覇道のドラマトゥルク   作:Okubo Masau

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テイエムオペラオーを最初に破るウマ娘になりたい。その思いを強く抱いてシニア級の年度に突入したアグネスデジタルであったが、GⅢでも勝ちきれない自らの現状に焦りは募るばかり。ただ、彼女と同期のエアシャカールもまた、ライバルとして見定めたアグネスフライトの存在を気にし続けていた。


覇王に居並ぶ者を、まず超えて

 2月。冬の気が目に見えて遠ざかりつつあるトレセン学園の中庭では、そろそろ緩みかけた寒気の中で芽生えた若葉が茂り始め、所々では気の早い蕾がポツポツと花を開かせている。

 

 トレーニングの休憩を少し長めにとったアグネスデジタルは、暫しその場に腰を下ろし、靄の掛かったような薄曇りの空を見上げていた。

 

「あぁ……。」

 

 誰かから見られている間はいつも明るく朗らかに振舞って見せているアグネスデジタルにも、胸の内から悩みの種に押し出されるかのように溜息を吐く瞬間はある。

 

「今年は、いよいよ私もシニア級だというのに……。」

 

 ダートと芝、両方で活躍したいという、風変わりかつ難度の高い目標。

 

 その望みを前にして特に高く立ちはだかる壁が、芝のGⅠレースである。しかし今年度の自らの実力を試す意味合いも込めて出走したGⅢレース、京都金杯では三着。勝ちきれなかった。

 

「シャカールちゃんは、私のずっと先を行って……」

 

 同年代のウマ娘、エアシャカールの戦績に、自らが追いつけていない事実もまた焦りと不安の重みを増していた。

 

 昨年度のクラシック級、皐月賞と菊花賞を共に制したエアシャカール。東京優駿で競り合ったアグネスフライト共々、勝てはしなかったものの既に覇王テイエムオペラオーとの直接対決も果たしている。

 

 昨年のあのレースを見て、ますますオペラオーと共に走りたい、そして勝ってみせたいとの意欲を湧き立たせていたアグネスデジタルであったが、現実は甘いものではなかった。

 

 既に、大阪杯にてオペラオーとの再戦が決定しているシャカールとフライト。

 

 世紀末覇王を破る新世代のウマ娘として、最も注目されているのはアグネスデジタルではなかった。

 

「……ええい、いけません!先月のことをいつまでもウジウジ引きずってたって、何も始まりませんし!」

 

「そーそー、悩んでたって良い事ないよ~。」

 

 誰も居ないと思って独り言を口走っていたアグネスデジタルは、思いもよらずすぐ真隣りから聞こえて来た声に跳びあがった。

 

「ヒョォォオエエ!?なっ、ななな、何です、誰ですか!?姿が見えません、よもや、三女神様のお声が私の耳に!?」

 

「その通りー。アグネスデジタルよ、購買のにんじんメンチカツサンドを買ってくるのです~。」

 

「一番の激戦区となる商品をご所望とは、何たる苛烈な試練!……ん?」

 

 生い茂る若葉の中に紛れる形で寝そべっていた相手を、アグネスデジタルの目はようやく見つけ出した。

 

 淡い緑色の良く似合う、芦毛のウマ娘。姿の見えぬ何者かに話しかけられているわけではないと気づいたアグネスデジタルはいったん安堵して、直後、相手の正体が黄金世代の大先輩であることに気づいて再び驚愕することとなった。

 

「ひょぉおおう!?せ、セイウンスカイ先輩じゃありませんか!」

 

「さっきからリアクションが派手だね~。さすが、オペラオーくんと調子を合わせられるだけのことはあるよ。」

 

「い、いったいここで、何を……。」

 

 すぐにはセイウンスカイの返答はなく、彼女はゆっくりと上体を起こす。

 

 あの黄金世代、最強と名高いスペシャルウィークと張り合い、皐月賞と菊花賞を制したウマ娘と同じ存在とは思えぬほどに、ゆったりした動き。

 

 アグネスデジタルが呆然と見つめている前で、返事を待たせていることに何らの気兼ねなく、背筋を反らしてうんと伸びをしているセイウンスカイ。

 

 結局、彼女が再び口を開くまで、数分はかかったろうか。

 

「いや別に、ちょっと休憩してただけ。」

 

「ちょっと休憩の割には、完全に寝そべっておられましたが……ムッ、もしや、この休憩時間こそ、黄金世代を競い合った先輩の強さの秘訣でしょうか!」

 

「んなことないよ、ついでに眠り込んだら、その分サボれるかもな~って思っただけ。」

 

 とはいえ、すっかり目が醒めてしまったセイウンスカイは間もなく立ち上がり、練習場へと戻っていくつもりのようであった。

 

 徐々に眠気が去っていくのであろう彼女の瞳には澄んだ輝きが戻り始め、立ち尽くしているアグネスデジタルの方を振り返った時の顔は、完全に2年前と変わらぬGⅠウマ娘のものとなっていた。

 

「あ、そうそう。えっと、あなたの名前は……」

 

「アグネスデジタルです!」

 

「うんうん、知ってた、去年のマイルチャンピオンシップでキングが完敗した子だよね。」

 

「えっと……まぁ、はい、私が勝たせていただきましたが……」

 

 あのレースでは、キングヘイローに背を押されるような形でデジタルは勝利を得たわけであったが、与り知らぬところで不名誉な覚えられ方をしているのもキングヘイローであった。

 

 それはさておいて、アグネスデジタルはセイウンスカイが何を告げようとしているのかの方に集中していた。

 

「最近はオペラオー君に会うこと、ある?」

 

「はい、時々私が練習場に顔を出すと、オペラオー先輩は喜んで迎え入れてくださいます。」

 

「じゃ、伝えといて。今年の春天で会おうって。」

 

 あまりにもアッサリと、そしてノンビリと告げられたため、アグネスデジタルはその言葉の重大さに気づくまで数秒を要した。その時には、既にセイウンスカイは背を向けてアグネスデジタルの前から去って行ってしまっていたが。

 

 2年前から姿をいずこかへとくらましていた青天の雲が、遂にウマ娘レースの舞台へと戻り来るのだ。それも、テイエムオペラオーも出走する大舞台、春の天皇賞に。

 

 最後の黄金世代、セイウンスカイ。そして世紀末覇王、テイエムオペラオー。

 

「……は……はい……!」

 

 そこには当然ながら、覇王討伐に最も近いウマ娘、メイショウドトウの姿もあるだろう。ナリタトップロードも、アドマイヤベガも出走するはずだ。さらに現状の戦績を鑑みれば、エアシャカールだって出走する可能性が高い。

 

 3世代にわたる優駿たちが競い合う、夢のような舞台が実現するであろう予見。

 

 もとよりウマ娘たちの魅力を追い求めるようにしてこの世界に入ってきたアグネスデジタルの脳内は、殆ど思考停止状態にまで追い込まれていた。

 

「あ……あ゛……」

 

 脳内に熱源でも埋め込まれたかのような感覚のまま、熱に浮かされたような表情でフラフラ現れたアグネスデジタルを、オペラオーの練習を終えさせたばかりの鷹木トレーナーは驚いて迎え入れた。

 

「お、おい、大丈夫かアグネスデジタル、風邪でも引いたのならすぐ保健室へ……。」

 

「いや、違うね鷹木!これは恋する乙女の表情だ、すなわちデジタルくんは、ボクの持つ美しさに惚れ切ってしまったのだよ!はーっはっはっは!」

 

 相変わらず覇王流の診断結果を述べて高笑いを響かせているテイエムオペラオー。

 

 広大なウマ娘個別練習場にも十分に反響するその声量は、ようやくアグネスデジタルの意識を現世へと引き戻したのであった。

 

「……はっ……お、オペラオー先輩……」

 

「あぁ!ボクだとも!このテイエムオペラオーの新たなる魅力に気づいてしまったキミに、昨晩寝ずに考えた新作オペラのさわりでも披露してあげようか!」

 

「夜は眠っててくれよ……」

 

 相変わらず担当トレーナーを蒼ざめさせる覇王ジョークが飛び出している前で、アグネスデジタルは伝令の役目を果たすまでに更なる心の準備を要した。

 

「……セ……」

 

「セ?」

 

「世界一美しい存在こそ、テイエムオペラオーとでも言いたいのかい?」

 

「ちょっと黙っててくれ、さっきからデジタルが何か言おうとし続けてるだろ。」

 

 とはいえ、オペラオーによる茶々入れが、アグネスデジタルの緊張をほぐす大きな助けとなったのは事実であった。

 

「……セイウンスカイ先輩が、春天で会おう……って、仰ってました。」

 

「……!?」

 

 顔色が変わるまで数秒を要した点については、鷹木もアグネスデジタルとほぼ同じであった。

 

 血色を失い、ついでに言葉も失って静かになったトレーナーの傍ら、テイエムオペラオーは間髪入れずに再びの高笑いを披露する。

 

「はーっはっはっは!何を蒼ざめているんだ、鷹木!キミもあの場に居ただろう、いよいよセイウンスカイ先輩と交わした約束の時が、来るというんだ!」

 

「……あ、あぁ、ただ、セイウンスカイは結局去年も、全くレースに出る様子なんてなかったし……」

 

「ウマ娘がどの程度の本気で言葉を語っているかぐらい、キミにもそろそろ分かるものだと思っていたけれどね!あぁ、ついに、ついにだよ!このボクを破らんとする勇者が、ますます集って来た!」

 

 それはテイエムオペラオーにとっては喜ばしく、鷹木トレーナーにとっては恐るべき報告であったろう。

 

 熱に浮かされたようになっていたアグネスデジタルであったが、目の前で無邪気に喜んでいるテイエムオペラオーの姿を見るにつけ、その熱が徐々に醒めていく感覚を覚えていた。

 

 代わりに、沸き上がって来たのは、昨年のジャパンカップで抱いた思い……すなわち、自分自身こそが、覇王テイエムオペラオーに勝ちたいという闘志である。

 

「……オペラオー先輩。」

 

「どうしたんだい?アグネスデジタル、キミも天皇賞の舞台へ今から来ようというのか!」

 

「さ、さすがに今からってのは、厳しいですが……」

 

 天皇賞は二か月以上先ではあるが、出走権を得るためのレースに準備する期間としてはあまりにも短すぎる。

 

 故に、デジタルが結局選んだ言葉は、彼女が歯痒く思うほどに簡潔なものとなってしまった。

 

「……負けないでくださいね!」

 

「もちろんだとも!ボクは常に、勝つつもりで走っているからね!」

 

 しかし、当のテイエムオペラオーには、十分に彼女の言わんとするところは伝わっていたようであった。

 

「……勇者の訪れを、覇王は必ずや待つとも。」

 

 今年度の覇王の始動は未だ先の話であったが、そのライバルたちは2月の中旬に走り出していた。

 

 2月17日、GⅡレース、京都記念。

 

 出走メンバーの中でも当然ながら注目を集めていたのはテイエムオペラオーのデビュー以来、長きにわたって彼女と競い続けてきたナリタトップロード。

 

 そして長期療養から昨年復帰を果たし、やはり期待通りにオペラオーと並ぶ実力を見せつけたアドマイヤベガも人気度では上位に食い込んでいた。

 

 ……そこまでであれば、昨年度と大して変わらない人気順である。

 

 が、今回、そこにアグネスフライトの名が連なっていたことは、新たなる世代の活躍を予感させる変化であった。

 

 エアシャカールの同期であり、彼女と並んでクラシック級のタイトルを奪い合って来たアグネスフライト。

 

 オペラオー世代全盛期であった昨年のジャパンカップでは、エアシャカール共々10着以降という敗北を喫したものの、身体能力の本格化が追いつくであろう今年度の活躍はもとより期待されていた。

 

「……。」

 

 パドックに姿を現し、紹介を受けているアグネスフライトの姿を、中継の画面越しに黙って見つめているのはエアシャカール。

 

 自らの好敵手と定めた相手であり、オペラオー世代のウマ娘と同様に、いずれ破らねばならぬ標的として、その一挙手一投足まで見逃すまいと凝視し続けているシャカールの目は鋭い。

 

 が、この場に居るのは彼女だけではなかった。

 

 すぐ隣にはいつも賑やかなアグネスデジタル、その反対側には常に朗らかなテイエムオペラオーが座り、今のシャカールは両耳から彼女らの声量を受け止める羽目になっていた。

 

「あ、次で1番人気ですよ!やっぱりアドマイヤベガ先輩です!ひょぉぉう、今日も凛としてらっしゃる……!」

 

「アヤベさんの輝きが、皆を魅了するのも無理はないさ!もとより美しいボクでさえ、彼女の光を浴びて恍惚を覚えるのだから!」

 

(うるせぇ……)

 

 もちろん、シャカールが望んでこのような状況での観戦を開始したわけでは無い。アグネスデジタルによって共に京都記念を観戦しないかと誘いを受け、ついでにいずれ競う相手となる覇王テイエムオペラオーから、少しでも勝つヒントを盗み出してやろうと画策した結果である。

 

 オペラオーは相変わらずであったが。

 

 何なら、シャカールが入学した当初からずっと変わらず、自分自身がシニア級となった現在となっては、オペラオーの方が年下であるかのようにも見えるほどのはしゃぎっぷりを披露していた。

 

〈各ウマ娘、続々とゲートに向かっていきます。本日は晴天に恵まれ、芝状態は良、絶好のレース日和であります。さぁいよいよ発走の時が近づいてまいりました。〉

 

 そんなオペラオーに負けず劣らず、胸の高鳴りがそのまま瞳の輝きに比例しているかのごときアグネスデジタルは尋ねる。

 

「やっぱりアドマイヤベガ先輩が勝つでしょうか!同期であり、ついでに名前の半分が同じ身としてはアグネスフライトさんも応援したい気持ちはありますが!」

 

「あぁ、ボクの思いもキミと同じだよ!トップロードにもぜひ勝ってもらいたい!けれど……」

 

 すこし声のトーンを落としたテイエムオペラオーの横顔を、エアシャカールは目の端で捉える。

 

 彼女が笑顔を浮かべていることに変わりはなかったが、瞳には熱くも厳しい色が混じっていた。

 

「……アヤベさんは、本当に強いからね。」

 

〈ゲートイン完了……スタートです!各ウマ娘、きれいに揃ったスタートを見せました。まずハナを進みますはサイレントハンター、続いて外からタガジョーノーブル、ウチを突きましてファンドリロバリー。その外からはメイショウバチカン、さらに外から2番人気アグネスフライト、といった辺りが先行集団を形成しています。〉

 

 観戦している面々の予想を裏切ったのは、まずアグネスフライトである。

 

 もともと追い込み寄りの走りを得意とする彼女は、昨年のジャパンカップでもほとんどエアシャカールと並び、後方から仕掛ける走りを披露していた。

 

 しかし、今画面に映っているアグネスフライトは先行の位置、逃げウマ娘を追いかけている。

 

「アグネスフライトさん、三番手集団です……!」

 

「オレと走ってた時はずっと追い込みだったはずだ……作戦をがっつり変えてやがる。」

 

 普段と異なる走りを見せているのは、彼女ばかりではなかった。基本的に先行寄りで走ることの多いナリタトップロードは、今回はぐっと順位を下げた位置で走り始めるつもりのようだった。

 

「トップロードは逆に、アヤベさんと殆ど並ぶような走りをしているね。」

 

「同じレースでも、フライトさんとは真逆の決定をしてらっしゃる……」

 

 京都記念のコースは、最初の直線が長い。

 

 すなわち、最初のコーナーに入るまでの間に、順位がおおよそ固まってしまうということだ。可能な限り内回りで攻略したいなら、集団を避けるように前へ出ていくか、後ろに下がるかの二択である。

 

 とはいえ、トップロードが先行を選ばなかった理由はすぐに判明した。アグネスフライトの居る三番手あたりの位置は、文字通りの激戦区だったのである。

 

〈1コーナーを回ってまいります、先頭は変わらずサイレントハンター、続いてタガジョーノーブル。後ろから上がってまいりましたジョービッグバンは三番手、更にファンドリロバリーも負けじと最ウチを進んでおります。ヤマニンリスペクト、あるいはマーベラスタイマーもまた上がっていこうというところ、アグネスフライト順位を下げて現在五番手であります。〉

 

「これって、やっぱり……アドマイヤベガ先輩の存在を、皆が意識しているからでしょうか。」

 

「きっと、そうだね。」

 

 ほとんどのウマ娘にとって、やはり覇王テイエムオペラオーに比肩する実力者、アドマイヤベガの追い込みは最も警戒すべきものであった。

 

 幾名かはアドマイヤベガに張り合おうとして真横にピッタリとつけているが、アドマイヤベガが最も得意とする追い込みで競り合っても、後輩ウマ娘たちが勝てる可能性は低い。

 

 それよりも先んじて距離を稼ぎ、京都レース場特有の後半のスピードに乗せたラストスパートで一気に引き離そうというのが大勢の魂胆であった。結果的に、先行の位置で大混雑が起きるのは必然だった。

 

 似たような現象を、スペシャルウィークが現役だった時代に見ていたナリタトップロードは、自分が普段から多用している作戦を捨ててでも、その混雑に巻き込まれない走り方を選んだのである。

 

〈向こう正面に入りまして、2番人気アグネスフライトは変わらず五番手、マーベラスタイマー、ヤマニンリスペクトが並んでおります。その後ろにはグレイスナムラ、シルヴァコクピット。ウチからトーホウドリーム、外を突くようにダイタクアスリート、ナリタトップロードはその後ろに居ます。背後には最も注目を集めているアドマイヤベガ、さぁそろそろ勝負所が近づいてまいりました。〉

 

「あっ……今の、分かりました!トップロード先輩、この坂道を登り切る前に、仕掛けるつもりですね!」

 

「あぁ!アヤベさんも加速を始めた!」

 

 アドマイヤベガと、ナリタトップロードが加速を始めたのは、示し合わせたわけでもないにもかかわらず殆ど同時であった。

 

 先輩ウマ娘たちが仕掛けたのを、多数の蹄音に囲まれながらもアグネスフライトは気づいていた。現在のままでは完全に集団に捕まっており、思うように動くこともままならない。

 

 彼女は目を凝らす。この下り坂のカーブが終われば、直線へと皆が向かう瞬間、隙が出来るはずだ。

 

 アグネスデジタルが、先月の京都金杯で見せた走りを、フライトもしっかりと目の当たりにしていた。

 

〈いよいよ第4コーナーを回って、直線へと向かいます!先頭はサイレントハンター、だが後続が追いすがる!アグネスフライト、速い、あっという間に先頭に並んだ!しかし集団からナリタトップロード、これも抜け出した!そしてアドマイヤベガ!ナリタトップロードがアドマイヤベガを引き連れて前へと迫る!〉

 

 遂に最終直線に入る瞬間、アグネスフライトは自らを取り囲んでいた集団の隙間を見出し、滑り抜けるようにして前に出る。

 

 スタミナ残量は十分……残すは、背後から迫りくる先輩たちの存在であった。

 

 ナリタトップロードであれば、スタミナの配分・計算は冷静に行っているだろう。アドマイヤベガに至っては、追い込みの成否を案じること自体が不要である。

 

 だが、アグネスフライトもまた、昨年までとは比べ物にならぬ実力を身につけていた。

 

〈アドマイヤベガ来た!アドマイヤベガがやはり先頭か!ナリタトップロード、アグネスフライト並んだ!残り200!アグネスフライト粘っている!アグネスフライト粘っている、今、アドマイヤベガに、ほぼ並んでゴールイン!大接戦でした、一着はアドマイヤベガ、二着はアグネスフライト!三着、ナリタトップロードであります!〉

 

 テイエムオペラオーが、画面に向かって拍手しながら立ち上がる。

 

 アグネスデジタルは圧倒されたままに口を開き、エアシャカールはいよいよ険しい目つきで、中継映像を睨みつけていた。

 

 アドマイヤベガには及ばなかったものの、ナリタトップロードに、アグネスフライトが勝った。

 

「はーっはっはっは!素晴らしい!このボク、世紀末覇王に、挑もうとするウマ娘がどんどん増えていくね!」

 

 大方の予想を殆ど裏切らない結果ではあれど、オペラオー世代のウマ娘を、その後の世代のウマ娘が破る形にはなったのである。

 

 テイエムオペラオー的には喜ばしい内容だったようだが、ますますもってアグネスデジタルの焦り、エアシャカールの目つきを険しいものとするレース結果にも違いなかった。

 

「アグネスフライトさん、勝っちゃいましたね……トップロード先輩に。」

 

「フン……オレより先に行かせるかってんだ。」

 

 間もなく立ち上がったエアシャカールが、レース観戦の余韻に浸る間もなくさっさと練習場に向かっていったのは、やはり同期に先を越されまいと思えばこそだったろう。

 

 足早に中継スクリーン前から歩み去っていくシャカール。

 

 彼女と同じ焦りを抱えながら、アグネスデジタルはその背を見送っていた。

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