ポケットモンスター剣盾 外伝 祈望のアカシア   作:甘井モナカ

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味が濃くなりすぎないように頑張りました。(小声)


#23.追憶

 

『ハロンタウンでの事がふと頭をよぎったんだ』

『……』

『兄貴からポケモンを貰ったお前とここに立つとはな』

『うん』

『……あの日の約束を果たす!いいか!勝つのは俺だぞ!』

『……分かってる』

 

 誰かの声が耳に滑り込む。

 

 意識がまだはっきりとしない僕の視界に微かな輝きがよぎった。

 ゆらゆらと揺れる明かりに包まれたこの状況は、まるで深い海の中を漂う感覚を彷彿とさせる。

 

 不意に響く誰かの声。

 

『……ユウリ、サンキューな!……お前がいてくれて、良かったぞ!』

 

 紡がれる感謝の言葉。その裏で微かに聞こえた震えた声音。

 

『……私も、君が居たからここまで来られたんだよ。……ホップ』

 

 微笑みながら零れる言葉。その奥では僅かな罪悪感が滲んでいる。

 

 混濁する意識の中、聞こえた誰かの会話。

 双方向から来たその言葉は、僕の耳の中で爪痕を残すかのように反芻し続けていった。

 

 

 

 

 ふと目が醒める。

 

 瞬きを繰り返す度に周囲の輪郭が鮮明になっていく。

 

 気が付けば、僕は建物の中の廊下に立っていた。

 辺りを見回すと、見覚えのある建物の造形、特徴のあるエンブレムが目に入る。

 

 どうやらシュートスタジアム内部のようだ。

 人の姿も見えず、辺りは静寂に包まれている。

 おもむろに歩き出した僕は、しばらくしてある違和感に気が付く。

 

 風景に色が無い。

 

 まるで昔の写真の中に入ってしまったかのような錯覚に陥るほど、周りの景色が灰色で覆われている。

 長い通路を進むと、いつの間にかフィールドに続く出入口の前に立っていた。

 このまま外の様子を確認しようと歩き出だした瞬間、僕は思わず息を飲んだ。

 

 視界の端に映り込む人影。

 首回りで短く切りそろえられたボブカットの髪型。

 白を基調としたユニフォーム。

 すらりとした手足を縮めるようにして柱の陰に隠れている、見間違えるはずのない、あの人の後ろ姿。

 

 彼女の名を呼ぼうとした瞬間、僕は目を見開いた。

 

 「……!」

 

 声が出ない。

 僕の口から零れた声は音もなく虚空へと溶けていく。

 

 心の奥底で広がっていた違和感が徐々に大きくなる。

 慌ててユウリさんの元へと歩み寄るが、彼女は後ろへと近づいた僕に一向に気づかない。

 暫く首を傾げていた僕は、そこで再び目を見開く事になった。

 

 彼女が様子を伺っていた方向にいたのは一人の少年。

 深青色の短髪に、少し日焼けした肌。

 彼女と同じ白いユニフォームを着た彼も、記憶より若いけど僕の良く知る人物だった。

 

 ホップさん。

 自然と呟いたその名前は、ゆっくりと胸の奥底へと消えていく。

 

 遥か前方で佇んでいる彼は、静かに壁と向き合い続けていた。

 やがて、ゆっくりと近づくと壁に額を押し付けた。

 

「……ああ……くそっ。……やっぱダメだ、悔しいぃなぁ……ちくしょう……っ!……あと、少しだったのに……兄貴の、前に立てそうだったのにっ……ちくしょうっ!……俺は……俺は……っ!」

 

 ぼろぼろと零れ落ちる言葉。

 途切れながらも絞り出される声音の間に紛れる微かな嗚咽。

 小さく震えるその背中は、今にも崩れ落ちそうなほど痛々しかった。

 

『俺も、昔チャレンジやってたんだせ?』

 

 いつか聞いた言葉が不意に脳裏をよぎる。

 いつも笑顔を絶やさなかった人が初めてみせるその姿に僕はただ、立ち尽くすことしかできなかった。

 

「……っ」

 

 耳元を通り過ぎる微かな吐息。

 

 音がした方へ目を向けると、ユウリさんが踵を返して立ち去ろうとしていた。

 目の前にいる僕を見向きもせず、彼女は沈黙と貫いていた。

 前髪で瞳を覆う彼女の表情はここからは見えない。

 でも、僕の真横を通り過ぎる瞬間。

 

 それは、僕の瞳に映り込んだ。

 彼女の頬を伝った一条の雫。

 

 次第に遠くなる彼女の足跡と同時に、周囲の輪郭が次第にぼやけていく。

 

 朧気になっていく風景の中で僕は身体の奥底で淀んでいた違和感が形を帯びていくのを知覚していた。

 

 色彩の無い世界。

 周囲に干渉しない自分。

 僕の記憶より若い、彼ら。

 彼女を中心に展開される情景。

 

 ここは過去の世界。

 恐らく、ユウリさんが思い描いていた記憶の一幕。

 

 もしかすると、あの時の行動理由が分かるかもしれない。

 脳裏に浮かぶのは黒衣に身を包む彼女の横顔。

 

 ぼやけていた周囲の輪郭が再び鮮明になり始める。

 場面の切り替わりが始まるのだろうか。

 手足に力を込め、僕は顔をあげて迫りくる変化を見据え続けた。

 

 そして、僕の前に新たな情景が現れる。

 

 

 

【シュートタワー 28階 会議用ワーキングエリア】

 

 照明の抑えられた構内。

 

 ひっそりと静まった空間の中で突如沸き起こる衝撃音。

 

 通路に躍り出た2つの影は速度を上げながら猛進していく。

 僅かな照明に照らされるのは、タンクトップと青い手足。

 

「逃がさないぜー!億万長者の夢が掛かってるんだからなぁー!」

「私は世界征服ー!あらゆるイケメンを侍らせるんだい!」

「ぼ、ぼくはお腹いっぱいカレーが食べたい~!」

「……ん?さっきまで食べてたよね?」

 

 後ろから追走してくる複数の黒衣がはためく。

 通路を駆け抜ける追跡者は、前方で逃走を続ける侵入者へ追撃を仕掛ける。

 彼らの横で共に駆ける、ポケモンたちの一声が響き渡った。

 

 大気を切り裂く、双葉の刃。

 投擲される岩石の塊。

 直撃すれば致命傷となりえる凶刃が背後から迫りくる。

 

「っ!……しつけぇ奴らだな!」

 

 タンクトップを翻しながら振り返ったニックは、右手につかんだボールを起動させる。

 

 閃光に照らされ、宙を舞うのは燃え盛る炎のように揺れる手足。

 飛来する凶刃の数々が鋭い衝撃音とともに叩き落された。

 

「頼むぜぇ!バサ次郎!」

 

 再び前を向いて駆け出す主と背後を守護した従者の視線が交錯する。

 鍛え抜かれた武人のようなポケモン、バシャーモはニックの身体を抱え込むと地面を蹴り上げた。

 対岸に見える通路へと飛翔する、大跳躍。

 二人の身体は弧を描くように薄暗い構内を突き抜けていく。

 

「まだだ!逃がさないぞー!」

「……ちょっと待って!彼意外と顔よくない?」

 

 一瞬遅れてたどり着いた、黒衣をまとう者たちは前方を目掛け照準を合わせる。

 以前として宙を舞う二人の影。

 

 黒衣の周囲を佇んでいたポケモンたちが主の声に呼応して攻撃の構えをとった。

 

 追撃の狼煙が上がる、直前。

 体を突き抜ける浮遊感を堪えながら少年は合図を発した。

 

「今だ!インテレオン!」

 

 瞬間。

 対岸から放たれた水の本流。

 

 ニックとバシャーモの足元を突き抜けたそれは、うねりをあげて追跡者の眼前へと襲い掛かる。

 体を固めた彼らを瞬く間飲み込んだ水流は、壁や廊下に飛散し飛沫を上げながら構内の奥へと流れ込んでいった。

 

「わわっ!ぼく泳げないんだよ~!」

「……そんなに浮いてたら泳ぐ必要ないんじゃない?」

 

 遠ざかっていく追跡者たちの声を片耳に、対岸の通路へ突っ込むニックとバシャーモ。

 転がり込むように着地の衝撃を分散させた彼は迷うことなく走り始める。

 

 ふと、隣に目を向けると狙撃を成功させたインテレオンが並走していた。

 

「サンキューな。インテレオン!」

 

 投げかけられた感謝に目を細める青と黒の諜報員。

 その腕の中で未だ眠りにつく少年を一瞥したニックは、わずかに息を吐きだし前を向く。

 

「俺が絶対に連れていってやる。だから、帰ってこい。マーチ……!」

 

 自分自身に言い聞かせるように、遥か彼方にいる兄弟を信じるように絞り出された声音。

 

 目指すのは塔の頂上。

 あの姉ちゃんの前に必ずこいつを立たせる。

 

 静まり変える構内に反響する己の言葉を耳にしながら、彼は暗闇の奥へと進んでいった。

 

 

 

【色彩の無い世界】

 

 マーチが立っていたのは薄暗い部屋の一室だった。

 壁に設置された窓にはカーテンが閉められていて、外部の光を完全に遮断している。

 

『……ガラルに新チャンピオンが誕生して1年。先週発表された突然の休養の知らせに、各地波紋が広がっております。今回の街頭インタビューでは彼女を快く歓迎している意見もあれば、依然のチャンピオンの方が良かったと不満の声を挙げる人も少なくありません。話を聞いていくと、プレースタイルやフィールドでの立ち振る舞いに原因がありそうだという事が分かってきました。次のコーナーで詳しく経緯をまとめていきます……』

 

 影を落とす室内で、唯一の光源であるテレビから聞こえる無機質な声は部屋の中で薄れていく。

 壁に沿って立つクローゼットの前には中身の詰まった段ボール箱が無造作に置かれていた。

 テレビの側面にある棚の中では数々のトロフィーがひっくり返っている。

 他にも幾つかの生活品が点々とする床はお世辞にも綺麗とは呼べるものではなかった。

 

 そんな部屋の隅で蹲っている一人の少女、ユウリ。

 身にまとっているパジャマはサイズが合わないのか、斜めにズレ落ちている。

 露わになる右肩は、血色がわるいのか心配になるほど白い。

 

「……はい。申し訳ありません。……必ず体調戻しますので……はい。すみません。それでは、また」

 

 不自然なほど白い手で持ったデバイスでの通話を終了したユウリは崩れるように脱力した。

 

 力の抜けたデバイスが床に転がり落ち、別のアプリが立ち上がる。

 どこにでもある普通のニュースアプリ。

 しかし、そこには不調のチャンピオンに疑問を投げかける世論の声が詰まっていた。

 

 フィールドでの立ち振る舞い。

 ポケモンバトルの進め方。

 プライベートでのファンへの対応。

 一年前まで、一般人だった彼女からするとどれも体に馴染まないものだった。

 

 もちろん、新チャンピオンの初々しい対応に好意的な人々も多い。

 しかし、そんな事を気にも留めず、彼女の肩書を注視する人も一定数いた。

 攻撃的な後者の意見は、徐々に彼女の心身を蝕んでいった。

 

「……なんで……上手く、できないんだろう……なんで、こんなに、くるしいんだろう……?……あの目が怖い。辛い。……やっぱり私には……無理だったんじゃないかな……」

 

 周囲の期待に応えられない自分への嫌悪と諦観。

 膝に顔をうずめる彼女のくぐもった声色が、室内に零れていく。

 時折震える彼女の両肩からは王者の貫禄ではなく、年相応の少女の内情が垣間見えていた。

 

 悲痛な雰囲気が籠る室内に、突如鳴り響く1つの電子音。

 

 おもむろに顔を上げた、少女の濡れた瞳に写ったのは一通のメッセージ。

 送り主は研究の一環で一年の間、ガラル地方を発っていた彼。

 少女の目がゆっくりと見開かれる。

 

「……ホップ?」

 

 

 

 情景が移り変わる。

 マーチは見覚えのある一室に立っていた。

 

 目が回るような数の本が置かれた部屋。

 《ブラッシータウン》の《ポケモン研究所》の中の一室に二人は居た。

 

 部屋の中央で本を読む少年とその隣で彼を眺める少女。

 

「そういえば、びっくりしたぞ。海外から戻ってきたら、ユウリが体調不良で休むってニュースで見たから」

「大げさだよぉ。……ちょっと油断して風邪ひいただけだって」

 

 本から顔を上げつつ、呟かれたホップの言葉にユウリは肩をすくめた。

 彼が頁をめくるたびに仄かな紙の香りが辺りを漂う。

 儚く、どこか懐かしい感じを連想させるその香りは少女の心をじんわりと温めていった。

 

「どうしたんだユウリ?こっちをじっと見て」

「ううん。なんでもなーい。……こうしてると、なんか昔を思い出すなぁって」

 

 不意に飛んできた少年の眼差しに、ユウリは静かに目を細めた。

 

「ははは。別に振り返るほど昔じゃないだろ。……いや。大人の女性になったのかな?現チャンピオン」

「そうだよー。私は君よりずっと大人なんだからぁ。もっと敬いたまえよ、ホップ少年」

 

 二人の間を流れる優し気な雰囲気。

 

 窓から覗く風景が変わり、季節が流れていく。

 コマ送りの様に、いくつもの残像を残していく二人の表情には常に笑顔が咲いていた。

 

「はい!これこの前遠征行った時のお土産。ダルマッカ饅頭だって。かわいいよねぇ」

「おおう。サンキュー!……辛さグラードン級ってヤバくないか?……ってもう食べてるし!」

 

 少女は、次第に明るさを取り戻していき立ち振る舞いに自信が滲みだしていた。

 

「お、ユウリ。丁度いいところに。ソニアが貰ってきたコーヒー淹れるんだけど飲むか?」

「ええー。コーヒー苦いよぉ。……あ、この前ホップが買ってた練乳入れていい?」

 

 少年も白衣に眼鏡と、段々と知的な雰囲気を身に着けていった。

 

 いくつも廻った季節。

 窓の外で積もっていた雪は次第に解け、見え始める新緑が春の訪れを伝えていた。

 

 研究所内で白衣を翻し、研究の手伝いに励むホップ。

 チャンピオンとしての活動をこなしつつ、研究所に入り浸るユウリ。

 

 そして、お決まりのように本に囲まれた室内でくつろぐ二人の姿。

 本を読み込む少年の隣で少女は彼の横顔を眺め続けた。

 いつまでも続くかに思えた日常。

 

 それは、突如として終わりを告げた。

 

「……報告があるんだ。ユウリ」

「なーに?ホップ」

 

 本と閉じて隣に座る少女を見つめる少年。

 少女はいつもと違う雰囲気を感じつつも、おもむろに彼に向き合った。

 

 少年は瞼を閉じて、深呼吸を繰り返した。

 そして瞼を開き――。

 

「実は俺、ソニアと付き合う事にしたんだ」

 

 ユウリの視界が音もなく歪んだ。

 言葉を紡ぎ終えた後、輝かんばかりの笑顔を浮かべたホップを前に。

 

 眼前で広がる眩しい笑みに一瞬、視線を逸らした彼女は微かに震えた唇で言葉を零した。

 

「……そうなんだ。良かったじゃん!昔からソニアさんの事みてたもんねー」

「……いやいや、そんな見てないぞ!」

 

 少女のおどける様に浮かべた笑みに、噛みつく様に反論する少年。

 そんな二人の間に一人の声が飛んでくる。

 

「おーい。なんでそんな騒いでんの、二人とも落ち着いてー。……温かい紅茶入ったから一緒にどう?」

 

 部屋の入口に寄りかかる様に立つ白衣の女性。

 中央で騒いでいた二人と目が合うと、彼女はやさしく微笑んだ。

 

「ああ!」

「……ありがとうございます」

 

 白衣を翻しながら早々に駆けていく少年の後ろで、少女は静かに白衣の二人を眺めていた。

 

 

 

 場面が、移り変わる。

 

「ここでいいよ。おろして」

 

 灰色がどんよりと立ち込める曇天。

 吹き抜ける風は、鳥肌が立つほど冷たかった。

 

 マーチが立っていたのは、どこかの草原。

 街からほど遠いこの場所に降り立ったユウリの姿を眺めていた。

 

 立ち込めていた雲の明るさが消えていく。

 少女は背に乗ってきた、アーマーガアをボールに格納するとおもむろに歩みだした。

 

 標高が高いのだろうか、冷気を伴った突風が幾度となく吹き付ける。

 髪や衣服の端をなびかせながら彼女は歩み続ける。

 草原の端、柵すらない自然に出来た崖の手前で、少女は歩みを止めた。

 

 視界に広がるのは一面の緑。

 人工物が見えないほど森で覆われた一角。

 ポケモンは居たとしても、人が生活している痕跡はない。

 

 つまり、ここにいるのは少女一人。

 彼女は沈黙を貫いたまま、眼下に広がる木々を眺め続けた。

 

 遥か彼方の雲から低い衝撃音が響く。

 彼女の肩にぽつりと水滴が零れ落ちた。

 雨が降り注ぐ。空から落ちてくる多数の雫は彼女の髪を、衣服を、ゆっくりと濡らしていく。

 

 どれほどの時が経過したのだろうか。

 沈黙を続けていた少女の口が僅かに開かれる。

 

「……私以外……みんな、進んでいく。……ホップも……ソニアさんも……」

 

 零れ落ちた言葉は、身体を流れ落ちる雫と共に地面へと沈んでいく。

 

「……でも、私だけが……進めてない……」

 

 遠くで雷鳴が轟く。

 

 雨に打たれて冷え切った身体。

 だからこそ。

 己の中で醜く蠢いている熱のような感情を知覚してしまった彼女は吐き出す様に声をあげた。

 

「私だけが、進めない……!……なんで……なんで!?……どうして、みんな置いてくの?……私は、待ってたのに……約束を待ってたのに……みんな……自分の道に進んでる……!……だれも……私の所に来てくれなかった!……他の人は私を見てくれない!……向けられる視線が怖い……!期待が苦しい……!……こんな場所に一人でいるなんて……無理だよ……!嫌だ……嫌だ……嫌だよ……!置いてかないでよ……!私を……一人にしないでよっ……!!」

 

 上体を折り曲げ、蹲るように佇むユウリ。

 雨と涙に濡れたその顔は悲痛な程に歪んでいた。

 

 降りしきる雨は何も語らず彼女の身体を打ち続ける。

 天候は回復する兆しを見せることなく、暗雲を漂わせ続けた。

 少女は俯いたまま、立ち尽くしていた。

 

 そして、それは起こった。

 

 彼女の濡れた目が見開かれる。

 

 突如巻き起こった突風。

 それは彼女を背後から押し出す様に吹き抜けた。

 

 小柄な少女の身体が宙を舞う。

 崖から離れた足は、頼りなく虚空を彷徨う。

 

 僅かな間、宙を舞った彼女は引きずり降ろされるように地面へと落下する。

 

 少女の視界に迫りくる、地表に広がる森と土。

 

 彼女の意識が途切れる直前。

 腰に携えていた1つのボールが音もなく開かれた。

 

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