艦これ短編集   作:黒猫クル

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 皆様クリスマスをどうお過ごしでしょうか? 作者はクリスマスも年末年始も仕事です
 本作は私の見た戦争(https://syosetu.org/novel/345920/18.html )と同じ世界線及び登場キャラの設定や鎮守府が同じで、先にそちらを読んでいただいた方が楽しめると思います。
 気軽に読んでください。


私と司令官

 私(叢雲)が鎮守府に着任して4年が経った。最初は頼りないと思っていた司令官も、私の指導で多少はマシな人間になっていた。

 

 だけど最近、彼がおかしい。普段の彼は私に怒られながらも真面目に仕事はやるし、彼なりに改善しようと努力している。だけど、最近は毎日何となく上の空だし仕事にも身が入っていない。ボーッとしていて私に怒られて我に返ることが多い。

 何かあったのだろうか? 秘書艦として解決しなければならないと思い、執務終わりに私は声をかけた。

 

「ねぇ、最近おかしくない?」

「いや、別に……」

 

 私の直感が何か隠してると言った。

 

「隠してないで話しなさいよ」と言いたいところだったけど、司令官の内気な性格を考えるとこのまま話させるのは悪手だろう。古典的な手だけど、酒の力を借りることにした。酒を飲めば警戒心も緩むだろうし私と司令だけの方が話しやすい。

 

「ねぇ今から時間あるよね?」

「あるけど……」

「飲みに付き合いなさい」

「えっ?」

「いいから!」

 

 私は彼の手を引いて鎮守府の外に出た。

 

 雪の舞う真冬の夜を歩き、馴染みの居酒屋に向かった。軽く店内を見渡したが、人数は少なく陽炎や荒潮の影はない。好都合だ。個室をとって司令と対面した。

 

「叢雲から誘うのは珍しいな」

「飲み相手が欲しかっただけよ」

「陽炎や荒潮じゃダメなのか?」

「アンタと飲みたかったの! 何か悪い?」

 

 いちいちイライラさせられる。誘う大義名分なんてどうでもいいし、本音は一対一で彼の隠し事を聞きたいだけ。

 私の苛立ちを感じたのか彼が申し訳なさそうな顔をした。

 

「いや……すまん。変なこと聞いたな」

「そんなことより注文どうするの? 私はビールにするわ」

「同じもので……」

 

 運ばれてきたビールを手に取り乾杯した。乾杯をしてからは適当なつまみを手に取りながら鎮守府のことで軽く雑談をした。

 雑談の間も司令は何となく上の空だった。酒は飲むし、つまみにも手をつけるけどボーッとしてばかりだ。

 

「それで、何を隠しているの?」

 

 それなりに飲ませたところで不意打ちをぶつけると司令官がビクッとした。

 

「なんの事だ?」

「何か隠してるんでしょ? 話しなさいよ」

「気のせいじゃないか……?」

「馬鹿にしないし、誰にも話さないから話しなさい」

「いや……でも……」

「秘書艦として知っておかなきゃいけないの。世話になってる自覚あるんでしょ? 話してもらわないと私が困るの」

「わ、分かった」

 

 そう呟いた彼はジョッキに注がれていたチューハイをゴクリと飲んだ。

 

「実は……な……鎮守府で好きな人ができたんだ」

「なるほどね」

 

 色恋沙汰か。面倒な問題ではあるけども相手次第ではコントロールできると思う。

 

「馬鹿にしないんだな……」

「馬鹿にしないって言ったでしょ? それに、1つ屋根の下で男女が暮らしてるなら不自然じゃないわ。歳の差があるのは少し問題かもしれないけど」

 

 軍人の色恋沙汰は本来良いものではない。ましてや、司令官という部下の命を預かる立場なら尚更だ。だけど、男が1人に対して女が複数いるこの環境なら仕方ないと思う。他の鎮守府でもそういう話を聞くし、恋愛も業務に支障が出ないならやっても良いと思う。

 

「それで相手は誰なの?」

 

 司令の顔が歪んだ。

 

「それは流石に……」

 

 彼のオドオドした態度に苛立ちを感じ、思わず机を叩いてしまった。

 

「からかったりしないから、話しなさい。その子との調整をやらなきゃいけないの!」

 

 司令が誰を好きなのかは知っておかなければならない。フレンドリーで話しやすい陽炎なのか、他人をからかうのが好きな荒潮なのか、それとも別の子なのか。相手が誰であれ、二人の関係の調整は必須だ。下手に司令が告白して玉砕して二人の関係が険悪になったりしたら、目を当てられない。相手が陽炎や荒潮ならどちらも司令官に気があるみたいだからうまくいくだろうけど。

 

「話すのが提督の義務か……?」

「義務よ」

「分かった……」

 

 彼がジョッキに残っていたアルコールを飲み干してため息をついた。

 

「……」

 

 彼が何かを呟いたが声が小さくて聞こえなかった。

 

「何? 聞こえないわよ。もっと大きな声で言ってくれない?」

「叢雲、君のことだ」

「は?」

 

 彼の言葉が理解できなかった。司令は顔を赤くして私を見つめている。

 

 彼の言葉の意味を理解した瞬間、急に血液が顔に上がってくるのを感じた。心臓がバクバクして汗が流れる。頭の中が真っ白になった。

 

「冗談……よね?」

 

 彼が顔をそらした。冗談をあまり言わない司令官に対して保険のような質問だったけど、無意味だったみたい。

 数分間の沈黙の後に、司令官がやっぱりか……といいだけに席を立った。

 

「すまん。変なこと言ったな。会計は済ませておくから今日のことは忘れてくれ」

「待って!」

 

 慌てて彼を止めた。

 

「頭が追いついてないだけなの……お願いだから少し考えさせて……」

 

 彼が足を止めて席に座った。私は彼から目をそらして視線を下に向けた。

 

 私はどうすれば良いのだろうか? 私自身は司令官をどう思っているのだろうか? どうしよう……彼を止めたけど思考がまとまらない。

 ひとまずは気持ちを落ち着かせるべきだと思い、お冷を頼んで飲み干した。冷たい感触が喉と食道を通り、胃に入るにつれて少しだけ気持ちが落ち着いた。

 

 そもそも、どうして司令官が私を好きになったのだろうか? 容姿には自信があるし、実際に色々な場所でモテた。だけど、長続きした試しがない。私は性格がキツいし、怒鳴ることも多い。いつの間にか私に手を出そうとする男なんていなくなっていた。

 

 司令官が容姿だけで好きになったというのであれば話は単純だ。だけど、そんなはずはない。司令官は私の性格を知っている。私のトラウマも知っているし、私の弱さも知っている。加えて司令官は提督という立場にありながら、部下の私にこき使われる人間だ。私を嫌う理由は分かるけど、好きになる理由は分からない。思い切って聞くことにした。

 

「どうして……私のことを好きになったの?」

 

 彼が頼んでいたチューハイを口につけた。

 

「初めは苦手だと思っていた。毎日怒られてばかりだし君の方ができたからな……」

 

 彼が震える声で話しだした。

 

「だけど君のトラウマを知った時、助けたいと思ったんだ。助けたい気持ちが次第に……な……」

 

「それに……君は美人だし、優秀だし、提督としてずっと世話になっているし……」

「もういいわ……」

 

 しどろもどろな答えを聞くのが恥ずかしくなり、話を切った。これ以上聞かなくても言いたいことは何となく分かる 。要するに司令官は庇護欲が強くそれを私に当てはめたわけだ。それが次第に異性としての好意に変わっていったのだろう。

 

 彼の好意にこたえるべきだろうか? 心の中を少し整理してみたけど、司令官のことを好きなのかはよく分からない。彼が近くにいても何も感じないし、少年漫画とかにありがちなトラブルもない。至って健全(私の方が実質的に彼より強いことを除いて だが)な上司と部下の上下関係だ。人としては嫌っていないけど異性として意識していないというのが適当なところだろうか? そもそも異性を好きになったことがないけど。

 

 断ろうか? と思った。だけど、それは司令官の心をないがしろにし過ぎている。悩みがあるなら話せと言ったのは私だ。好きな相手を無理矢理聞き出したのも私。彼だって話したくなかっただろう。下手をしたら私に嫌われるかもしれないし、普段の私の態度から判断すると失敗する可能性の方が高い。

 

 私の責任だ。私が無理に秘密を暴こうとしたのが何もかも悪い。人には話したくない秘密があるって私自身が1番分かっていたはずなのにどうしてこんなことしちゃったんだろ……いや、違う。反省するのは後にして今はこの場を片付けるのが先。

 

 私は答えを出してそれを彼に告げる決意をした。ジョッキの中に残っていたチューハイを飲み干す。私を見ていた司令官が何かを感じたのかビクリとした。アルコールが頭に回り少しボンヤリする。大丈夫。今なら勢いで言える。

 

「いいわ。付き合ってあげる」

「本当か?」

 

 彼の表情がパッと明るくなった。

 

「ただし!」

 

 私の言葉に彼はビクリとして、暗い表情になった。

 

「付き合う理由は秘書艦として、鎮守府に余計な混乱を招かないため。本当に私が好きになるかは司令官次第よ」

「わ、分かった……」

 

 彼の顔から喜びが消え失せ、見慣れた不安まみれの表情になった。

 

 私は、ひとまず彼を受け入れることにした。ある種の妥協ラインだけど、これぐらいが適切だと思う。秘書艦としてを強調したし、司令官としても勘違いして急に手を出すようなことはしてこないだろう。

 

 これから、彼との関係がどうなるかは分からない。私が彼に心を許すかもしれないし、短期間で別れてしまって気まずい雰囲気だけが残るかもしれない。今までの経験から後者の方が可能性は高いと思う。

 度数の高い酒を頼んで飲んだ。焼けるような感触が喉を通り胃に落ちていく。

 不安しかないけど、私の蒔いた種だしひとまずはこれでやっていくしかない。私は内心、司令官をバカにしていたのかもしれない。無意識のうちに大したことの無い問題と思い込んでいた。私は自分の軽率さを悔いた。

 

 

ー--------------------

 

 

 1週間後、彼とデートをすることになった。偶然にもこの日はクリスマスだった。いきなりデート、しかもクリスマスとなって不安しかない。交際経験があるかどうか怪しい人間が初めてやることにしては、ハードルが高すぎないだろうか?

 

 流石にクリスマスは……と思ったけど彼の真剣な顔を見ると断れなかった。彼なりに計画を立てていたのだろうし、シフトもその日が丁度良かった。

 

 粉雪が舞う少し寒気のする曇りの日の明け方、私は待ち合わせ場所の噴水の前で司令官を待っていた。街のモニュメントの前での待ち合わせだったこともあって、何回か声をかけられたけど無視した。

 

 吐いた息が白くなった。 寒さを感じて手をこすってしまう。軍人の習慣で30分前に来ていたけど早すぎただろうか?

 

 街中に視線を通すと多くの人で賑わっていた。カップルや家族連れを多く見かけたし、店員もサンタクロースの三角帽子を被って忙しそうに働いていた。戦時下なのが嘘みたい。

 

 それだけこの辺りが平和なのかもしれない。最前線の戦況はあまり良くないみたいだけど、ここ1年は本土が空襲を食らったような話は聞かない。私達が頑張っていることの成果だと思うと少し誇らしく感じた。

 

 司令官が息を切らしながら走ってきた。

 

「すまん、叢雲。待たせたか?」

 

 時計を見ると約束の時間の20分前を指していた。

 

「そんなに待ってないから大丈夫よ」

 

 思っていたより早く来たというのが正直な感想だった。早め早めの行動を取れと言っていたけどもプライベートの待ち時間として20分前に来るのは相当早い。

 早く来たのは、彼なりの誠意の表れなのかもしれない 。とりあえずは加点と言って良いだろう。

 

 彼との時間が始まった。

 

 

ー--------------------

 

 

 彼なりに計画を立てて頑張ったのだと思う。誠意は感じられたし、メモのようなものを持ち歩いていたから。だけど、肝心のデートはズタボロだった。

 

 レストランの予約を忘れるし、映画館は人が多すぎて待たされた。見た映画はそれなりに面白かったけど観てる最中に提督がポップコーンをひっくり返した。加えて払う段階になって提督の財布の中の金が足りなくって私が立て替える羽目になった。

 

 司令官は私に謝ってばかりで段々と元気がなくなり、私も黙っていたけど小言を言いたくなってきた。

 

「ねぇ、ちょっといいかしら?」

 

 我慢しきれなくなりatmで金を降ろしてきた彼に声をかけた。

 

「な、なんだ?」

 

 私の言葉に彼はビクリとした。

 

「あまり、言いたくないけどもう少し何とかならなかったの? 事前準備ぐらいしっかりしなさいよ」

「すまん……」

 

 申し訳なさそうに話す彼をどこまでも情けない人だと思った。これからも、私が引っ張ってあげなきゃいけないだろう。

 

「まったく……私がやらなきゃダメね……。今回の話、誰かに相談したの?」

「陽炎と荒潮に……」

「陽炎と荒潮!?」

 

 思わず声が出た。あの二人に話して上手くいくはずがない。司令官に気がある陽炎は彼が誰かと付き合いだしたと聞くと不機嫌になるだろうし、荒潮は事を面白くすることしか考えないだろう。下手をしたら陽炎は失敗を願ってアドバイスをしたのかもしれない。

 

「そんなに変だったか……? 自分の知り合いに相談されたって言って聞いたんだが……」

「悪いことを言わないから、恋愛のことであの二人はやめておきなさい。ろくなことにならないから」

「わ、分かった……」

 

 ふと、後ろを歩いている2人組が目に付いた。狐色の髪をポニーテールに縛ったマスクをつけた少女と薄い煉瓦色の髪をサイドテールに縛ったサングラスをかけた少女。私はあの二人を今日、何度も見た。映画館で私の後ろに並んでいたし、レストランで食事をとった時も近くにいた。見覚えのある2人だけどまさか……

 

 2人の正体が分かるのと同時に腸が煮えくり返るような怒りに襲われた。あの二人は今日、シフトが入っていたはずなのに何故かここにいる。それに、今回のデートが失敗した一因はあの二人だ。

 

「(アンタ達……! 後で覚悟しておきなさい!)」

 

 私の気持ちが通じたのか睨みつけると2人は一目散に逃げていった。

 

「叢雲、何かあったか?」

「鬱陶しい蝿を追い払っただけよ」

「そ、そうか……」

 

 司令官は何が起きたのか分かっていないみたいだけど、都合が良い。このままだと、自信を無くしてしまいそうだし、彼に挽回のチャンスをあげようと思った。

 

「ねぇ、これからの予定あるの?」

「ショッピングモールに行こうと計画してた気が……」

「そこでいいわ。行きましょ」

 

 彼と共にショッピングモールに向かった。

 

 

ー--------------------

 

 

「挽回のチャンスをあげるわ」

 

 ショッピングモールの本屋の前で声をかけた。

 

「本当か?」

「制限時間は30分。私に何か一冊本を買いなさい。私が欲しいものなら今日の失敗はチャラにしてあげるわ。だけど、ヒントを出すつもりはないから、あくまでも司令官の頭で考えて」

「分かった……」

 

 不安そうな彼を後目に私は本屋の中に入った。

 

 本屋に入ると真っ先に雑誌のコーナーに行き、昔読んでいた週刊誌を手に取った。司令官に選ばせる以上は下手にヒントを与えない方がいい。彼が本を選ぶまで私はここから動かないつもりだった。

 

 漫画を読むのは久しぶりだったけど、週刊誌のラインナップは見たことの無い先品だらけになっていた。私が知っているのは2作くらいしかないことに寂しさを感じる。競争の激しい雑誌だけど時代の流れだろうか?

 

 週刊誌の頭から漫画を読んでいて中間ぐらいまで来た時、ふと司令官の様子が気になった。辺りを見回すと私の様子を伺いながら店内をウロウロする彼と目が合った。

 

「(人の様子ばかり伺ってないで、自分の頭で考えなさい!)」

 

 ため息をついて彼を睨むと、私の気持ちが通じたのか私から目を逸らして慌てて本の散策を再開した。

 

 

ー--------------------

 

 

 週刊誌を端から端まで読み終えてから時計を見ると30分以上の時間が過ぎていた。司令官から声はかからなかったけど、タイムリミットにしてよいだろう。私は週刊誌を元あった場所に戻して彼を探した。

 

司令官はすぐに見つかった。彼は教養の文庫本の所で腕を組んで頭をかしげていた。

 

「時間よ」

 

 彼の後ろから声をかけると彼が小動物みたいにビクッとした。本当に臆病な人だ。

 

「何にするのか決まったかしら?」

 

 彼は並んでいる本を睨み、少し考えた後に直感で決めたと言わんばかりに一冊の本を掴んだ。

 

「これでどうだ?」

「硬い物を選ぶわね」

 

 彼が手に取った本はクラウゼヴィッツの戦争論だった。私の持っている本だし、何度も読んだ本。

 

「選んだ理由を聞いていい?」

「君が作戦を考える時に参考になるかもしれないって思って……だな……」

「他の候補は何かあったの?」

「クレフェルトの補給戦とマハンの海軍戦略と……」

 

 それ以外にもいくつかあったけど彼が候補にした本はいずれも戦略的な考察をする本だった。私のことを戦略オタクか何かと思っているのだろうか?

 本来なら不合格にするべきだろう。だけど……

 

「いいわ。合格よ」

「本当か!?」

「一度読んでみたかったの。感謝するわ」

 

 私の声に彼が嬉しそうな顔をした。

 

 大切なのは結果ではなく過程だ。私はよほど空気の読めない本以外なら合格にするつもりだった。彼が必死になって考えた末に一冊の本を選んだのであればそれでいい。私は彼に成功体験をしてほしかった。

 たしかに、今日のデートは失敗だったかもしれない。何もかもがボロボロだったし、挙句には尾行までされていた。だけど、一度の失敗が何だというのだろうか?

 司令官との関係はこれからも続くだろうし、失敗してもその反省を次に生かせばいい。やっぱり司令官には私が必要だ。私はこの人を放っておけない。彼を支えていこうと決意した。

 

 

ー--------------------

 

 

 本屋で本を買ってもらってからのデートは順調だった。ショッピングモールで買い物をして、ゲームセンターで遊んだ。

 ゲームセンターに入ったのは司令官の思いつきだったけど、クレーンゲームが得意という彼の意外な特技を知った。司令官はガラス製の壁の向こうにあるぬいぐるみや菓子を数回でとってしまう。あまりにも彼が簡単にとるから私も試して見たけど、何度も100円玉を入れて少し動かすのが精一杯だった。

 

 ゲームセンターに入ってからはノープランに近いデートだったけど、お互いに楽しめたと思う。司令官はホッケーで私に全敗したのに笑顔だったし、私も楽しかった。

 

 ファミレスで夕食を済ませて外に出た。少し雪の積もった夜道をクリスマスのイルミネーションが照らしている。人数は多く、カップルや家族連れが楽しそうに歩いていた。

 

 時計を見ると19時30分ぐらいを指していた。明日があるし、そろそろ帰った方が良いだろう。

 

「そろそろ帰った方が良さそうね」

「そうだな」

 

 2人で並んで夜の市街地を歩いた。

 帰り道の途中、ビルの液晶テレビでcmをやっているのが見えた。下らない商品の宣伝をやっていたがふと、海の光景が映った。

 

 海の上で戦う艦娘、迫り来る駆逐艦イ級。あの時の光景が目の前に浮かんだ。

 

「叢雲……?」

 

 深海棲艦特有の死んだ魚みたいな生臭い嫌な匂い。私の目の前で仲間が沢山のイ級に生きたまま捕食されている。まるで狼に群がられた獲物みたいに……。砲撃痕の中、断末魔のような悲鳴が耳につく。助けなきゃと思うのに体が動かない。

 

「大丈夫か?」

 

 司令官の声が遠く聞こえた。立っていられずに膝が崩れた。心臓が激しく動く。耳鳴りがする。

 

 1匹のイ級がこちらを向いた。今度は私の番……

 

「逃げなきゃ……」

「叢雲!」

 

 動けないはずなのに勝手に身体が動いた。私は全速力で走っていた。

 

 

ー--------------------

 

 

 どれぐらい時間が経ったのか分からない。気づくと私は公園のベンチに司令官と2人きりで座っていた。

 

「落ち着いたか?」

 

 彼が心配そうに声をかけた。

 

「ええ……」

 

 全身がぐったりして心臓が血を送り出すためにバクバクしている。汗をかいていたから長い時間走っていたのだと思う。多少は落ち着いたけど体はまだ興奮状態みたい。

 

「飲むか?」

 

 司令官が近くの自販機でコーヒーを買ってきてくれた。

 

「ありがとう」

 

 熱いコーヒーを飲もうとしたら下を火傷しかけた。普段ブラックで飲む私としては微糖の缶コーヒーは甘すぎたけど気持ちを落ち着かせることができた。

 

 気持ちが落ち着くと次は取り乱してしまったことへの罪悪感が芽生えてきた。

 最悪だ。どうして私はこうも不用心だったのだろうか? テレビを見ているとプロパガンダのcmなんて見ない日の方が珍しいし、戦闘の光景が流れても不思議ではない。画面を見なければ良かっただけ。司令官との初めてのデートで私は何をしているのだろうか?

 

「大丈夫か? 話なら聞くぞ」

 

 私が悩んでいることに気づいたのか司令官が呟いた。私が弱いところを見せるのは嫌だったけど、彼は私の過去を知っている。立場上は付き合ってるし、少し甘えてみようと思った。

 

「……司令官に悪いなって思ったの」

「僕に?」

「うん。せっかくいい感じに終わりそうだったのに、迷惑だったでしょ? ごめんなさいね。不安定な女で……」

「そんなことは……」

「幻滅したでしょ? いいのよ振ってもらって。私なんかよりも別の子と付き合いなさいよ」

 

 我ながら口にしている言葉が馬鹿らしいと思う。こんなこと言われても司令官は困るだけだろう。少し甘えるつもりだったのについ話し過ぎてしまった。私らしくない。今日の私は失敗ばかりだ。

 

「幻滅なんてしないよ」

 

 彼が優しい声で呟いた。

 

「叢雲、僕は君のことが好きだ。その気持ちは変わらないし、君を助けたい気持ちも同じだ。君だからいいんだ」

 

 不器用なセリフだと思った。だけど、どこか暖かくて安心できるものだった。

 恥ずかしいと思ったのか話を終えた彼の顔と耳が真っ赤になった。

 

「すまん……変なこと言ったな……」

「いいの。ありがとう」

 

 司令官との会話で少しだけ私の中のものが晴れた気がした。

 

 司令官との付き合いはこれからも続いていくだろう。私が彼を好きになれるかは分からない。だけど、心を許せる相手にはなれるのかもしれない。

 

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