バルファルクみたいなメイドさん欲しいよなあという気持ちを形にしました。
バルファルク。
種族:古龍種(古龍目 天彗龍亜目 バルファルク科)
他の生物と隔絶された超高空域に生息する大型の古龍種。長らく実在は確認されず、古文書や伝承の中にだけ語られていたことから伝説的な存在とされ、近年に至るまでハンターズギルドや学者の間では既に絶滅したという見解が強かった。
しかし、航空技術の発達により従来以上の超高空域の移動や調査が可能となった事で、遂にその姿が龍歴院の調査隊に目撃され、公式の発見と相成った。
伝承の中の文言から、ハンターズギルドでは《天彗龍》とも呼称される。
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♪ BGM:《銀翼の凶星》
我が家の一日の目覚めは、耳鳴りを伴う轟音から始まる。
『キィィィィィィィィ────―!!』
朝、目覚ましにやってくるドラゴンのメイドである、メイド服を着用した《天彗龍》バルファルクさんがマッハ3だか4だかで我が家の庭にさながら彗星の如く出勤してくるからだ。
当然、ソニックブームっていう物体が音速で動いたときに出る衝撃波が俺ん家に襲いかかり、愛しき我が家は全壊してしまう。困ったものだ。
バルファルクさんが俺のエリアに入ってきたとき流れるカッコいい音楽も、耳キーンなってよく聞こえないし。
俺は瓦礫の中から立ち上がり、文句を付ける。
「もうちょっと優しく起こしてくれませんか?」
『キィィィ?』
バルファルクさんは首をかしげ、『起こしたじゃん』みたいな顔つきをして『?』のマークを浮かべた。
駄目だ。言葉か、あるいは優しくというニュアンスが伝わらないのかもしれない。ドラゴンだからかな? ちゃんと雇う時に古龍種だから知能が高いって書いてあったのに。罠効かないって書いてあったのに。
『キィィ』
一人で悩んでいると、バルファルクさんは俺の目の前に、ドサッ!っと、黄色くて細長めで全長3mくらいある水生獣、つまり、ルドロス。それを投げてくれた。
────これはまさか、朝ごはんか?
「いやーありがとうございます、こんなサービスしてもらっちゃって」
『キィィィ!』
やばいな……。バルファルクさんは俺のお礼の言葉に喜んでくれているようだが、俺は朝からこんなに重いもの(注。3m程度のルドロスはおよそ130kg以上が平均値)は食べられない。
それにルドロスってどっちかっていうと肉食だからか筋多くて顎疲れんだよね。しなやかな筋肉が咀嚼を邪魔してくるっていうか。あんまり食い物に文句言いたくないけどさ。
『キィィィ……』
「ん?」
おや? バルファルクさんが物欲しげな眼をして────蒼い結膜に囲まれた深紅の瞳と猫のような瞳孔が俺に投げよこされたルドロスに向かっている。
朝抜いてきた感じか?
「あ、お腹空いてるんでしたら、食べていいですよ」
『キィ? キィィィイイ──―!!』
バルファルクさんはめちゃめちゃテンションが上がったのか、咆哮(大)をあげ、ルドロスにかぶりついた。
俺はというと咆哮を素早くフレーム回避し、それを見やる。
すげーワイルドだな。野生味を感じるっていうか、古龍の食事するとこ始めて見たわ。まあ、古龍いるとこに他のモンスターなんか寄り付かないから食ってるとこ見れるわけないんだけど。
「さて……家壊れちゃったし、さっさと出勤して食堂でなんか食うか」
むしゃむしゃしているバルファルクさんを尻目に、うっすら生えた髭を剥ぎ取りナイフで剃って、髪形を整え、スーツを着て出勤準備完了だ。
はぁー……。電車乗んのめんどくさいなー。
!(被発見時BGM:高まる鼓動 Rising Beat)
そうだ! バルファルクさんに乗せてってもらえば良くね!? 秒で着くじゃん。この子世界で一番速い乗り物と言っても過言じゃないじゃん。
「あのーすいません」
『キィ?』
細かく食い千切られ解体されたルドロスの頭を飲み込んでいる所で声をかける。
ルドロスの血でべちゃべちゃに顔が汚れているバルファルクさんがこちらを向いた。折角の可愛いヘッドドレスも血に濡れており恐怖を煽ってくる。朝からゴア表現がキツいぜ。
「もし良かったらなんですけど……会社まで送ってもらう事って出来ます?」
『キィィ』
ペッ、とルドロスの固い頭蓋骨を吐き捨てて、バルファルクさんはおすわりをするかのように姿勢を低くし、頭を下げてくれた。
乗れってこと……だよな? いいんだよなこれ乗っていいんだよな。
「じゃあ失礼します」
『キィィ』
いやーメイドさんに送ってもらうなんて男の夢そのものだな。しかもドラゴンに乗るわけだから一粒で二度おいしい。
俺が首元にしっかりと組み付いたのを確認すると、バルファルクさんは龍気を溜め始め、周囲に独特な吸引音が響く。
『キィィィイイ、キィィィイイ……!!』
バルファルクさんを反射的に殴りたくなるのを堪え、じっと見守る。この龍気吸引時に殴って怯ませると体内で龍気が暴走・爆発し、大ダウンを取ることが出来るのだ。
しかし、我が家のメイドさんにそのようなご無体が出来るはずもない。ただ、見守る。でもチャンスタイムなのに勿体ないよなあ……。
『キュィィィ────―!!』
「うおっ」
バルファルクさんが一鳴きすると、俺は身体千切れんじゃねえかってくらいの凄い加速度と風圧(龍)をその身で味わい、雲の上にいた。
やばい。下の方を見てみると俺の家(の残骸)がもう豆粒のように小さくなって見えなくなった。なんてスピードだ。
ていうか……息できねえ。聞くところによると人が音速で移動する場合、音速に達する前に風圧で眼球が乾燥しまぶたが飛び散り、気圧差で鼓膜がやぶれ、耳の穴から中身とか出てくるらしい。しかも呼吸できなくて窒息死するとかなんとか。
でも俺は酸素ゲージ100とか普通にあるし、7分くらいなら無呼吸活動できるから大丈夫だな。こういう時、体鍛えておいてよかったなあって思う。
こうして、歴史上最高峰史上最凶の逆バンジーを存分に味わった俺は、我が家のメイドさんと雲海の旅を満喫した。
…………ん? あっ。ビジネスバッグがこのスピードについて行けず、持ち手から先が千切れてどっか行っちゃってる。
財布とか入ってたのに。早期出勤した意味無いじゃん(笑)。
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会社。
「おはようございます部長」
「おお、おはよう。いやあ今朝は冷えるね」
「そうですね。あれ? 伴田さんまだ来てない感じですか? 打ち合わせたい事があったんですが……」
「あー……、まだ見てないね。いつもこの時間には居るんだけど」
【襲撃】 ♪ BGM:《銀翼の凶星》
「おはようございまーす!」
「おーおはよう。愛紗くん、伴田くんから何か遅れるとか聞いてないかい?」
「え? 伴田さんですか? いやぁ私は聞いてないですね」
「そうかあ……」
────……ィィン────
「え? 今何か言ったかな?」
「いえ?」
はるか上空、積雲をも超える高度5000mにて。
天上を割く一筋の赤い彗星が出現し、弧を描くようにして旋回している。
「やだなあ部長、その歳で更年期なんたらっていうアレですか?」
「いや、そういうんじゃなくて……なんか、戦闘機みたいな音が聞こえない?」
音すら追い越せない世界最速の赫い星(と1人)が、
今まさに、この場所に向かって着弾する──────!!
「「「あぇ?」」」
【力尽きました】
【ダウン回数3/3】
【報酬金が0になりました】
【これ以上復活出来ません】
QUEST
FAILED
「まずい会社と同僚ぶっ壊しちゃった……」
『キィィイ?』
俺の目の前には、残骸と化した勤務先が広がっていた。
バルファルクさんに乗って出勤するのは、やめよう。
そう思った。
バルファルクがいれば会社に隕石落としたいって思った時頼りになりますね