ポケットモンスター剣盾 外伝 祈望のアカシア   作:甘井モナカ

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もうちっとだけ、続くんじゃ。


#34.エピローグ

 

『皆さん。お待たせしました。長い予選期間を経て、遂にこの対決が実現しました……!数々の名勝負が生まれたこのスタジアムのフィールドに、最後まで立つのは一人だけ。はたして勝者はどちらだ……!?』

 

 ファイナルトーナメント決勝戦。

 《シュートタウン》は今年一番の盛り上がりを見せていた。

 

『公式戦無敗を誇る歴戦の王者か?はたまた、彗星の如く現れた新人挑戦者か?……そして。その行く末を見届けるのは、こちらへお越しになった皆さんですっ!勝敗は分かりませんが、これだけは断言できます。……今夜の結末はガラルの新たな伝説になるでしょう!』

 

 子供に、大人にポケモン達。

 喧騒を奏でる上げる彼らの熱狂は留まる事を知らない。

 

『さぁ!開幕まであと少し!皆さん、観戦の準備をお願いしますね!ちなみに、本日の出店でおすすめなのが……』

 

 各所のスピーカーから響く委員長の声が、街全域へ拡散していく。

 そんな中、一部のスタッフ達が血相を変えて駆けまわっていた。

 

「ねぇ……!この後に挨拶あるんだけど、委員長見なかった?」

「いや?見てないですけど」

『ピカ、ピカピー』

「そういえば、差し入れ買いに行くって言ってたよー」

「その後、委員長見た人は?」

「「「……」」」

「皆。……捜索準備」

『クルッポー!』

「ええ!?またですかぁ?」

「喚くな新人。……これも仕事だ」

「いつもの事っすねぇ。あれ?目から、汗が……」

『ゴォン……ゴォン……』

「泣くなベテラン。全部終わったら委員長の奢りで打ち上げだからさ。乗り切るよ、みんな!」

 

 通路の至るところには出店が立ち並んでいた。

 店を構える店主たちは、今日の主役である王者と挑戦者を一目見ようと訪れた客に商売を繰り広げている。

 

 そんな人込みの中を練り歩くのは一組の男女。

 

「ほう。私達の息子の写真が至る所に。ふふっ。こういうのは気分がいいな。……どうだ?記念に1枚写真を撮るというのは」

「断る。その妙にデコった自撮り棒はしまってくれ。素面でそのノリは頂けないぞ。周りの視線を感じな……まさか、すでに飲んでいるというのか?」

「フフフ。妻の誘いを断るとは。……あまり私を失望させるなよ?俗物?」

「ええい!相変らずの酒癖だな!これが若さか……!?」

 

 暴走し始める桃色髪の女性の前で、金髪の男は顔を引きつらせた。

 二人が挑戦者の写真の前で《大立ち回り》を繰り広げるまで、残り5秒。

 

 

 その喧騒の奥から、若い男女が駆け足で進んでいく。

 いつもは白衣を着ている彼らは、珍しく上品な私服を身に纏っていた。

 

「ちょっとホップー。早く行くよぉー?あの子の両親から『もうスタジアム近くまで来てる』って連絡来ちゃったんだから!」

「分かってるよ。……くそっ。なんで赤いスーツクリーニングに出しちゃったんだ。……せっかくあの人の好みに合わせられたのに」

 

 自身の上着を掴み小さく嘆く彼の背後で、急速に空気が冷え切っていく。

 

「……ホップー?」

「あ!違うぞ!ソニア好みって服の色!しかもお母様じゃなくて、お父様のほうだって!会話を弾ませるためで色目とかじゃぎゃああああああああ!」

 

 鬼と対面した青年の悲痛な叫びが木霊した。

 

 その近くの通路の脇。

 大きな木の下に並ぶ出店を食い入るように眺める一人の青年。

 

「待ちに待ったオフの日が来ました。……さぁ、今日は何も考えずに遊び倒しますよぉ」

『明日雪原に調査があるのをお忘れですか?……予知夢するまでもなく、マスターが疲れ切って瀕死になる結末が見えるのですが』

 

 背後に佇む白色のポケモンが見せる冷めた目に気づくことなく、青年は出店へ突貫していった。

 

 出店通りを進んだ先にある、スタジアム前のポケモンセンター。

 その近く出店前で筋骨隆々の二人が騒ぎ出していた。

 

「じーさん!おい!そこはこの《黄金プロテイン》だろ!俺の筋肉もそう言ってる。これが俺を進化させる鍵だと!」

「まてい!ニック。この《シルバーアミノサン》というのも気になるゾ。長年王者を死守した儂が言うんじゃ!……ム!《ブロンズグリコーゲン》じゃと!?」

「おふたりさぁん。今ならセットでこの《ロイヤルビタミンザイ》も付けちゃうぜ~?」

「「なん……だと……!?」」

 

 

 

 街道から少し外れた野原の一角。

 青と赤の毛並みを際立たせる二匹の獅子が、静かに足元を見つめていた。

 彼らの前に置かれているのは大皿に乗ったジャンクフードの数々。

 

『良かったら食べてください。あの時のお礼です。《通りすがりのトレーナーより》』

 

 訝しげにそれらを眺める彼女をよそに、並び立つもう一匹の獅子の口からは涎が溢れていた。

 呆れたように息を吐くと、彼女は隣の愚弟を引っ張ってその場を離れようと踵を返した。

 

 次の瞬間。

 彼女のお腹から音が鳴った。

 

 僅かに泳いだ視線の先で、円らな瞳を丸くした幼女を目が合う。

 野原に響いた間の抜けた音を逃さず聞いたのか、幼女はにんまりと笑った。

 

「おなかへってるなら、たべなきゃ!」

 

 澄んだ瞳から逃れるように振り返ると、既に大皿に顔を突っ込んでいる愚弟の後ろ姿があった。

 

『フガフガフガッ……!』

『……』

 

 黄金色の瞳を細めた彼女は、ゆっくりと大皿へと歩み出した。

 

 

 

 木々に付く葉が風に流れていく。

 

 スタジアムの裏手にある、高台の一角。

 街の喧騒も遠く、穏やかな空間にその女性は立っていた。

 

「おや、おや。《スパイクタウン》のジムリーダーがこんな所でなにを?」

「……今日は非番なの。あんたこそ何してんの?ここ、あたしのお気に入りなんだけど」

 

 背後から響いた仰々しい一言に、彼女は肩越しに反応した。

 

「彼らの輝きは少々眩しすぎるので、私は一歩引いた位置で眺めようかと。……それに一人で飲むのも味気ないでしょう?」

「……もう、準備万端って感じ?」

 

 程よく冷えた缶を両手に持った初老の男は、おもむろに片方を女性へ放り投げた。

 

 胸元で缶を掴んだ彼女は、やがて息を小さく吐いた。

 その口元を微かに緩めながら。

 

「ま、今日くらいは悪くないかもね。あんたと飲むのも」

 

 

 

 

 《シュートスタジアム》、フィールドの出入口前の空間。

 

 フィールドから漏れ出る喧騒を聞きながら、少年は靴紐を結んでいた。

 一呼吸置いて結び終えると、彼はおもむろに1つのボールを手に取る。

 

 細微な傷が端々に浮かぶ《モンスターボール》。

 

 色褪せたその表面には、いつか貰ったサインがうっすらと残っていた。

 

 自然と瞼の裏に浮かび上がる、冒険の数々。

 自分がこれまで歩んだ旅路を振り返った少年は静かに目を細めた。

 

「精神統一ってやつかな?マーチ君」

 

 不意に響いた声。

 

 おもむろに顔を上げると、少女が微笑みながら佇んでいた。

 

 赤と黒を基調とするユニフォームに全身を覆う巨大なマント。

 首回りで切りそろえられた焦茶色の髪を靡かせ、彼女は歩み寄る。

 

「ユウリさん」

 

 幼い頃からの憧れ、追い続けた目標であり、一時の対立を乗り越えてここまで来た。

 

 少年は安堵の表情を浮かべながら彼女の名を呟いた。

 

「……この前はありがと。まさか、君の胸を借りる事になるなんてね」

「いえいえ。打ち合わせはしてましたけど、それでも断られたらどうしようって内心ヒヤヒヤでしたよ?」

 

 目をそらしつつ、気恥ずかしそうに頬を掻く少女。

 久しぶりに見た彼女のあどけない仕草が妙に可笑しく感じ、笑みが零れるのを堪えながら少年は内心を吐露する。

 

「あぁ。その手もあったのね。……二人に言いくるめられちゃったなぁ」

 

 大げさに両手を上げておどけた表情をする彼女に少年は静かに目を細めた。

 

 二人の間に静寂が訪れる。

 

 次第に笑顔が薄れ、真剣な瞳が交錯する。

 周囲の喧騒が徐々に遠のいていく。

 

 フィールドから溢れる熱狂が薄れていく中、二人は静かにお互いの顔を見つめ続ける。

 刹那にも、永遠にも感じられた時間の中、少女が沈黙を破った。

 

「私は、勝つよ」

 

 口角を上げながら彼女は呟いた。

 

「ここに来てくれた人達を見て、目が醒めたよ。俯いている内に忘れていた事を思い出した。皆の目が輝いていたの。……夢は、ここにあったんだね」

「……」

「だから、今まで思ってくれたみんなと、君に、答えるために」

 

 対面する少年を見据える、少女の目が潤む。

 

「私は、この世界で戦うよ」

 

 彷徨う眉。

 震える唇。

 それでも、少女は確かな笑みを浮かべていた。

 

 彼女の瞳に写り込む、涙を滲ませていた少年も負けじと白い歯を見せる。

 

「……いまさら、その気になっても遅いですよ。今度も僕が勝ちますからね」

「ふふふっ。あの森で会った頃からずいぶんと逞しくなったんだね」

 

 これまでの冒険で大きな成長を遂げた少年。

 そんな彼の精一杯、背伸びをした挑発だったのだが、余りにも似合わず少女は思わず吹き出した。

 

「ええ。強くならないと、誰かさんに返事もらえないみたいなので」

 

 破顔する彼女につられ、少年も頬を緩ませた。

 画面越しに追いかけ続けた彼女から目をそらさない様に。

 

 二人の間に再び静寂が訪れる。

 

 先刻と異なるのは二人の表情。

 目元を赤くしながら、僅かに頬を染めながら、微笑んでいる。

 

 靴の先の距離が縮まる。

 向かい合う瞳に写り込む、自分が次第に大きくなる。

 

 相手の息遣いが耳に反芻する。

 

 時間の流れが止まったかのような静寂の中で二人は――――。

 

「……そっか。良い返事がもらえると良いね?君の告白」

「はい。頑張ります……ってなんで他人事なんです!?一応、あなた当事者なんですよ?」

 

 周囲の喧騒が戻る。

 

 弾かれたかのように身を引いた少年の前で、少女は笑みを浮かべた。

 まるで悪戯が成功した子供のような。

 

「ええ……。ここまで来て、もしかして脈なし??嘘でしょ?……いや、待てよ。そうだとしたらあの時の涙は……」

 

 頭を抱えて、体をねじり回す少年。

 もがき続けるのかと思いきや、急に顎に手を当てて今度は独り言をつぶやき始めた。

 

 少女の脳裏に少年と初めて会った時の情景が浮かび上がった。

 あの頃と変わらない表情を見せる彼に少女は静かに頬を緩める。

 

 胸の奥にある1つの思いが強固になる感覚を覚えながら、彼女は一歩踏み出した。

 

「あー!そろそろ名前が呼ばれる!行こっ!」

「ちょっ!まだ心の準備が……!」

 

 少年の手を取り、少女は駆け出した。

 

 彼の体温が掌を通して彼女へと伝わる。

 前方から沸き起こる喧騒と熱狂が徐々に大きくなっていく。

 

 次第に高鳴りを強める心臓の鼓動。

 

 主役の登場を告げる囃子の音色をくぐり抜け、二人は舞台へと駆け上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






あとがき


ここまで読んでくださった、そこのあなたへ。
本当にありがとうございます。


ポケモンと某バンドのコラボPVを見てガラル地方に飛び入り参戦してからもう2年。
久しぶりにポケモンをやった筆者からすると、グラフィックの進歩やキャンプ要素等が新鮮でポケモンをより身近に感じられたような気がします。

無事ガラルチャンピオンになり、暇を持て余していた時に、ある1つのワードを検索してしまって出来上がったのが今回のお話です(汗)

先駆者様の偉大な作品を読んで、日々震えていたのですがここで1つの解釈違いが起こってました。
「ユウリちゃん救われるエンドが無くなぁい?」

某バンドからガラル地方に入った筆者のイメージではハッピーエンドもしくはビターエンドがストライクゾーンだったのですが、世間は厳しかったです…。
そこで謎の使命感に燃えていた私は気づいたら右手に筆を握っていました。(迫真)

そんなこんなで始まった、彼と彼女の物語ですが、こちらで一区切りとなります。

決勝戦の勝敗とか、告白の行方とかいろいろな事が残ってますが……。
彼らなら、きっと大丈夫でしょう。

もう離せない手を繋げたようなので。(イケボォ)


さて、こんな幼稚なあとがきにまで目を通して下さっているあなたに、最後のお願いがあります。

読んでみた、感想を頂けないでしょうか。

なんでも構いません。

「ここ分かりにくかったゾ」とか。
「もっとルビ振れ」とか。
「ビートさんカッケェ」とか。

筆者の書いたお話が、あなたの目にどう映ったのか、知りたいのです。

必ず読んで返信いたしますので、気が向いたらよろしくお願いしますね。



それでは、またどこかでお会いできる事を祈りつつ、
今回はこの辺りで筆を置かせて頂きたいと思います。


甘井モナカ


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