覇道のドラマトゥルク   作:Okubo Masau

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宝塚記念、当然ながら世紀末覇王テイエムオペラオーから勝ちをもぎ取らんとするウマ娘たちが集まる一方、トレセン学園に残っていたアグネスデジタルは画面越しの観戦となった。彼女としては同年代のエアシャカールを応援しつつも、自分もまたオペラオーと本番の舞台で競いたいという意欲を捨てきれずにいる。「自分を破る勇者が現れるまで、走り続ける」と述べていたオペラオーの引退が早まらないことをアグネスデジタルは祈りつつ、宝塚記念は開始された。


刃は玉座に届き、志した勇者はそこに居らず

 宝塚記念と同様の構成に整えられた練習コースを走りぬき、ゴール地点からタイム確認へ向かうエアシャカールは独りきりだった。

 

 すでにその日実施した他チームとの合同練習は終え、担当の結城トレーナーは同じく宝塚記念へ出走するアドマイヤベガの指導へついている。

 

 同じレースに出走するウマ娘と練習を共にするわけにはいかない以上、二名を平等に見なければならないトレーナーにずっと見続けてもらえないことは仕方ない。その点を過度に気に掛けるシャカールではなかったが……記録されたタイムに目を走らせたシャカールの表情は暗かった。

 

「これじゃ、足りねェ……」

 

 トレセン学園の中でも戦績の優秀なウマ娘にのみ与えられる専用練習場には、トレーナー無しでも区間ごとの通過タイムを自動的に記録する設備が備わっている。

 

 むろんエアシャカールは宝塚記念における超えるべき最大の目標として、かの世紀末覇王、テイエムオペラオーを念頭に置いてはいた。が、たった今の自分の走りの比較対象として脳内に挙がってきたのは、アドマイヤベガの走りである。

 

 同じ結城トレーナーに指導を受けている仲、アドマイヤベガが昨年長期の療養から復帰してからというもの、同じ本番レースに出走することが無い期間はシャカールとたびたび並走練習を行っていたこともあっただろう。

 

 共に追い込みの作戦を得意とすることもあって、区間ごとの理想的なタイムを身体に覚え込ませているエアシャカールには、単独で練習している最中にも目の前を走っていくアドマイヤベガの姿が幻影のごとく浮かんだ。

 

 想像上のアドマイヤベガの姿は、大抵において自分よりもコンマ数秒先にゴールし……その自分の計算は嫌味なほどに正確で、走り終わった後に確認したタイムは過去のアドマイヤベガが出した記録からそれだけ遅れているのであった。

 

「オレが、速くなって無ぇわけじゃないはずだ。」

 

 たしかにエアシャカールの能力は伸び続けていた。

 

 ウマ娘としては最盛期にあたると言われる今年に入ってもなお伸びしろが無くなるということはなく、当然ながら昨年度と比べれば圧倒的に同距離でのタイムも縮まっている。

 

 初めてアドマイヤベガと競走した時には手も足も出ず、何なら本気を出していない練習中の先輩にすら大きく距離をあけられていた頃と比較すれば、その背に食らいつき続けるだけの能力は確かに身に着けている。

 

 今のシャカール相手には、アドマイヤベガも全力で走らねば勝てないだろう。そも、同年代のウマ娘で競走すれば、エアシャカールがぶっちぎりの一位を獲るだろうことは間違いない。アグネスデジタルも、エアシャカールの存在をはるか先に感じている。

 

 だが……世紀末世代の先輩たちをどれだけ惜しいところまで追いつめても、勝ちと負けが厳然として隔てられていることには変わりないのだ。

 

「ったく、なんて先輩たちだよ……。」

 

 気持ちに焦りはあったが、アドマイヤベガの元へ向かう間際の結城トレーナーから「通しで走るのは残り一本にとどめるように」と言われていたのを思い出し、シャカールはクールダウンを済ませて寮に帰る支度を始める。

 

 愚痴ってはみたものの、この年代にトレセン学園のウマ娘となったことを、エアシャカールの中に悔いる思いは無かった。

 

 今の世代でなければ勝てた、という保証もない。わずかに早ければ、それこそ日本総大将の異名をとるスペシャルウィークを始めとする黄金世代の猛者たちが立ちはだかっただろう。オペラオーたちも、彼女らとしのぎを削ったがために強くなった局面がある。

 

 今よりも後の世代であれば……それでも、オペラオー級の強さを誇るウマ娘が出てこないと断言はできない。遅れてGⅠの舞台へ上がって来たアドマイヤボスが、早くもシャカールの背をおびやかしている。

 

 既に今年の皐月賞や東京優駿においても、激戦を勝ち抜いた新たな世代の優駿たち、たとえばアグネスタキオン等が脚光を浴びつつある。早ければ、今年中に自分たちともぶつかり合うことになるだろう。

 

「分かってる、今、勝てねーとな。」

 

 手にしたスポーツバッグを肩に掛け、練習場から出たエアシャカール。ますます日の入りが遅くなる時期、空にはまだ明るみが残っていたものの、既に廊下には電灯が眩しく点いている。

 

 アドマイヤベガの練習場には既に誰も残っていないのか、完全に真っ暗であった。

 

 練習状況や本番の作戦に関わることは喋れないとはいえ、宝塚記念を目前に控えた今、先輩と一言二言交わしたいと思っていたシャカールは小さな溜息と共に踵を返す。

 

「あ、シャカールちゃん!」

 

 ちょうど入れ違いになっていたのか、シャカール専用練習場の前で立ち尽くしていたのはアグネスデジタルであった。

 

 彼女もまたトレーニングを終えた直後なのか、体操着の肩に汗を拭くスポーツタオルを掛けた格好である。今日の分の練習を終えた直後ここまで走って来たのか、僅かに息を切らしたままにエアシャカールへ話しかけて来た。

 

「いよいよ、だよね!宝塚記念!」

 

「当日に行くわけじゃねーけどな。前の日には現地入りだ。」

 

「うん……その、頑張って!」

 

 現世代最強のウマ娘が集う一流の舞台へ向かうシャカールを前にして、苦境続きであるアグネスデジタルの思いは、そんな一言で表し切れるものではなかっただろう。京王杯は九位、安田記念は十一位……自分が勝ちきれないまま、同年代の友は先へ進んでいくのだから。

 

 が、レースを直前に控えた友に対していちいちややこしいことを伝えるわけにもいかない、と考えたのだろうデジタルは至極簡単な応援だけを口にしたのだった。

 

「あぁ。」

 

 同じウマ娘として、そして同年代を共に過ごした仲として、アグネスデジタルの胸中を十分に推し量ることのできたエアシャカールも、また簡素に返した。

 

 目の前にいる相手を、いずれ自分とも競い合うだけの実力の持ち主として尊重するのならば、そこに野暮な気遣いは無用であった。

 

 

 

 6月24日、阪神レース場。

 

 会場の観客席は言うまでも無く、この日、映像を流すことの出来る機器はことごとくウマ娘レースの中継を映し出していただろう。

 

 未だGⅠの玉座に君臨し続ける世紀末覇王、テイエムオペラオー。彼女に幾度も挑み続け、あと一歩のところまで追いつめては逃しているメイショウドトウ。

 

 また、覇王と共にクラシック級を駆け上がり今なお比肩する実力を見せつけているアドマイヤベガ、そして勝ちこそ得ていないものの先輩たちの背にじわじわと迫りつつあるエアシャカールも顔をそろえている。

 

 さらには新星アドマイヤボス、古参の優駿ステイゴールドも加わり、二か月前の天皇賞春にも見劣りせぬ構図が出来上がっていた。

 

〈今年もやってまいりました、阪神レース場、芝2200m、雨は上がりましてバ場への影響は特にないとのこと、芝状態は良であります。さぁ、ウマ娘レースの解説にはもはやお馴染み、スペシャルウィークさんをお招きしております!どうぞよろしくお願いいたします。〉

 

〈はい!スペシャルウィークです!いやー、宝塚記念、私にも思い出深いレースではありますね!〉

 

〈やはりスペシャルウィークさんといえば一昨年の宝塚記念、グラスワンダーさんと共に圧倒的な走りを見せつけた、あの名勝負が未だ記憶に新しいところではありますが。〉

 

〈どっちかというと、グラスちゃんに圧倒されちゃった感じですけどね……そして去年の宝塚記念、思えばあのレースからドトウちゃんの追い上げが始まったんでした!〉

 

〈えぇ、昨年の金鯱賞を皮切りに、一気に頭角を現したメイショウドトウ。覇王討伐に最も近いウマ娘、今回こそは執念が通じるでしょうか。〉

 

 ウマ娘レースもGⅠの大舞台となれば、スペシャルウィークの明るい声が響くのはお決まりとなっていた。

 

 パドックに現れるウマ娘の姿に歓声が上がる中、進んでいく人気順の紹介。ここに、エアシャカールは予想外の3番人気を得ていた。

 

〈今回は3番人気となりました、エアシャカールです。昨年度の皐月賞、菊花賞を共に制した優駿、今年に入ってからはなかなか勝ちきれない展開が続きましたが、覇王世代によって占められた上位陣にも食い込む実力を見せつつあります。〉

 

〈オペラオーやドトウの次の世代で、私も一番注目してるウマ娘です!〉

 

 同じころトレセン学園にて、練習に休憩を入れてナリタトップロードと並んで宝塚記念の中継を見ていたアグネスデジタル。

 

 そっとトップロードが彼女の表情を窺うも、アグネスデジタルの顔には既に明るさが取り戻されていた。

 

「やっぱ、凄いです、シャカールちゃん!スペ先輩も見ててくださいよ、同年代で注目されるのは一名だけじゃないって!」

 

「じゃあ、そろそろ休憩を終えて、練習再開しますか?」

 

「ひょぉぇえ!中継を見終えるまではご勘弁を!」

 

 すかさずツッコんだ片桐トレーナーに対し、今のデジタルはリアクションを取って見せるだけの余裕がある。

 

(オペラオーも、最初全然勝てないでいた時、謎に自信満々だったよね。)

 

 トップロードは、そんなアグネスデジタルの姿にデビュー当初のオペラオーにも通ずるものを見出していた。画面内では当然のように人気順の1位2位を独占しているテイエムオペラオー、メイショウドトウの紹介が済んでいた。

 

 まもなく発走の時刻を迎え、レース場には歓声があふれながらも、ターフ上には静かな緊張が漲る。

 

〈スタートしました!4コーナー奥からスタンド前へ出てきます、先行ポジション争いはアドマイヤカイザーか、ホットシークレットも前に出て先手を取りましたが……おっと、ウチから出てきたのはドトウ、メイショウドトウであります。アドマイヤボスと並んでメイショウドトウ、三番手につけております。〉

 

〈前までは追い込みの展開が見られましたが、もともと先行が得意なウマ娘ですからね!期待が持てますよ!〉

 

 大歓声の中、一周目スタンド前の直線を駆け抜けていくウマ娘たち。特に前へと出て逃げウマ娘たちにも迫ったメイショウドトウの走りへと、大きな歓声が浴びせられた。

 

 スタンド前直線の途中には上り坂があるものの、スタート直後から一気にスピードの出る構成ゆえ、選手たちは問題なく駆け上がっていく。レース前半からハイペースとなれば差しを決めるのも難しい中、ドトウの取った作戦は順当なものであった。

 

 エアシャカールは練習で繰り返した通り追い込みの位置、そしてアドマイヤベガは更に下げて最後方である。予想外があったとすれば、同じく追い込みに着くと思われていたアドマイヤボスがドトウに並んで先行していたことであろうか。

 

〈前から五番手がダイワテキサス、その後にテイエムオペラオー、中団です!ミッキーダンスが追走、ステイゴールドが続きまして、エアシャカール、トーホウドリーム、後方にアドマイヤベガ、ウチにダービーレグノわずかに最後方といった形で、12名が第1コーナーへと入っていきました。〉

 

〈追い込みの子達も前から引き離されずについて行きそうですね!エアシャカールがいい位置についてますよ!〉

 

 たしかにシャカールは理想的な位置取りではあった。追い込みの位置、内側には1名いたが、外側を塞がれない状態でコーナーを回っていく。

 

 テイエムオペラオーはと見れば、コーナーの内側に入り込んではいたものの、またしてもマークが集中するような形で囲まれていた。身動きが取れない状況でレースが進んでいくのは焦りにも繋がりかねないが、そこは世紀末覇王と呼ばれたウマ娘である。

 

 エアシャカールの目から見ても、オペラオーは落ち着いたまま、むしろ周囲のペースに合わせて力を温存したままに脚を運んでいるようであった。

 

〈先頭はホットシークレット、ホットシークレットが先手を守っております。アドマイヤカイザーは単独二番手、アドマイヤボスの方が三番手と続いています。四番手にミッキーダンス、その外を回る形でメイショウドトウ、その後トーホウドリーム、そしてテイエムオペラオーはメイショウドトウを見る形で進んでいます。間もなく向こう正面へ入ってまいります!〉

 

〈オペラオー、ちょっと外に出ましたね!これはいつでも前に出られる位置ですよ!〉

 

 阪神レース場は、向こう正面の直線から緩やかに下り坂となっている。すなわち、ここからさらにスピードを上げていかねば、最終直線での競り合いに参加すること自体が出来ない。

 

 囲まれっぱなしではないオペラオーは、既に前へ抜け出せる位置を取っている。とはいえ毎度毎度優勝を搔っ攫われるわけにいかない周囲のウマ娘たちも、負けじと追いすがる。

 

 エアシャカールも、目の前のステイゴールドがじりじりと前方集団へ詰め始めたのに合わせてわずかに加速し始めた。

 

〈オペラオーに並んでダイワテキサス、後方から四番目にステイゴールド、その後にエアシャカールが続いております。ウチにダービーレグノ、そして今度はアドマイヤベガが最後方で、向こう正面中間であります。先頭ホットシークレット、リードをさらに広げて3バ身で1000mを通過しました。間もなく3コーナーへ入ってまいります!〉

 

〈この直線を抜けたら勝負どころです!かなり脚を溜めた子達の加速が見ものです!〉

 

 言われるまでもなくテイエムオペラオーは十分に末脚へ回すスタミナを温存した状態であろう。

 

 先行し続けていたメイショウドトウも……これまた言わずもがな、逃げウマ娘たちを一気に抜き去ることの出来る余力を残している。まさに今、先頭のホットシークレットが稼いだリードを徐々に詰めつつあった。

 

 エアシャカールの背後からは、じわじわとアドマイヤベガの蹄音が迫りつつある。

 

(こっからだ……ここで負けてらんねぇんだ。)

 

 正直、今以上に飛ばせば自分の限界がすぐ見えるだろうペースであることは分かっていた。が、勝てないことを前提としたペースを、本番のレースへ持ち込むこと自体あり得なかった。

 

〈さぁアドマイヤカイザー、アドマイヤボスが三、四番手に並んで、メイショウドトウは5番手からじわっと上がって、800の標識を通過!ウチにトーホウドリーム、テイエムオペラオーは中団の真っ只中に残っています!メイショウドトウ二番手へと上がった!外からエアシャカールも差を詰めてくる!最後方のアドマイヤベガも上がって来た!600を切りました!〉

 

〈あぁ、やっぱり皆、強い!頑張って!〉

 

 スペシャルウィークが、エアシャカールに注目していると言ったのは解説者としてのコメントに留まらない、本音であったのだろうか。

 

 ゴール前の攻防を目にしたスペシャルウィークの口を突いて出たその応援の言葉は、強豪たちに囲まれながら必死に上がっていくエアシャカールへ向けられたものであったようにも思われた。

 

 だが圧倒的な強さを見せつけているのは、ぐんぐんと上がっていくメイショウドトウであった。懸命に逃げ続けるホットシークレットに並び、コーナーの途中でアッサリと先頭を奪う。

 

〈メイショウドトウ!早くも二番手から、先頭に躍り出る勢いのままに第4コーナーを回っていきます、メイショウドトウ!エアシャカールが中団グループの外から前へと上がっていく、そのさらに外からアドマイヤベガも上がって来た!前が詰まって来たが、テイエムオペラオーは……外へと出た!〉

 

〈えっ、すごいコース取り……!〉

 

 集団に前を塞がれているオペラオーを横目に、エアシャカールは前へ上がっていく。

 

 大外から迫りくるアドマイヤベガの存在は脅威であったが、あのままテイエムオペラオーが集団に飲み込まれた状態であれば十分に勝機はある、とエアシャカールは一瞬考えた。

 

 しかし実況席のスペシャルウィークが驚きの声を上げた時、オペラオーは集団を回避するため大きく外側へ出ていた。エアシャカールの後ろを回りこむような、大胆なコース変更である。

 

 この中継を見ていたアグネスデジタルはもちろんエアシャカールに注視していたのだが、このオペラオーの判断には唖然とせざるを得なかった。

 

「えっ……あんな距離のロス、取り戻せるの……?」

 

「オペラオーだから、だね。」

 

 隣でナリタトップロードが、落ち着いていながらもどこか強張った声色で応える。

 

 アグネスデジタルとしては一番の課題、最終直線で前を塞がれないように立ち回ることへ頭を悩ませている時期であった。

 

 直線に入れば位置取りに手間取っている暇はない、拮抗する実力差の中で勝敗を決するのは、速やかに妨害のない位置を得て、ゴールへの最短距離を以てラストスパートを掛けること。

 

 そんな常識を、易々と打ち破るようにテイエムオペラオーは一気に下げた位置から猛然と先頭へ迫りだしたのだった。

 

〈最終直線であります!ドトウ先頭!ドトウ先頭!ドトウの執念が通じるのか!ドトウの執念がここで通じるか!ホットシークレット、ウチで粘っている!そしてエアシャカールも二番手争いに加わるか!テイエムオペラオーが、後方から早くも迫って来た!アドマイヤベガも追い込んできた!〉

 

〈行ける!?行けるの!?〉

 

 エアシャカールの外側を、瞬く間にテイエムオペラオーが抜き去っていく。アドマイヤベガがそれに続き、しかしエアシャカールの胸中に驚きなど無かった。

 

 むしろ、自分の確かな成長を実感していた。去年のジャパンカップでは、最終直線に入って間もなく同じ二名に抜き去られ、そして全く勝機など見いだせなかったのだ。

 

(こんだけゴール手前まで持ってこれたんだ……食らいつかせてもらう!)

 

 しかし、既に会場の熱気は先頭を占めている面々……すなわちメイショウドトウ、テイエムオペラオー、そしてアドマイヤベガの競り合いに集中していた。予想に無かった要素としては、ここにホットシークレットが並んでいたことである。

 

 メイショウドトウに抜かれ、既にスタミナ切れかと思われた逃げウマ娘が、なおもコースのウチ側で頑張り続けていたのだ。

 

 とはいえ、圧倒的な強さを誇る二名があらゆる歓声を攫っていた。

 

〈先頭は!メイショウドトウ!ウチにホットシークレット!外からアドマイヤベガ!テイエムオペラオー追い込んできた!エアシャカールなおも離されず!だが先頭は、メイショウドトウ!メイショウドトウ一矢を報いるか!メイショウドトウついに夢の一矢を報いるか!ドトウだ!ドトウだ!ドトウ一着でゴールイン!〉

 

〈凄い……ついに……!〉

 

 迫りくるテイエムオペラオーであったが、1バ身以上のリードを以てメイショウドトウはゴール板前を駆け抜けていた。

 

 むしろ、ホットシークレットがオペラオーに殆ど並ぶ形であった。ギリギリのハナ差で、オペラオーは二着であったが。

 

 エアシャカールは五着。やはり衰えぬ追い込みを見せた四着のアドマイヤベガには勝てなかったものの、0.2秒差の所まで近づけた結果である。

 

 会場はついに世紀末覇王を破ったメイショウドトウへ向けられた喝采に溢れている。地を轟かすかのごとき大歓声を、レースを終えて急に控えめな態度を取り戻したメイショウドトウが一身に受け止めている。

 

 駆け寄って来たテイエムオペラオーが、恥ずかしがってそそくさと控室に帰ろうとするドトウを引き留め、観客席に向けてのお辞儀を二名揃って披露し、また大きな歓声を誘った。

 

 ありとあらゆる場所が、この一大スクープの前に沸き立っているなか、トレセン学園にて中継を観戦していたアグネスデジタルは浮き立ってはいられなかった。

 

 テイエムオペラオーが、敗れた。

 

 すなわち、世紀末覇王を討伐した勇者の到来に伴い……彼女は引退するのだろうか。

 

(いえ……もちろん、私にとって、オペラオー先輩が目標の全てじゃないですから。)

 

 自分の中にそう言い聞かせつつも、やはり晴れぬ表情のアグネスデジタル。

 

 そんな彼女の横顔を、トップロードも見つめて黙っていた。

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