燃え盛る炎の中に見えるのは、この戦争によって破壊された国の姿。
軍事施設と思われる場所は、文字通り壊滅。病院や学校、民間の施設であっても例外はない。
無差別?残虐?非道?
...いや。戦争なんて、どの世界でも同じようなものだ。全てを奪い、全てを焼き尽くすまで終わらない。それが真理なのだ。
戦争には勝たなければ意味がない。
死んで得られるものなど、何も無いのだから...。
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「ウズミ!」
「...ヘイズ、か」
通信越しに映るそいつの名はウズミ・ユラ・アスハ。今まさに戦火に包まれているオーブ首長国連邦の首長であり、私たちを雇った雇い主である。
「今回は色々と、迷惑をかけたな。報酬はきちんと全額支払っておる。長きに渡るお前たちとの契約もこれで終わりだ」
「チッ。
相手は地球連邦。こちらは補給も後ろ盾も無い、小国の軍隊のみ。結末など、誰が見ても分かりきっていた。
同じ地上に住んでいるというのに、1国だけが対立したらどうなるか。そんなもの火を見るよりも明らかだ。足並みの揃わない小国に対して大国が行う事なんてただ一つ。
武力による見せしめだ。
従わないとどうなるか―――
...まるでラインアークだな。
企業支配を肯定しない自由主義の集まり。「来るもの拒まず」の精神で様々な人間を受け入れたあの組織。
だがその結末は破滅だ。
あの戦闘でラインアークはホワイトグリントを失い、そのままずるずると破滅への道を辿った。
結局、それも分かりきっていた結果。
伝説のレイヴンとはいえ、数多くのリンクスを抱えている企業連に勝てる未来などない。
...まぁ、ステイシスとの戦闘は見事だったがな。
この国はラインアークよりは上手くやったが、結果は似たようなものだ。己たちの信念を貫くために。この戦争の結末を悟りながらも自身の破滅を選んだ。
私は忠告したぞ?この居場所を提供してくれた貴様らに、恩義を感じてな。だが、結局はこのザマだ。
何も変わっていない。あの世界と同じだよ、ウズミ。
「貴様らはどうする気だ。言ったはずだそ?死んで得るものなど何も無いと」
「確かに、その通りやもしれぬ。ここで我々が死ねば何も残らぬと。だがなヘイズ。国とは人、そして意志なのだよ」
「...」
「人無くば国は成らず。意志無くば人は来ず。幸い、民間人の避難は完了している。そして、我らはここで想い、そして意志を残した。それは無事、
ウズミの視線の先には、マスドライバーによって打ち出されたカグヤの姿。その船体には白い機体と赤い機体、そして黒い機体が見える。
「あとは、我らの責めだ。貴様らは何処へなりとも行くがよい。それが
「...フッ。そうか...なら私たちもこれからは好きにさせてもらうさ」
「出来うるならば彼らの、そしてカガリの手助けをしてもらいたかったが...」
「フン。私たちは傭兵だ。どの陣営に付くかなどは契約次第。明日には敵になっているかもな」
金も受け取った今。こんな敗戦確定の陣営に居座る意味などない。私たちは傭兵。己の命を守るのは己のみ。
...だが。
「この弾薬は貴様らでしか製造できない。ならば答えなど分かっているだろう」
「すまぬな」
「言ったはずだ。好きにする、と」
そんなもの、あの世界で失敗した私には分かるわけはない。
だが、貴様は信じているのだろう?
彼らを。そして、朝日に照らされ暁色に輝く、
ならば、最後まで見届けてやろう。
彼らの行く先。
それを見届けるのも、悪くない。
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「...ン?...セレン?」
「...ん?...あぁ、すまんな。少し、前の事を思い出してな」
「そうか...」
ウズミ...。貴様の死によって護った
この光景を、貴様が見ればなんと言うだろうかな。
私に対して勝ち誇ったような笑みを浮かべるか?
フッ。それもいいだろう。
思えばこの世界に迷い込んでから、貴様らオーブとの関係は驚くほどに長かったな。こんな根無草である私たちの居場所が出来てしまう程に。
だが、この世界は余りにも似過ぎているんだ。私たちが居た、地獄のようなあの世界に。
高貴なる者たちは空へと昇り、そうでない者たちは皆、劣情感を味わいながら地上を這いつくばる。
そして人類のためには人の死を厭わない馬鹿ども。
核兵器。サイクロプス。眼前に浮かぶ要塞、ジェネシス...。
自然豊かだった緑の大地は、数々の兵器によって荒廃の大地へと変貌した。
頭の腐った馬鹿がすることなど結局どの世界でも同じ、という事か。
だからこそ私は目の前にいるこいつの事が気になった。あの世界で人類種の天敵となった、私の
だがその考えは杞憂に終わった。
いつだっただろうか、こいつに聞いたんだ。
あの世界で私を倒した後、結局お前の答えは成就したのか?と
その答えはノーだった。
「人類種の天敵となった俺は、この身が果てるまで止まらなかった。全てを焼き尽くし、次の世代へ未来を託すために。俺が絶対的な天敵として君臨し続けている間、残された人類は俺という敵と戦う事で結束し、企業が手を取り合い新しい未来を創ると思った。...だが―――
「所詮は上っ面だけの結束だった。ということか」
「...あぁ。結局俺はあの世界の本質を変える事はできなかったんだ」
無理もない。あの世界とはそういうものなのだ。
「だから俺は、この世界で抗う彼らを見届けることにした。彼らの掴んだ答え。それがあの世界で俺の掴んだ答えと、どう違うのか」
そう言ってこいつは先程までの悲壮感を払い、柔和な表情を浮かべて
...そうか。ならばそれが、この世界でお前が見つけた
奇しくも、この世界に来て変わったのは私だけでは無かったようだ。まぁ...もし変わっていなかったのなら、山ほど説教するところだったがな。
だが、傭兵としては存外甘い男になってしまったようだな、お前も。そして、私も。
次の戦いがアルテリア・カーパルスほどの激闘となれば、こいつは負けるかもしれん。
...いや、今回の私は、お前側だったな。そして、彼らも...。
...フッ。なんだ。考えてみれば今回の方が勝率は高いじゃないか。
あの時とは違い、こいつは今世界を壊す側でなく、私と共に守る側として立っている。それもこれも道を踏み外さなかった彼らのおかげ...か。
ならば、今回こそ証明して見せようじゃないか。私“たち”の
「これがお前にとって...いや、私たちにとって最後の戦いだ」
たとえ世界が変わり私たちが変わったとしても、
「生きて戻れ。それがお前の責任だ」
定期的にセレンさんの未使用ボイスが聴きたくなる病。