陰キャに魔法少女は厳しいです!【第二部開始】   作:黒葉 傘

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奪うモノと奪われたモノ

 数多の武器が燦く、魔法と暴力が渦巻く中心点。

 そこで少女は手をかざす。

 天を仰ぐように空へと伸ばされた手。

 ほとんど沈んだ太陽が淡い赤光を少女に投げかけていた。

 手が、下ろされる。

 私たちへと。

 

「避けろッ!」

 

 勘だろうか、金魚で覆ったはずの視界でもアイリスは確かな脅威を感じ取り、警告を発した。

 直後、少女の背後で円を描いていた武器たちが落下し始める。

 私たちの方へと、真っ直ぐに。

 

「ッ!」

 

「うわぁ!」

 

 全力で、後方へと駆ける。

 横でアイリスもサイプラスを引っ掴んで駆け出すのが見えた。

 そうせざるを得ないプレッシャーだった

 背後かから感じるその威圧感に押されるように足を前へ前へと運ぶ。

 私が目隠しで大量に召喚した金魚が貫かれた。

 それを感じた。

 武器が降り注ぎ圧殺する、物量で。

 

「馬鹿が!普通の住宅街だぞ!?」

 

「それがどうしたの?」

 

 大きな音と共に路地裏が、破壊される。

 そこに住むものなど知らぬとばかりに、武器はコンクリートの塊を貫通し、粉砕した。

 埃が舞い上がり、建築物が大きく傾く。

 

「見境なしかよ」

 

「アイリス、まだ来るよ」

 

 次弾が少女の背後から降り注ぐ。

 そればかりか、路地裏を破壊した武器たちも向きを変え、私たちへと殺到した。

 

「怪我人出んぞこれ。全部ぶっ壊すしかねぇ!」

 

「は、はぁ!?無茶言わないでよ」

 

「腹括れ!漢だろが!!」

 

「女だよ!お互い!!」

 

 武器が飛来する。

 私は考えるより反射で身体を動かした。

 刀を振り抜き、武器を両断する。

 でも切り払った武器の奥からも次々と武器たちが突撃してくる。

 

「ただの飛ぶ武器だと思わないでよ」

 

 分かってる。

 少女の言う通り武器たちにはそれぞれ個性がある。

 炎を纏ったもの、冷気を発するもの、一際巨大なもの。

 ひとつとして同じものはなく、それは魔法少女の個性そのもの。

 それ故にただ切り捨てればいいというわけじゃない。

 

「っ!この!」

 

 こちらを追尾するように武器たちから逃げるように金魚に乗って空を目指す。

 街への被害を最小限にするためには何もない上空に行くしかない。

 だというのに武器たちは建物を破壊しながらお構いなく渦を巻く。

 

「うらぁああああっっ!」

 

 アイリスは雄叫びを上げながら武器の群れを叩き切る。

 有言実行、彼女は自分へと向かって来ていた武器を例外なく破壊していた。

 鎌で斬り、柄で叩き折り、それでも手が足りないなら蹴りで拳で、自身へのダメージなど歯牙にもかけず破壊の限りを尽くす。

 戦いの型などかなぐり捨てた、獰猛な戦い方だった。

 ただ、それでもどこか戦いにくそうに眉を顰めているのは、ここが市街地だからだ。

 アイリスほどの実力者が本気を出せば周囲への被害は甚大になる。

 だからこそ被害を最小限にするコンパクトな動きを強いられてしまう。

 

「うぐ」

 

 上空に逃れた私を取り囲むように遠距離武器が次々と火を吹く。

 金魚の群れを魚群のように纏って防ぐも、次々と金魚たちが落とされていく。

 まずいな…………

 あまりいい状況とは言えない。

 魔力の保有量に自信があるとはいっても、ここでは無限の魔力に頼れない。

 金魚の数は有限だ。

 私も、アイリスも、全力を封じられ多勢に無勢。

 ここが、深淵の中でさえあれば…………勝つのは私たちなのに!

 

「遠くから武器を寄越すばっかで面倒臭え、そんなに私たちが怖えか!?」

 

 その一言にハッとする。

 敵の脅威ばかりを推し量っていた。

 そうじゃない。

 敵の視点に立て、あの少女からすると何が怖い?

 アイリスがその解を出してくれた。

 私たちの切り札はどちらも近接だ。

 私の刀と、アイリスの鎌。

 それが負け筋だからこそ、ノバは武器を飛ばし私たちを寄せ付けない戦いを展開している。

 勝機は、そこだ。

 

「町の被害には目を瞑れ!近づいて、切る!」

 

 怒鳴るように、アイリスにそう告げる。

 そして私は金魚から飛び降りた。

 武器たちを刀で払い、地に足をつける。

 

「続けッ!」

 

 少女に向かって駆け出す。

 矢のように、真っ直ぐ。

 

「おう!」

 

 背後から元気のいい声が追いかけて来た。

 出来るのか?なんて迷いはまるでない。

 私が続けと言ったのだから、続く。

 慣れないはずの共闘なのに、確かな信頼を感じた。

 武器が街を引き裂きながら、来る。

 

「傘!!」

 

 残った全ての金魚を前方に集め、傘へと変える。

 私が創造できる最大サイズの傘。

 それに身を隠しながら突進する。

 

「そんな傘で防げるかな?」

 

 数多の武器たちが洪水のように傘へ飛びかかって来る。

 物量で押し潰すつもりだ。

 

「おや?」

 

 だけどその武器たちは傘に吸い込まれるように溶けて消えていく。

 …………防げるよ。

 火を纏おうが雷電を帯びようが、だってそれは結局魔法の創造物だから。

 吸魔の力の吸収対象だ。

 対魔法少女においても、この傘は最強の盾なのだから。

 

「なるほどね」

 

 武器の軌道が変わる。

 傘を避け、回り込むように私を目指す。

 

「危ねぇ」

 

 後ろを走るアイリスがその武器を叩き落とす。

 でもその全てには対応できず、掠った武器が私の身を裂く。

 だけど、それでいい。

 最低限、守れれば。

 大丈夫。

 少女に近づくための両足と、刀を振るための右腕だけ、残っていれば……いい!

 

「あぁあああああああッッ!」

 

 自分を鼓舞するように叫び、地を蹴る。

 武器が額を割き、血が目に滲んでも。

 左肩にナイフが突き刺さっても。

 私は少女を目指し、駆けた。

 

「接近したら勝てるとでも?」

 

 武器の雨が止む。

 ノバは私の気迫を感じ取ったのか、迎撃は不可能と判断したのか……武器を自身の周囲に集め始めた。

 私たちの勝機は少女に近づくこと。

 だけど別に相手は近接戦が苦手って訳じゃない、それは分かっている。

 こっちが刀1本なのに対し、向こうは何本もの武器を縦横無尽に振れる、弱いわけがない。

 そういう意味では少女にとって私の急接近は捨て鉢に見えるだろう。

 

「だけど、こっちも無策ってわけじゃない」

 

 少女に聞こえないようにこっそり呟き、笑う。

 なんで私は近づいて切る、なんて大きく声に出したと思う?

 傘を捨て、私は目の前に浮かぶ少女を不敵な顔で睨みつけた。

 急接近してくる敵に対して、人は意識を割かざるを得ない。

 だからこそ、隙ができる。

 

「私を!忘れてないッ?!」

 

「なに!?」

 

 深緑色の魔法少女がノバの背後から襲いかかる。

 意識外の奇襲に少女が動揺したのが、仮面の上からでも分かった。

 そう、ここにいる魔法少女はアイリスと私だけじゃない。

 サイプラスもいる。

 引退を決意した私たちに守られるだけのか弱い少女。

 そう思ったのなら、それはノイズィサイプラスという魔法少女のこと舐めすぎだ。

 彼女は私たちがいなくても武器を手に影に立ち向かった。

 そんなサイプラスがこの局面で庇護対象に甘んじるわけがない。

 

「ぐぅっ」

 

 もちろん戦力的には頼りない。

 サイプラスの全力の奇襲にノバは振り向くこともなく武器を横凪に振るって迎撃する。

 ただ、1秒ほど敵の意識を逸らしただけ。

 だけど、その隙が!欲しかった!!

 

「そこ!」

 

 刀に願いを込める。

 傘で吸収した魔力が乗り、刀は腕の中で黒く輝いた。

 全力を、叩き込む!

 

「っっっ!」

 

 展開された武器が刀を遮る。

 だけど防御は全力とは程遠い。

 黒い斬撃が武器の束を切り裂いていく。

 硬い、初めての感触だった。

 抵抗感。

 武器たちが悲鳴のような金属音を奏でて刀を阻む。

 だけど信じる、銀狼の刀はなんだって断ち切れると。

 

「ぁ」

 

 少女の小さな悲鳴。

 武器の束は両断され、刃が少女に届く。

 胸元に一直線に赤い線が描かれる。

 それは悪趣味な衣装を割き、肉を薄く切り裂く。

 装飾が弾け、ツギハギの布が垂れ、胸元が顕になる。

 そして、私はグロテスクなものを目撃してしまった。

 

「えっ…………」

 

 少女の胸…………そこに見慣れない凹凸がある。

 鎖骨から胸元まで広がる肉の隆起。

 まるで何かを沢山詰め込んだかのような出っ張り。

 内出血でもしているのか、青黒い色をした肌が、不気味だった。

 いったい………………いくつの角を胸に埋め込めばあんな風になるのだろう?

 恐怖が吐き気となって込み上げる。

 動揺してしまう、ふさわしくないない場面で。

 それは一瞬でも、少女が反撃するのに充分な一瞬だった。

 切り裂かれた武器に代わり、新しい武器を少女は生成する。

 私に向けられたその反撃を……私は切り裂こうとした、切り裂けるはずだった。

 

 だけど…………私はまた動揺してしまったんだ。

 

 だって、その武器に見覚えがあったから。

 純白の…………槍。

 見覚えのありすぎるその姿に目が見開かれる。

 

「その………………槍、は…………」

 

 手が、止まる。

 私はその槍を斬ることが出来なかった。

 だってその槍は私の友達の武器だから…………

 その槍は私の大切な人の願いだから……………………

 

「カメリア!」

 

 真っ直ぐ私へと伸びる槍。

 槍が私を差し貫く瞬間、背後から誰かが突き飛ばす。

 純白の槍が……赤く染まった。

 

「大丈夫か?」

 

「アイ……リス」

 

 平然と、彼女はそう言った。

 だけどその脇腹には槍が深々と刺さっていて……とても無事には見えなかった。

 私の…………せいだ。

 よろめくアイリス。

 突き飛ばされた私は必死で体勢を立て直す。

 でもそれはあまりにも遅くて…………

 勝機が敗機へと裏返る。

 

「アイリス!カメリア!」

 

 サイプラスの悲鳴のような声。

 顔を上げると少女は私たちをじっと見つめていた。

 その頭上には数えきれないほどの武器が生成されている。

 あんなに破壊したのに…………まだこんなに………………

 

「決着だ」

 

 無情な勝利宣言。

 武器たちが私たちへ狙いを定める。

 

 

 

「それは、どうかな?」

 

 

 

 宣言を覆す、別の人の声。

 

「………………おや?」

 

 稲妻が少女に降り注いだ。

 不意打ちじみたその攻撃を武器の束が防ぐ。

 誰だ…………とは思わなかった。

 だってその電撃には見覚えがあったから。

 空にぽっかりと開いた穴、そこからこちらを覗き見る月の仮面。

 

「庭師……」

 

「今晩は、皆様方」

 

 黒ずくめの魔法少女が、ドレスをたくし上げ門をくぐる。

 気づけば、空はもうすっかり暗くなっていた。

 彼女のドレスが夜に溶け込むほどに。

 

「君か。君もしつこいね」

 

 面識があるかのように太陽の仮面からため息が漏れ出る。

 武器が私たちではなく庭師へと向けられた。

 

「君じゃ勝てないよ」

 

「あら、それはどうかしら」

 

 優雅に庭師は舞い降りる。

 さりげなく私たちから視線を逸らすように庭師は私たちとは離れた場所に降り立った。

 

「星付き相手に随分と武器を消費したみたいじゃない、今のストックで私達に敵うかしらん?」

 

「それは…………君が切り札を切ればの話だろ」

 

「切り札の切り時を見誤る私ではなくってよ」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 2人が睨み合う。

 仮面の間に火花が散る。

 仮面で完全に覆い隠し表情が全く読めないノバに対し、庭師はその露出した口元に笑みを浮かべていた。

 

「…………一応、君のことはライバル視してるんだ。こんな仮面被るくらいだし」

 

「それ、悪趣味だからやめて欲しいのだけれど」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 笑みが深まり、庭師は剣の切先を上げた。

 稲妻が黒剣を迸る。

 

「やめよう」

 

 だけど、少女は殺気を霧散させた。

 意外そうに、庭師の口が開く。

 

「やり合ったらお互い無事じゃすまなそうだ。考えたんだけど、ここで引いても私が椿に怒られるだけだし…………それに椿は私には甘いんだ」

 

「流石に怒るんじゃない?」

 

 破壊の跡が色濃い街を見て、庭師は肩をすくめる。

 黒剣の切先が地面を向き、電流が静まった。

 引く?

 あれだけ派手にやり合っておいて?

 

「逃すと思ってんのか!?」

 

 アイリスが凄む…………けれど、それを黒剣が阻んだ。

 

「怪我人はお黙りなさい」

 

「はぁ!?」

 

「でも………………」

 

「貴方達、自分達が何に首を突っ込んでいるのか分かってる?これは私の管轄よ」

 

 庭師の管轄?

 影が……?

 

「またね、まぁ……次会う時は本気の殺し合いだろうけど」

 

 私たちが言い合っているのをいいことに少女は悠々と背を向ける。

 武器達は彼女が歩き始めると共に夜空に溶けていった。

 アイリスは肩を怒らせて鎌を振り上げる。

 その肩を、私は掴んだ。

 

「カメリア……」

 

「傷、止血しないと」

 

 槍が消えたことによって傷を塞ぐものがなくなり、血が溢れていた。

 彼女の自慢の革ジャンが血で濡れている。

 お互い負傷しているし、ここは追うべきじゃない。

 だけど………………

 

「逃げるの?」

 

 私は、背を向けて歩き出す少女に向けて……それだけ問いかけた。

 

「うん」

 

 なんの悪びれもなく、肯定……されてしまった。

 そう……逃げるんだ。

 あの子は………………リリィは逃げなかったのに。

 リリィの武器を、願いを奪っておいて…………逃げるのか。

 

「お前は…………その武器に相応しくない」

 

 その武器を振るうなら、逃げるなよ。

 それは絶対逃げないことを誓った魔法少女の槍だ。

 前を向き続けた仲間の、願いだ。

 相応しくない。

 お前が持つべきじゃない。

 

 返せよ。

 その槍………………返せよ。

 

 拳をきつく握りしめ、私はその背中が暗闇に消えるまで睨み続けた。

 ずっと、ずっと………………

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