覇道のドラマトゥルク   作:Okubo Masau

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 自分の担当するウマ娘に大舞台を見学する機会を与えることさえも、新米トレーナーたちは周囲からの目を憚りながら行わざるを得ず。トレセン学園内の人間関係も単純ではないのです。そんな中、担当ウマ娘たちの先輩たちが出走する有馬記念を、せめて大きな画面で見せてやりたいと考えたトレーナー達は……。
 ドトウの担当である片桐トレーナーの、トリックスター的な立ち回りが最も光った回のひとつです。


来年は、あの場所へ。

「『しかし熱い憧れを感じること無しに、その泉には近寄れない!』ボクは有馬記念を見に行きたいんだ!」

 

 テイエムオペラオーが担当トレーナーたる鷹木へとそう告げたのは、雪こそ舞わぬものの冷え冷えと冴えた朝に息の白く吐き出される初冬のことであった。早朝のランニングを終えた彼女は、鼻息も荒く先のごとく口走ったのだ。

 

 相も変わらずよく分からない引用と共に行われたその宣言は、しかし実現させてやることなどあまりに困難な願いであった。今年は東京優駿、そして菊花賞と、ウマ娘たちにとっての大舞台を観戦することが二度も叶っている。

 

 観戦チケット入手の競争率を思えば、普通の人間には一生に一度あるか無いかの出来事であった。鷹木が曲がりなりにもトレセン学園に所属するトレーナーであり、また伝説的トレーナーである結城のおこぼれにあずかれたがために実現したに過ぎない。

 

「それというのも他ではない、あのキングヘイロー先輩が出走する予定だからね!それだけじゃない、黄金世代の先輩方も数多く参戦する!」

 

 一度言い出したら他人の意見に耳など貸さない……いや、普段から他人の言葉をマトモに聞き入れているかどうかも怪しいオペラオーは、鷹木が顔面に困惑と苦慮の色を浮かべている間にも滔々と自ら心待ちにしているレースの概況を述べ続ける。

 

 このまま彼女が語るに任せていては、トレーナーたる自分がレースの観戦チケットを入手せねばならない状況へと陥ってしまう。

 

「まぁ、まず落ち着いて考えてくれ。既に我々は、東京優駿と菊花賞の観戦を果たしている。」

 

「それがどうしたというんだい?有馬記念だって、同様に向かえばいいじゃないか。」

 

「どれだけの幸運が重なって今まで観戦できていたか、お前が自覚しているかどうか知らないがな。そう簡単な話じゃないんだよ。」

 

「覇王の歩む道は、もとより簡単ではないさ!」

 

 爽やかに言い切るオペラオーの前で、鷹木は参ったとばかりに頭を掻いて見せる。口で伝えても聞き入れられる可能性が低いオペラオーと付き合っていく中で、彼自身にもまた自らの感情を身振りにて示す癖が定着しつつあった。

 

 問題となっているのは、チケットの入手難易度のみではない。東京優駿観戦時における、優先予約権を活用し必要以上にチケットを入手した片桐の行為、および菊花賞にてレジェンド結城の特権に縋ったことで特等席からの観戦が叶った事実。

 

 鷹木はトレセン学園へ出勤するたび、早くも他のトレーナー達からの視線に冷たい物を感じ始めていた。これと言って実績のない若手トレーナーにとってあまりにも身に余る優遇を、これ以上受け続けると職場での肩身が狭くなることは避け難かった。

 

 こういった思考が頭の中を巡り、オペラオーに対していかに伝えるべきか悩み続けている鷹木は無言のままであったが、担当ウマ娘との交流を通じて身に着けたボディランゲージはしっかりと相手に受け止められているようであった。

 

「わかった、わかったとも。ボクとて君をむやみと困窮させるつもりはないさ。」

 

「わかってくれたか。だったら……」

 

「ボクからアヤベさんを通じて、結城トレーナーに再びお願いしてみよう。あの方であれば、今からでも観戦席を確保することなど容易いだろう?」

 

「全然伝わってないじゃないか。お願いだからやめてくれ。」

 

 やはり言葉を以て伝えるべきだった、と鷹木は思い直しながらもオペラオーの思い付きを中断するよう懇願したのであった。

 

 当のオペラオーから明確な返事が無いままにトレーニングが再開されたことはいよいよ鷹木の不安を煽ったが、その不安は放課後に現実となった。結城トレーナーがレジェンドでありながらも、新米に対してもマメに返答を行う性質であったことは幸いであった。

 

 タブレットに送信されたメッセージ一覧に、結城トレーナーの名を見出した彼は心臓が跳ねあがり、文面を目にして青ざめたのであった。

 

〈先ほど、アドマイヤベガから聞いたところによると、オペラオーが有馬記念を見に行きたがっているようだね。君には済まないけれど、既にあちこちのチームトレーナーたちと一緒に観戦しつつ交流する予定が入ってしまっているんだ。頼みに応えられなくてすまない、有馬記念の観戦手段は自分で見出してくれ。〉

 

 そりゃそうだろう、と鷹木はタブレット画面の前で項垂れながら自分の耳にも届かぬほどの声で独り言ちた。年末の有馬記念は、トレセン学園内のみならず、全国各地から数多くのベテラントレーナー達も集まってくる。結城トレーナーは、彼らとの交流を放っておけるはずもない。

 

 それでも、覇王を自称するオペラオーは、やはり自らの意思が通らぬままでは黙っていられなかったのだ。

 

 結城トレーナからどう思われたろう、との懸念が真っ先に念頭へ持ち上がる小市民鷹木。

 

 一度上手い事おこぼれにあずかったら、執拗に同じ恩恵をむさぼり続けようとするコバンザメのごとく見られたのではないだろうか。URA界のレジェンドは、若手トレーナーの一人や二人など歯牙にもかけないかもしれないが。

 

「やぁ!その顔は、どうやら断られてしまったようだね!」

 

 血の気の引いた顔で項垂れっぱなしの鷹木のもとへ、授業を受け終えてやってきたオペラオーの声はいつもと変わらず朗らかの極みにあったが。

 

 鷹木が翌日から有馬記念の観戦手段を探り始めた理由は、あくまでもオペラオーの動向が気がかりであるというその一点につきた。このまま放っておくと、この所々常識のタガが緩んでいるウマ娘が次に何を仕出かすともしれない。

 

 片桐に頭を下げることは極力避けたかったのだが、どのチケット予約サイトを覗いても、あるいは直接予約受付所に出向いても、キャンセル待ちの表示と虚しく対面するばかりの状況においては仕方のないことであった。

 

「片桐さん、今年の有馬記念なんですけれど……チケットとか、取れていたりしません?オペラオーがうるさくって。」

 

「いや、さすがの自分も自重しましたよ。ドトウも行きたがっては居ましたが、なにぶん周りからの眼もあるのでね。」

 

「ですよね……。」

 

 片桐もまた、普段の振る舞いが振る舞いであるだけに、他人からの視線を人一倍気にして行動選択する性質のようであった。ここでのうのうと中山レース場のチケットを取り出しでもすれば、いよいよ鷹木はこの男の神経が常軌を逸したものと断じていただろうが。

 

 目の前では二台並んだランニングマシンの上で、オペラオーとドトウが疑似的な並走練習に打ち込んでいる。

 

「はーっはっは!ボクはまだまだペースを上げられるよ!」

 

「さ、さすがですぅ……でも、置いて行かれませんよ……!」

 

「二人とも、必要以上に負荷をかけ過ぎないようにしてくださいね。」

 

 ウマ娘たちに声をかける片桐の向こう側に、壁に掛けられたテレビモニターが有馬記念のCMを流している。

 

 スペシャルウィークは出走しないようであったが、菊花賞を制したセイウンスカイ、『女帝』エアグルーヴ、エリザベス女王杯で勝利を収めたメジロドーベル、ジャパンカップは回避したものの好走の期待されるグラスワンダー、昨年の菊花賞ウマ娘マチカネフクキタル、そしてオペラオーが慕うキングヘイロー……と、錚々たる顔ぶれが出そろっている。

 

「ま、中山には行けんでしょう。」

 

 テレビ画面に視線が釘付けとなっている鷹木に気付き、片桐が穏やかな声で付け加える。オペラオーの我儘に付き合うトレーナーとして振る舞っていた鷹木であったが、意識の底では自らもその場に居合わせたいとの願望を強く抱いていることに気づかされる。

 

 有馬記念の文字から無理やり目を逸らすように視線を担当ウマ娘の方へ動かし、鷹木は話頭を転じる。

 

「そういや、学園内の中継観戦は、どうでしたかね。」

 

 当然ながら直接レース場に向かえない大多数のために、トレセン学園内では大舞台の都度、学園が備える大型モニター前に臨時観戦会場が設営される。こちらはチケットなど不要であったが、たいていの場合は超満員であった。

 

 が、こちらはトレセン学園の関係者にとってはいよいよ参加することの憚られるイベントである。そもそも、チケットの優先的予約権を有するトレセン学園が、一般からの批判を回避するために設けている会場である。学園外からの観戦客を受け入れることが名目であり、トレーナー達が悠々と席に座ることは褒められた行為ではない。

 

「中継会場の後ろの方で、人混みに押し合いへし合いしながら見るのをよしとするのなら、行けるでしょうが。」

 

「大人しく、ちっちゃいモニターで観戦するしかないですかね。学園の視聴覚室とかは……?」

 

「ダメでしょうな、全部どこぞのチームトレーナーが抑えてます。」

 

 そっか、と溜息と共にかすれた声を吐きだしつつ、鷹木は時計を見上げる。トレーニングルームの利用時間はそろそろ終わる。次に予約を入れているトレーナーとウマ娘のため、この場を明け渡す準備をせねばならない。

 

 ラストスパートとばかりに全力で走り込んだオペラオーとドトウは、息を切らしながら汗を拭いている。担当ウマ娘へ給水用のドリンクを渡しつつ、片桐はボソリと呟いた。

 

「ま、何とか考えておきましょう。歴史的な大舞台となるかもしれないのに、スマホやタブレットの画面で済ませたくはない。」

 

「おぉ!さすがは片桐トレーナーだね!頼りになるじゃないか!」

 

「か、片桐さん、ときどき無茶なことをなさるので、ハラハラし通しですぅ……」

 

 彼の担当ウマ娘であるメイショウドトウも、鷹木と同様の思いを抱いていることを知った鷹木は安堵した。この心優しいウマ娘までも片桐と同じような思考回路に染まっていないことだけが、今の状況において唯一拭われた不安の素であった。

 

 有馬記念の当日早朝、片桐から送信されたメッセージを目にした鷹木は、その内容を見るために多大なる勇気を要したのであった。中には集合時刻と場所が、前置きも無く簡便に書かれているばかりであったが。

 

 仮にこのメッセージ文面が他所に流出しても核心部分が分からない、片桐らしい思慮の働いた内容であった。

 

 指定された場所にオペラオーを連れて来るのは大変躊躇われる行為であったが、幸運にも彼女は余計な騒ぎを起こすことなく現れた。オペラオーに絡まれるのは面倒なことだという認識が、既に同級生たちの間に浸透していたおかげかもしれなかったものの。

 

「さぁ、いかにしてボクたちに有馬記念を観せてくれるつもりだい、狡猾なる魔術師よ!」

 

「魔術師だなんて、そう持ち上げていただいてはくすぐったいですな。」

 

「どちらかというと詐欺師でしょ。今度は何をするつもりですか。」

 

 片桐は笑みながらも、無言で手招きする。彼が金属製のドアノブを軋ませながら開いたのは、学園の裏庭に面する、機材搬入出用の通用口。

 

 その中からキャスターのゴロゴロと転がる音と共に引っ張り出されたのは、明らかにトレセン学園の備品と思しき大画面のディスプレイであった。鷹木が呆気に取られて止める間もなく、片桐は屋外の電源コンセントへプラグを差し込み、地上波放送を受信するためのアンテナを設定していく。

 

「ちょっと、片桐さん……これ、許可は取ってるんですか?」

 

「視聴機器の設置されている教室の使用許可は取れませんでしたので、屋外に機材を引っ張り出させていただきました。これなら、許可を取る必要はないですし。」

 

「いや、そうじゃなくって、こんな精密機器を屋外に持ち出していいんですか……?」

 

「学園における所属トレーナーの規約を今回改めて隅々まで読ませていただきましたけどね、屋外における機器の使用に関する項目は見当たりませんでした。よって、許可を取る必要はないでしょう。」

 

 平然と言い放つ片桐を前に、鷹木はそれ以上何も言い返せない。それよりも、備品倉庫からパイプ椅子の束を抱えてヨタヨタと歩み出てきたドトウの存在に視線を持っていかれた。

 

「と、とりあえず……皆さんの席を準備しますぅ。」

 

「ドトウじゃないか!一度にそんな多く運ぶだなんて、足元に気を付け……」

 

「わわっ!?」

 

 やはり想定通り扉の枠に躓いて転びかけたドトウのもとへオペラオーは急ぎ足を踏み出すも、とっさに身体を支えるには離れすぎている。

 

 ガシャガシャと音を立ててパイプ椅子は地面に崩れ落ちたが、ドトウの身体がその上に倒れ込むことは無かった。倉庫の中から伸びてきた手が、彼女の肩をしっかりつかんで支えていたのだ。

 

「おっと、気を付けないと。今から観戦を楽しむって時に、怪我をしていては興が削がれてしまうよ。」

 

「す、すみません、すみません!ありがとうございます、トップロードさん……!」

 

 おそらく片桐から呼ばれて準備を手伝わされていたのだろう、ナリタトップロードがドトウを助け起こしている。

 

 彼女を呼び寄せたのには普段からの付き合いもあったろうが、人間よりも腕力面にて優れているウマ娘の手を借りることで、重い機材や備品の運搬を見咎められることなく速やかに済ませる狙いもあったろう。

 

 駆け寄っていったオペラオーは、散らばったパイプ椅子を手早く拾い上げつつ、慣れ親しんだ同期の集結を喜んでいる。

 

「はーっはっはっは!なんと、キミも居たのか!うんうん、共に大舞台を観戦する友は多いほどに良い!」

 

「あ、アドマイヤベガさんも、ここに来られると良かったのですけど……」

 

「アヤベなら、結城トレーナーと一緒にレース場に行ってるだろう。土産話を楽しみにしていようじゃないか。」

 

 斯くして場は整い、片桐によって抜け目なくセッティングされた屋外観戦場には中継の音が流れ始めた。視聴用の座席はかなり余分に設置されていたが、これも片桐による策の一つである。

 

「我々の人数分だけの椅子を並べるより、こうしておいた方が学園公認のイベントのようにも見えるでしょ?」

 

 隅々まで手際のよい彼の計らいに半ば感心しつつも呆れながら、鷹木が視線を外した先には学園敷地外への通用口があった。

 

 敷地を手入れする用務員が出入りする時以外は施錠されている金網の扉であったが、その金網越しにこちらを見つめている小柄な影がある。鷹木の眼がこちらを向いたのに相手も気づき、多少緊張した視線が返ってくる。

 

 が、相手は逃げ出したり隠れたりはしなかった。むしろ、たった今、この人目につかない位置に設営された観戦場に視線を注ぎ続けるため張り付くつもりのようであった。

 

 片桐はと見れば、ちゃっかりとクーラーボックスから飲み物のボトルや紙コップを取り出して並べている。一度目が合ってしまった相手を無視することも出来ない鷹木は、自ら立ち上がって敷地外から覗き込んでくる何者かのもとへと向かった。

 

 不審人物であるか否かを警戒する必要は薄かった。その小柄な何者かは少女の姿をしており……帽子で頭は隠してはいるものの、腰からはふさふさとした尻尾が垂れていたのだ。

 

「えーっと……こんにちは。」

 

「あ、ど、どうもです。」

 

「君は、ウマ娘……かな?けれど、この学園の生徒じゃないね。」

 

「はい、その……ちょっと、見学にですね。まぁ、勝手に、ですけど。」

 

「今なら、有馬記念の中継会場が一般開放されているよ。正門まで案内しようか。」

 

 トレセン学園の見学も兼ねて、一般開放される日にちに合わせて訪れる入学前のウマ娘も多い。目の前にいる彼女もそうだと踏んだ鷹木は案内を申し出たが、相手からの反応は曖昧なものであった。

 

「いやぁ~……その、何と言いますか、あぁいった会場は……」

 

「人混みの多いところは、苦手かな?」

 

「いえいえ、むしろ大の得意でして、我を忘れて皆さんと盛り上がれるのは確実なんですけど……」

 

「良いことじゃないか。」

 

「そのぉ……私、盛り上がっちゃったら本当にブレーキが効かないタチでして、いずれこの学園に入学を希望する身としましては、あまり羽目を外した行為を披露すると内申点に響くのではないか、と憂慮する次第でありまして……」

 

 小柄で幼い印象の、名も知らぬウマ娘であったが、その口調や澄んだ眼差しからは彼女の知性の高さが窺われた。この子がレース出走選手となれば、器用なレース展開も望めるのではないか……と鷹木は見定めていた。

 

 彼女の視線が鷹木の背後に向けられたのと、鷹木の後ろから片桐の手が伸びてきたのが同時であった。片桐は鷹木がしなかった行為を躊躇なく実行に移した……すなわち、ウマ娘とはいえ部外者に対し、施錠された通用口を開けたのだ。

 

 驚いているのは鷹木も、小柄なウマ娘も同様であった。目を丸くしている面々の前で、片桐は恭しく頭を下げて予定外の来客を迎え入れる。

 

「どうぞ、席はまだまだ空いておりますから。こんな離れた場所よりも、最前列で観戦するのが一番でしょう?」

 

「ひょぉ!?え、えっと、いいんでしょうか?学園の敷地内では、来客証とか、付けなきゃいけないんでは……?」

 

 妙に個性的な驚き声を発しているウマ娘であったが、同時にこちらに気付いたオペラオーによって優しく手を取られる。

 

「ようこそ、ごきげんよう!さぁおいで!一世一代の名勝負を前に、共に熱く心を焦がそうじゃないか!」

 

「ひょわぁ!そ、そんな、トレセン学園のウマ娘さんと一緒に、だなんて……!」

 

「私たちはまだ一年次だから、これといってレース成績は無いウマ娘だけれどね。」

 

「よ、ようこそぉ……どうぞ、こちらへ……にんじんジュース、お飲みになりますぅ?」

 

 トップロードとドトウにも迎え入れられ、あれよあれよという間に連れ込まれた見知らぬ小柄なウマ娘は、並べられた席の最前列に腰を下ろすこととなった。

 

 ジュースを注ごうとしては至極当然のように盛大にこぼしているドトウが騒ぎつつも、こうして賑やかに有馬記念の中継観戦は開始されたのであった。

 

「ほんと、ほんとに、ここで見てていいんですね?ちょっと、尊み情報量が多すぎて、レース開始前から視界がブルスク一歩手前なんですが!」

 

「はーっはっはっは!なかなかにユニークな表現力の持ち主だね!」

 

 彼女らの後ろの席に腰を下ろした鷹木に、片桐は早くも開けていたスナック菓子の袋を差し出しながら告げる。

 

「普通の感覚じゃ、この裏口から覗こうとはしない。行動力で結果を生むタイプかもしれませんな、今入って来た子。」

 

「そもそも片桐さんがこんな真似を思いつかなけりゃ、何も起きずに帰ったでしょうけれどね。」

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