レースを運営するにもスタッフがおり、レースを盛り上げる実況者が熱狂を添え、ライブの進行にもそれを支えるスタッフがいて……その全員が協力し合うからこそ実現するのがウマ娘レースなんでしょうね。
オペラオーにとって二度目の未勝利選手向けレースは、次こそ落ちこぼれまいと悲壮な決意を固める参加者たちの心境をまるで顧みない、皮肉なほどに爽やかな晴天の下で行われた。
ウマ娘によってこれまでの出走回数には差こそあれど、入学時から経過した日数からしても、参加者たちがおしなべて味わう焦燥感はいよいよ目に見えてくる時期である。負けをいくら重ねようとも理屈の上ではトレセン学園に在籍し続けることは可能だが、出遅れるほどに大きなレースへ出走できる機会は得難くなっていく。
本格的な夏が訪れるころには、一年目のデビューを済ませたウマ娘たちを対象に開催されるレースも増える。実力のある選手は入学一年目から出走を重ね、ファンからの人気を稼いでいくのだ。
人気度の高いウマ娘であれば、有力チームへ勧誘されたり有能なトレーナーと出会えたりするチャンスも必然的に増えていく。学園内のトレーニング施設も優先的に使用権が回ってくるようになり、教室での授業もトレーニングを優先したスケジュールへと組みなおされる。
ばかりか、同期の中でもトップクラスと認められれば、学費の免除をはじめ、現役で大舞台に立つ先輩たちからの直々の指導、専属の調理師が作る食堂での専用メニューなど、いよいよ学園生活における優遇を得られる。
勝てたウマ娘と、勝てないウマ娘の格差はいよいよ広がっていくばかりなのだ。そもそもトレセン学園内の理想的なトレーニング環境自体に限りはある、事実上の定員上限だ。
遅れた者が、後から追いつける状況では決してない。
鷹木は今日のレースにオペラオーを臨ませる直前まで、幾度も作戦を練り直すべきかどうか悩み続けていた。今回の出走ウマ娘たちのリストを見返しては、彼女たちのレースデータを参照し、夜も眠らずシミュレーションを重ね続けた。
それだけに、ウマ娘に走り方の全てをゆだねる決定は不安定なものだったのだ。一応、オペラオー自身の判断材料になればと、競争相手たちのデータをまとめたファイルを今朝、彼女に見せはした。
「はーっはっはっは!うんうん、皆、良い記録を残している!この覇王の競走相手に相応しいね!」
「いや、そうじゃなくて、このデータを見た上で走り方をどう判断するかを聞きたいんだが……。」
「聞かれるまでも無いさ!君の指示が無いのであれば、ボクはただただ全力で走ろう!」
その返答は、暗に前回までは鷹木の指示があったために全力を出し切れなかったということを示してはいた。
何も言い返せずにいる鷹木に背を向けて、相も変わらず周囲の刺々しい空気など意にも留めず高笑いしながらオペラオーはパドックへと向かっていったのであった。結局、どのような作戦を取るのか、トレーナーである彼は聞かされずじまいとなった。
今回の実況は手の空いていたベテランのアナウンサーが担当することとなったのか、多少は涸れていながらも渋くよく聞き取りやすい男の声がスピーカーから流れ出す。ベテランアナウンサーとしては大舞台でもない未勝利バ戦の仕事ということで気を抜いているのか、随分とリラックスした声色を披露していた。
〈えー、8番、ユウキワカオー、三番人気です。彼女はこれで六度目の挑戦となるそうですね、聞くところによればその熱意に打たれた名門トレーナーからの指導も受けたとのこと。頑張ってほしいところです。〉
今回の勝利を阻む有力候補として、鷹木も警戒する相手である。未勝利レースに出走する中では珍しく追い込みを得意とするウマ娘で、最後尾からの猛烈な追い上げは幾度もトップを脅かしてきた……それが届かなかったがゆえに、彼女はまだこの場にいるのだが。
何よりも未勝利選手向けのレースに幾度も挑み、尚も這い上がろうと足掻き続けるウマ娘が生半可な思いでレースに臨むはずもない。
〈5番、エターナルローズ、二番人気ですね。この子は……おぉ、十度目の挑戦ですかぁ。これまでの戦績を見るに、二着、三着と惜しいところまで行ったレースも見受けられます。〉
十度目の挑戦、というアナウンスと共にパドックへと姿を現したウマ娘に、観客席からはまばらながらも拍手が送られた。彼女の担当トレーナーと思しき男が声を張り上げ、全霊の声援を放っている。
〈やはり夢をあきらめず食らいつき続ける彼女にも、その熱意を買った良いトレーナーが付いているようですね。いやぁ……良い時代になったものです。〉
感慨深げに語るアナウンサーの言葉はそれ以上続けられたわけでは無かったが、彼の意図するところは十分に伝わって来た。要するに、昔はこうでは無かった、もっとシビアな勝負の世界が繰り広げられていた、とでも言いたいのだろう。勝てないウマ娘に手を差し伸べるトレーナーなど居なかった、と。
確かに競走の世界におけるウマ娘の待遇は、一昔前と比べても大幅に改善されてはいる。が、彼女たちの覚悟の重さが削られたわけではない。
むしろ、これだけ手厚いフォローが用意されている環境下……ますますもって、勝てぬ重責はウマ娘たちの肩にのしかかってくるのだ。
〈えー、一番人気は、2番、テイエムオペラオーですな。彼女は……おぉっと、やはり自己アピールの能力はピカイチですね。〉
他のウマ娘たちが緊張の面持ちで、あるいは真剣な眼差しでパドックに現れるのとは対照的に、オペラオーは今日も高笑いとともに姿を見せた。
パドックにはウマ娘用のマイクが用意されていないため声は聞こえないのだが、大袈裟な身振りと共に何事かを長々と語っているらしく、口元は盛んに動いている。
〈メイクデビューにおいては二着だったものの、前回のレースでは順位を四着へと落としています。が、あまりにブレない振る舞いに人気票は集まっていますね。デビューしたてでこれほどの貫禄を纏うウマ娘は、なかなかいませんよ。〉
前回のレースに引き続き、またしても笑い声の沸き起こる観客席に鷹木は白い目を向け、口の中で小さく舌打ちをした。が、担当トレーナーである彼とて笑い声の元を否定することが出来ない。
奇抜な振る舞いで目立ちたいだけ目立ち、その結果何も戦績を残せずじまいであれば、結局、道化に過ぎないのだ。そうなれば、むしろ笑いものになったほうが余程成功しているとまで言える。
この状況で負ければ、真面目にレースに取り組んでいなかったためだとの誹りも否めない。自らが負けた時のことを、やはり一切考えていないオペラオーの心境を、鷹木は未だに理解できずにいた。
〈ゲートイン。出走の準備が整いました。〉
鷹木は目を凝らした。トレーナー席から肉眼で見るにはあまりに遠く、会場のモニター上ではあまりに小さい、自分の担当ウマ娘の浮かべている表情に。
詳細な様子は見て取ることが出来なかったものの、スタート直前の彼女は確かに笑ってなどいなかった。
〈スタートしました。先頭は二番人気エターナルローズ、その次に一番人気テイエムオペラオーが続きます。序盤からかなりのハイペースだ。〉
先日の方針変更が無ければ、鷹木はやはり追い込み策を指示していただろう。恐らく今回こそその実力を発揮するであろう、ユウキワカオーをマークするように。
だが、テイエムオペラオーが自ら選んだ走り方は、先行であった。
〈第一コーナーに入りまして先頭は変わらず、テイエムオペラオー同じく二着、その後ろに6番フジノサーキットが続きます。1番ワイルドアロー内側から様子を窺っている。〉
先行。レース集団の中でも先頭近くに陣取り、しかし逃げウマ娘よりも後ろにつける戦術である。
差しや追い込みの選手よりも前に位置取り続けるため、スパート時には有利な位置を取りやすくはある。が、レース運びのなかで先に行かせた逃げ選手のペースに合わせねばならず、また背後から迫る差しのプレッシャーにも耐えなければならない。
また、最終コーナー付近では最も選手が殺到しやすい位置取りでもあり、集団に埋もれてしまうリスクも高い。スパートが早すぎれば後方で足をためていたウマ娘に差され、遅すぎれば前方のウマ娘に逃げ切られる。
両脇、前後をライバルたちに囲まれ、それでもなお力を発揮できるウマ娘は、尋常ならざる胆力と判断力を兼ね備えた者に限られた。
このあまりに高いリスクを案じたからこそ、鷹木はいままで差しの作戦を指示していたのだが……。
〈さぁ第二コーナーに入りまして最後尾からユウキワカオー徐々に上がって来た、10番ヒミノコマンダーも大外から回ってくる……!〉
今回のレースでも、やはり最後の直線に入る前に選手たちの位置は固まりだした。鷹木が警戒していた選手もラストスパートを掛け、後方から先頭集団へと一気に距離を詰めていく。
オペラオーの鼻先に立っていたエターナルローズの姿が、背後から上がって来た集団の中へと埋もれた。
(何をやってる、オペラオー。また埋もれて、前に出られなくなるぞ!)
いつの間にか前のめりになり、観戦席から腰を浮かしていた鷹木。冷や汗を流し、またひしひしと近づいて来る敗北の予感に戦慄く彼の目の前で、覇王は姿を現した。
〈最終直線に入りまして大外から追ってきたのはヒミノコマンダー、見事なごぼう抜きを見せます、が……先頭集団から抜け出したのはテイエムオペラオー、これは見事な末脚だ!〉
おそらく追い込み策であれば、またしても集団から抜け出すタイミングを逸していたであろう。マークしていた相手に前方を塞がれ、全力を出せずしてレースを終えていただろう。
最終コーナーの出口にて、テイエムオペラオーはバ群の内側から抜きんでていた。彼女自身の判断が、即座に実行へと移され得る立ち位置。
先行策は、正解であった。
〈先頭はテイエムオペラオー!二着フジノサーキット、スパートを掛ける!ヒミノコマンダーも負けじと食らいつくが、届かない!テイエムオペラオー、なんという脚だ、差は開いていく!〉
その蹄鉄の響きがゴールラインを越えた瞬間、鷹木は自分が何を叫んだのか、聞こえてはいなかった。ただ猛烈な血の奔流の、体の中に轟く音だけが耳を劈いていたのだった。
歓声がひとしきり収まった頃を見計らい、ベテランアナウンサーは実況を再開する。
〈一着はテイエムオペラオー!着差は5バ身!圧倒的な実力を見せてくれました!このウマ娘、見せかけだけではなかったか!二着はヒミノコマンダー、三着はフジノサーキット!〉
「はぁ、はぁ……はーっはっはっは!」
今回のオペラオーの笑い声は、ゴールしてしばらく息を整えた後に放たれた。やはり、今までの鷹木の指示通りの走りでは、全力を尽くしてレースを運ぶことが出来ていなかったのだ。
既に鷹木がオペラオーの担当トレーナーであることは、望まぬ形で広まっていたおかげか、周囲の観客席からは労いや称賛の言葉が投げかけられる。
すぐ隣にいた観戦者の手が妙に高い位置から自分の肩に乗せられている様を目の当たりにした鷹木は、ようやく自分が椅子からずり落ちて地面に膝をついたままの格好であることに気づいた。
苦笑しながらも立ち上がろうとするも、脚が言うことをきかずそのまま後ろなりに倒れ込んでしまう。彼はすっかり腰を抜かしてしまっていた。
「あぁ、どうも、ありがとうございます、どうぞお気遣いなく……ちょっと座って休みますので……」
周囲に賛辞への返答を投げつつ、どうにかこうにか両腕で椅子に這い上がって姿勢を落ち着け、深く溜息を吐き出す鷹木。
まだウイニングライブが開始されているわけでもないのに、ターフ上から早くも観客席に向かって歌い始めているオペラオーを眺めながら、彼は喧噪の中に掻き消える独り言を呟いた。
「俺、アイツに余計なことを言ってただけじゃないか……。」
やがて同じレース場で立て続けに行われた未勝利バ戦が済み、合同でのウイニングライブが行われる運びとなっても、鷹木は未だ興奮に震える身体を抑えられずにいた。同時に、わずかに胸の内に沈み込む自分の無力さへの実感を味わいながら。
やはりこういったレースでのライブステージのスタッフは新入りや現場に不慣れな者が多いのか、今回もライブ開始前にはアクシデントが発生した。
〈えー、ただいま音響機材のトラブルが発生しており、ライブ音源がスピーカーから流れない状態となっております。スタッフ一同復旧に努めておりますので、少々お待ちください……。〉
レース実況を担当していたベテランアナウンサーの声が、これといって慌てた様子も示さずに淡々と告げる。
ステージ裏からはスタッフたちがバタバタと走り回っている様子が伝わってくるものの、時間はそのまま過ぎていく。元よりさして注目度の高くない未勝利選手のレース、なかなか始まらないライブステージの前から観客たちがひとり、またひとりと去っていく。
〈もう少々、お待ちくださいね。なんといっても、今回のステージでは遂に彼女がセンターに立つのです。そう、今までいくら目立ちたくても、勝てずにいた彼女がね。〉
アナウンサーからの振りを受け取ったつもりなのか、オペラオーが気取ったお辞儀を客席に向かって披露し、笑い声が同時に沸き起こる。
オペラオーのことをダシに使うような笑いの取り方を鷹木は容認する気にはなれなかったものの、しかし現状においては最良の間の持たせ方であることに違いは無かった。
とはいえ待たされているウマ娘たちの中にも、ウンザリした表情を隠せずにいる者は少なくなかった。やはりウイニングライブは勝者のための舞台であり、多数を占める敗者にとっては晒し上げ台に他ならない。
殊に、十戦以上も出走し、今回もまた勝利を逃したウマ娘の表情の暗さ、その奥に秘められた悔しさは、鷹木の胸に痛みを伴って刺さって来た。
舞台の袖から、ライブステージ監督と思しき男が困り果てた表情で頭に手を当てている様子が見える。音響装置の復旧が絶望的であることは、彼らの言葉が聞こえているのであろうウマ娘たちの表情からも十分に察せた。
〈えー、たった今ステージ係の方から、音響機器の不具合原因が未だ判明しないとの報告が入りました。次のレースの開催時刻も迫っておりますし、残念ですが今回のライブは中止……〉
「待ちたまえ!!」
相も変わらず慌てた様子のないベテランアナウンサーがライブ中止を告げようとする声を、もはや多くの者たちが聞き慣れた、あの特徴的な響きが遮る。
テイエムオペラオーは、マイクやスピーカーを通すことなく、舞台の上から声を響き渡らせたのであった。彼女の近くであきらめの表情を浮かべていたウマ娘は、その声量に軒並み跳びあがっている。
彼女には珍しく神妙な面持ちで舞台の中央へと歩み出てきたオペラオーは、軽く息を吸い、歌い出した。曲の音源なし、いままで毎日繰り返してきた通り、アカペラで。
「響けファンファーレ 届け遠くまで
輝く未来を キミと見たいから!」
オペラを歌いあげる舞台俳優のごとく、伸びやかで通りの良い声が響き渡る。喉そのものが楽器であるかのごときオペラオーの歌声は、BGM抜きで豊かな声量とともに観衆たちが居ならぶ隅から隅までをメロディーで満たした。
……が、彼女のあとに続くウマ娘が居ない。驚いた、あるいは呆れた表情をこそ浮かばせはすれど、沈黙の中で舞台の真ん中に出て行ったオペラオーをただただ見つめるばかりである。
オペラオー自身の脳内ではイントロが流れているのか、彼女は動揺も見せることなく静寂と共に振り付けを披露してはいた。
しかし、どうにもやはり場の状況から浮いてしまっている。一人きりで何を始めるつもりだ、とばかりに小さな苦笑が観衆の中からも漏れ始めた、その時であった。
〈おぉっとこれはどうしたことか、ライブ音源も無いままに、ひとりのウマ娘が歌い始めてしまったぞ!機材トラブルも想定外なら、この展開も予想外!何が起きるか分からないのは、レース模様に瓜二つ!ならば伝えて差し上げましょう、実況こそが我が務め!〉
なんと、再びマイクを取ったあの実況担当のアナウンサーが、静寂を埋めんとばかりにマイクパフォーマンスを披露し始めたのである。たった今舌先に浮かんできた言葉を淀みなくつないでいくベテランの業に、会場の聴衆たちはどよめき始めた。
〈多くのウマ娘が夢を掴み、もっと多くのウマ娘が涙を呑んできた、デビューを飾るこの一曲!本日のレースも見どころいっぱい、彼女たちは全力で走りぬきました!さぁ今こそ刮目の時、走りに自らの青春を奉げし若きウマ娘たちの情熱をご覧あれ!お聞きください『Make Debut』!!〉
どれほどの経験を積めばそれだけ見事なMCが務まるのか、彼の前口上は現在オペラオーの脳内でしか流れていないであろう前奏にピッタリの尺で収まった。
舞台に立たされている当のウマ娘たちも予想だにしなかった展開に、ただただ驚き、徐々に拍手とともに盛り上がり始めた観客席へ戸惑いの視線を向けている。真正面に立ったオペラオーは背後の彼女たちへ手を差し伸べつつ、歌を続ける。
「駆けだしたら きっと始まるStory
いつでも 近くにあるから 」
オペラオーからの心強い目配せを受け、舞台の前方にまで出てきたウマ娘も躊躇いを振り切ったかのように彼女に合わせて歌詞を迸らせ始めた。
「手を伸ばせば もっと掴めるGlory
一番目指して Let's challenge!」
「「加速してゆこう!」」
〈フジノサーキット!〉
曲の流れない静寂などすべて埋めつくすかのごとく、アナウンサーから入る合いの手によって、歌うパートが来たウマ娘の名が告げられる。拍手と共にマイクを手に前へ出てきたそのウマ娘の表情には、照れこそあれど暗いものはもはや残っていなかった。
「勝利の女神も 夢中にさせるよ!」
〈ヒミノコマンダー!〉
「スペシャルな明日へ 繋がる……」
〈テイエムオペラオー!〉
「「「Make Debut!!!」」」
突如、ステージのバックヤードから舞台スタッフたちが駆け出してくる。さきほどはステージ監督から何事か叱責されるような調子で伝えられていた彼らは、手に手に応援用メガホンを握り、曲のサビとともに飛び出してきたのだ。
機材から楽曲が流れないのであれば、自分たちの工夫で盛り上げるしかない。手を拱いて眺めているばかりではない、彼らの心意気も本気であった。
「響け ファンファーレ!」(ひ び け !)
「届け ゴールまで!」(と ど け !)
「輝く未来を キミと見たいから!」(み た い !)
見れば、観客たちも総立ちとなり、ウマ娘たちの背後で楽曲代わりにメガホンを打ち鳴らし、一斉にコールを叫んでいるスタッフたちと一体となってライブに参加していたのだ。
全てが即興、全てが思い付き、全てがぶっつけ本番のライブステージ。実況のアナウンサーやステージスタッフたちまでも巻き込んで未曾有の盛況を見せる、この現場に鷹木はすっかり呑まれて夢の中にいるかのごとき心持ちであった。
「駆け抜けてゆこう! 君だけの道を!」
「もっと!」(も っ と !)
「速く!」(は や く !)
「I Believe...!」
「「「夢の先まで!」」」
「ワァァァァッ……!」
地が轟くかとも思えるほどの、圧巻の喝采。一度はライブ中止だと見限って離れて行った観客も、この盛り上がりを背後に聞いて何事かと戻ってきていたのであった。
〈輝く希望は君だけの強さ、自らを変えるためウマ娘たちはレースの世界に飛び込んだ!新たなる時代の怪物となるのは一体何者か、まだまだ黄金世代は終わらない!皆々さま実に賑わしく騒がしくご清聴いただき有難うございます!URAの未来を担う彼女たちへ、改めて大きな拍手をお願いします!〉
最後の最後までマイクパフォーマンスできっちりと盛り上げたベテランアナウンサーの締めくくりに、一層巨大な歓声が沸き起こった。
鷹木は、すっかり腰を抜かしたまま、立ち上がれもせずに呆然とステージへ視線を向けていた。舞台の中心に立ってポーズをキメているのは、テイエムオペラオー。あれだけ頓狂な振る舞いを毎日見せつけられていた、将来への望み薄かとも思われた自分の担当ウマ娘である。
今、野外ステージの鉄骨でまばらに遮られた陽射しを浴びながらも、輝かんばかりに自らの姿を誇る彼女は、とても眩しく……そして遠い存在に思われた。
「アイツ……やっぱ、普通じゃない……。」
彼女に対し、トレーナーたる自分はあまりに釣り合わぬ只人でしかなかった。