ONE PIECEの世界に転生した一般タコ魚人 作:タマネギ日光浴
ONE PIECEの世界に転生した。
その事実に気づいたのは弟が生まれてからだ。
弟の名前ははっちゃん。タコの魚人だ。
そしてこのおれ、なっちゃんもタコの魚人なのである。
魚人や人魚の子には珍しいことにおれと弟は瓜二つだった。
普通は例えばタコの魚人の親からサメの人魚が生まれたり等と、血が繋がっていても容姿は変わるらしいので、親も驚いていた。
ただ、弟が将来的に明るい陽キャになるのに対し、おれは3才児にして既に死んだ魚の目をしているとよく言われるような陰キャなタコだが。
とにかく、今までは異世界の化け物一族にでも転生してしまったのかと思っていたが、産まれた弟もタコの魚人で、はっちゃんという名前、そして住んでいる場所が魚人島とくれば、これはONE PIECEの世界に違いないだろう。
やったぜ!
せっかくONE PIECEの世界に来たのだから冒険がしたい。
聖地巡礼ともいう。
だが、そのためには力がいるだろう。
その点おれは運がいい。
魚人は人間より10倍の筋力がある。
そして、おれは腕が6本もあるタコの魚人だ。
原作のはっちゃんのように六刀流ができるだろう。
つまり剣が1本の普通の人間の剣士より60倍強いということだ!
勝ったな(確信)。
とりあえず、筋トレと、そこら辺のサンゴを折って木刀に見立てて素振りでもするか。
月日が経つのは早いものでおれは8才になった。
はっちゃんは5才だ。
おれたち兄弟は同じ容姿(目付き以外)をしているからか、とても仲がいい。
サンゴ刀をぶんぶん振り回すおれの後ろをとことこついてくるはっちゃんが可愛くてしょうがない。
6本の腕のアドバンテージを活かしたなでなでを極めたおれは、はっちゃんをネコ可愛がりならぬタコ可愛がりしている。
転生当初は6本の腕という感覚に馴れずもて余していた腕も、素振りとなでなでにより大分スムーズに動かせるようになった。
そろそろより強くなるために剣術でも習いたいが、中々そんな機会というか、余裕がない。
それというのも両親が人間の奴隷狩りにあい、生き別れてしまったからだ。
両親が逃がしてくれたからおれたち兄弟は助かったが、孤児になってしまったので治安最悪の魚人街に住むしかなくなってしまったのだ。
当然剣術の道場になんて通ってる場合じゃない。
なんとか弟を食わせてやらなければならないのだ。
おれは6本の腕をフル活用して雑用や肉体労働を行い少ないお金を稼いでいた。
そこでイキったサメの小僧(同い年)などの孤児仲間達と身を寄せあい、なんとか飢えをしのぎながら生きていた。
そうして必死に生活していたら2年が経過していた。
そんな日々の中でも暇があれば修行を欠かさなかったおれは、子供ながらにして大人顔負けの戦闘能力を手にしていた。
伊達に7年間サンゴ刀をぶんぶん振り回していたわけではないのだ。
とはいえ訓練された兵士には勝てないが。
他にも筋トレが効果的だったように思える。
原作のゾロが数トンの重りで筋トレしていたシーンが印象に残っていたので、とにかく重そうな物を持ち上げて筋トレしていた。
このONE PIECE世界では空気にプロテインでも入っているのか(ここは海中だが)、鍛えれば鍛えるだけ筋力を手に入れられた。
そうして筋力がつくと、子供の割に力持ちとしてちょっとだけ有名になり、重い物を運ぶ割りのいい仕事にありつけるようになった。身体も鍛えられて一石二鳥だ。
だが、有名になるのも良いことばかりではなく、たまにゴロツキ共から金目当てで襲われることもあった。
まあ、そんな時は返り討ちにして逆に財布をいただけば臨時収入ゲットだし、実戦経験もできるしでこれまた一石二鳥だったが。
ただ、そうしている内に生意気だといって不良どもが絡んでくるようになったのはダルいけどね。
一匹倒したら名前が売れてどんどん新たな不良が絡みにくる。
ヤンキー漫画かよ!
やめてくれよおれは冒険がしたくて鍛えてるだけなのに。
最終的には、頭角を現していたアホサメとの決闘にも勝利したことで、興味が湧いたのか出張ってきた元締めのジンベエの兄貴とも手合わせすることになった。
勝てはしなかったが、6本の腕を巧みに使ったサンゴ六刀流により善戦することができ、ジンベエの兄貴に気に入れられ、この騒動は一段落した。
なんやかんや戦いの経験を積めたし、周りからも一目置かれ、今後の課題も見えてきたので悪くない結果になったと思う。
そもそも六刀流のメリットは手数の多さだ。
しかしデメリットも多い。
例えば二刀流の話だが、片手の筋力じゃあ相手の一撃に押し負けたり、剣を振るう速度が両手の剣に比べてどうしても落ちたりする。
かの宮本武蔵も二刀流を用いる理由に、「太刀を片手にて取りならはせん為なり」と書き残している。
つまり二天一流は、二刀を用いて戦う技術そのものを追求しているのではなく、片手で刀を扱う訓練のために二刀を用いるのだということだ。
おれの場合は人間の10倍の筋力をもつ魚人ということで、片手でも剣を扱えるとは思う(いまだサンゴ刀しか握ったことはないが)。
しかし、同じ魚人で正式な魚人空手の道場で学んでいるジンベエ兄貴の一撃を防ぐことはできなかった。
ここから導き出されるおれの課題とは、すばり筋肉だ。
筋肉。やはりこれが全てを解決する。
現実だったら筋力に限界があるが、ここはONE PIECE世界。
どこまでも鍛えられるはずだ。
今後は6本の腕それぞれの筋トレを重視し、かつ素早く片手で剣を振るえるようになる必要がある。
将来的にはジンベエ兄貴の正拳を片手で受け止められるのが理想だ。
そうすることができたら、六刀流の防御を破れるものはそうそういなくなるだろう。
この頃になると、生活にも多少の余裕ができて、あまり構ってやれなかったはっちゃんと遊びに出かける余裕もできた。
そうした交流の中で、将来の夢を聞いたら、たこやき屋さんになることらしい。
いい夢だ。
しかも、その夢のために料理を学びたいと言ってきた。
どうやらおれがこの世界を冒険したいという夢のためにずっと努力をしている姿をみて、自分も何かをやりたいと感じたそうだ。
ええ子や…
そうと聞けば、おれはこの2年まじめに働いて得た信頼と伝手を使って、美味しい食事処の厨房の仕事を手に入れた。
悪い遊びばかりしているアホサメと違っておれはこの辺では信頼されているのだ。
とはいえ、まだ遊び盛りの7才のはっちゃんに働かせるのはおれが嫌だ。
そこでおれが厨房で働き、得た料理の知識をはっちゃんに伝授するという方向でいくことにした。
前世では料理なんてしたことはなかったが、思いどおりに動かせるようになった6本の腕によって、すぐさま即戦力となった。
さすが6本腕!
もちろん、この仕事を紹介してくれたタイガー大兄貴には感謝だな。
ありがたいぜ。
そうこうしていたら1年が過ぎた。
この1年真面目に働いたおれは店主夫妻から信頼を得た。
そのためご厚意で、直接はっちゃんに料理の指導をしてくれるようになった。
ついでにはっちゃんも厨房に出るようになった。
本当は働かせるつもりはなかったのだが、はっちゃんは才能があったようで、おれより料理の覚えがよく、実践で腕を磨きたいとずーっと言われて、ついに説得されてしまったのだ。
いつの間にかあんなに頑固になって…
誰に似たんだか。
店主夫妻は自分達の子供が中々出来ないようで、はっちゃんを実の子のように可愛がってくれているのが救いか。
それに、はっちゃんの友達らが食事に来るようになって店は賑やかになった。
これはおれにはできなかったことだ(白目)
さて、半年が経ちはっちゃんが仕事にも慣れてきた頃、2人で久しぶりに遊びに出掛けた。
この半年は、はっちゃんは同じ年頃の友達と遊びにいく暇もなくよく頑張っていた。
そのご褒美だ。
美味しいものを食べたり、そうすると金を持ってるガキ共だと目をつけて襲ってきたゴロツキを返り討ちにしたり、目一杯泳いで競争したり、楽しい1日を過ごした。
そうしてそろそろ帰ろうかという時に、はっちゃんが溺れている人を見つけた。
正直両親のこともあり、若干人間不信になっていたおれだが、流石に死にそうな人を見捨てるわけにもいかない。
はっちゃんの教育にも悪いので、さくっと泳いで助けることにした。
こんな時、6本の腕は非常に便利だ。
溺れて暴れる人をしっかりホールドできるし、その上で泳ぐことにも腕を回せる。
6本腕最強!
さて、助かった安心からか意識を失ってしまったこの人を拠点まで運んで介抱するか。
………目を覚ました男の自己紹介を聞いてビックリ、なんと未来の海賊王の右腕、シルバーズ・レイリーだった!
うおおおお!まじか!本物のレイリー!?やっば♥️
大・興・奮!
さて、見苦しい所を見せたが、仕方がない。
だって若かりし頃のレイリーだもの。
カッコよすぎるんじゃあ~。
閑話休題。
レイリーが命の恩人だとおれたち兄弟に非常に感謝している。
何かしてほしいことはないかと聞かれた。
………これってめちゃくちゃチャンスなのでは?
もしかして海賊王の船に乗れる…?
しかし、そうするとまだ8才のはっちゃんは厳しい航海についてこれないだろうから、置いていくことになる。
流石にそれはできない。
悩んでいると、はっちゃんが発破をかけてくれた。
なっちゃんはずっといつか冒険に出たいと言っていただろうと。
そのいつかって今さ!と。
いままでは自分の夢に協力してくれたから今度は自分が応援する番だと。
おれは泣いた。
両親がいなくなってからずっと張りつめていたものが一気に決壊したようだった。
はっちゃんも泣いていた。
2人で抱き合っておんおん泣いた。
スッキリしたおれは黙って見守ってくれていたレイリーに弟子入りを志願した。
そして船に乗せてくれと。
レイリーはただ一言、覚悟はあるのかと問うた。
おれが応、とこたえると、にわかにレイリーから凄まじいプレッシャーが放たれた。
ジンベエ兄貴の正拳にも勝るとも劣らないその衝撃に、おれはついガクッと膝をついてしまったが、負けるもんかと必死に足に力を込めた。
そうしてどのくらい時間が経っただろうか。
いや、おそらく数秒の出来事だったに違いない。
レイリーからの圧力がふっと消えると、ニッコリ笑ってこう言った。
ロジャー海賊団に歓迎する、と。
おれは歓喜した。
その後、レイリー、いや師匠を探しにきたロジャー海賊団に紹介してもらった。
ロジャー船長は師匠の命の恩人だということで賛成してくれたし、お祝いだといって宴を始めた。
そこで先輩方に挨拶周りをしにいこうとしたが、巨人やそもそも人間自体こんなにたくさん見たのは今世ではじめてであり、少し人見知りしていた。
一方で、はっちゃんは持ち前の陽キャっぷりを発揮しており、人間達にも臆せず武勇伝を聞き回って楽しそうにしていた。
さっきも思ったが、あいつは成長したな。
おれも負けていられない。
改めて先輩達との親交を深めに行った。
魚人の先輩がいて親しく話してくれたり、赤鼻に絡まれたり(どうやら年齢が下でも船員としてはキャリアが長いから敬えとのこと)、宴会中なのにロジャー船長に決闘を挑んだおれより少し年上の少年がいたり(無論返り討ちにあっていたが、今まで見たことないレベルの戦いの応酬で見応えがあった)、ワイワイ楽しく過ごした。
そんな楽しい一時もすぐに終わり、数日滞在したロジャー海賊団が補給を済ませたら、ついに旅立ちの時がきた。
その間、おれは職場へ急に辞める不義理を詫びに行き、そこで店主夫妻に、はっちゃんのことを任せたり(店主夫妻は跡継ぎができたとして喜んで引き受けてくれた)、タイガーの大兄貴やジンベエの兄貴に挨拶に行き、はっちゃんのことを気にかけてやってくれるよう頼んだ。
ついでにアホサメがはっちゃんを悪い道に連れていかないように、きっちりぼこぼこにして上下関係をはっきりさせておいた。
これでも原作のようにはっちゃんに手を出すようならタダじゃおかねぇ。
あいつはおれの真似をして素振りこそしていたものの、本来戦闘する気性じゃないし、海賊だって似合わない。
今や立派な夢があるのだから、アホサメに付き合ってやる暇なんてないのだ。
そうして最後に、はっちゃんと次に合うときはお互いの夢を叶えた時だと約束して、おれは旅立った。
離れていく魚人島を見ながらおれは感傷に浸っていた。
いろいろなことがあった。
苦しいことや辛いことも多かったけど、やっぱりここはおれの故郷だ。
色とりどりの魚やサンゴ、そして魚人に人魚たち。
なにより6本の手をはち切れんばかりに振っているはっちゃん。
この素敵な光景を目に焼き付け、おれは今日冒険に巣立つのだ。
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なっちゃん:6本腕を信仰しているアホの子。必要最低限しか喋らない寡黙キャラとして周りから認識されているが、本当はただの人見知りオタク。ただ冒険はしたいのでアウトドア系陰キャである。実は原作知識が魚人島編までしかないので未知のロジャー海賊団の冒険にわくわくしている。死んだ魚のような目は少しマシになったが、まだ目付きは悪い。
はっちゃん:立派なたこやき王におれはなる!
店主夫妻:寡黙だが仕事に誠実ななっちゃんのことも我が子のように思っている。彼が心配しないように、はっちゃんの事は任せておけと胸を張って笑顔で見送った。
フィッシャー・タイガー:義理固い弟分だと思っている。会うたびに食事屋の仕事を紹介したことを感謝してくるので、実は何度も店に足を運んでいる。
ジンベエ:義理固い弟分だと思っている。なっちゃんの六刀流の防御力に苦戦したが、土壇場で成長し正拳で打ち破る。とはいえ、武術を学ぶものとして、素振りと喧嘩だけの我流剣術を力任せでしか突破できなかったことを反省し、より修行に明け暮れるようになる。
アーロン:同じ年齢なのでライバル視している。いつかやり返すためにダサいと思っていた修行を始めた。
シルバーズ・レイリー:手加減したとはいえ覇王色の覇気に耐えたので見所があると感じている。
ゴール・D・ロジャー:レイリーの命を助けてくれたことに感謝しているが、それよりも冒険をしたいという目を気に入った。常人には腐った目にしか見えないのに流石は未来の海賊王である。
シルバーズ・レイリーがはっちゃんに助けられたのが20年以上前と言っていたので、本作のように28年前でもセーフだと独自解釈しています。
それと本作は、本文最後に꧁⍤⃝꧂で区切って各キャラについての補足情報などを載せるスタイルです。ご留意ください。
꧁⍤⃝꧂:作者お気に入りの顔文字。なお、脚が10本だからタコじゃないじゃなイカ!という回答に対する答えは持ち合わせていない。好きだから無理やり使っているだけである(開き直り)。