覇道のドラマトゥルク   作:Okubo Masau

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 なかなかデビュー戦からすんなりと勝てないオペラオー、焦りの募る若手トレーナー。その一方で、勝ちはしたものの派手にやらかすメイショウドトウ。いずれ火花を散らす関係となる二名のウマ娘、デビュー当時から運命的な出会いを果たしていた……という一幕。


波乱の路傍に怒濤あり

 いかに言葉を尽くしたところできちんと聞く耳を持つか否か怪しいオペラオーに対しても、なお鷹木は念入りに言い含めていた。

 

 レースでは、トレーナーの指示した通りに走ること。追い込み寄りの自身の脚質に合わせ、レース中盤まで足をため、最終直線に入る辺りで加速して差し切ること。

 

「頼むぞ、絶対に指示は守ってくれよ。こちらはプロのトレーナーとして、お前に最適な走り方を分析したうえで伝えているんだからな。」

 

「悪くない!君の進言を聞き入れてやってもよかろう!はーっはっはっは、これぞ覇王の器!」

 

「覇王の器とか関係なく聞き入れてもらいたいんだがな。いいか、注意すべき対戦相手は……」

 

 こちらの提示する戦術へ従うよう、鷹木が執拗なまでに言い聞かせていたのには理由がある。無論、それがトレーナーとしての仕事に他ならないというのが根本にはあったが……担当ウマ娘との軋轢が生まれる原因を、過去に何度か味わった経験もまた大きかった。

 

 仮にトレーナーに指示された通りに走らなかったレースにて勝利を逃した場合、敗因がウマ娘自身の能力不足であったのか、それともトレーナーの指示に従わなかったことなのか、きっぱりと判明しなくなってしまうのだ。

 

 その結果、トレーナーとしては詳細な作戦指示も出せず「次は指示に従え」としか言いようがなく、ウマ娘の側からは「きっちり指導してくれない」との不満が噴出する状況にも陥りかねない。

 

 既に幾度か、実際にその状況へ陥った経験が鷹木にはあった。ウマ娘に対し、まるで単なるアドバイスの一つを示すかの如く緩やかな伝え方を取っていたことを後悔しても遅い。双方の関係性を保ち続けるためにも明確に指示し、従わせなければならない。

 

 トレーナーは、ウマ娘の走りに責任を持つ存在なのだ。部外者が、感覚だけで良さげな走り方を提案しているわけでは決してない。

 

〈入学一年度、未勝利選手レース、まもなく開始の時刻が迫ってまいりました。一番人気はこの子、メイクデビュー戦では惜しくも四着となりましたエイシンコンウェー。〉

 

 アナウンスによって一番人気として紹介されたウマ娘は、今レースにおける出走メンバ―の中では鷹木も警戒視していた相手であった、

 

 確かにデビュー戦の戦績は四着とはいえ、ゴール前の直線における加速は目を瞠るものがあった。レース開始前のオペラオーに対しても、彼女にだけは引き離されないよう、ぴったりとマークするように伝えていたのである。

 

(今回こそ、勝利を掴めるようペース配分も改善されているだろう。このレースで最も勝ちに近いウマ娘だ……これを差し切れるかどうかが、勝敗を分ける。)

 

〈二番人気、テイエムオペラオー。前回のメイクデビューにおいては惜しくも二着、ですが彼女独特の珍妙な存在感に多くの人気票が投じられています。〉

 

 アナウンスは会場を笑い声で沸かせることに成功し、パドックで手を振るオペラオー自身も実に満足げな笑みを浮かべていたが、鷹木ひとりは苦々しく顔をしかめていた。

 

 ドトウを担当している片桐もまた、同じく笑っているのだろうか。ドトウはオペラオーと別のレースに割り当てられたらしく、同じトレーナー席に片桐の姿は無かったものの、鷹木は勝手にそんな想像をしてますます自らの気分を害してばかりいた。

 

 相も変わらず緊張しっぱなしのウマ娘たちの集団内で、しゃなりしゃなりと優美な歩き方を見せるオペラオーも若干遅れてゲートインし、いよいよ未勝利戦レースが開始された。

 

〈スタートです。各バ、綺麗に揃ったスタートを見せました。先頭は5番ゼンノホーインボー、続きまして11番ショウザンニチリン、2番ワンダーブランニュといった順です。〉

 

 先頭のウマ娘だけが3バ身ほど突出し、その後ろに集団が続いている。オペラオーはと見れば、鷹木に指示された通り一番人気のウマ娘をピタリとマークして走っている。

 

 普段は頓狂な振る舞いが目立つものの、狙い通りの走りを正確に実現できる彼女は確かに優れた才能を有していた。

 

〈第一コーナーを回りまして先頭は依然変わらず、中団以降は8番ヴァンルージュ、3番ワンモアキスミー、そして一番人気のエイシンコンウェー、二番人気のテイエムオペラオーはその後に続いております。〉

 

 この未勝利選手レースにおいては、メイクデビュー戦とは違って逃げに徹するウマ娘は限られている。幾度も挑戦を重ねている内に、ウマ娘たちはそれぞれの脚にあった走り方を見出しつつあるからだ。

 

 殊に、このレースにおいては担当トレーナーの存在するウマ娘ばかりが出場している。彼らからのアドバイスを得て、差しや追い込みといった作戦を採る選手も増えつつあった。

 

〈さぁ第二コーナーを抜ければ最後の直線だ、先頭は変わらずゼンノホーインボー、しかし後方から1番サンライズロビンが上がって来た、6番プライドソルジャーも着々と順位を上げている!〉

 

 最終直線の入り口で一気に上がっていく後方のウマ娘たちの中に、当然ながらエイシンコンウェー、そしてその走りをマークしているテイエムオペラオーも存在した。先行していた選手たちを外から抜くため、集団は大きく横に膨らむ。

 

〈先頭でゼンノホーインボーが逃げている!二着争いは一番人気エイシンコンウェー!テイエムオペラオー!外から追い上げてきたのはプライドソルジャー!〉

 

 ……まずい、と鷹木は口の中でつぶやいた。

 

 逃げウマ娘が先頭に立っているその後ろ、相も変わらず3バ身ほど離れて後を追う選手たちは団子状態になっている。いずれのウマ娘たちも追い越されまいと、そして自分こそが先に出ようと必死で走り、その結果二位集団から互いに抜け出し難い状況が生まれていたのだ。

 

 オペラオーはと見れば、エイシンコンウェーの背後にピッタリとついて走っていたことが災いし、行く手をエイシンコンウェーに塞がれる形になってしまっている。

 

〈ゼンノホーインボー、逃げる逃げる!これは勝負あったか!大外からプライドソルジャーが食らいつく!エイシンコンウェーもバ群から抜け出した!〉

 

 ようやく、集団の脱出口に栓をしていた相手が集団から抜けた……その時には、既に一着のウマ娘がゴールラインを越えていた。

 

〈一着はゼンノホーインボー!メイクデビューから四戦を重ね、前回のレースは十着という苦境から、見事に夢を掴んでみせました!〉

 

 アナウンスの内容を受けてか、会場全体から温かな拍手が送られる。一着で勝利した彼女の顔がはっきりと紅潮し、目の周りが赤らんで見えていたのは、決して走り終えた直後だからという理由ばかりではあるまい。

 

 メイクデビューから勝てぬままに四戦目を迎えたとなれば、そろそろ諦めや焦りの感情が浮かんでくる頃である。それも、決して今までが好成績ではないのならば尚更。

 

 彼女の担当トレーナーと思しき人影が観戦席の最前列で雄叫びを上げて飛び跳ね、涙交じりの声で周囲に感謝の言葉を撒き散らしていたとしても、鷹木はその心境に十分共感することが出来た。

 

〈二着はプライドソルジャー!三着はエイシンコンウェー!〉

 

 だからこそ、もはやアナウンスに名さえ呼ばれなくなったテイエムオペラオーの担当トレーナーとして、彼自身の胸中には鉛のような息苦しさが詰まりつつあったのである。

 

 またも、当のオペラオーはレースを走り切った自身と競争相手達を讃えるかのごとく、ゴール直後から高笑いを披露していたが。彼の腕は一着のウマ娘へ拍手を送りつつも、口の奥では歯ぎしりが止まらなかった。

 

 ひきつった鷹木の表情が一瞬緩んだのは、彼が一つの違和感に行き当たったことが原因であった。

 

「……待てよ、ゴールした直後から、あんなデカい声で笑って……」

 

 たしか、トレセン学園内の練習において、ナリタトップロードを相手した時も、アドマイヤベガを相手した時も、ゴール直後には息を切らし、マトモに喋ることが出来ぬほどだったはずである。

 

 今のオペラオーが息切れの様子を見せていないことは、すなわちレースに本気で向き合っていないという証拠であろうか。

 

「……問い詰めないとな。」

 

 鷹木はまた別種の不快感が胸の奥から湧き上がってくるのを感じつつも、ウイニングライブの終了を待たなければならなかった。トレーナーとウマ娘が面会する時間がその間に設けられていなかったわけではないが、あのオペラオーを捕まえておくこと自体が困難を極めるのは明らかであった。

 

 三着以内に入らなかったウマ娘は、ウイニングライブではバックダンサーに徹しなければならない。それも、未勝利選手レース後に行われるライブにおいては、いよいよその他大勢の集団内に埋もれる羽目になる。

 

 未勝利選手向けレースは、開催数をこなす必要もあって一日に同じレース会場で幾度も立て続けに行われる。彼女らの舞台練習の意味を兼ねて行われるウイニングライブも、ステージ準備の手間を省くため一度に複数レース分の選手が出演させられることとなった。

 

 当然、野外の仮設ステージ同然の舞台に、全出走選手が上がることは出来ない。バックダンサーたちは舞台の下、文字通りに芝を踏みながら踊り、コーラスに参加することとなる。

 

(あのバカが、敗者として扱われる惨めさの欠片でも味わってくれれば、まだ次に期待は出来るんだが……)

 

 そんな鷹木の期待も、ライブ準備前の楽屋から全く変わらぬ調子で響き渡っているオペラオーの「はーっはっはっは!」という高笑いで完全否定されてしまった。

 

「相変わらずですねぇ、ま、メンタル面でブレが無いってのは強みですよ。」

 

 いつの間に鷹木のすぐ傍へ寄ってきていたのか、片桐がノンビリとした口調で声をかけて来る。

 

「どうだか。……そちらは、一着おめでとうございます。」

 

「あぁ、どうも。いやあ、あんな自信なさげな子がねぇ。まさか、二度目の挑戦で一着を取るとは。」

 

 担当ウマ娘が勝利したというに、まるで興奮した様子も見せない片桐の図太さを目の前にした鷹木は舌を巻いた。オペラオーが出走したその次のレースにて、片桐の担当ウマ娘であるメイショウドトウは見事一着につけていたのである。

 

 メイクデビューでの見事な走りから一番人気を得て、今回のレースにおいても最後尾からの劇的な追い込みで会場を沸かせた素晴らしい展開であった。

 

 当のドトウ自身は、その大喝采が自分に向けられたものだとは信じられないのか、ゴール後も俯いたまま走り、会場バックヤードへ逃げるように姿を隠そうとして備品倉庫に突っ込んでいたが。

 

「こちらは四着ですよ、また次の出走登録に向けて調整しなくちゃならない。」

 

「えぇ、でもオペラオーは余裕を残していましたね。本気で走らせれば、一着すんなり取っちゃうんじゃないですか?」

 

 鷹木は目を剥いて、眼の前のノンビリした口調の男に視線を投げた。

 

 自分は普段から全力で走り込んでいるオペラオーの様子を見ているがゆえ、彼女が余裕を残している可能性に気づけたのだ。片桐は、このレースで初めてオペラオーの走りを見たばかりだというのに、しかもオペラオーのゴールの後すぐに自分の担当するウマ娘のレース本番が控えているというのに……。

 

 同期で入ったはずのライバルトレーナーに底知れぬ物を覚えている鷹木の思考を、ステージ脇から飛んできた鋭い声が遮った。

 

「なに?もう片方のセンターの子が控室から出てこない?」

 

「はい、ゼンノホーインボーは既にスタンバってますけど、メイショウドトウの方がずっと控室に引きこもりっぱなしで……」

 

 声を荒らげているのは、ライブステージの総監督を務めていると思しき中年男性であった。新米アシスタントの若者が、彼が悪い訳でもないのに申し訳なさそうな顔をしてペコペコと頭を下げている。

 

「ったく、困るなぁ、こっちは段取りに合わせて動いているってのに。ちょっと?メイショウドトウのトレーナーさん?居ませんかぁ?」

 

 何があったのかは知らないが、こうなればメイショウドトウの担当トレーナーたる片桐も謝罪せざるを得ない。既にほかのウマ娘たちはライブを開始する準備を済ませ、音響等の機材担当スタッフも開始を待つばかりなのだ。

 

 鷹木はオペラオーに与えられた通りに心が狭い自分を自覚しつつも、ノソノソとスタッフ集団の中へ足を運んでいく片桐の災難を内心喜ばずにはいられなかった。

 

 ……しかし、やはりこの男、只者ではなかった。片桐は頭を下げるばかりか、むしろふんぞり返るほどに肩をいからして集団の真ん中に踏み込んでいき、ステージ監督を指さしてぞんざいな口を利いた。

 

「あー、ちょっと君、ウチのドトウの着替えを入れていたロッカーの鍵、壊れているんだけど?」

 

「んだと?」

 

 中年のステージ総監督は、まだ若々しい見た目のトレーナーからタメ口調で話しかけられ、しかもまるで責任の所在を擦り付けるような物言いを掛けられたことで眉間に皺をよせ、苦虫を噛み潰したような顔で片桐の方を睨む。

 

「困ってるのはこっちなんだよね、ライブ会場の備品ぐらい、マトモに使えるようにしてくれなきゃあ。」

 

「……。」

 

 俄かに緊迫感の走る現場で、若手のステージスタッフたちが固唾を飲んで事の成り行きを見守っている。こめかみに青筋を浮かべたステージ監督は怒りだすかと思われたが、彼は静かに自らの感情を抑える時間を経た後、低い声で謝罪しながら頭を下げた。

 

「……申し訳ありません。うちのスタッフをそちらに向かわせます。おい、お前ら、このトレーナーさんについて行け。」

 

「は、はいっ!」

 

「ホント頼むよ、こっちもようやく担当ウマ娘を晴れ舞台に立たせてやれるってのにさ。マッタク……」

 

 若手スタッフを引き連れ、やはり大して急ぐ気も見せずにゆったりとウマ娘用楽屋の方へ歩み去っていく片桐を、ステージ監督は苦い顔をして見つめるばかりであった。

 

 鷹木はいかに自分が凡人らしい凡人であるか、痛感していた。片桐が今とった行動は、戦績のある有力チームを率いるトレーナー、ないしは学園の経営部に関わりを持つ者にしか許されていない振る舞いだったのである。

 

 すべて実力によって上下関係の決まる世界において、年功序列など何の意味も持たない。が、権力の所在となれば別である。いかに自分よりも若手であろうとも、経験が浅かろうとも、力ある存在やそれへのコネを持つ人間に、監督と言えどステージスタッフの一員に過ぎない男は頭が上がらないのだ。

 

 しかし、もちろん片桐がそれだけの実績を残したわけでもなく、彼が学園上層部の親族や知り合いであるという話も聞いたことが無い。

 

 すなわち、あの男はすべてハッタリの威圧感だけで場を乗り切って見せたのであった。間もなく、どこか納得いかない表情を浮かべたスタッフを後ろに控えさせ、メイショウドトウを連れて片桐はステージ前に姿を現した。

 

「あぁ、ごめんね、ロッカーの鍵、別に壊れてなかったよ。開け方が分からなくってね。」

 

「……そうですか。」

 

 まるで悪びれもせずサラリとそう告げる片桐にもはや顔を合わせず、淡々と応じているステージスタッフたち。この場で最も周囲へ気遣いを向けていたのは、ステージの主役であるはずのメイショウドトウだけであった。

 

「すみません、すみません!私が遅れちゃったせいで、ウイニングライブの開始を遅らせちゃってすみません!」

 

「君が謝ることじゃない、ドトウ。さぁ、君の晴れ舞台を始めよう。」

 

 堂々と担当ウマ娘を送り出すその背には、確かに信頼を寄せられるだけの貫禄が備わっているように見えた。少なくとも、ステージ周辺でライブの開始を待ち続けているウマ娘たちは、オペラオーが勝手に始めた即興のソロオペラを聞かされて退屈はしてなかったようだったが。

 

 が、担当トレーナーに輪をかけて、メイショウドトウというウマ娘もある種規格外の存在であった。

 

「申し訳ありません、私のせいで、皆様お待たせしまし……あっ!」

 

 一刻も早く、ライブに備えてスタンバイしている面々の元へ向かおうと急いでいたドトウは、その足に電線のコードが絡まっていることに気付かなかった。

 

 彼女の足に引っ掛かったそのコードは、ステージ用の大型スピーカーと会場内の送電装置を接続していた。ドトウが盛大にすっ転ぶだけで済めば良かったのだが、ウマ娘の脚力は人間のそれと比しても桁違いの膂力を誇る。

 

 大型スピーカーが不気味な軋み音を立てながら傾き出し、その付近で待機していたスタッフたちは悲鳴を上げて逃げだす。一方で、無理やりコードを引きちぎられた送電装置からは接続不良を起こした電流がスパークし、滝のように火花を噴き出し始める。

 

「おい……おい、ヤバそうだぞ!」

 

 鷹木のそんな悲鳴も、周囲の叫喚にかき消された。

 

 轟音と共に舞台に倒れ込んだ大型スピーカーはそのままステージを真っ二つに割り、中央構造物が破断されたライブ用ステージは見る間に崩落していった。送電装置の方では遂に許容電圧の限界を超えたのか、破裂音とともに閃光が走り、凄まじい黒煙が上がる。同時に一帯の建物内の電灯が消え、地域全体の送電網がダウンした様が見て取れた。

 

 総監督が金切り声を上げて避難指示を出す中で、送電装置付近からはメラメラと炎が上がりはじめ、ますます現場の混乱に拍車をかける。自分の担当ウマ娘の安全を確保しようとするトレーナーの例に漏れず、鷹木もオペラオーの姿を混乱の中で探し求めるも押し合いへし合いする集団に揉まれて思うように身動きできない。

 

 結局、彼は殆どの者たちが避難し終えるまで、求める相手に出会うことが出来なかった。

 

 殆どのウマ娘たち、トレーナーたちが姿を消し、ガランとした会場内で、彼女は相変わらず残っていた。ステージは完全に倒壊してしまった後で、送電装置は砂利の地面に囲まれていたおかげで延焼の心配はない。

 

 オペラオーが芝居掛かった振る舞いで手を差し伸べている先に、頭を抱えて地面に突っ伏しているドトウが居た。

 

「せ……せっかくの、ウイニングライブが……台無しですぅ……私のせいで……」

 

「はーっはっはっは!何を嘆くことがあるだろうか、実に痛快、そしてスリルに満ちたスペクタクルだったじゃないか!破壊、そして爆発!ボクたちの舞台を劇的に演出してくれた!」

 

「そんなわけ……み、皆さん、こんな目に遭って、きっと私が出るレースなんて、見に来たくなくなるに決まってますぅ……」

 

「観客は刺激を求めるものさ!ドトウ、君の演出は型破りでドラマチックだ!ごらん、新たなる客のご到着だ!」

 

 オペラオーはレース会場へ次々と駆け込んでくる車両の群れを指さしたが、それは当然のことながら消防車や救急車等、緊急車両ばかりであった。

 

 鳴り響くサイレンと回転灯の赤い光を浴びながら、呆然と芝の上に座り込んでいる鷹木の隣で片桐が変わらずノンビリとした口調で言った。

 

「あの子たち、きっと大物になりますよ。面白い時代が始まる予感がします。」

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