覇道のドラマトゥルク   作:Okubo Masau

23 / 111
 URAの一年を締めくくる有馬記念。来年は自分たちも同じ舞台に立つ、そんな一念を胸に黄金世代の先輩たちの激闘を観戦するオペラオー、ドトウ、トップロード。そして、一団の観戦会に飛び入り参加してきた入学前のウマ娘、何やら妙に存在感のある彼女の名は、やはり……。
 大歓声を浴びる黄金世代を画面の向こうに見つつ、次なる世代のウマ娘たちが一堂に会する場面です。


戦神の復活、覇王は未だ。

 暮れの中山レース場で行われる、中央URAの目玉となる大舞台……有馬記念。

 

 年末の風物詩としても定着しているこのレースには、ファンの投票によって選びだされた人気のウマ娘が顔を揃える。パドックに姿を現す彼女たちの紹介は、人気度に関わらず大きな歓声とともに迎え入れられた。

 

 観戦チケットを入手することの叶わなかった鷹木らは、トレセン学園の裏庭にて片桐が勝手に持ち出したテレビモニターでの観戦となった。

 

 屋外で散漫と広がる音響の中では現場にいる臨場感を味わうには程遠かったものの、モニターの前に並んで腰かけるウマ娘たちは彼女らなりに楽しんでいる様子であった。

 

〈10番人気、キングヘイロー。前回の菊花賞においても勝利を逃し、人気順は落ち込んでしまいましたが……お聞きください、会場は彼女の姿に沸いています。未だGⅠ無冠の王者が、栄光を手にする日を待ち望む声は少なくありません。〉

 

 パドックに立つウマ娘の声は中継に乗っていなかったものの、キングヘイローは堂々と胸を張り、いつもの高笑いを披露していた。この場に届かぬその笑い声に呼応するかの如く、テイエムオペラオーは画面の前で拳を突き上げて立ち上がる。

 

「はーっはっはっは!見たまえ、あれこそがキング!超一流のウマ娘だ!」

 

 オペラオーなりに解説をしてやっているつもりなのか、彼女は先ほど通用口から入って来た見知らぬ小柄なウマ娘に声を向けていた。そのテンションの高さに戸惑いつつも、しっかり考えて返答する辺り、この子も大概の胆力を有しているようであった。

 

「な、なるほどぉ。しかし、キングヘイローさんは中々に苦境続きのご様子ですが……。」

 

「王たる者の証は、決して折れぬ心!最後まで諦めなかった者が、勝つのだからね!」

 

「ひょぉぉ……仰る通りですね!」

 

 有馬記念に出走できるウマ娘は、いずれも数多くのファンから推される人気者には違いない。

 

 が、これもテレビという媒体の短所か、人気度の低いウマ娘のパドック入りには、ちょくちょくレース場内の模様の中継が挟まれた。画面にくぎ付けになる視聴者が相対的に少ないと思われるシーンにおいては、同じような場面を連続させまいとする配信側の思惑が働いた結果である。

 

 出走ウマ娘の紹介の合間に、短時間ながら映ったのは明らかに特等席と見える観戦ルームのバルコニーであった。そこに立っていた姿を見逃さなかったトップロードが呟く。

 

「今、アヤベが映ったね。」

 

「隣りに結城トレーナーさんも、いらっしゃいましたぁ……あと、何だか偉そうな方々もいっぱい……。」

 

「緊張しっぱなしじゃないかな、アヤベ。人見知りするし、あの子。」

 

 ドトウが言った通り、全国各地から結城トレーナーの元へ集まってきていたベテラントレーナーたちにアドマイヤベガは囲まれていた。画面越しに確認してもなお目に見えて、彼女の表情は強張っている。

 

 出走ウマ娘の紹介は、いよいよ上位三名のところまで来ていた。

 

〈3番人気を紹介しましょう、メジロブライト!デビュー当初は注目を浴びていなかった彼女でしたが、G2での勝利を重ね、今年の天皇賞春で見事に一着。同じくメジロ家の姉妹、メジロドーベルと共に有馬記念への出走となりました。〉

 

「たしか、あの伝説的な超スローペースのメイクデビューで勝利した子でしたな。」

 

「あれほど走りを乱された競走で勝てるというのは、確かに底力を感じさせますね。」

 

 モニター前列のウマ娘たちは、誰が出てこようとも同様に盛り上がってテンションを上げていたが、片桐と鷹木はトレーナーとして有馬記念出走ウマ娘の分析に励み続けていた。

 

 名門メジロ家の例にもれず、容姿端麗なウマ娘がパドックには立っている。姉妹のメジロドーベルと同じ鹿毛をさっぱりと襟元で切っているメジロブライトは、どこか余裕を感じさせる目元に理智の光を宿す、技巧派の匂いの強いウマ娘であった。

 

〈続きましては2番人気、エアグルーヴです。言わずと知れた女帝、昨年の有馬記念は三着に終わっていますが彼女は今年も戻ってきました。その走り、昨年の雪辱に期待の寄せられるところです。〉

 

「おぉ、やはり冠を抱く者は佇まいに気品と強さがみなぎっているね!」

 

「おわぁあ、眩い、眩いです!エアグルーヴさんの後光が絢爛に過ぎます!」

 

「なんと、キミも王者の輝きを感じ取ることが出来るのかい!?そうか、そうか、ではボクが大舞台に出る時には直視してもらえそうに無いね!実に残念だ!」

 

「アヤベが今ここに居れば、ツッコんでくれるんだろうけれどね。」

 

 名も知らぬ小柄なウマ娘からちょくちょく飛び出す独特な表現に対し、オペラオー流の返答が何故か淀むことなく応えている。無論のことながらその会話に参加できていないトップロードは、後列のトレーナー達を振り返って半ば困ったような笑顔を送った。

 

 とはいえ、鷹木も片桐も同じく、オペラオーの受け答えに口を挟むための言葉など浮かんでいない。画面からは更に大きな歓声が響き渡り、ドトウが熱中のあまり手に持ったジュースのコップを傾けて内容物を地面に注いでいることにも気づかぬまま口を開いた。

 

「き、来ました、一番人気ですよぉ……!」

 

〈さぁお待たせいたしました、1番人気はこの子、菊花賞を制しましたセイウンスカイです!かのスペシャルウィークの追い上げを巧みに交わした名勝負は今なお記憶に新しく、今年の有馬記念においても優勝が最も有力視されているウマ娘です!〉

 

「あぁ、また彼女は見せてくれるのだろうか、あの怪物を翻弄した、水際立った走りを!」

 

「今度は中距離のレース、どんな策を仕掛けてくるんだろう。」

 

「いやぁ、それにしてもセイウンスカイさん、大舞台を前にリラックスした表情ですねぇ……けれど胸の内に闘志は熱く燃やして、このギャップが堪りませんなぁ……。」

 

 いよいよ目前に迫ったレース開始を前に気分が高まっていたのはオペラオー達も同様であったが、名も知らぬ小柄なウマ娘の興奮度合いはそれを遥かに超えているようであった。

 

 彼女自身が言うところの「ブレーキ」が外れてきたのか、ヨダレを垂らさんばかりの恍惚を表情に浮かべ、画面に見入っている。パドックを出てゲートへ向かっていく選手たちが画面上を移動するのを待ちつつ、オペラオーはふと思い出したように尋ねた。

 

「まもなく、だね!ところで、共に大舞台で盛り上がろうとする同士よ。」

 

「は、はいぃ?私ですか?」

 

「良ければ、名前を教えてもらえないだろうか?これより始まる大舞台を共に応援する仲間として、もっと近くにいてほしいんだ。かく言うボクはテイエムオペラオー、URA界の覇王となるウマ娘さ!」

 

「え、えぇっと……」

 

 唐突なオペラ―からの申し出を前に、面食らっている小柄なウマ娘。彼女の戸惑いを察したように、トップロードが隣りから声をかける。

 

「ほら、お互いに知り合っていれば、また再び出会えた時、同じレースで得た感動を共に蘇らせることも容易いだろう。私は、ナリタトップロードだよ。」

 

「わ、私は、メイショウドトウですぅ……。」

 

「なるほど、確かに。」

 

 画面の中で次々にゲートインしていく有馬記念のウマ娘たちを横目に見つつ、頭に大きなリボンを付けたウマ娘は意を決したように口を開いた。

 

「私は、デジタル……アグネスデジタルと、申します!」

 

「教えてくれてありがとう!キミの目の輝きを見た時から、その名を知っていたような気がするよ!よろしく、アグネスデジタル!」

 

〈ゲートイン完了。出走の準備が整いました。〉

 

 中継のアナウンサーの声が、オペラオーとアグネスデジタルの視線を同時にモニター上へと引き戻す。

 

〈スタートしました!各選手揃っての綺麗なスタート、さてまずは先行争いであります。やはりセイウンスカイがじわーっと抜けてくるところ、内を突いては秋の天皇賞ウマ娘オフサイドトラップが並んできます。さらに一バ身差でオースミタイクーン三番手、内からマチカネフクキタル、エアグルーヴも第二集団、メジロドーベルが外から上がっていきました。〉

 

 レース開始直後から、実況によって読み上げられる名がおしなべて豪華である。これが有馬記念、ゴールにたどり着く前から勝負に呑まれるようなウマ娘には決して立てない舞台であった。

 

「やはりセイウンスカイは逃げですな、とはいえ前回の菊花賞でのこともありますし……」

 

 片桐はその手に口元へ運ぶためのスナック菓子をつまんでいたものの、動きは止まったまま眼差しが早くもレース展開にくぎ付けとなっている。鷹木もまた、手にしたコップを持ち上げることなど忘れたかのように、ただ片桐からの問いかけに応えるだけで精いっぱいであった。

 

「きっと、多くのウマ娘からマークされているでしょうね。また違う策を用意して来ているかもしれませんが。」

 

〈400の標識を通過して一週目、第4コーナーからスタンド前に掛かってまいりました。セイウンスカイは二バ身から三バ身へとリードを開くか、二番手争いはサンライズフラッグが内ラチに入りました。遅れてメジロドーベルは六番手の位置、その後にエアグルーヴがつけました、後はマチカネフクキタル、グラスワンダー、ステイゴールドは外から。〉

 

 比較的前の方に居たはずのエアグルーヴが早くも七番手へ、後ろから上がってくるウマ娘によって順位はコロコロと入れ替わる。

 

 外回りからスタートしスタンド前を二度通過する有馬記念は、六回のコーナーに加えゴール前の坂を二回走り抜けることとなる。スタミナ配分に加え、競争相手たちと駆け引きしての位置取りなど器用さが最大限求められるレースである。

 

 どのウマ娘も、まだラストスパートのためにスタミナを温存していることに変わりはない。ただ、一様にセイウンスカイの逃げ切りを警戒しながらも牽制し合っていることは間違いなかった。

 

「キング!素晴らしいよ、落ち着いた走りだ!王者の余裕が見て取れるね!」

 

「うぅー、キングさん、集団に埋もれて見えないですぅ……オペラオーさんには、見えてるんですかぁ?」

 

「見えていないが、分かるとも!キミもそうだろう、デジタル!」

 

「はいぃ!はいはい!ウマ娘のキラキラは、姿が見えていなかろうとも届いていますとも!」

 

 画面上には中団後方でもつれ合うように混戦を呈している様子だけが映っているにもかかわらず、共に何が見えているのかオペラオーとデジタルははっきりと姿の映っていない相手に向かって声援を上げていた。

 

 中盤においても盛んに入れ替わる順位を前に、いよいよ勝利の行方は想像しがたいものとなっている。が、ここで早くも仕掛けを作動させたのはセイウンスカイであった。

 

〈第1コーナーに入りましてさぁ飛ばします、飛ばします、先頭はセイウンスカイ!残り1400を切って、もう既に六バ身から七バ身リードは広がっている!サンライズフラッグ単独二番手、三バ身置きまして三番手の位置にはオフサイドトラップ、さらにはオースミタイクーンとメジロドーベルが続きます!〉

 

 共に勝利が有力視されていたエアグルーヴやメジロブライトが後方に残る一方、加速したセイウンスカイはぐんぐんとリードを開いていく。

 

「菊花賞と同じ手は使わぬと見せておきながら、他のウマ娘よりも早めに仕掛けてきましたな。」

 

 片桐が、やはり先ほどと寸分たがわぬ格好で身体は動かせぬまま、視線をモニター上から外すことなく呟く。鷹木はもはや声なく頷くばかりであったが、当然ながら片桐にその仕草は伝わらなかったろう。

 

 有馬記念はかなり小回りな上に坂を複数回通過するコース、これまで見てきた通り先行争いは熾烈を極め、最も展開の予測しにくいレースの一つである。が、大抵の選手が勝負を仕掛け始めるのは向こう正面、緩やかな下り坂の直線においてである。

 

 その先頭争いに巻き込まれるより先んじて、一気に突き放す。菊花賞において巧みなスタミナ配分を披露したセイウンスカイが今回取った作戦は、確かに理に適ったものであった。

 

〈中団後方にてステイゴールド、グラスワンダー並んでいます。後は三バ身差で外からエモシオン、ウチからマチカネフクキタル、さらにダイワオーシュウ、キングヘイロー、そしてメジロブライトが後方から二番手の位置!さぁ第三コーナーに入って先頭は飛ばしますセイウンスカイ……のリードがやや詰まって来たか、五バ身から四バ身、追い上げてきたのはメジロドーベル!〉

 

「アヤベみたいな走りだ。」

 

「そ、そうですねぇ、いつも練習しているアヤベさん、同じような走り方しますぅ……」

 

 トップロードが言及したのは、たった今二番手に上がって来たメジロドーベルについてのみではない。彼女の背後からはエアグルーヴ、グラスワンダー、メジロブライト……いずれも最後の直線に入るのを待たず、一斉に先頭目指して駆けあがって来たのだ。

 

 第三コーナーに差し掛かったあたりからゴール板通過の瞬間までラストスパートを持続させる、一級の末脚を誇るアドマイヤベガの走り方は、今目の前で披露されている追い上げ集団の走りに確かに似ていた。

 

 が、現役で有馬記念に出走している彼女らの脚の方が、当然ながらより速く、より洗練されている。

 

〈600を切りまして後方からグラスワンダーが抜けてきた!グラスワンダー抜けてきた!その直後には虎視眈々とエアグルーヴが差を詰めて来る!大外を回ってメジロブライトが上がって来た!〉

 

「こりゃあ……キツイ配分だ。スタミナは温存できていないだろうけれど、ここで攻めなければ負けるわけですからね。」

 

「えぇ。」

 

 鷹木は、ようやく相槌を返すだけで精いっぱいであった。

 

 その年の人気度トップクラスのウマ娘が顔をそろえる、有馬記念。このレースに出場出来ている時点で、彼女らはおしなべて規格外なのだ。今までは、そんな規格外のウマ娘も問題なく平らげる怪物ばかりが目立っていたが。

 

 普通のウマ娘にとっては早すぎるラストスパートのタイミングも、有馬記念においては平然と選択されていた。普通ではない能力を有した者たちの競走は、その展開も常軌を逸していた。

 

〈400を切りました、サンライズフラッグがウチを突いている!第四コーナーから直線に向いた、逃げるセイウンスカイが先頭だが殆ど差はなくなってきた!メジロドーベル、エモシオン……外からグラスワンダー!エアグルーヴがその背後に迫る!間を突いてステイゴールド!大外からメジロブライト!〉

 

 最終直線、もはや突出するウマ娘は居ない。

 

 複数のコーナーと坂を越え、レース配分の非常に難しい有馬記念の終盤において、彼女らがこうして肩を並べて走っている現状は、いかに有馬記念出走ウマ娘の技量が洗練され切ったものであるかを物語っていた。

 

「キング!キーーング!」

 

 オペラオーが声を張り上げるその相手も、実況には名を挙げられなかったものの先頭集団に僅かに遅れながら必死に食らいついていく。中団からようやく抜け出しかけた彼女の顔が、初めてハッキリと画面上に映った。

 

 が、この拮抗を崩し、栄冠を手にするウマ娘は、既に前へと躍り出ている。

 

〈ステイゴールドが先頭セイウンスカイを捉えたか!いや、グラスワンダーだ、グラスワンダーだ!あと100メートル!大外から上がって来たメジロブライトは二着の位置!エアグルーヴも迫るが届かない!〉

 

 今まさに死力を尽くしているのは、いずれのウマ娘も同じだったであろう。きっと呼気に酸素も尽き、比喩で無く脚がへし折れんばかりの負荷が掛かっていただろう。

 

 そんな死線を唯一越えたのは、パドックでは4番人気に落ち着き、随分と大人しそうな印象を見せた栗毛のウマ娘であった。たった今、自らの命の限界をも躊躇なく踏みつけて、先へと躍り出た彼女には嫋やかさなど微塵も残っていなかった。

 

 中山レース場の大観衆を震わせる轟きは、戦神の咆哮が天より注ぐかの如く。彼女の名は、グラスワンダー。

 

〈グラスワンダー!グラスワンダーが、今先頭でゴールイン!グラスワンダー、復活ッッ!!〉

 

 額から流れ落ちてきた汗が目に入り、ようやく我を取り戻した鷹木。

 

 ギョッとするほど総身の毛が逆立っていることに気付きながらも、上着を脱ぎ棄てて深く息を吐いた。今が12月とは思えぬほどに身体は熱く、ダラダラと汗が流れて来はするものの、彼の顔は青ざめていた。

 

 汗を拭き直して改めてこの場を見回せば、先ほどまで自分の身体を推し包んでいた中山レース場の熱狂は、テレビモニターの向こう側へと戻っていた。アナウンサーが何やかやと喋っている画面の前で、仲良く並んだウマ娘たちが言葉もなく固まっている。

 

「ドトウ?ドトウー?あぁ、また気絶していますよ、この子。」

 

 鷹木に遅れて正気に戻った現状を照れ隠しするように、片桐は小さく笑い、ようやく握りしめていたコップを口元に運んだ。……が、いつの間にか内容物を足元にこぼしていたことには気づいていなかった。

 

 オペラオーが応援していたキングヘイローは、6着。中継画面には僅かにしかその姿が映らなかったものの、やはり彼女は汚れた勝負服のまま、観客席に向けてこぶしを突き上げていた。

 

 それに応じているつもりなのか、モニターに向けて拳を合わせるオペラオー。が、背後でトップロードの慌てる声が、彼女を振り向かせた。

 

「ドトウ?デジタル?……ちょっと、来てくれないか、揃って意識を失っているんだ、デジタルに至っては盛大に鼻血まで流している。」

 

「なんと!この大舞台は刺激が強すぎたろうか、何せこのボクでさえ、圧倒されてしまったからね!」

 

「ドトウについては、いつも通り少し休ませれば復活するでしょう。しかしデジタルさんの鼻血の量は心配になりますね、保健室へと連れて行ってあげるべきかと。」

 

 片桐は喋りながら常の感覚を取り戻して行っているようであったが、鷹木はなおも全身が痺れたようになったまま、立ち上がれずにいた。

 

 やがて保健室から担架を借りて来たオペラオーたちがデジタルの身体を運んでいき、その後ようやく膝を震わせながらも歩き回れるようになった鷹木は片桐と共に放送機材の撤収作業に追われていた。

 

 どことなく片桐の様子がそわそわしていたのは、やはり学園の人間に見咎められるのを危惧していたためであろう。

 

「やっぱり、許可も何も取らずに持ち出してきたんですね、片桐さん。」

 

「まぁまぁ、許可が必要だとは言われてませんですし……それに、大舞台の様子を担当ウマ娘に見せてやることも、トレーナーとしての務めでしょう。」

 

「流石ですな、言い訳が滾々と湧き出て来るのは。」

 

 片桐は黙ったまま、表情をもってのみニヤリと返す。共にパイプ椅子をたたんで備品倉庫へ運ぶ道すがら、彼は鷹木へ静かに告げた。

 

「来年からは、あの子たちも出走条件が整いますね。……その時は、よろしく。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。