陰キャに魔法少女は厳しいです!【第二部開始】   作:黒葉 傘

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リベンジマッチ

「それじゃあ〜結局、私たちのチームはしばらく継続ってことかな(疑)」

 

「ま、まぁ……そうなる、のかな」

 

 放課後メテルの自宅で、私は彼女と顔を突き合わせていた。

 現状報告、リリィの復帰に関する話だ。

 それは私たちのチームの今後に関する話でもあった。

 

「結局記憶が戻らないことには魔法少女に戻れないから……」

 

「まぁ、心配しなくてもすぐ思い出すよ〜」

 

 能天気でいいね君は。

 メテルは喋りながらも忙しなくキーボードを叩く。

 今は動画の編集中みたいだった。

 

「すぐって……そんな簡単な話じゃないと思うけど」

 

「一般常識は忘れてないんでしょ?じゃあそんな深刻じゃないさぁ〜?」

 

「そうかなぁ……」

 

 確かにリリィの受け答えはしっかりしているし、脳に重大な障害が残った印象はない。

 ショックで一時的に記憶を喪失してしまっただけ……そう思える。

 だけど…………

 

「さっきから何かな?」

 

「ん」

 

 メテルの手が止まる。

 彼女は椅子を回転させて私の方に向き直った。

 いかにも不満そな顔。

 

「しけた面すんの、やめてもらえます?まるでメテルちゃんとのチームに不満があるみたいに見えるじゃん(怒)」

 

「ぇえ!?ごめん、そんなつもりじゃ……」

 

「じゃあなんで、そんなしょげてるの?ショゲカメちゃ〜ん」

 

 ショゲカメちゃんって何だよ。

 人に訳わからないあだ名つけるのやめてよね。

 とはいえ、私の態度もよくないか。

 彼女の不服も理解はできる、チーム継続が嫌みたいに見えたのなら申し訳ない。

 別にメテルとのチームに嫌気がさしていたわけじゃないんだ。

 

「ただ、リリィの様子がちょっとおかしくて……」

 

「おかしいって何が?」

 

「む………………」

 

 うー……ん。

 何と言えばいいのだろう。

 これは話していいことなのかな?

 神崎さんの個人的な情報だし、メテルは無関係じゃないけど全て話せるわけでもない。

 

「嘘、じゃないんだけど…………、何ていうのかな…………友達の隠してた本性を知ってしまった時ってどうすればいいんだろう?」

 

 違うな。

 こんな言い方じゃ神崎さんが私たちを騙してたみたいじゃないか。

 そうじゃなくて……

 

「別に普通のことなんじゃない」

 

「ん?」

 

 いや普通のことではないと思うよ。

 記憶喪失で性格が変わるのは珍しい部類じゃない?

 

「リリィちゃんはチームメイトの前ではいい子ちゃんを演じてたってことでしょ?」

 

「ぇ、まぁ……そん……なところ?」

 

 それは少し言い方悪くないかな……間違ってはいないんだけど。

 私たちの知る神崎さんは明るく人懐っこい少女だった。

 だけど、記憶をなくした彼女は人見知りの弱気な少女。

 その違いに、私は戸惑った。

 なぜ神崎さんが自分を偽っていたのか、それが分からなくて。

 

「それって普通。超超超普通で、当たり前のことじゃない」

 

「どこ……が?」

 

 偽りの自分を演じる。

 あまりいいことに聞こえないけれど。

 だってそれは八方美人ともとれるわけで……

 

「人によって態度を変える、それって珍しいこと?」

 

「あまり一般的ではないと思うけど……」

 

「本当?なら、そう言う君はメテルに素のままの本当の自分で接してくれてるのかな〜相棒〜〜?」

 

「ぇ、私?」

 

「君の全てを明かせてるの?」

 

 それは……なるべくそうしてるつもりだよ。

 でも、本当の自分って……どこまで?

 出雲日向?それとも前世の自分も含める?

 男だった前世を含めるならば、私は誰1人として本性を明かしたことはない。

 みんなに、隠している。

 

「全部は流石に……」

 

「そうなる、それが普通。リリィちゃんだって同じ」

 

 そうなのかな?

 

「親しい人には砕けた態度、目上の人には敬語、それって普通でしょ」

 

「うーん……」

 

「リリィちゃんはカメリアちゃん達のために演じてたんだと思う」

 

「私達のため?」

 

 メテルは手でハートを作り、ニッコリと笑う。

 あざとく計算された笑顔。

 その姿は私のよく知る配信系魔法少女ファニーダチュラ・メテルだ。

 

「みんなの思うメテルちゃんは作られた幻想。変身を解いた本当の私とは違う」

 

 堂々と本性を隠していると彼女は告白する。

 それはそうかもしれない、彼女は日々多くの人に顔を晒す配信者なのだから、偽りの仮面を被るのは当然のことだ。

 彼女は私にもその仮面で接している。

 いつだって彼女はメテルであり、私の前ですら変身を解かない。

 メテルの本名すら、私は知らない。

 それを不快に思う?

 

「私はみんなのために仮面を作った。好かれる魔法少女として。配信を見る時みんなが望んでいるのはメテルであって、本物は望まれない」

 

 破天荒で口調も言動もメチャクチャ、だけどそこには彼女なりの意図がある。

 彼女なりのエンターテイメントとして、その仮面はつけられている。

 みんなを楽しませるために、夢を壊さないように。

 

「リリィちゃんだってきっと同じ。本当の自分より作り物の方が魅力的で、人を笑顔にできるし、好きになってもらえる…………そう想っていたはずなんだから」

 

 みんなから好かれる…………か。

 確かに神崎さんは好かれていた。

 みんな、彼女が記憶を取り戻して元に戻るのを望んでいる。

 あの元気な少女が帰ってくることを望んでいた。

 だからこそ、当の本人は苦しんでいる。

 

「全てをさらけ出すことだけが誠実じゃない」

 

 日常的に自分を作ってきた人間だからこそそう言えるのかもしれない。

 

「人を想って仮面を被る。そんなことは多かれ少なかれ……みんなしてる」

 

 巨大な猫を被った配信者が微笑む。

 それは珍しいことじゃないって。

 問題なのは仮面の大きさじゃなく、何を想ってそれを被ったか。

 

「だから、悩む必要なんてない。何も言わず今の彼女を受け入れればいいだけ」

 

「何も言わなくていいの?」

 

「うん、だって隠してたってことは……嫌いだろうから、自分。触れないであげな〜」

 

 それは…………自分がそうして欲しいからじゃないの?

 そう思っても、言えない。

 だってその当人が何にも言わず触れるなと、アドバイスしてくれたのだから。

 きっとそれは正しい。

 いつも通りに、日常的に、今のリリィにはそれがいいのかもしれない。

 

「まぁ、それは〜それとして〜……魔法少女業は少しずつ再開した方がいいと思うけどネ」

 

「うん?」

 

 記憶が戻らないかぎり魔法少女には戻れないって言ったんだけどな。

 そもそも変華できないのだから少しずつもないのだけど。

 

「だから無理なんだって」

 

「なんで、変身はできるでしょ?」

 

「できないよ」

 

「ん?」

 

「ん?」

 

 私たちは顔を見合わせた。

 なんだか話が噛み合っていない。

 

「え?記憶喪失でも魔法少女にはなれるでしょ」

 

「なれなかったんだって」

 

「えー…………おかしいな」

 

 メテルは顎に手を当てて首をかしげる。

 変身できないことがそんなにおかしなことなのだろうか。

 …………おかしなことなのか?

 願いが否定されてもハイドランシアは変身できていたらしいし、もしかして変華そのものに願いは必要ないのか?

 

「願いそのものを忘れたとしても、魔法少女にはなれるはずだよ」

 

「…………でも、現に変華できなかったよ」

 

 メテルの首がさらに傾く。

 への字に曲がった口元が疑問を表明していた。

 そんなはずはないと。

 記憶を失っても魔法少女になれると。

 彼女にはそう断言できる知見でもあるかのようだ。

 

「なんか変」

 

「変なの…………かな」

 

「うん、もっと詳しく調べた方がいいかーも」

 

 調べる……か。

 といってももう調査はしたんだよね。

 深獣は影の知識を持っていなかった。

 分かったことといえば新種の深獣である確率は低そうだということ。

 

「そういえば…………アイリスも調べてたっけ」

 

「あの人が?いいじゃん、会ってきなよぉ」

 

 他の星付きが次の襲撃に備える中、アイリスは被害者の調査を任命されていた。

 影の正体を探るため、ローズが指名していたっけ。

 

「あの人ガサツだけど、勘は鋭いから何か掴んでる鴨(グワグワ)」

 

「あ、はは…………」

 

 一番弟子からもガサツと言われてるよ。

 でもメテルの言う通り頼りになる人だからリリィの現状に何か心当たりがあるかも。

 

「うん…………会ってみるよ」

 

「そうしたまえよ相棒」

 

 

 

……………………………

 

 

…………………

 

 

……

 

 

 

「おーカメリア、どうした?」

 

 私はメテルのアドバイスに従い、レッドアイリスに会ってみることにした。

 連絡をしてみると彼女も私に会いたいと言うことで、彼女の指定した集合場所へ向う。

 にしてもなんで…………ここ?

 指定されたのは彼女に似つかわしくない場所だった。

 

「おもちゃ屋…………何か買うの」

 

 棚に並んだ色とりどりのパッケージ。

 電動玩具が喧しく動き音を奏でる喧騒の中に彼女はいた。

 

「おう、ちょっと弟にプレゼントをだなー……買おうと思って。選ぶの手伝ってくれねぇ?」

 

 そう言いながら、彼女は棚に並んだ玩具を物色する。

 都内の有名な大型玩具店。

 アイリスはいつもの黒い革ジャンを羽織り、ダメージジーンズを履いていた。

 魔法少女ではない彼女を見たのは初めてだけど、全く印象変わらないなぁ。

 

「これなんて、いいんじゃね。どう?」

 

 アイリスは大きな恐竜の人形を手に取る。

 布製の鋭く尖った歯並びが私へと向けられた。

 

「ぃ、いいも何も…………弟さん、小学何年生?」

 

「ん?6年」

 

「え」

 

 小学6年生って、リリィと同い年じゃん!?

 弟さんいるとは聞いてたけど、意外と大きいな。

 彼女の話ぶりからもっと小さな男の子を想像してたよ。

 

「そのくらいの年齢ならもう少し大人っぽい方がいいじゃないかな」

 

「そうか?」

 

「これは?弟さんロボットアニメとか見るかな?」

 

「稼働フィギュアぁ?パーツが小さくて飲み込まないか心配だな」

 

「しょ、小学6年生なんだよね?」

 

 少し過保護じゃない?

 その年齢の子供にその心配はないだろ。

 いや、でも彼女聞くところによるとブラコンらしいしなぁ……

 

「カードゲームは遊んでる?ゲームは何好き?これとかは有名なゲームキャラのキーホルダーだけど。あとは……その年齢なら簡単なプラモデルとかも視野だとは思う」

 

 そう言うとアイリスは彼女にしては珍しく戸惑ったような顔をした。

 

「いや、分からん。お前詳しいな」

 

「ぁ、うん」

 

 まぁ……前世は男だったからね。

 男児のホビーには理解がある方だと思うけど。

 そういうアイリスは男みたいな言動なのにその手の理解は乏しいんだね。

 

「役に立ちそうだ。おい、一通り説明しろ」

 

「えぇ…………」

 

 影の脅威について話し合おうと思ったのに、なぜだかホビーの解説をする羽目になった。

 何で???

 暴君は有無は言わせぬとばかりに私の頭をガッチリと掴んだ。

 逃げ場はない。

 

 ……

 

 結局、私はしばらく玩具選びに付き合わされた。

 こんな所で前世の知識をフル活用するとは思わなかったよ。

 アイリスは弟さんが見ていたというアニメの玩具を買ってホクホク顔だ。

 せっかく付き合ったんだから喜んでもらえるといいけど。

 

「いやー有意義な時間だった。また付き合えよ」

 

「お断りします」

 

「なんでだよ、お前も楽しそうにしてたじゃん」

 

「え゛」

 

 私が?

 

「何?違う?」

 

「ぃ、いや…………どう……だろ」

 

 懐かしさは感じていた。

 出雲日向として生まれてから、こういった娯楽物から距離を置いてたから。

 人生勝ち組を目指し、優等生として歩んできた。

 引きこもってからはそうでもないけど、引きこもり時代の娯楽は大概が画面上だったからなぁ。

 こういった玩具に触れるのは久しぶりだった。

 見覚えのある物ばかり、でも見慣れぬ物を見て前世を遠く感じたりもする。

 この世界はやっぱり前世と完全に同じ物じゃない。

 

「嫌いではないよ……」

 

 だけど、前世を思い出すのは好きじゃない。

 

「まぁ、女っ気けないもんなお前」

 

「はあ!?」

 

「いや、すまんすまん。人のこと言えないか!がははは!」

 

 相変わらずデリカシー皆無だなこの人は。

 だけど豪快に笑われて責める気が霧散する。

 悪気はないんだろうなぁ。

 

「なはは………………で、何の用なんだっけか?」

 

「ようやく本題に移れるよ」

 

 なぜ私がここにいるか、ようやく思い出してくれたみたい。

 私はお買い物に付き合いに来た女友達では断じてないのだ。

 

「影に襲われた魔法少女達への聞き込み、もう終わってるんでしょ?」

 

「む……」

 

 私の発言を聞いてアイリスの顔が引き締まる。

 弟大好きお姉さんから、魔法少女レッドアイリスへと変わる。

 

「場所がわりぃな。茶店にでも入るか、奢ってやるよ」

 

「お買い物に付き合ったお礼でね」

 

「ふはっ!だな」

 

 アイリスは玩具屋の袋をブンブンと振り回しながら近くの喫茶店へと足を向けた。

 そろそろ夕暮れ時だから何かお腹に入れにくい時間帯だけどお茶ぐらいはいいか。

 あんまり食べすぎるとせっかく母が用意してくれる晩御飯が入らなくなっちゃうからね。

 喫茶店は繁盛しているのか多くの人の談笑に溢れていた。

 確かにここなら魔法少女の話をしても聴かれずらいかも。

 

「ぁ、コーヒー。ホットで」

 

 席につき、お冷が運ばれてくるなり私はメニューも見ずにコーヒーを注文した。

 見た限り客の多くはコーヒーを注文しているし間違いはないだろう。

 

「え、ちょっと待てよ。まだ注文決まってねえよ」

 

 アイリスはやや膨れながメニューを開く。

 

「カツサンド、セットで。飲み物は烏龍茶。あと食後にプリンサンデー」

 

 即決。

 特に慌てることもなく彼女はメニューを一瞥して注文した。

 彼女らしい思い切りの良さだ。

 にしても注文内容はだいぶガッツリだけど。

 

「わんぱくなチョイスだね。晩御飯?」

 

「いや、晩飯は帰ったあとに食うが」

 

「…………ぉぉ」

 

 わんぱくなのはチョイスだけじゃなかった。

 このあと晩御飯も食べるの?育ち盛りだねぇ。

 

「それで、影に襲われたやつだったな」

 

「うん」

 

「あいつらなら引退させたよ」

 

「え!?」

 

 引退させた?したじゃなくて……?

 被害にあった魔法少女達は軽傷にかかわらず復帰していないって話だったよね。

 なぜ彼女達と話してそんな結果になるんだろう。

 もしかして…………

 

「それって…………」

 

「碌でもねぇ奴らだったからな!」

 

「んえ?」

 

 魔法少女達の話だよね??

 アイリスはイライラしたように腕を組んだ。

 先ほどまでのご機嫌な様子が嘘みたいだ。

 神経質そうに貧乏ゆすりする様子は格好も相まって立派な不良少女だね。

 

「の、飲み物とセットのサラダをお持ちしました」

 

 アイリスの剣幕に店員がちょっとビビっていて面白い。

 そんなに怖い人じゃないよ、粗野なだけで。

 仏頂面で注文の品を受け取る様子からはそれを理解するのは難しそうだけど。

 

「あいつら、魔法少女の力を私的利用してやがった……!!」

 

 深々とフォークをサラダに突き刺してアイリスが唸る。

 噛み付かんばかりだ。

 私はというと、彼女が何に対しそんなに怒りを抱いているのか分からずにいるのだけど。

 

「私的利用?」

 

 というと魔法少女業以外で魔法少女の力を使っていたってことだよね。

 

「それってそんなに目くじらを立てることなの?」

 

 多かれ少なかれ、魔法少女の誰もがやっていることでは。

 力を持っているということは、力を行使できるという選択肢を生む。

 例えば銀行強盗に出会した時。

 あるいは災害時の人命救助。

 またまた学校に遅刻しそうだから、なんていう些細な理由。

 魔法少女に変身すれば全部解決だ。

 人命救助から遅刻回避まで、スーパーパワーで思い通り。

 未成年の少女がその選択肢を正しく自制できるかというとはちょっと怪しい。

 実際目の前のアイリスだって私を守るためアコナイトと決闘した張本人だし。

 そういった事例がないと断言することはできない。

 

「まぁ、ある程度は目をつぶるさ」

 

 アイリスも自覚があるのか、ある程度の例外は黙認していることを認める。

 魔法少女であるという利を利用せずにはいられない。

 それは当然のことだ。

 だって魔法少女は厳しい試験を突破した免許保持者などではなく、ただ精霊に選ばれただけの少女達なのだから。

 

「だが犯罪に利用することは看過できない」

 

「それ…………本当?」

 

 善意ではなく悪意で使ったの?

 だとすると、私の思い描く魔法少女という存在とは随分かけ離れている。

 私の知る魔法少女は基本的には善人だったから。

 あのアコナイトですら、根底には災害から人を守るという善意があった。

 

「私がお話しをした魔法少女4人中3人。どいつもこいつも、つまんねぇことに力を使ってた」

 

 サラダは無惨にも滅多刺しにされた。

 その様子から彼女の言うお話しが穏便な物ではなかったことが伺える。

 

「深災に紛れての火事場泥棒。魔法を使った恐喝。挙げ句の果てには憂さ晴らしに民間人を攻撃。どれも一丁前に隠蔽工作してんのが小賢しい」

 

「魔法少女が!?」

 

 周りに聞こえないように声が潜められる。

 信じられない話だった。

 それって、世間に公表されたら魔法少女のイメージ悪化どころの騒ぎじゃないんだけど。

 マジのマジで犯罪じゃないか。

 どこの誰だ、そんなことした魔法少女は!?

 

「よ、ょ、よく魔法少女になれたね」

 

「精霊と馬が合ったんだろ」

 

「ぁあー…………」

 

 どこかの蛇のことか…………思い当たる節がないでもない。

 精霊達はそれぞれ独自の選定基準を有している。

 パプラみたいな善性を重んじる精霊もいれば、ガルパのように願いを重んじる精霊もいる。

 そして蛇のように才能一点重視の精霊も……いる。

 平気で犯罪に走るような非行少女でも、精霊によっては勧誘対象ってことだ。

 

「4人中3人…………」

 

 流石に犯罪を犯す魔法少女なんてごく少数だと思う。

 それが3人も、これは偶然とは思えない。

 

「意図的な襲撃だろうな」

 

 そんなことをしていれば恨みも買う、それ故の影の襲撃だろうか。

 でもそうなってくると影が善人みたいだけど…………

 

「もう1人は、問題児じゃなかったの?」

 

 悪童は3人だった、例外のもう1人はどうなのだろう。

 

「まて、肉が来た」

 

「ぁ、どぞ」

 

 カツサンドが届きアイリスは怒りをゆるませそれを受け取る。

 大きな一口で、カツサンドは彼女の胃の中に収納された。

 私もコーヒに口をつける。

 うん、いい香り。

 

「うーん、んぐ。もう1人はな。問題なかったが本人の希望で引退させた。もともと辞めるつもりだったんだと。んむんぐ」

 

「食べ終わってからでいいよ……」

 

 引退寸前の魔法少女だった?

 これはまた、違う毛色だ。

 3人との共通点はなさそうだけど。

 なぜ、彼女は影に襲われたんだろう?

 

「弱い奴だった、腕っぷしじゃなくて精神面がな。だから私も引退を勧めたよ」

 

「…………そう」

 

 よくある魔法少女の引退、そう……とれなくもない。

 影の襲撃がなければ、だけど。

 影に襲われたのは5人。

 そのうち3人が悪事を働き、1人は引退予定。

 なんでリリィ達は影に襲われたんだろう?

 共通点を見つけた時は何か影の意図みたいなものを感じたけど…………

 肝心なリリィに共通点が見えない。

 

「お前さ……」

 

「な、なに?」

 

 アイリスがカツサンド片手に私の顔をじっと見る。

 

「そもそも、なんで私に話を聞きに来たんだ?」

 

 そう聞いて、彼女は残りのカツサンドを口に放り込んだ。

 ムグムグと咀嚼しながらもアイリスは私から目を離さない。

 

「当てようか」

 

「簡単すぎるんじゃない」

 

 私がなぜここに来たのか。

 そんなことは言わなくても分かってるくせに。

 リリィだ。

 友達のためだ。

 リリィが負傷して項垂れていた私のところに来たのは、アイリスだ。

 私を励まし、メテルを紹介してくれたのも……アイリスだ。

 だから私の行動原理なんて彼女には筒抜けのはずなんだ。

 

「リリィ、魔法少女になれなかったろ」

 

「っ!!?」

 

 予測していなかった事まで言い当てられて動揺する。

 そう、リリィは変華できなかった。

 だから私は真相を知りに来た。

 また、チームを復活させたかったから。

 

「は!図星だな」

 

 得意げにアイリスは口元についたパン屑を拭う。

 その笑みが私の知りたかったものを知っていると語っていた。

 

「お前には伝えてねぇ共通点がある」

 

「それって、もしかして……」

 

「あぁ、4人全員変身能力を失っていた」

 

「全員……」

 

 リリィと同じ共通点。

 でも……それが意味することってなんだろう。

 

「そもそも魔法少女になれないから、復帰を渋ってたんだ」

 

「でも、なんで変身できないのかな…………」

 

「お前…………」

 

「何?」

 

 またアイリスがじっと見つめてくる。

 何さ。

 目を合わせて会話するの苦手なんだけど。

 

「このあと暇?」

 

「は、はぁ……門限までには帰らなきゃだけど」

 

「まぁ付き合えよ」

 

 な、何に?

 

「影狩り」

 

 

 

……………………………

 

 

…………………

 

 

……

 

 

 

「あのー、少し説明いいです?」

 

「ぁあ?」

 

 アパートの屋上に無断侵入し、私たちはとある家を見張っていた。

 それぞれ魔法少女になって、眼下を見下ろす。

 あの後プリンサンデーをきっちり完食したアイリスさんに連れてこられたんだけど、ここになんの用なのさ。

 

「ん、あれサイプラスの家」

 

「あ、そうなの」

 

 へぇ、あれサイプラスの家なんだ。

 一緒に遊んだことはあっても家にお邪魔したことはなかったから知らなかった。

 こじんまりした可愛らしい一軒家だね。

 

 …………じゃなくて。

 なんで私たちはそのサイプラスの家を見張っているわけ?

 不安げに睨むと、アイリスは飄々とした態度で肩をすくめた。

 

「角だ」

 

「つの?」

 

「影の被害者が失ったのは力じゃない。その本質だ」

 

「それって……一角獣の角ってこと?」

 

 私は胸に手を当てる。

 私たちの魔法少女の体内には一角獣の角がある。

 それを失えば、確かにただの少女に戻るだろう。

 そういえば…………リリィも胸を貫かれてた。

 

「リリィは記憶喪失。じゃぁ他の4人は?…………自分の願いを言えるか?……答えは否」

 

「願いを……盗られた?」

 

「そうだ、角は最初の願いと深く繋がっている」

 

 だからリリィの記憶は戻らない。

 記憶と深く紐づいた願い、それは今リリィの手元にないから。

 

「まだ共通点はある。襲われた4人はどいつも魔法少女を辞めるべき奴だった」

 

 犯罪者と、引退予定。

 どちらも角を返却すべき魔法少女達だった。

 

「つまり願いを掠め取っても罪悪感がねぇ奴だってことだ」

 

 それがレッドアイリスの出した結論。

 影は何らかの理由で角を必要としている。

 だから盗んだ、奪って問題のない魔法少女達から。

 

「でも、リリィは?」

 

 リリィは犯罪者でも引退予定でもない。

 リリィには狙われる理由がないじゃないか。

 

「今の私らと同じだよ」

 

「私たち?」

 

「首を突っ込んだんだろ、自らの正義に従ってな」

 

「あー…………」

 

 そうだね。

 リリィはそういう魔法少女だった。

 手を伸ばさずにはいられない。

 きっと影の存在に気づいたんだろう。

 どこまで事態を把握していたのかは分からない。

 だけど彼女はきっと…………

 

「戦ったんだね、影と」

 

「そうだ。そしてこれからが私たちのリベンジマッチってとこだ。ちょうどいい感じに引退予定の魔法少女もいることだしな」

 

 それで、サイプラスの家の前で張り込みをしているのか。

 サイプラスが引退するかもとはアカシアから聞いていたけど、本当なんだ。

 だとすれば影の狙う魔法少女の特徴と一致する。

 だけど…………

 

「そんなちょうどよく影が現れるかな」

 

「しっ!あいつ外出たぞ」

 

 私たちが見つめる中家からサイプラスが出てくる。

 こんな夕暮れ時に何の用だろう。

 顔を俯かせて黙々と歩いていくサイプラス。

 方角的には花園だろうか。

 何にせよ一人で歩く彼女は無防備に見えた。

 

「追うぞ」

 

 ノリノリで追いかけるアイリス。

 私も彼女の後を追って建物屋上を転々と飛び移っていく。

 ん?

 ふと、気づく。

 影が…………

 

「ねぇ」

 

 アイリスを呼び止める。

 歩くサイプラス、その後ろに人影が2つ。

 だけどその影にはあるべき主人がいなかった。

 夕陽に照らされた長い影だけが不自然に彼女を追いかける。

 

「ビンゴ!」

 

 暴君が獰猛な笑みを浮かべた。

 紅い鎌が暴君の手のひらで顕現する。

 

「いくかリベンジマッチ!」

 

「ぃ、一応言っとくと、私深淵外じゃそんなに強くないよ」

 

 星付きではある。

 だけど私が全力を振るえるのはあくまでも無限魔力を扱える深淵内だけだ。

 深淵外ではようやく新人を卒業間際の魔法少女なことを忘れないで欲しい。

 そういう意味で言ったのだけど……

 

「ハッ!!」

 

 失笑された上に鎌の柄で頭をこずかれた。

 なんでさ!!??

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