ポケットモンスター剣盾 外伝 祈望のアカシア 作:甘井モナカ
フィールドに巻き上がった噴煙が尾を引くように消えていく。
どさっ、と。
相対していた最後のポケモンが倒れ込み、試合終了の合図が鳴り響いた。
勝った。
身体を包む疲労感を吹き飛ばすように溢れ出る達成感。
弾む息を整えながら、僕は戦い抜いた相棒をボールへと戻した。
「おめでとうございます。君も私を負かすとは」
拍手と共にこちらに歩み寄るのは《アラベスクタウン》のジムリーダー、ビートさん。
あの個人的な決闘の数日後。
僕らは改めてこの町のジムに、挑戦しに来たのだ。
おごってもらった焼肉の味と色々振舞わされた不満をすべてぶつけての勝利だ。
「……あの時より、あっさりしてましたね」
「当たり前でしょう。チャレンジ用に手持ちを調整してますから」
僕の呟きに、肩をすくめるビートさん。
先日のバトルに比べ、手ごたえを感じなかった疑問が解決した。
戦う相手に合わせて戦うジムリーダーの技量の高さに眩暈がしてくる。
ポケモンバトルはまだまだ奥が深いようだ。
「はい。こちらがジムバッジになります。今回はちゃんと本物ですよ」
ビートさんはポケットからバッジを取り出し、僕に手渡す。
僕はバッジの重さを確かめながら掌の上で転がした。
裏側にバーコードも無い。今度こそ本物だ。
「ありがとうございます。」
「僕からバッジを受けとったんです。ここから先、中途半端は許しませんよ」
ビートさんの真剣な眼差しが僕を射貫く。
彼の瞳の奥に宿る輝きを見つめながら、身体の奥底で沸き起こる熱を知覚した僕は力強くうなずいた。
やがて彼は小さい息を吐くと、身を翻してフィールド出口へと足を向ける。
数々の経験を経たであろうその大きな背中を眺めていると、不意に動きが止まった。
「そうだ。最後にもう1つ」
彼は何かを思い出したかの様に振り返り、続ける。
「あの戦いで、口にした想い。あれは、君の今後の歩みを決める大事な指針です。絶対に無くさないように……いいですね?」
「はい……!」
静かな口調の中でどこか熱を感じさせる言葉。
その熱に急かされるように、僕は考えるより先に返事を返していた。
僅かな間の後。
ビートさんは再び踵を返す。
何かを託すかのように呟いた彼の横顔は柔らかな笑みを浮かべているように見えた。
装飾されたシャンデリアが輝く一室。
桃色がかった光源に照らされるのは2つの影。
『やはり、すこし強引だったのでは?』
椅子に座り込むビートの頭に直接、声が流れ込む。
まるで彼らを心配しているようなその声音に、彼はおもむろに目を細めた。
「男の子はあれぐらいが丁度いいんですよ。多感な彼らを成長させるには、刺激が必要なんです」
『しかし、この前の件は最後に私が介入しなかったら一大事でしたよ?』
ぴしゃりと、飛んでくる非難の声。
男の精神構造を引き合いに出したが、理解が得られなかったようだ。
まぁ、彼女はそういうのとは真逆の気質か。
青年は椅子を回転させ、声の主に顔を向けた。
部屋の中心に佇むのは、白と緑のドレスを連想させる体躯。
細い手足を揃え姿勢を正している人型のポケモン、サーナイト。
装飾された部屋も相まって、端からみたら部屋の主とそれに使えている仕女が思い浮かぶ。
「そこは君を信用してましたよ?君の優しさと慈悲深さは誰よりも知っています」
森での救出劇を思い返しながら、ビートは片目をつむってみせた。
彼の渾身の決め顔と台詞に、サーナイトは瞼を閉じて顔を背ける。
『……何処かの誰かにも見習ってほしいものです』
まるで機嫌をそこねた少女のような仕草に、青年は再び目を細めた。
「まぁ、僕からすればまだまだ指摘し足りない所ですが、大目に見て合格です。後は彼らに任せましょう」
脳裏に浮かぶのは、戦いの中で彼らが見せた表情。
それは、遠くない未来で起こる困難に立ち向かうために必要な物だった。
ビートは身体を起こし、机の隅に立て掛けてある一枚の写真を眺めた。
それは自分が挑戦者だった頃の過去の写真。
自分の隣に映る仲間の一人に目が留まる。
額縁の中で浮かべている笑顔は、時が経った今でも変わっていなかった。
『それでは、次の行動に移るという事ですね?』
頭に響き渡る声が彼の意識を現実へと引き戻す。
サーナイトが瞼を開き、青年を見つめている。
彼は写真から目線を戻し、息を吐き出した。
「ええ。残された時間は長いようで短い。僕達にできる事を進めましょう。……あの子のためにね」
「ほい、紅茶。ストレートで良かったよね?」
「ああ。ありがとう。頂くよ」
ガラル地方の山脈の麓に佇む、小さなコテージ。
その一室でソファに腰を下ろしていた男に紅茶の入ったカップを手渡す女。
黒と灰色のスーツに身を包む深い青髪の男、ダンデはカップの中身を口に含んだ。
「えーと、4か月ぶりだっけ?今回はずいぶんと長い調査だったじゃん。」
白衣を揺らしながら、片手に持つマグカップの中を見つめるソニア。
赤茶色の水面が波紋として広がり、映り込んでいた自身の顔の輪郭を朧気にしていく。
「海から雪原までいろんな所を見てきたからな。……途中で何度か道に迷ったりもしたが」
「ふふっ。君の方向音痴は筋金入りだからねぇ」
カップを手にしながらダンデは長期に渡る調査の記憶を思い起こしていた。
様々な旅路の中で起こったハプニングを思い出したのか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
そんな彼の表情を眺めながら、部屋の壁に寄りかかっていたソニアは目を細めた。
椅子に身を置く彼は、決まりが悪そうに首を擦ると持っていたカップを机に置いた。
「……すまないな。こんな事、手伝わせて」
顔を上げ、白衣を纏う彼女を見つめるダンデ。
人前では絶対に見せない、眉を下げた彼の表情からは淡い雰囲気が漂う。
「別にいいよ。……いつもの事じゃん」
ソニアは瞼を閉じ、肩をすくめた。
久しぶりに見たその表情は、遠い記憶を呼び起こすには十分すぎるものだった。
胸に溜まった息を吐き出し、彼女は再びダンデを見据えた。
「そんなことよりジムチャレンジの方は大丈夫なの?こっちに入れ込みすぎて本業がおじゃんとか目も当てられないわよぉ?」
「大丈夫さ。優秀なスタッフがいるからな。俺がいない方が上手く回る勢いだよ。……でも珍しいな。ソニアが気にするなんて」
唐突に飛び込んできた彼女の質問にダンデは顎に手を置きながら、思い起こすように答える。
言われてみれば、ここ最近運営の方には顔を出してなかった。
リモートの定期連絡のみだけはさすがにまずいか。
近いうちに運営のみんなに差し入れでも持っていこうと心に決めた彼は、この話から離れようと疑問を投げた。
「今年はあたしん所のお手伝い君が出てんのよ。この前電話したけど、今5個目のバッジに挑戦してるとか」
「へぇ。ワンパチと仲の良いあの子か。これからが楽しみだな」
ダンデの脳裏に浮かび上がる、黄色の子犬と戯れる薄水色の少年の姿。
最後に見たのは数年前。
大きく成長したであろう、少年の後ろ姿を想像しながら彼は時の移り変わりを実感した。
共にカップを持ちながら、語り合う二人の柔らかな雰囲気。
それを一転させるかの如く、別の声が部屋の中に響いた。
「……楽観的になるのはちょいと早いかもだぞ。兄貴。」
部屋の入口に立つ、ソニアと同じ白衣を着た青年。
椅子に座り込むダンデと同じ、深い青髪を持つ彼は真剣な表情で歩み寄る。
「なにか問題か?ホップ博士?」
「この前兄貴から渡された、サンプルデータの解析結果が出たんだ」
ホップ博士と呼ばれた青年は、手元のタブレットを弄りながら、ダンデの目の前に佇む。
そこで、弾かれたかのように顔を上げた。
「このいい匂い、紅茶かぁ。……ソニア、俺の分はないのか?」
「あんたの好きな茶葉はこの間ので終了でーす。……飲みすぎなんじゃない?」
周囲の香りを嗅ぎながら壁に寄りかかる紅茶の名手に尋ねるホップ。
まるで、お腹を空かせた大型犬のような仕草にソニアは思わず頬を緩めた。
「まじかぁ。あれおいしかったんだけどなぁ。……っと話を戻すけど、これを見てほしいんだ」
「……ドキドキ!ミルキースター☆~知的なお兄ちゃんはあたしのもの~PCゲーム?の画面だぞ?」
想定外のダンデの台詞に場が凍りつく。
タブレットを手渡されたダンデが見ている画面は桃色一色。
ロード画面にも見えるその中央には、小さな女の子が映っている。
眉を落とし、消沈していたホップの顔が一瞬で光を取り戻した。
光を取り戻しすぎて目が危険な発光をしている。
「そーいう事か!あ、あのガキィィ……!」
ホップの脳裏に浮かび上がるのは数時間前に自分の周囲をうろちょろしていた地元の子供。
子供の割に大人をからかうような言動をする少女だった。
妙に、にやにやしながら『タブレット、貸して欲しいなぁ』とせがんだのはこれのためだったのかっ!
彼の脳裏に浮かび上がった少女は舌を出しながら微笑んでいた。
わなわなと肩を震わせたホップだったが、はっと意識が現実に戻る。
背中に悪寒が走る。頬を冷たい汗が流れる。
ゆっくりと振り返ると、彼の後ろには鬼が立っていた。
「ホップー。後でお話ししようね?」
「ひぃぃっ!……まってまってソニア、落ち着いてこれは冤ざ」
顔面蒼白のホップに大きな影が忍び寄る。
閑話休題。
嵐が過ぎ去った部屋の中。
ぼろぼろになった白衣の青年が気を取り直すかのようにタブレットを構えた。
「……兄貴の情報を解析したところ、《眠り病》を発症しているポケモンから微量の《ガラル粒子》が検出されたんだ」
「あの赤い粒子の事か。……でもそれがなんだっていうんだ?この島ならどこでも漂ってるだろ?」
《ガラル粒子》。
ガラル地方で発見された赤色の素粒子。
ポケモンを巨大化させるその粒子は、放出量に地域差はあるものの、基本的にどの地方でも存在する。これはガラルの一般常識だ。
自身の記憶を振り返りつつ、ホップの話にダンデは首を傾げる。
「ダンデ君の言う通り、検出しただけなら可笑しくないんだけど、……問題は検出された場所」
机を挟んでダンデの向かいに座るソニアが口を開く。
眉をひそめるダンデを見据えながら、険しい表情の彼女は続けた。
「発見できた粒子は、《眠り病》を発症したどのポケモンからも、脳に相当する箇所で検出されてるの」
「粒子が勝手に、ポケモンの脳に集まってるってことか?……いや、まさか」
真剣な彼女の表情と言葉がダンデの身体を貫く。
提示された情報の1つ彼の胸の奥である1つの想像を結びつける。
ひそめていた眉が吊り上がる。
懐疑から驚愕へと表情が移り変わっていく。
「そう。勝手に集まる可能性もゼロじゃないけど、その前にもっと疑うべき技術があるよね?……私たちがよく知るアレ」
それもガラルの一般常識の1つ。
文字通り、ポケモンにガラル粒子を集約させその身体を巨大化させる技術。
《ダイマックス》。
ダンデのその呟きは緊張で閉じた口の中で音もなく消えていった。
「脳へと集約された《ガラル粒子》が《眠り病》と関係してくるなら……。兄貴の言ってた、『人為的に起こされた可能性があるかもしれない』っていう仮説が可能性としてはあり得る事になるんだ」
机に置いたタブレットを拾い上げながら、ホップがぽつりと呟いた。
「ま。あくまで仮説。証拠がなーんにも見つかってないかんねぇ」
「……ソニア。そーいえば、この解析結果のレンジどう設定したんだ?」
「あー。それはね……」
白衣の二人が解析結果の前で議論を始める。
その会話の中でダンデは机の上のカップを静かに眺めていた。
視点を一点に固定して、思考を深めていく。
情報が脳裏を錯綜する。
《ガラル粒子》。
《眠り病》。
《ダイマックス》に類似する、人為的な介入が可能な技術。
ガラル地方の各所に存在した妙な施設。
見たことの無い、あのバッジ。
刹那、一条の閃きが彼の頭蓋を貫いた。
点と点が繋がりかけた思考のその先に、ある光景が浮かび上がる。
音もなく、視界が机の上のカップに戻る。
張り詰めた糸を緩めるように、深く息を吐くダンデ。
おもむろに顔を上げ、懸命に謎へと向き合う二人に声を掛けた。
「……二人に話しておきたい事がある」
明度の低い蛍光が揺れる。
窓がないその部屋は外界を遮断し、濃い暗闇を生み出していた。
モニタから発する光に照らされ壁や構造物の輪郭が辛うじて把握できる。
その部屋の中で男は一人佇んでいた。
黒いローブの様なものを纏い、顔をフードの奥に隠すその姿は冥府を彷徨う亡霊を彷彿とさせる。
「……俺は、何をしてるんだ?」
男は、一人呟く。
「……力が必要なんだ。過去の幻影を倒す圧倒的な力が」
ローブの奥で鈍く光る瞳が揺らぐ。
「それなのに、やってることは奴との鬼ごっこときた……。違う、だろ?俺がぁここにいる理由は……!」
自問自答を繰り返しながら次第に滲み出る熱。
ローブの奥底から声なき怒声があふれ出した。
彼の脳裏に情景が浮かび上がる。
遠い追憶の果て、地に伏せる自身の目の前に佇むのは炎を背負う青年。
赤き翼竜を背に深い青色の髪をなびかせ、眩しい輝きを宿す瞳が泥に塗れた敗者を写し続ける。
不意に鳴った電子音が鼓膜を震わせた。
男が顔を上げると、稼働していたモニタが情報ウインドウを表示していく。
計画の基盤となる各種研究結果。
計画を遂行するために必要な機材情報。
進捗度、適用箇所で区分けされるデータの海をかき分け男は1つの果てに到達する。
端末を操作していた手が動きを止める。
ここから一歩踏み出せばもう戻れない。
計画外の動き、組織に牙をむく行為。
総帥の元で得られるはずの安寧を捨て、後ろ盾のない茨の道に足を踏み入れる事になる。
大きな分岐点を前に男は静かにモニタを眺め続けた。
不意に響いた声が部屋の沈黙を破る。
「兄貴。俺はあんたについていきますぜ」
「この服イカしてるけど、やっぱり俺たちには気ぐるしいぜ」
「あなたはこんなところで燻ってる場合じゃないぜ」
「……ここともおさらばの時では?」
「ここのカレー、おいしかったけどなぁ~」
男の後ろに並び立つ黒いローブの人影。
口に出す言葉は違えど、全員が沈黙を貫く男の背中を見つめている。
組織に入る前から自身の後ろをついてきた者たちの視線を受け、男は微かに嘆息を漏らした。
「そうだよなぁ。こんなところで俺たちは止まんねぇからよ……!」
眼前に広がるのは灰色の世界。
抜け落ちた色彩の中で、琥珀色の瞳が瞬く。
今にも落ちてきそうな曇り空の下で少女が見つめるものは、遠い情景の一幕。
移り変わる季節の奥で見覚えのある白衣が揺れる。
依然と変わることの無い、真剣な横顔。
視線の先にいる彼へ、彼女の手がおもむろに伸ばされた。
決して届くことの無い指先は宙を舞い、やがて静かに脱落していく。
力なく下げられた双眸を垂れ下がった前髪が覆う。
灰から黒へ。
周囲の情景が移り変わる。
幾度となく見た空間。
溢れ出す影が、音もなく虚空を塗りつぶす。
呼応するように這い寄ってくる漆黒の鎖。
冷え切った足に、力の抜けた腕にゆっくりと絡みついていく。
身体を伝う不快な刺激に反応した少女は顔を上げた。
遠くを見つめる、憂いを含む瞳。
不意に、暗闇の奥が明るくなる。
視線の先の虚空を漂う、1つの灯火。
小さくて儚い、弱々しい光。
しかし、それは透明よりも綺麗な、澄み渡る輝きを宿していた。
宙を舞うように、周囲を漂った灯火はやがて動きを止める。
少女の眼前で。
照らし出された彼女の瞳が、琥珀色の輝きを乱反射させる。
手足を縛り込んでいた鎖は消えていた。
目の前の輝きを見据えた少女は再び手を伸ばした。
かざせば届く僅かな距離。
ゆっくりと伸ばされた指先が灯火に触れる。
喧噪が耳を貫く。
意識を現実に戻した少女が瞼を開くと周囲はどよめきに包まれていた。
『こちら第二研究室。第3フェーズで凍結させていた試作品が複数、奪取されています!』
「なん……だと」
「ファッ!?」
「ばかな……!」
定期報告の会合に突如飛び込んだ緊急事態。
仄かな明かりに照らされる円卓状の机の周囲で人影から驚きの声が漏れる。
少女は静かに姿勢を戻し、手元のデバイスから情報を閲覧していく。
『研究所の監視カメラは切断されていて機能不全でした。しかし、試作品のあった区画はセキュリティレベル:レッド。限られた研究者と幹部あたりでないと入れないはずですが』
デバイスを操る手を止め、少女はおもむろに顔を上げる。
彼女の視線は、空白の一席に留まった。
要観察者の動向を報告するために出席の義務がある者の姿は無い。
「……《鬼灯》さんがいませんね」
彼女の視線をくみ取ったのか、部屋の隅に佇んでいた《薔薇》が声を差し込む。
「まじかよぉ。やめたくなりますよぉ~」
「不覚ですわね」
陽炎のごとく揺らめく人影に動揺が走る。
全体計画の進捗率は8割を超えた辺り。
計画達成目前で沸き起こったトラブルに周囲の声からは焦りが滲み出ている。
「みなさん、一度落ち着きましょう。我々のやるべき事は決まっています。計画達成の障害となるならば対処するまでです。」
《薔薇》は口元を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「ですよね?《総帥》?」
陽炎のごとく揺らめく人影達の視線が一点に集まる。
静まり返る一室。
モニタの稼働音が小さく鳴り響き続ける。
視線を身に受けた《総帥》は小さく息を吐くと、椅子から立ち上がった。
「今ここにいるみんなには《鬼灯》の行方を捜してほしい。彼を見つけ次第拘束。試作品も回収または破壊できると嬉しいな。」
彼女は両手を広げ、続ける。
「私達なら大丈夫。このまま進めば必ず道はつながる。みんなの動きに期待してるね?」
聞く人を安心させる声音が部屋を満たしていく。
先ほどの動揺した雰囲気はもう影も、形もない。
儚く揺らいでいた人影達は各々の拠点へと消えていく。
次々と人影は減り、部屋に残ったのは二人。
《総帥》と幹部《孔雀》。
「……どうしたの?あなたも早く探しに行こう?」
「ねぇ……あたし。あの人の行先に心当たりあるかも」
《総帥》の抑揚のない声音に、体を僅かに震わせた《孔雀》。
少しの沈黙の後、《総帥》は呟くように言葉を紡いだ。
「……そっか。わかった。じゃあ私も動くよ。現地で集合しよう」
「ちょっと、待ってよ。ねぇ……!」
《総帥》はゆっくりとうなずき、姿を空間に溶かしていく。
《孔雀》に生じた表情の変化と言葉は、消えゆく彼女の背中には届かなかった。
「あたし、は……」
一人残された黒いローブを纏う人影は、俯くようにただひっそりと佇んでいた。