蕃神   作:名無しの海

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1ー1 エヴァ世界転生ってハードモードだよね

 目を開けると年代を感じさせる見知らぬ白い天井があった。

 僕の左手を掴み、椅子に座ったまま微かな寝息を立てる小さな男の子。

 俺は医療用の寝台に寝かせられていて、部屋の中を見渡すと空の寝台あり、ここが病院ということに気が付く。

 

 寝起き特有の、思考を邪魔する眠気を頭を振って払う。そうだ、学校の返りにトラックがシンジに突っ込んできたから、とっさに庇って……え?

 俺が助けた友達、今目の前で寝てる男の子の名前は碇シンジだ。幼稚園の年長さんでであった時はいつも一人で隅っこにいるようなヤツだったシンジ。

 俺はなんでかシンジの事が気になってしまい、何度かちょっかい出してるうちに気が付いたら友達になってた。

 

 恐る恐る自分の手を見ると幼く小さな手が震えている。

 淡島カイとして生きてきた、これまでの一桁の人生以前の記憶が、自分の中に湧き出てくる。

 

 嗚呼、終わった。

 転生でも何でも、そんな事はどうでもいい。

 ここはエヴァの世界だ。

 今の俺は原作でも登場しないようなモブ。

 本編が始まる前、しかも本編にも登場しないようなシンジの友達ポジションに生き残る未来なんてない。

 家族で行った海は青かったので新劇じゃないことは救いかもしれない。

 万が一Qまで生き延びても、俺はあんな世界で、生きていけるような強い人間なんかじゃない。

 

 こんなの酷すぎる……肉体に相応しい精神強度しかないのか、俺の感情の昂りにつられれて、目から涙がぽろぽろと零れおちて、握りしめた俺の手を濡らす。

 

 

 

 あの後、俺は溢れだす感情を制御できず、癇癪を起したように泣きじゃくってしまい、それに気が付いて起きたシンジも俺につられてか泣き始めたりと大変だった。

 落ち着いて考えると、最近のシンジは、いわゆる「シンジくん」といったような内にこもるようなヤツでは無かった事も有、ひょっとすると使徒とかエヴァがでてインパクトでL.C.Lコースみたいな世界ではないかもしれない。

 そう、現実から目を背けた。

 本編が本当に始まるかもわからないんだから諦めるのはまだ早いと。

 

 そこからは自分の中の絶望を隠してこれまでの自分を装った。

 シンジにチェロを一緒に習おうと誘われて、交換条件として習ってみたかった合気道教室へ一緒に通ったり、中学に上がったころは見た目なよっとしたシンジに絡んでくる上級生を二人で返り討ちにしたりとそれなりに楽しい日々を過ごしていた。

 というか身体鍛えたらシンジって普通に俺より強いんだけど?これが主人公特権なの?やってらんねー

 ちなみにラブレターも何通か貰ってるのを俺は知ってる!

 まだ色気より食い気というか遊びたい盛りなのか断ってたみたいだけどな。

 くっそ、俺が代わりにお付き合いしていただ……いや、中学生とお付き合いはまずいなうん、倫理的に。

 以前の自分のことはぼんやりとしていて、どうやって死んだのかも定かではない。

 映画の新劇は最後まで追いかけたこととか、エヴァ周りの記憶は鮮明なんだけどなぁ。

 そのせいもあり同年代の女の子に対してそういう欲がわかない。

 俺の対象はバッチリ二十歳以上!

 外見だったら赤木リツコとかタイプかも。泣き黒子がめっちゃえっちじゃん。

 ちなみにエヴァアニメで好きなキャラは当時めちゃんこ衝撃を与えてきたカヲルくんとアスカだな!

 

 

 中学にあがってからしばらくすると、シンジからとある相談を受けることになる。

 

 「父さんから「来い」って手紙が来たんだけど、どうしよう」

 

 え?待って?1年早くない?

 困惑顔のシンジに手渡された手紙を見ると、何かの番号と「来い」という文字と名前以外が黒く塗りつぶされていた。

 しっかり検閲は仕方ないんだろうけど、これ受け取ったほうなんもわかんなくね?

 人類の未来をーでも補完計画ぅーでもどっちでもいいけど、大事なエヴァパイロットの勧誘方法なってなくね?

 

 送り出すのは簡単だけど、友達をあんな地獄に送り出す奴いる?いねーよなぁ!というか送り出して人類総LCLエンドとか勘弁してほしいしな。

 それにまだ決定的なものを目にしていない。何も起きないかもしれない。

 何かが起きるとしても、ここで穏やかな日常のまま一緒に最後を迎えるのも、悪くないだろう。

 だから俺は、そうやって、また現実から目を背けることにした。

 

 「いや、こんなのいかねーだろ」

 「だよね」

 「返事すんの?」

 「もう、会うつもりがないことをちゃんと伝えておこうと思って」

 「うっわシンジきっつ!」

 「なんだよ、カイだって僕と同じ立場だったら同じことするだろ」

 「まぁ、そうだろうな」

 

 それから何回か同じような手紙が送られてきたが、シンジは一度返事はしたからと無視していたら、学年が上がるころ、とうとう「来い」では無く、「迎えを送る」という内容に変わったらしい。

 なお相変わらずの検閲祭りで内容はさっぱりわからんお手紙なのはお約束。

 

 「迎えが来ちゃうらしいから一緒に行かない?」

 

 ちょっと遊びに行く?みたいに誘わないで欲しい。

 全く行きたくないぞ。

 まぁうっかり本編始まったら行っても地獄、行かなくても地獄かぁ、早くさっくり死にてぇなおい!

 

 「そこはいつも通り、行かないよねーじゃないのかよ」

 「しつこいから面と向かって、もう関わるつもりは無いって言おうと思って」

 

 シンちゃんてばメンタルツヨツヨでは?

 諦め顔で溜息をつくと、シンジは話を続ける。

 

 「迎えを寄越すっていうからには父さん以外の人もいるかもしれないし、カイが一緒に来てくれたら心強いかなって。それについでに東京観光も良くない?」

 「そういうことなら。けど俺ついってって向こうは大丈夫なん?」

 「友達を連れていくこと、滞在費はそっち持ちとか色々条件書いて送ったら「金は幾らでも出す。好きにしろ」だってさ」

 「お前それ俺の同意得てから返事しろやー」

 

 すでに決定済かよ!

 オラ!っとヘッドロックをかまずとギブギブと腕を叩いてくる。

 

 「しかし何の用だろな、まさか再婚とか」

 

 ありえねーって事をぼそっと呟きつつ「いいえ、エヴァーパイロットの呼び出しです」と脳内自己突っ込みしてみる。

 

 「まさか……いやそうなのかも。けどもしそうだとしたら、もう僕の関係ないところで勝手に再婚して僕に関わらないで欲しいよ」

 

 だよな!思春期なめんなよってもんだ。

 

 

 お迎えの人との待ち合わせはシンジ宅。

 シンジ宅といっても碇家の家ではなく、碇ゲンドウがシンジを預けた家だ。

 育ての親というべき人は京都の大学で研究者をしているらしい老年の男性、朝霧さん。

 彼の興味関心は主に研究に向いていたが、突然預けられたシンジにも色々良くしてくれていた。

 そういえばチェロを始めたのも朝霧さんに「何か楽器でもやってみたらどうかね」と進められたかららしい。

 ちなみにチェロも合気道も俺よりシンジの方が相性が良く、何をやっても主人公には敵わねぇぜ状態。

 主人公補正というか人間性は兎も角、両親はめちゃくそ優秀だもんなぁ。

 サラブレット vs モブなんて結果は火を見るよりも明らかなので悔しくもならない。

 

 

 「そういえば迎えはどんな人が来るんだ」

 「冬月さんって人。朝霧先生と同じ大学で先生をしていた人らしいよ」

 「ッブーーーーーーーーーー!!」

 「うわっ、どうしたの」

 「ご、ごめん、お茶が気管にっ」

 

 お迎えといったら定番のミサトさんかな~みたいな軽い気持ちで聞いたらまさかの冬月副指令。

 そりゃ口に含んでだお茶もびっくりして飛び出るわ。違う、吹き出すわ。

 

 

 迎えに来た冬月さんは、俺たちが運転手さんに手伝ってもらいながら車に荷物を詰め込んだりしている間、朝霧さんと親し気に話をしている。

 初めて見るリアル冬月副指令というイベントになんとか興奮を隠しながらもついついチラ見してると、シンジが肘で脇腹を突いてきた。

 

 「どうしたの。ひょっとして知り合いだったりする?」

 「まさか!いやカッコよくない?」

 「そう?」

 

 まぁ確かにエヴァファンフィルターでカッコよく見えてるのかもしれないが、冬月さんカッコいいだろ!

 そんなこんなで第3新東京市に向かうわけですが、車の中で全部説明されちゃいました。

 出発してしばらくしたらそれはもう強烈な眠気が一気にやってきて、すやぁ……と爆睡したはず。

 爆睡したはずっていうのは、身体は寝てるから動かないんだけど、意識だけ覚醒してるというか少し離れたところから第三者的に眺めてるみたいな状態。

 話し始めは、ユイさんの学生時代の話していたのだけど、俺が爆睡していることを確認するとエヴァの話とかシンジがパイロットだの世界が滅びるだの……。

 シンジは冗談だと思って笑ってるけど、冬月さんは笑顔の割に、目が笑ってないぞ?……というか車の中でもらったお茶に何か仕込まれてたかなーあはは~……はぁ……死にたい。

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