シンジとアスカが仲良く成長した未来。
中学か高校の文化祭での一幕です

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リハビリ作です。
4000文字程度。


将を射んと欲すれば

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、頼むよ、惣流~」と頭を下げるケンスケに、

 

「はあ? いまのご時世でミスコンですって? 企画力にカビでも生えてんじゃないの?」

 

 容赦ない言葉の大ナタを振るったあげく、ふっと鼻で笑うアスカがいる。

 

「そりゃ定番って言えば古いかもだけど、奥ゆかしい伝統というか…」

 

「最近はそういうのは性的搾取とか槍玉に挙げられてばかりじゃないの!」

 

 なお縋ってくるケンスケを、アスカは突き放す。

 

 経緯としては、クラスの文化祭実行委員を拝命したケンスケがクラス代表としてミスコンに出場して欲しいとアスカに歎願している状況。

 

 このやり取りを他のクラスメートたちはハラハラと見守るばかり。

 アスカの剣幕に慄いているのはもちろんだが、彼女の出場いかんによってクラスの総合獲得ポイントに大差が生じるのは明らかだ。

 

 ケンスケは実行委員として全校クラス1位を目指すとの使命感に燃え、一方のアスカは目立つことは嫌いじゃないが面倒くさいのは大嫌い。

 傍目にも二人の意思は平行線である。

 

「じゃあ、これで…」

 

 こそこそとケンスケが何やら懐から取り出して提示したものに、アスカは青い瞳を軽く見張る。

 数枚のチケットは、近場の有名レストランのランチチケットなど。

 

 しかし、またしてもアスカは鼻で笑う。

 

「ふん! なんにせよ、あたしには役不足ね!」

 

 誤用することなく日本語を使ってのけ、背を向けると手をヒラヒラさせて行ってしまう。

 

 あとにはガックリと肩を降ろすケンスケが残された。

 そこに近づくジャージ姿の友人が一人。

 

「結局承知せんかったんかい、惣流のヤツ」

 

 パック入り青汁飲料をストローでずびびと吸いながらトウジがぼやく。

 

「…オレとしては結構張り込んだつもりなんだけどなあ。このままじゃあ予定が…」

 

 あわあわとし始めるケンスケに、トウジは空になったパックをゴミ箱に放りながらニヤリと笑う。

 

「ま、正攻法が駄目なら、搦め手で行こうや」

 

「そうするしかないか」

 

 どこか諦めたような表情で、ケンスケはトウジが見ている方向に倣う。

 そこには、二人の共通の友人である碇シンジが、きょとんとした顔で席に座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、アスカ、ちょっといいかな?」

 

 夕食も終えた葛城邸。

 キッチンで洗い物を終えたシンジが、リビングであられもなくひっくり返るアスカに声をかけた。

 

「ん~、あによ?」

 

 菓子鉢から取り出した煎餅をパキンと嚙み割りながらアスカ。

 

「その、文化祭のことなんだけど…?」

 

 おどおどと言ってくるシンジの様子を見上げ、アスカの目は猫のように細くなる。

 

「なあに? アンタも相田たちに言われてあたしにミスコンに出るように勧めるワケ?」

 

「……ッ!」

 

 一瞬で目論見を察せられ、それでもシンジは必死に動揺を抑える。

 アスカの言った通りに、ケンスケとトウジに彼女をミスコンに参加させるよう説得してくれと頼まれていた。

 あんまり気の進まないシンジに対し、秘密兵器やとトウジが渡してくれた数枚のカンペ。

 それを手の中に隠し、どうにか一枚目のアドバイスの実行を試みる。

 

 その① 押して駄目なら引いてみな

 

「いや、まあ…個人的に僕は出なくてもいいと思うよ?」

 

「分かってるじゃない。あんなの面倒くさいだけよ」

 

「うん。どうせアスカが1位になるって決まっているからね。他の参加者が可哀そうじゃないか」

 

 この台詞は、まんまトウジが書いてくれたものを読み上げただけである。棒読みになってないだろうか、と心配するシンジをよそに、アスカの反応は一瞬遅れた。

 

「…そ、そうよね! 優勝するのが決まっているのに出てても詰まらないもんねッ!」

 

 そんなアスカの反応を懸念しつつ、シンジはカンペの二枚目を捲る。

 

 その② とにかく褒めろ

 

「そうだよ。スタイルだって、歌だって、アクションだって、食い意地だって、誰もアスカに勝てるわけナイヨー」

 

「ええ、その通りよ! アンタ分かってるじゃない! って、最後余計なの混じってない?」

 

「ウウン、ソンナコトナイヨー?」

 

 言葉と裏腹に内心で冷や汗を流すシンジの前で、アスカは立ち上がって腕組み。

 

「…今回のミスコンって、歌かダンスが必須なんだっけ?」

 

「うん、確かそうだったと思うよ?」

 

 だからこそ確実に勝ちに行くべく惣流に声をかけたんだ。ケンスケがそう言っていたのをシンジは思い出す。

 

「っても、仮に、仮によ? この純情可憐なあたしのパフォーマンスを衆目に晒して、得られるものは喝采だけってのはねえ…」

 

 考え込むアスカを、シンジはカップラーメンにお湯を注いだ直後の様子でじっと見守る。

 そして実際にカップラーメンが完成するまでの時間もかからなかっただろう。

 シンジがこっそりと三枚目のカンペを開くのと、アスカが顔を上げたのはほぼ同時。

 

「ねえ、シンジ? 仮にあたしがミスコンに出て優勝したらさ、何か特別にご馳走作ってくれる?」

 

 アスカの台詞にシンジは目を見開く。

 彼が驚いた本当の理由は、カンペの三枚目に記された友人の言葉にある。

 

 『頼む、親友。材料費はこちらで持つ!』

 

「そ、そりゃ、それくらい、もちろんだよ、たぶん…!」

 

 若干のキョドリながらの返事に、アスカは「ふーん」とシンジの顔に視線を這わせる。

 

「それとぉ…」 

 

 アスカは実に悪戯っぽい笑みが浮かべた。

 その表情にシンジは全力で嫌な予感を覚えたが、この場を回れ右で立ち去れるはずもなく。

 

「アンタは、あたしにミスコンに出てもらいたいの?」

 

「え…? そ、それは…」

 

「相田や鈴原じゃなくて、シンジ、アンタ自身はどうなの?」

 

「………!」

 

 嫌な予感は見事に的中。

 ようやく自身が火中の栗を拾わせられたことに気づいたシンジだったが、最後のカンペの一枚に望みを託す。

 そこには―――。

 

 『あとはアドリブでよろしくゥ!』

 

 ケンスケトウジーーーッ!

 

 心の中で絶叫しつつ、シンジは全力で言葉に詰まった。

 今も昔も優柔不断というか自己決定能力の欠如に関しては他者の追随を許さないシンジである。

 ましてや他人の去就の判断を委ねられるなど―――!

 

 シンジは目を閉じた。

 カンペを握り締めた手を二、三回の開閉を繰り返す。

 さすがに声には出さず心の中で「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ」と三回繰り返し、目を開けてアスカを見る。

 

 この同居人の少女は曖昧な態度は嫌いだが、お為ごかしや嘘はそれに輪をかけて大嫌い。

 既にこんな状態で不況を買っている自覚があるシンジとしては、あとは正直に内心を吐露するしかない。

 だがこのプレッシャー下に於いてスムーズに言葉を紡げるほど、この少年は器用でもなかった。

 

「そ、そりゃあアスカが出たくないなら出なくていいと思うよ?

 でもアスカはみんなに比べて飛び抜けて可愛いっていうか綺麗なのは本当だと思うし、そうなると他の子たちもちょっと気の毒っていうか。

 だからといって僕がアスカに出てもらいたくないってわけでもないし優勝したらご馳走だってなんだって作るけど、アスカがステージで歌ったりしたら凄く素敵なのは間違いないと思うなあ…」 

 

 シンジ本人はテンパりまくっていたので、実際に自分はどんな長台詞を口にしたのか把握出来ていない。

 対するアスカの反応はなかった。

 いや、正確を記せば、金髪の少女は顔を伏せて肩を震わせていた。

 

「…アスカ?」

 

 おそるおそるシンジが声をかけた瞬間、アスカは弾かれたように身を翻すとリビングを飛び出して行ってしまう。

 バタン! という音は、おそらく彼女の私室の扉が閉まった音。

 

「た、助かった…?」

 

 へなへなとその場に崩れ落ちたシンジは、ミサトが帰ってきて声を掛けてくれるまでその場を動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭当日。

 たっぷりのフリルのついたサテン生地のドレスを着て、ステージ上で見事な歌とダンスを披露するアスカがいた。

 やんややんやの大喝采に、ケンスケはほっと胸を撫でおろす。

 

「これでどうにか総合クラス一位になれそうだよ…」

 

「うん、本当にそうだね」

 

 アスカの全力のパフォーマンスに、シンジも確信を抱く。

 

「それに、おまえさんの内職の稼ぎもな」

 

 バックステージにやってきたトウジの台詞に、ケンスケは苦笑を浮かべて応じた。

 

「ああ。これで機材台も差し引いて黒字になりそうだよ」

 

「あの、ケンスケ、トウジ、それってどういう…?」

 

 シンジが訝し気に訊ねれば、

 

「あ? センセェには言ってなかったのか? ケンスケのやつ、ステージに幾つもカメラを設置してのう、今回のミスコンの一連を動画にして販売するんやと」

 

「販売は人聞きが悪いな。クラウドファンディングの返礼品と言ってくれないか?」

 

 笑い合う二人に、ようやくシンジも理解が追い付いてくる。

 

「も、もしかして二人とも、これを目的でアスカを!?」

 

「あ、学校サイドからもPR動画に使える素材集めってことで許可を貰っているんで、そこいらは大丈夫だぜ?」

 

「いや、ケンスケ、そういう話じゃなくてさ…!」

 

「まあまあ、落ち着けやシンジ」

 

 トウジが肩に腕を回してくる。

 

「惣流のやつも、ああやって笑ってやってるんや。悪い気分じゃないってことやろ?」

 

「で、でも…!」

 

 言い返そうとしてシンジは口ごもる。トウジが指摘した通り、アスカの浮かべる笑顔はここしばらく見たこともないほど楽しそうなものだった。

 

「そういうこと。黙ってて悪かったな、シンジ。材料費はもちろん手間賃も払うから勘弁してくれないか? ああもちろんこの動画はいの一番におまえのスマホに送るからさ」

 

「…仕方ない、よね」

 

 渋々といった感じで受け入れるシンジに、トウジは破顔する。

 

「やっぱりケンスケやワシだったら、惣流のやつは絶対了承せんかったやろなあ」

 

「うん? そんなことは…」

 

「いや、諺にもあるやろ?『将を射んと欲すれば』って――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした、弐号機パイロット。なんの要件だ?」

 

「…いえ、すみません。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」

 

「ふむ? …大丈夫だ、問題ない」

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、アスカ? そんなに改まって」

 

「うーん、ミサトはどっちかというとシンジの方が馬よね」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

「なに、セカンド?」

 

「アンタだけは絶対に違う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、シンジにとっての馬って誰なのよ、ヒカリ~!」

 

「…うん、アスカ、あたしはあなたのそんなポンコツなところが大好きよ?」

 

 

 

 

 

 


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