女ヶ島を追い出されたので外海でハーレム王に私はなる   作:覚醒サイダー

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第2話 スペード

「いやぁ、助かったよ本当に」

 

「悪かったな、アンタがいると分かっていれば加減したんだが」

 

「あの状況だし仕方ないよ。ああ、私はセラギネラ。セラでいいよ」

 

 私は今、海王類に襲われていた船の乗組員達主催の宴会へ参加していた。彼らは『スペード海賊団』という海賊で、目の前にいる男、船長のポートガス・D・エースは懸賞金億超えの大物海賊だった。能力については聞かなかったけど、たぶん、自然系で『火』の能力者だろう。

 

「しかし何だって海王類の中から?」

 

「石になって海を彷徨ってたら食べられちゃったからかな」

 

 先程まで私を食べていた海王類は既に解体され、こうして目の前で調理していた。焼き立てのただ塩で味付けしただけのその肉に齧りつく。そしてそれを辛口の酒で流し込めば幸せな気分。久方振りの食事は私を十分に満足させてくれた。私を船まで運んでくれて、美味しく食べられてくれるなんて、凄く良いやつだった。ありがとう。

 

「良く分からねぇが、まあ、いいか!この出会いに乾杯!」

 

「かんぱーい!」

 

 エースは良く話が分かっていなそうだったけど、そんなに気になることでも無かったのかあっさり流して、もう何度目かになる乾杯となった。

 

「エースの能力は肉を焼くのに最適な能力だね、実に良い焼き加減だよ」

 

「おい!俺はコックじゃねぇんだよ!そういや、お前、どうやって俺の“火拳”を防いだ?まともに受けたはずだ」

 

 エースに焼いてもらった肉は外はパリパリ、中はふわふわでとても美味しかったから褒めただけなのに不服そうだ。

 

「斬っただけだよ?流石にまともに受けたら服が(・・)燃えちゃうよ」

 

 お気に入りの服なんだから燃えちゃったら困る。

前合わせの立襟で、体に沿った細身の仕立て。丈は足首にかかるほど長いのに、腰骨くらいまでの深いスリットが側面にあるから動きづらくはない。九蛇では良く着られている、まあ伝統衣装みたいなものだ。真っ白なその衣装の上から、白い毛皮のコートを羽織っているものだから私は全身真っ白。髪も白いし、肌も白いから、国では『白雷』なんて呼ばれていたものだ。

 

「……セラは剣士なのか?」

 

「剣士と名乗るほど剣に拘りはないかな。だって武器は武器でしょ?全部使えばいいじゃん」

 

 いつも武器を変えている私に、同じような質問をした九蛇の戦士にもこう答えたら化物を見るような目で見てきて可愛かったな。武器なんてアクセサリーみたいなものなんだから気分で変えれば良いと思うんだよねぇ。

 

「なあ、ちょっと戦ってみないか?俺はセラの本気が見てぇ!」

 

 目を爛々と輝かせてエースが立ち上がる。男というものと、こうして会話して、まともに接したのは初めてだったけど、騒がしく、暑苦しく、性急だ。これはエース達が海賊だからかもしれないけど、やっぱり女の子の方がいいなぁと改めて思う。早く抱きたい。

 

「恩人を無闇に傷つけたくはないかなぁ」

 

「俺に勝てるって?」

 

 好戦的な笑みを浮かべて今にも飛び掛かって来そうではあるけど、エースはここがどこか分かっていないのかな。

 

「君、船を燃やす気?ここでは君の能力はちょっと使いづらいでしょ」

 

「うっ」

 

 戦いたいとしか考えておらず、私達が戦ったらどうなるか全く想像していなかったらしい。

 

「まあ、肉食べて落ち着きなよ。特製のソースをかけてあげるから」

 

「特製のソース?そんなものいつ作ったんだ?」

 

 半透明な液体を肉にたっぷりとかける。私特製の塩ダレだ。淡白な海王類の肉にとても合うと思う。

 

「やっぱり能力(・・)って便利だよねって話だよ」

 

 適当に誤魔化しつつ、塩ダレ肉を食べる。想像以上に美味しくって頬が緩む。流石は私。エースも肉に夢中になって話も有耶無耶になった。男って生き物馬鹿過ぎるかもしれない。

 

「目的地はあるのか?出来るだけ送っていくが?」

 

「この船じゃ故郷には帰れないし……」

 

 凪の帯にあるアマゾン・リリーは、九蛇海賊団が持つ、海王類も恐れる毒海ヘビ遊蛇(ユダ)が引く船じゃないと行き来が出来ない。別の方法もあるんだろうけど私は知らないし。

 ハンコックにリベンジができないとなると、しばらくは外海で各地の美少女・美女を口説いて回るとしますかねぇ。ならば、行きたい場所がいくつかある。まずは……。

 

「『東の海(イーストブルー)』のローグタウンって街に行きたいな」

 

 ローグタウン。そこは大海賊時代始まりの街にして、一つの時代が終わった街。『海賊王』ゴールド・ロジャーは故郷であるこの街で処刑された。そして死に際に己の獲得した財宝、『ワンピース』について『この世の全て』と称して存在を示唆し、大海賊時代の幕開けとなったのだ。正にこの時代の始まりであり、一つの伝説が終わった街なのだ。外海の世界について勉強していたとはいえ、私はあまりに世界から隔離されている。文字通り、化石みたいな状態だ。この時代の始点を最初に見てみたかった。

 

「栄えちゃいるが東の海にしてはって程度だ。大したもんはねぇーぞ」

 

「お?エースは行ったことあるんだ?」

 

「俺は東の海から偉大なる航路(グランドライン)に入った。当然、玄関口であるローグタウンは経由してるさ」

 

 エースの表情をみるにあまり良い思い出はないらしい。アマゾン・リリーからほぼ出たことのない私からすれば、たぶん大都会だと思うけど、偉大なる航路(グランドライン)を旅する海賊にとっては田舎なのかな。逆に、私みたいな田舎者は、いきなり都会に行くよりは楽しめる気がする。

 

「あそこには海賊王の処刑台があるでしょ?あ、今もあるよね?」

 

 エースに話を聞いた感じ、私が石にされてから10年前後が経過していたから取り壊されたりしてなければ良いけど。

 

「……あるぜ、だがなんでそんなものを見たがる」

 

「大海賊時代の幕開けってやつを感じてみたい」

 

 アマゾン・リリーに居ても、世界が変わったのが分かったくらいゴールド・ロジャーはたったの一言で世界を次のステージへ移行させた。その瞬間の熱を少しでも感じられるなら行く価値はあると思う。

 

「ろくでもねぇ男が死んだだけの場所さ。観光なら他をおすすめしてやる」

 

 エースは海賊なのにゴールド・ロジャーが嫌いらしい。うちの皇帝も外海には興味なさそうだったし、海賊が皆、海賊王という頂点に対して好意的ではないのだろう。

 

「いや、ここがいい。昔から気になっていることがあってね。どうして海賊王にまで上り詰めた男が、その宝を仲間や、いたか知らないけど、恋人や子に託さずに、数多の海賊達に探させているのか……少し興味があったんだ」

 

 アマゾン・リリーに生まれ、九蛇の戦士として海賊になることが1番の誉れだと言われて育ってきた私としては、海賊は生業でありヒーローだ。だから外海でとんでもない懸賞金をかけられ、海賊王とまで呼ばれている男に興味があったし、彼が宝をまるでゲームの景品のように隠したことに疑問があったのだ。彼はこの時代を作り、その先に何を起こそうとしているのか。何かとてつもないことが起きるような気がしていた。

 

「……ならセラは、ゴールド・ロジャーに子がいたとしてどう思う?そんな奴は鬼だと恐れるか?」

 

「えっ?誰から生まれたかなんて興味ないよ。私はゴールド・ロジャーが成し遂げたことに興味があるんだ。その子供がいて、どこで何をしていても、私に関わらないんならどうでもいい。あ、美人だったら興味あるね」

 

 誰から生まれたって、それは人間という一つの種族の一個体に過ぎない。どう育ち、どう生きるのか、その過程が人を作るのだから。まあ、美人の子は美人になる場合が多いし、そういう意味では興味あるなぁ。あー、ハンコックに子供とかいるのかな。そしたらその子供が育つまで待ってみるのも良いんだけど。女ヶ島で生まれる子供は絶対に女の子だし。

 

「そうか!よし!どうにかしてローグタウンまで送ってやる!」

 

「本当に!助かるよ!」

 

 いるかも分からないハンコックの子をどう狙うか考え始めていると、何か吹っ切れたように笑うエースが、ローグタウンまで送ってくれることになった。

 いやー、最初に出会ったのがエース達で本当に良かった。外海のことなんて新聞や書物でしか知らないし、まともな航海術も持ってないから実際問題、結構ピンチだったんだよねぇ。そんな風に呑気に安心していたら、俄に船が騒がしくなってきた。

 

「エース船長ォ!敵襲だ!それも海軍に追われてやがる!軍艦が3隻も見えるぞ!」

 

 どうやら、海軍に追われている海賊船が、エース達を囮に逃げようとしているらしい。全く、外海は波乱万丈だよ。


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