陰キャに魔法少女は厳しいです!【第二部開始】   作:黒葉 傘

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無法の守護者達

【side:サイプラス】

 

「荷物はもう纏めたのかな?」

 

「えっと……まだ」

 

「纏めておきなよ、面倒で後悔するのは未来の君だぞ」

 

「……分かってる」

 

「本当?心配だなー」

 

「大丈夫、引っ越しまでにはまとめとくから!……またね」

 

「はいはい、またね〜」

 

 少しムッとしながらも通話を切る。

 アカシアはちょっと過保護すぎると思う。

 わざわざ引越しの準備まで気を回さなくていいのに。

 自分の分もあるくせに…………

 顔を上げて部屋を見渡す、部屋の真ん中に積んだ段ボールには空箱が多く進捗はまだまだだ。

 この狭い部屋もようやく慣れてきた。

 だけど、私はお世話になったこの叔母の家を巣立つことを決めた。

 よくしてくれていた叔母のことは大好きだけど、結局彼女は私の家族にはなり得ない。

 酷いことだと分かっていても、やっぱり私は失ったものを忘れることができないから。

 立ち上がって荷物を段ボールに詰めていく。

 この家に引き取られた時、私はほとんど荷物を持っていなかった。

 荷物が残された家は、深淵の中だったから。

 だけど私たちが第13封印都市を解放したことで、私はあの家族で暮らしていたマンションに戻ることができた。

 契約していたパパとママはもういないし、最低限の家族の思い出だけを引き取ってあの部屋は引き払うことになった。

 といっても最低限でもそれなりの量はあったけど。

 だから今私の部屋には荷物が沢山ある。

 確かに、アカシアの言う通り早く纏めなきゃいけないだろうな…………

 あの家に帰った時。

 家族の荷物を整理した時、私の中で何かの決着がついたんだと思う。

 箪笥の上に置いた家族写真を、丁寧に梱包して段ボールに入れる。

 パパとママ、それから私。

 みんな笑ってる。

 前ほど家族のことを思い出しても悲しくなくなった。

 あの胸を焦がすような孤独感も今はほとんどない。

 深域と共に消滅してしまったかのようだ。

 

「本当に魔法少女を辞めてしまうのかネ?」

 

 突然肩口から声がした。

 見下ろすと手をつたって蛇が首元まで登ってきた。

 いつの間に来たんだろう?

 蛇は神出鬼没だ。

 そういえば……彼に初めて会った時もこんな風に突然現れたんだっけ。

 

「……うん」

 

「もったいないネ、君なら最強の魔法少女も目指せたのに」

 

「今の私には……ほとんど願いが残っていなもの」

 

 きっとお世辞ではないんだろう。

 私には才能があった。

 だからこそこの精霊は私の命を掬い上げたのだから。

 もっとも、命の尊さなんて無頓着な行為ではあったのだろうけれど。

 でも……彼の渇望した魔法少女の才能も、今は残っていない。

 死を望んでいた私の願いは……あの家に戻った時から徐々に薄れていった。

 

「もし、君が望むなら別の願いで再び魔法少女にしてやれなくもないネ」

 

「え?」

 

 別の願い?

 なんの話だろう。

 魔法少女の願いは唯一無二で……替えなんて効かないはずだけど。

 首を傾げて契約精霊を見下ろす。

 

「…………いや、すまないネ。今のは聞かなかったことにしてくれ。これを実行すれば私は他の精霊たちに殺されてしまいかねないのでネ」

 

「な、なにそれ」

 

 一体どんな倫理観のない提案だったのだろうか。

 この蛇は強い魔法少女と契約できるのであればどんな手でも尽くすような性格だと思っていたけど、そんな奴でも躊躇することもあるんだ。

 

「まぁ……関係ない、よ」

 

「ネ?」

 

「もし……別の願いで始められるのだとしても、魔法少女には戻らない」

 

「なぜだネ。君が戦えば沢山の命が助かると言うのに、君の英雄的願望はどこへ行ったんんだネ」

 

 英雄的願望ね。

 らしくもないことを言う。

 そんな取り繕った言葉で私の決心が揺らぐと思っているのだろうか。

 

「無いよ……最初から、そんなもの」

 

 誰かのためだとかそんな高尚な理由で戦ったわけじゃない。

 私のためだ。

 そこにはいつだって身勝手な自己願望があった。

 

「ではなぜ私の提案を飲んだのかネ?」

 

「私はただ死にたかったんだよ」

 

 知っているくせに。

 死ぬならパパとママに誇れる、自慢できる私でいたかった……それだけ。

 他の人たちなんてどうでもよかったんだ。

 

「確かに、君はそういう人間だった。知ってたネ。誤算だったのはアカシアの存在か、アレを君と組ませたのは失敗だったのかもネ」

 

 そうだね。

 彼女の存在は私の中で大きくなりすぎた。

 私の影を掻き消すほど、眩しすぎた。

 それは私の死への憧憬すら塗りつぶした。

 

『ねぇ、一緒に暮らさない』

 

 アカシアはそう私に提案した。

 それこそがこの引越しの顛末。

 私が魔法少女を辞めようと思ったきっかけ。

 

『ほら、ルームシェアってやつ。初めての1人暮らしってハードル高くてさ。君も叔母の家は気まずいって愚痴ってたし、ちょうどいいじゃないか』

 

 そう言う彼女は断られるなんて微塵も思ってない自信満々の表情をしていた。

 いつも通りの先輩面。

 後輩のサイプラスの面倒は僕が見てあげなくちゃ、って顔。

 当然私は私で彼女の提案に頷くのだけれど。

 

「魔法少女を辞めて、どうするネ」

 

「別に」

 

 他の子と同じように、学校に通って、大学に行って、就職して、大人になる。

 パパとママが生きていれば辿るはずだった真っ当な人生。

 ただ………………

 

「まぁ!アカシアちゃんはぁ……私のこと大好きみたいだしぃ、魔法少女業に励めるように私が養ってあげてもいいかなぁ!!」

 

「どうしてそうなるネ!?」

 

「私が後輩として可愛すぎるのがいけなんだと思う」

 

「おぉ、ノイズィサイプラスなぜそこまで自己評価が肥大した。やはりアカシアのやつ甘やかしすぎネ」

 

 ともかくそういうことなのだ。

 蛇には悪いけど私は魔法少女をやめる。

 説得は無駄だと思うけど。

 そう思って見下ろすと蛇も半目で見つめ返してきた。

 舌をチロチロ出し入れしてて可愛いね。

 

「分かったネ分かったネ。君のことはスッパリ諦めよう」

 

「それが賢明だと思うよ」

 

 私たちの共犯はここで終わりだ。

 中途半端なここで、幕を下ろす。

 

「君と一緒に戦えてよかったネ。結局君の願いの成就は幸せな結果にはなり得ないのだから、これでいいネ」

 

「また……思ってもないこと言ってる」

 

 今日はらしくもないことばかり言う。

 珍しく感傷的にでもなっているのだろうか、こいつが?

 

「もちろん、本心では無いネ」

 

 ほらね。

 この蛇はそういう性格だ。

 優れた魔法少女を生み出すことだけを考え、行動している。

 

「だがネ、君とは今日で最後だ」

 

「えっと?」

 

「君が魔法少女を辞めると言うのなら、関係はそこまでだネ。もう2度と会うことは無いし、すれ違ったとしても交わす言葉は無い」

 

「……………………」

 

「最後くらい円満に終わっておくべきだと思うがネ」

 

「そう、だね」

 

 驚いた。

 てっきり社会性はないものだと思っていた。

 最後を取り繕うぐらいの思いやりはあるんだね。

 

「辛いことばかりでも、あの時死ななくてよかった。…………あなたには感謝しているの」

 

「光栄だネ」

 

「ぇ……っと、その」

 

「なんだネ?」

 

「あなたの名前、最後だけどそれを聞かないまま終わるのも、嫌で」

 

 私はこの精霊の名前を知らない。

 他の魔法少女たちも知らないと思う。

 他の契約精霊と違い、彼は名乗ることをしない。

 誰も彼の名前を知らなかった。

 

「残念ながら最強の魔法少女以外には伝える名を持っていないネ」

 

「そう…………」

 

 私にはその資格がないってことね。

 最後は円満にと言いながらそこは譲らない。

 なんだか彼のプライドじみたものを感じた。

 

「さらばだ、最強になれた魔法少女。角はちゃんと一角獣に返却するネ」

 

 それだけ言って、彼は消えた。

 きっと彼の言う通り、この先私たちが顔を合わすことは無いのだろう。

 それでいいし、それがいい。

 だけど、名前を呼んでお別れをしたかったな。

 最後なんだから。

 

 

 

……………………………

 

 

…………………

 

 

……

 

 

 

 夕日が空を赤く染める中、トボトボと街中を歩く。

 歩きなれた花園までの道のり。

 きっとこれが最後になると思うとなんだか感慨深かった。

 胸に手を当てる。

 そこにある角のかけらが私を魔法少女たらしめた。

 だけど魔法少女はもう終わり、これは返さないといけない。

 そうして、なんでもないただの学生に戻るんだ。

 

「魔法少女ノイズィサイプラスだろうか」

 

「?」

 

 近道しようと思った。

 そう思っていつも使う人通りの少ない路地裏を歩いていたら、不意に呼び止められた。

 

「ぇ、えっと…………」

 

 振り返ると影がそこにいた。

 影、としか形容できないもの。

 それは薄暗い路地裏の中、人型のシルエットを形作っていた。

 

「魔法少女ノイズィサイプラスだな」

 

「……誰?」

 

 おおよそ人には見えない。

 だけど喋り、コミュニケーションを取れることから、私はそれを人だと暫定的に判断した。

 

「一角獣の使いだ」

 

「え?」

 

 一角獣の使い?

 それって精霊ではないの?

 黒いナニカはとても精霊には見えなかった。

 精霊の特有の角もないし。

 こんな影花園で見たこともない。

 

「お前の角を回収に来た」

 

「…………」

 

 角の回収、ね。

 私は一歩下がる。

 おかしな話だった。

 一角獣が直接角を回収しないのであれば、先ほど蛇がそうしていたはずだ。

 蛇は言った、ちゃんと角を返却しろと。

 

「し、心配しなくとも角はちゃんと返却する、よ。一角獣様に直接ね」

 

「一角獣は現在不在だ」

 

 さらに一歩下がる。

 確かに変身前の私をノイズィサイプラスと見破った時点で精霊の関係者のかもしれない。

 認識阻害の影響を受けないものにしか私の正体は見破れないはず。

 蛇と話す前だったら、信じられただろう。

 だけどあの蛇が、一角獣の不在を知らないとは思えない。

 また一歩、下がる。

 

「めんどくさいなぁ、怪しまれてるじゃない」

 

「うっ」

 

 背後から声がして私は止まる。

 背後にまた黒い影がいた。

 前方の影とは形が少し違う、背が低い。

 前と後ろ、逃げ道が塞がれた。

 

「つまらない嘘つく必要あるぅ?」

 

「…………お前、なんの権利があって私の作戦を台無しにしている?」

 

 嘘。

 やっぱり嘘だ。

 こんな姿の使い、聞いたことも見たこともない。

 

「めんどくさいからですぅ〜」

 

「穏便にと言っただろう」

 

 私を挟んで、2つの影が言葉を交わす。

 なんだか言い合いしてるみたいだけど、どういうことだろう。

 

「暴力君に頼ればいいじゃん、いつも通り」

 

「彼女はいつもの奴と違って正しい魔法少女だと言っただろうが。人々を守り、災害と戦った。善人だ」

 

「でもヤルことは一緒じゃん」

 

 雲行きが怪しい。

 なんの話かは理解しきれていないけど、少なくとも背後の影は暴力に頼ろうとしている。

 私は視界を巡らせて逃げ道を探す。

 

「待った」

 

 そんな私の気配を感じ取ったのだろうか、前方の影が手をあげる。

 

「手荒なことをするつもりはない」

 

「少なくともこいつわぁ」

 

「お前は黙ってろっ!」

 

 うーん…………

 なんだか噛み合わないコンビだな。

 でも前方の影は敵対的じゃないのかも、言動的には。

 

「一角獣に角の欠片を返却しないで欲しい」

 

「なぜ?」

 

 角、目的はそこか。

 影はそれが一角獣の元に帰らないようにするつもりだ。

 

「一角獣は信用できない」

 

「?」

 

 それは、どういう意味だ。

 歴史において一角獣は人類と共に災害と戦い、人々を守護してきた。

 それが…………信用できない?

 

「なぜ、深災という脅威に精霊だけが対処できる力を持つ?なぜそんな上位存在が人類に手を貸す?考えたことはあるか?」

 

「いまさら、そんな話……?」

 

 確かに精霊が現れた当初はそういった疑惑もあっただろう。

 だけどもう何十年もの間、精霊と人類は友好的な関係を築いている。

 そして彼らの助力のおかげで数えられない程の人々が救われている。

 

「なぜ精霊はこの地球に、この世界に来た」

 

「………………」

 

 知らない。

 私が知っているのは、ただ彼らが深災との戦いに手を貸してくれているということだけ。

 

「歴史は隠蔽されている。奴らがこの世界に来たのは、最初の魔法少女が目撃されたのは、深災が現れるより前の話だ」

 

「え…………」

 

 深災が出現する前に、魔法少女がいた?

 それが本当だとするなら、彼女は何と戦っていたのだろう?

 私たち魔法少女は、深災と戦うだけの存在じゃ…………ない?

 いきなり未知の情報を話され、混乱する。

 これは、信じていい話なの?

 

「精霊たちは、本当の歴史を隠している」

 

「あなたたち、何…………?」

 

 怖かった。

 今の話が本当だとしたら、精霊と人類の関係は根本から崩れる。

 なぜそんなことを知っていて、どうしてそれを私に話すの。

 この影たちは、何?

 

「我々は、精霊の意志を介さず人類を守護する影」

 

「だからぁ、君の角の欠片ぁちょ〜だい!」

 

 2つの影が前後から歩み寄る。

 私は動けなかった。

 どうすればいい?

 何が正しい?

 私は……………………

 

「私は」

 

 胸に手を当てる。

 蛇が私にくれた災厄と戦うための力。

 私は騙されていたのだろうか?

 何もかも上位存在の手のひら上で、私たちは踊らされている?

 でも。

 だとしても…………

 

「私は精霊を悪だとは思えない」

 

 あの日、私は死に突き進むだけの死人だった。

 その命を蛇が掬い上げてくれた。

 命を救われた、その感謝が偽りから生まれたとは思いたくなかった。

 たとえ修羅の道だったとしても、私を生かしたのは精霊だ。

 私はあの蛇と……友達だったのだと信じたい。

 

「変華!」

 

 魔法少女へと変わる。

 もう着ることはないと思っていたドレスを身に纏う。

 最後の変身。

 生を渇望した私の腕に、クレイモアの重力が重くのしかかる。

 やっぱり全盛期からは程遠い。

 これを満足に振り回すことはもうできないだろう。

 それでも私は武器を構えた。

 

「やっぱり暴力君のお出ましじゃんかぁ」

 

「おまえ黙れ」

 

 影たちもどこから出したのか、武器を構える。

 メイスと大きな鋏、そのどちらもやはり影のように暗くて黒い。

 戦いなれた者の構えだった。

 

「引退を決意したヘロヘロ魔法少女が勝てると思ってる?」

 

 分かってる。

 抵抗したところで多分勝てない。

 私の角の欠片は多分この影たちに盗られてしまうだろう。

 それでも戦うんだ。

 

「分かってねぇな」

 

「?」

 

「勝てずと分かっていても引けねぇ時がある。そのくらい人類の守護者と吠えるなら分かれよ」

 

 その声は影が発したものじゃなかった。

 私たちの頭上から、その声は聞こえた。

 

「散れ、雑魚」

 

 紅い斬撃。

 それが頭上から振り下ろされる。

 飛び退く影。

 えぐれる地面。

 衝撃と怒号と共に降り立つ紅。

 

「よぉサイプラス!喧嘩なら手貸すぜ」

 

 レッドアイリスが前方の影から私を隠すように立ち塞がった。

 どうしてこんな所に!?

 その疑問を吐き出す前に、私の背後にも黒が降り立つ。

 

「やっぱり、狙いは角の欠片か」

 

「カメリア!……ちゃん」

 

 ブラッディカメリアが沢山の金魚を伴い私の背中を守る。

 その後ろ姿から表情は窺えないけど、その声は普段と違って低く凄みがある。

 2人は明らかに臨戦体制だった。

 影と戦う気だ。

 どこまで話を聞いていたのだろうか?

 2人は、どこまで事情を知っているの?

 

「こいよ、角泥棒」

 

 刀が抜き放たれる。

 そこからは有無を言わせない暴力の気配がした。

 

「うわっ、“希望”と“解放”の魔法少女が一堂に会してるじゃん。あとでサイン貰ってもいいかなぁ?」

 

「だから、お前マジで黙ってくれ。話がややこしくなる」

 

 影たちも油断なく武器を構えた。

 1人はなんだかおちゃらけていたけど…………




なぜカメリアとアイリスがこの場にいたのかは次話で
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