね。それまで無名で唐突に頭角を現した人が『私は神の血を引く者――フレイヤフレイの子孫である!』と宣言するみたいな話。実際にそう言っていた人が国を盗ったってこともかつてはあったらしいですし」

 

 店主は何かしらの騒乱が訪れると、世界に大量に現れる自称銀の神の子孫達の話を思い出しながら、思わずそう呟く。

 

「この世界に落とし胤がどれだけいるのかって話ですよ。他の神様はそんな話、全然聞かないって言うのに、銀の神だけこう言う話が多いんですよね~」

 

 そこで店主はふと思う。

 

(そう言えば、紫の神、白の神、桃の神……女神の殆どが、フレイヤフレイの妻なんだっけ? それを考えると他の神様の話をあまり聞かないのも当然なのか? 確か、銀の鎖にはフレイヤフレイだけを愛するって誓いがあるって話だもんな~)

 

「クソっ! なんで俺が! 前世でのゼウス的な立ち位置に……!」

「半分くらいは、本当の子孫なんだから、仕方の無いこと」

 

 店主が考えに耽っている間に、男が己の不憫を嘆いてそう口にするが、一部は事実なんだから認めろよ、と痛烈な言葉が、彼が腰に差している美麗な剣から、少女の声で男に届けられる。

 

「どうして……どうしてこうなった? 誰よりも純愛を求める俺が、女好きで浮気性のヤリチン扱いをされてしまうなんて……! くそぉ!」

 

 そう言って、再び、やけになったように酒を飲み干す男。

 そんな男を心配するように、少女の声は語る。

 

「安心してマスター。クラウ達はマスターがそんな女性にだらしないふしだらな人ではないと知っている。クラウ達を愛して必死に向き合ってくれた結果が、そういう酷い風評に繋がったことも、しっかりと理解しているから」

「お前達がちゃんとわかってくれてるのは知ってるよ! だけど、それはそれ、これはこれ、俺はヤリチン扱いしてくる世間の目が嫌なの!」

 

 そう言った男は怒りを収めるためにつまみをかみ砕きながら言う。

 

「お前にわかるか!? 女好きの神と思われているせいで! 土地の有力者に会うたびに『自分の娘をどうぞ』って、淫らな服装をした女を押し付けられて、逃げ回らなければ貞操を美味しく頂かれる危機にあっている俺の気持ちが! ちょっとした人助けをする度に、『助けて貰ったお礼として、私のこの身を捧げます!』と言って、裸になった女に追いかけ回られる俺の気持ちが!」

「大丈夫、ちゃんとクラウ達が相応しくないのは弾くから」

「弾くからいいって話じゃないから! て言うか、たまにその選考を抜けて銀の鎖に入ってくる奴がいるせいで! 女好きの風評は一向に減らないし! 何よりも愛する相手が増えることで、俺の負担もどんどん大きくなっていくんだが!?」

「女の子を次々と落として本気にさせるマスターが悪い」

「くそぉおおおお! どうして!? 前世ではモテなかったのに! なんで今になって、こんなっ!」

 

 男の言葉を少女の声はそう言って切って捨てた。

 それに対して、男が嘆く中、男を信頼するように少女の声は言う。

 

「大丈夫。マスターならどれだけ数が増えても、自らに永遠の愛を誓ってくれる女の子のことを、しっかりと愛して幸せにすることが出来る。クラウ達はそのことを、もう知っているから」

「その言葉は慰めにならないんだよ……」

 

 男はそう言うと、二杯目の酒を飲み干し、つまみを食べきった。

 そして気を入れ直すと店主に向かって言う。

 

「店主、聞きたいことがあるのですが……」

「ん? 何ですか? 私が答えられることなら答えますが……」

 

 新たな注文をしてくるのでもなく、唐突に自分に向かって質問してきた男に、店主は怪訝な表情をしながらもそう答える。

 

「この店には看板娘がいると聞いたのですが……」

「ああ、娘の希心(のぞみ)のことですか。……もしかして、お客さん、希心の噂を聞いて会いに来たんですか?」

 

 男の言葉を聞いた店主は、男がこの街で会いたい人が居ると言っていたことを思い出し、今の質問と結びつけて娘の噂を聞いてやってきたと判断した。

 

 この店主の娘である希心は、綺麗な黒髪をしたとてつもない美少女として、この街だけでは無く、他の街でも噂になるほど有名で、実際にこの店の看板娘である希心を見るために、この店に訪れる者は多い。

 だが、そうしてこの店に訪れて、希心を落とそうとしたものは、全員その目的を叶えることが出来ず、無残な目にあって帰ることになるのだ。

 それを知っている店主は、親切心から男に向かって忠告を出す。

 

「やめておいた方が良い」

「どうしてですか?」

 

 店主の言葉に男が首を傾げる。

 それを受けて店主は正直に全てを話した方が良いと考えて、これまでに娘である希心に言い寄った者がどうなったかを語る。

 

「希心はな……これまで誰も好きになったことがないんだ。学校一のイケメンに告白されようとも、この店にやってきた大金持ちの商人に告白されようとも、ピクリとも興味を抱かず、もっと好きな人がいる気がするとか、わけのわからないことを言って、片っ端から相手を振っちまうんだ」

 

 娘を狙っているとわかったからか、お客様に対する丁寧な口調を止め、ぶっきらぼうな物言いで、男に向かってそう言う店主。

 

「そして、むかつくことだが、そんな風にどんな相手でも振る希心に恨みを向ける者もいる。学園一のイケメンを振ったことを許せない女達からの虐めや、希心を無理矢理自分のものにするために、権力を使った脅しをしてきたり、直接希心を犯そうと襲い掛かってくる男達も居た。だがな――」

 

 そこで店主は神妙な顔をしながら言った。

 

「そう言った希心への悪意は全部防がれちまうんだ。希心を虐める女達が汚した希心の教科書は気付けば新品に変わってるし、俺達に対して権力を使おうとした奴は悪事がバレて廃嫡されるし、直接希心を犯そうとした奴は、希心に触れる前に助けに入った何者かにボコられて、パンツ一丁で次の日に街で吊されてた」

 

 過去を思い出しながら店主はそう語り続ける。

 

「どれも希心が危機に陥った瞬間に起こった出来事だ。あんな一瞬で希心のピンチを救うなんて普通の人に出来るわけがねぇ。誰かが言ったよ。あの子は神に祝福されてるってな」

 

 そこまで言った所で、店主は改めて男に向かって言う。

 

「今じゃ、そんな希心相手に告白しようなんて奴はもういねえ。だから、お前もやめておいた方が良い、振られて傷付くだけだぜ」

 

 店主が親切心から言ったその言葉。

 だが、それを聞いても男の気持ちは変わらなかった。

 

「それで、希心さんは何処に居るんです?」

「……二階の自室に居るが……これだけ言っても止める気はないのか?」

 

 店主が理解出来ないものを見る目で男を見るが、男はそれに対してなんてこともないと言った様子で答える。

 

「例え振られて傷付くことになるのだとしても、そうではない可能性があるのなら、確かめに行かなければなりませんから」

 

 そこまで言ったところで、男は店主に真剣な表情で言う。

 

「それに――振って傷付けたのは俺です。だからこそ、振られても思い続けてくれた彼女の為に、俺は傷付くことから逃げてはいけない」

「あんた何を言って……?」

 

 男の言葉の意味が理解出来ず、店主は動揺しながらそう言う。

 男はその言葉を聞きながら、希心が待つ二階へと向かって行った。

 

☆☆☆

 

「はぁ~。恋愛か……よくわかんないんだよね~」

 

 そう言って希心はベットに体を投げ出した。

 

 かれこれ希心ももう十五歳だ。

 学校では色恋にうつつを抜かす人も増えており、誰それが付き合ったとか、既に大人の階段を上ったとか、そんな下世話な話が友達同士で語られ始めていた。

 学校一の美少女である希心の恋愛は、大勢の人の好奇の眼差しで見られるものであり、しつこく恋人は居るのかと聞かれたり、告白を受けることも珍しくない。

 だが、そんな状況にありながら、希心は告白を全て断り、自分の恋愛に関する話を避けて、今まで生きてきた。

 

「みんな華やかな恋愛を私に期待しているけど、どの相手も異性として好きになれないというか、もっといい人がいるような気がしちゃうんだよね……」

 

 周囲がどれだけ見世物としての希心の恋愛を望もうとも、希心が好きだなと好意を持てる男が存在していないため、恋愛の土俵にすら立てていない。

 中には『好きじゃなくても、取り敢えず付き合ってみたら』と余計なお節介をする人もいたが、好きでもないのに誰かと付き合うなんて、酷い裏切りのようなことを希心はするつもりは全くなく、どの相手も丁寧に断っていた。

 

「何処かに……私が本当に好きな人が――運命の相手が居る気がする」

 

 それは生まれた時から、希心がずっと抱いている感情だった。

 この話を聞くと、『運命の相手が居るって信じてるなんて』と、多くの人が馬鹿にして笑うが、希心の心が、これは絶対に裏切ってはいけないものだと叫んでいた。

 

「昔、私が振った人に襲われそうになった時――助けに来てくれた名前も顔も知らないあの人。あの人を見た時に、私の胸は高鳴った気がする」

 

 希心が襲わそうになった時、助けに入った謎の人物。

 襲ってきた相手を蹴り飛ばすと、其奴に触れて一瞬で何処かに消えてしまった為に、少しの間しかその人物を見ることが出来なかったが、それでもこれまで希心に宿ることが無かった、好きという気持ちによる胸のドキドキを、その謎の人物を見た時に感じたのは事実だ。

 

「また会えるかな……私の運命の人」

 

 希心がそう言ってぬいぐるみを抱きしめていると、希心の自室の扉が何者かにノックされた。

 

(誰だろ? お父さんならノックなんてしないだろうし……。まあ、怪しい人だったとしても、私に何かする前に倒されるか)

 

 希心は自分の周囲で起こることを正確に認識していた。

 自分は何者かに守られていると、それを理解している希心は、警戒しながらもその扉を開けて、扉の向こうに立つ人物を見た。

 

「誰ですか?」

 

 先程まで謎の人物について考えていたからだろうか、何故か胸が高鳴り出したことに疑問を覚えながらも、希心がその人物に向かってそう言うと、旅人姿でフードを深く被ったその人物は、自らのフードを取り去った。

 

 目に映る綺麗な銀髪を見て、希心は全てを思い出す。

 

「あ――フレイ……様」

「まったく、別に来世までは気にしないって言ったのに、本当に来世になっても俺の事を愛し続けてくれるなんてな」

 

 そんな希心の様子を見て、その男――フレイは苦笑いするようにそう言った。

 

「来幸……いや、今は希心って言った方が良いか?」

「どっちでもいいです。来幸も希心も、それ以外のこれまで転生してきた人生も、全てが私自身であることに代わりはないですから」

 

 希心は蘇った記憶による頭痛で頭を抑えながらもフレイにそう言った。

 来幸から始まったその記憶の中では、希心は何度も転生を繰り返し、その度に誰かに守られながら成長して、やがて本当に愛する相手であるフレイと出会い、銀の鎖に入って、フレイと愛し合って幸せに暮らす日々が記録されていた。

 

 それを理解した希心は言う。

 

「今まで……私の事を見守ってくださったんですね」

 

 今世だけではなく今までの転生の中でもずっと、フレイは希心が不幸な目に合わないように見守り続け、そして希心の愛を待ち続けてくれたのだ。

 

 ――その事実が、希心に取っては何よりも嬉しかった。

 

「ああ、そう言う約束だろ? 銀の鎖のメンバーが来世で他に好きな相手を見つけたら、その時点からは俺が関与せずに、新しい人生を歩ませる。だが、逆にまだ好きな人が出来ていないのなら、前世の記憶を保持している可能性があるから、俺を愛すると誓ってくれたお前達を俺が絶対に守り抜く。そして、状況によってはもっと若くなることもあるが、十五歳までに俺以外の相手を好きにならなかったら、前世の記憶を保持していると判断して、俺が直接会いに来るってな」

 

 それは遠い昔、銀の鎖の初代メンバーの時代に、銀の鎖とフレイの間で交わされた約束だった。

 転生してもフレイを愛し続けると誓っていた彼女達は、さすがに来世はいいと言ったフレイの意見を押しのけて、フレイの元に行くことが出来る年齢まで、フレイに守って貰うことを約束させたのだ。

 

「こうして会いに来るときはいつも不安で……思わず酒で気を紛らわしてしまったが……今回も俺を好きでいてくれて嬉しいよ。こうして何度もお前達に会えるからこそ、俺は終わりもなく続いていく世界を見守る神様なんて言う辛い役目を続けられるんだ」

「フレイ様……」

 

 フレイが不安になりながらもずっと自分の愛を待ってくれていた。

 その事実に希心の胸は高鳴った。

 

 なぜなら、それは、フレイが希心の愛を信じ続けてくれて、そして同時に希心の前世が死んだ後も、自分のことを愛し続けてくれたという証明だからだ。

 

 好きな人からの絶対的な愛。

 自分はこれほどフレイに愛されていたのだと、希心はそう実感する。

 

「俺は猜疑心が強くて人を信じられない奴だったが……。それでも、何度転生しても俺のことを愛し続けてくれるお前達の姿を見たら、さすがにお前達の愛が本当のものだって、俺の望んでいた永遠の愛そのものだって、信じることが出来た」

 

 少し気恥ずかしそうにそう言ったフレイは、混じりっけのない笑顔で希心に笑いかけると、彼女に向かって言った。

 

「お前達が俺を変えてくれたんだ。だからこそ、今度は俺の方から――希心に言いたいことがあるんだ」

 

 そう言ってフレイは身なりを整えると、希心に向かって宣言する。

 

「希心! 俺はお前のことが好きだ! 俺だけのヒロインになってくれ!」

 

 フレイから希心への告白。

 簡潔だが――フレイの心がこもった言葉。

 

 ――それに対する答えは、もう決まっていた。

 

「はい! フレイ様! 私も貴方の事が大好きです! 私を――貴方のヒロインにしてください!」

 

 そう言って希心は、これまでの転生と同じように、幸せな気分に満たされながら、笑みを浮かべて恋人がするようにフレイに抱きついた。

 そして、万感の思いを込めて、これから先も変わらず続いていく、自らの誓いを、自らの思いを、フレイに向かって宣言する。

 

「どれだけ時が流れようとも……どれだけ転生を繰り返そうとも……私のフレイ様への愛は永遠です! 何度だって私は貴方のヒロインになってみせます!」

「ああ! 俺は何度だってお前を俺のヒロインにする! そして何度だって幸せな――ハッピーエンドを共に紡いでみせる!」

 

 フレイはそう希心の気持ちに応え、希心を強く抱きしめた。

 

 愛し合う二人が互いの思いを確かめるように抱きしめ合う中で、降り続いていた豪雨はいつの間にか止み、雲が晴れ始めていた。

 その雲が晴れた空には太陽が覗き、そこからくる光が、二人の新たな門出を祝福するように、彼らに向かって優しく降り注いだ。




 最初に振った来幸に、最後は自分から告白して、二人が愛し合う事になって物語を終える――これが一番、この物語の綺麗な終わらせ方じゃないかと考え、ここまで物語を紡いできました。

 なんやかんや、色々とあったフレイも、こうして自身の夢であった理想の俺だけのヒロインをしっかりと手に入れて、この物語はハッピーエンドで完結となります。

 ここまで来るのに約七十万字くらいの分量になってしまいましたが、何とか最後まで書き切ることが出来て、ちょっとほっとしています。

 長い分量となりましたが、ここまで私の作品を読んで頂き、ありがとうございました。
 どれだけ先になるかわかりませんが、次作を作り終えたら、またお会いいたしましょう!


以下はチラ裏な補足なので読みたい人だけ読んでください。
――――――――――――――――――

 よくある恋愛をこじらせた主人公の物語では、ヒロインとやることをやるというか肉体関係を持ったら、あっさりとそのヒロインの愛を信じて、それまでのこじらせを無くしてしまうものが多いと思います。
 ただ、個人的には「こじらせまくった奴が、一度関係を持ったからって、そう簡単には相手の愛が本物だって信じられないだろ」という考えがあったので、フレイのこじらせが漂白されて綺麗になるためには、転生しても愛し続けてくれるヒロイン達の重い愛が必要でした。
 面倒なほどこじらせまくったフレイでも、さすがに来世でも自分のことを愛し続けてくれるヒロイン達を見たら、その愛が本物だと認めないわけには行かず、長い時間をかけてヒロイン達の愛で、こじらせを無くして、綺麗なフレイに漂白されていった形です。
 そして綺麗なフレイになったからこそ、今までずっと目の前にあった自分の幸せを素直に手に取れるようになりました。

 ちなみに、「ヒロイン達の転生先が男だったら如何するの?」と思うかも知れませんが、この世界の主神が銀の鎖のリーダーなので、転生先を人族やエルフ、獣人等の人型種族の女性や、竜や精霊などの人化出来る種族の雌に限定するくらいの調整はしています。
 ただ、記憶の継続に関する手助けはしていないので、来幸達は自前の頑張りで前世の記憶を継続しました。
 普通の人間なのに、自前で何か来世まで記憶を保持した来幸達を見て、新たにこの世界の神になったばかりで、事情を何も知らない桃の神は、ドン引きをしたりもしました。
 まあ、そんな彼女も、異界神獣から助けて貰ったことと、前話から今話までの間の期間で、様々な出来事があり、その過程でフレイに惚れてしまったことで、同じ穴のムジナになってしまいましたが……。

 そんな感じで現在も多くの人員がいる銀の鎖ですが、さすがに全ての人が来世に記憶を持ち越せたというわけではありません。
 初期組は全員が記憶を保持していましたが、それ以外の新規加入者の中には、来世ではフレイのことをすっかりと忘れて、別の人を好きになって幸せに暮らした者もいます。
 来幸達のように来世でも愛し続けてくれる者達を知っているので、来世はいいと言いつつも、少なからずショックを受けるフレイですが、そんなフレイを銀の鎖の当初の目的通りに、他のヒロインが癒やしてくれるので、長い年月を経ても摩耗することもなく、フレイは元気に世界を守るために使いっ走りを続けています。

 ちなみにですが、転生を繰り返しているヒロイン達は、全員がずっと転生をし続けているわけではありません。
 エルザは、転生ガチャで火精霊という不老の種族を得たので、そのままセレス、レシリア、ノルン、クラウの不老勢と共に、銀の鎖の一員としてフレイとずっと楽しく過ごしていますし、ユーナはなんやかんやフレイの教えと転生による経験値の蓄積が爆発して、自然神になることで不老勢の仲間入りをして、転生の日々から抜け出しました。

 来幸はなかなか不老になれず、この後日談の舞台となる遠い未来まで、ずっと転生を繰り返してきました。
 今回転生することになった希心は、黒髪からわかるとおり、来幸とフレイの子供の子孫となります。
 既にこの世界では黒髪は忌み子という迷信は無くなっているので、来幸のような目に合うことはなく、普通に日々を過ごしていました。
 来幸は転生を繰り返す長い年月の果てに、偶然、同じ黒髪である自分の子孫を引いた形ですね。
 きっと、フレイに褒めて貰った黒髪になるまで、転生ガチャを繰り返していたとかそう言うわけじゃないはずです。たぶん……。
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