プラグ内に生じた水音に、トウジとケンスケが無事プラグ内に入れた事がわかり一安心と思ったら、すぐに2人の悲鳴がプラグ内に響いた。
「なんや!水?水が!」
「カメラがぁぁぁ!!」
ケンスケが先ほどの映像を収めたであろうカメラが水没したと思い発した悲鳴が若干笑いを誘う。
ケンスケってほんとぶれないのな。
「水じゃないから大丈夫!息も出来るだろ?2人とも頼むから後ろで大人しくしててくれ」
インテリアから後ろを覗き声をかけると、トウジとケンスケが驚いたように俺達を見る。
シンジはそんな2人を確認すると発令所への報告をしていた。
「2人とも回収できました!エントリーお願いします!」
『回収確認。エントリー再開します』
オペレーターの言葉と共にエントリーが再開される。
同時に、各種エラーが警報音と共にプラグ内に表示された。
「なんだよこれ、くそっ」
「シンジ!落ち着け!異物……民間人がプラグに入ったからだ。葛城一尉、回収ルートは?」
プラグ内が赤く明滅し、鳴り響く警報音にシンジが焦りだす。
いや、警報音の効果としてはそうなんだろうけど、「逃げちゃ駄目だ」ルートには入りたくねぇぞ!
『回収ルートは34番。山の東側よ!』
「即答サンクスです葛城一尉!シンジ、聞こえたか?山の東側に後退だ……シンジ?」
声をかけるが、シンジの返事が無い。
「僕が……を守るんだ。僕が僕が……守らなきゃ、嫌だ、嫌だあんな事は!」
「お、おい転校生!逃げろいうとるで!?」
「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ、今度は僕が守るんだ!」
シンジは操縦桿を握りしめたまま何かを呟いていて、トウジの声にも反応が……ってまっず!
「葛城一尉!サードチルドレンは不安定な状態にあり指示を認識できていません!コントロールを俺に移してくださいっ」
『シンジ君?聞こえてたら返事をしなさい!……コントロール変更許可します!』
慌てて発令所操作でのコントロール変更をミサトさんに要請すると、ミサトさんはシンジの応答がない事を確認し、すぐオペレーターへ指示を出してくれた。
『いけます!you have co』
「アイハブ!」
『シンクロ率変化!急速に低下していきます!40、39、38、37……まだ止まりません!』
「カイ!どうしてだよ!僕は大丈夫だからコントロールを戻して!!!」
潔癖症なオペレーターのお姉さんの言葉に食い気味で答えると、ロックなオペレーター兄貴がシンクロ率低下を伝えてくれるなか、シンジがゲキオコって感じで叫んでくる。
ロックだなぁ(白目
「落ち着け落ち着けどうどうどう。ここはおにーさんに任せて深呼吸しとけって」
「はぁ?おにーさんてなんだよ、こんな時にふざけないでよ!」
ユイさん聞こえていますか?今あなたの心に直接呼びかけてます。このままだとゲキオコシンジくんと将来の友人諸共バットエンドですよ。暴走しない範囲で力を貸してください。
『29、28、27、26……シンクロ率26%です』
無駄ですよねひぃん!
知ってた!
『カイ君!急いで後退させて!』
「そうしたいところですが、お客さんにしっかりロックされてましてね、突撃されなうですよ……とぉっ!!!」
飛行形態のまま触腕を振るいながら突撃してくる使徒に対して後退もできなさそうなので、使徒に向かって飛びあがると右足で頭部を足にかけ、そのまま勢いをつけてさらに飛び上がった。
「うぉりゃぁあああ!」
「「おわぁあああああああああああっ」」
ひぇぇ、高シンクロ率に慣れすぎてたせいで動きが鈍いいぃぃぃぃい。
プラグ内では俺の叫び声に少し遅れてトウジとケンスケの悲鳴が響き渡る。
すまん、不安定な状態でこの動きはきっちぃよなと心の中で謝っておく。
華麗に空中で態勢を立て直すか、受け身で勢いを殺すつもりだったのに無様に肩から地面に激突してしまった。
痛みを感じるが、シンクロ率が低いためかフィードバックもそこまでしんどくない。
態勢を立て直す時間も惜しいので、そのまま這うように兵装ビルの影になんとか潜り込んだ。
「すんません、回避行動を優先して山から離れてしまいました。赤い彼女からの過激なラブコールがしんどいんで、周囲をデバガメしてる国連だか戦自の皆さんに民間人保護のための撤退支援お願いできませんかねぇマジデ!兵装ビルと一緒に彼女の気を引いて欲しいっす」
軽口叩いてみるが後半は切実。
本当は兵装ビルで気を引いてもらうのがいいんだろうけど、近くのだと出した瞬間触腕で破壊されるので、航空機で気を引いてもらって、使徒が空に気を取られた瞬間兵装ビルで横やり入れるとか無理?
『近くの回収ポイントを表示するので向かってちょうだい!ストーカー気質な彼女はなんとかしてみるわ』
「任せました!」
俺は使徒から隠れるため道路に膝をつけたまま、ひぃひぃ言いながらなんとか回収ポイントへ向かう。
周囲を気遣う余裕もなく、道すがらいくつか自動車とか潰しちまった。
ほんとすまん、NERVか国に補填してもらってくれぇ。
「回収ポイントつきました!」
『初号機回収急いで!民間人を回収しつつ融解部を点検、すぐに再出撃よ」
リフトでケイジ降りながらの小休憩タイムだ。
どっと疲れて肩で息をしてしまってる。
「お、おい。お前ら大丈夫か?」
「ごめん、僕たちのせいで」
トウジとケンスケが申し訳なさそうに話しかけてくるが、正直相手にする余裕はないし、シンジも目を逸らしてしまってる。
まぁ、まだ仲直りしてないもんなぁ。
「すまん、操縦、メンタルの状況が直結するから今は話かけんでくれ」
俺の言葉に2人は口を噤むと大人しく引っ込んでくれた。
2人のことは好きなんだが、今は本当に俺も余裕が無いし、シンジのメンタルを落ち着かせるためにも、関係修復は後回しにさせて欲しい。
というか俺いま若干機密ぽろった?
し、仕方なしということでなんとか頼む。
『シンジ君は大丈夫?落ち着いた?』
「はい、大丈夫です。ミサトさん、さっきはすみませんでした」
お、良好良好。
心配して……職務的にはパイロットの状況確認なんだろーが、声をかけてくれたミサトさんにも返事を返している。
よっしゃ!
「シンジ、再出撃の時はコントロール頼むぞ」
「わかってる」
「だーいじょうぶだって!お前は十分やれることやってる。それに俺達が山に落ちて以降の被害は……コイツラのせいだから」
ぉぅ、俺の冷たい言葉に後ろの2人が縮こまる。
というか俺も思ったより冷たい声が出て自分でびびった。
いや、2人を責めたかったのではなく、シンジを短期的にでも鼓舞しようとだな……
「カイ、僕は大丈夫だよ。有難う。けどやっぱり僕の責任だよ」
「シンジ、反省は大事だけどな、過度に自罰的なのは良くないぞ。お前1人で戦ってるんじゃないんだ。俺も、発令所の皆も一緒だぞ」
後ろからシンジの髪をわしゃわしゃとかき混ぜてやるとびっくりしたように俺を見てくる。
うむ、ちなみに俺の手の平は、使徒の触腕を初号機が掴んだ時のフィードバックがまだ尾を引いてめちゃんこ痛い。
シンジの頭に手をおいた時は激痛が走ったが、なんとか笑顔を保った俺の精神力を俺は褒めたい。
いや、誰か他の人も褒めて!
「そうだね、カイ。うん、一緒に頑張ろう!」
「おうよっ」
笑顔笑顔!
エヴァの操縦はメンタル安定が一番~!
そうこうしているうちに、ケイジに到着。
何か言いたそうにしているトウジとケンスケを「しっかり怒られて来い!」と送り出して作戦会議だ!
『2人とも聞いて、パレットライフルによる遠隔での攻撃は中止、試作プログレッシブ・ダガーとプログレッシブ・ナイフで近接によるコア破壊を目指します』
プログレッシブ・ダガー(仮)とか勝手に呼んでたけど、試作という名前がついてたのかぁ。
「ミサトさん、近接は賛成です。けど使徒のあの鞭はなんとかできませんか?」
「ソレナ。近づく前に吹き飛ばされるか、コア削るまでにアレでぴしぴしされるのをめっちゃ我慢する大作戦になっちゃうんすか?」
お茶らけてみるが、掴んだ時の痛さを考えると、あれで叩かれたらめっちゃ痛いはず。
俺はMッ気は無いんだよなぁ!
『そうね。あの触腕を2本とも放置するのは危険よ。だから接近できたら試作プログレッシブ・ダガーで使徒の腕部、その付け根部分を破壊、プログレッシブ・ナイフでコアを破壊とします』
『あの使徒は腕部の付け根部分が細くなっているので、試作プログレッシブ・ダガーであれば破壊出来る確率が高いわ』
を、リツコさんの援護射撃が入ったか。
プログレッシブ・ナイフは火力不足で使徒の武器を減らせないけど、試作プログレッシブ・ダガーであれば使徒の武器を減らせる可能性がある。
ただコアへの攻撃はプログレッシブ・ナイフになるため、コア破壊に時間がかかる可能性があると。
腕部破壊を諦めれば、近づいて一気に試作プログレッシブ・ダガーとプログレッシブ・ナイフの2本でコアに攻撃できるけど、一撃で撃破出来なかった時のリスクがでかいってことかな……。
『シンジ君、同時に2本の武器を扱わないといけないけど、いける?』
『あら、勿論出来るわよ。だってカイ君のいない時にシンジ君のリクエストでナイフ2本を使った訓練もしたんですもの』
「へ?シンジお前いつのまにリツコさんとそんな仲に!」
オノレシンジ、俺はリツコさん狙ってるって言っておいたのに手を出すなんて……。
これはアレか?
ゲンドウパパの血が成せる業か?
ゆ、許せねぇーーー!
「まって。カイ、誤解だってば。リツコさん!子供っぽくて恥ずかしいから秘密にしてっていったじゃないですか!」
『あら、そうだったかしら』
シンジが叫ぶとリツコさんが揶揄うように言葉を返す。
なんとふれんどりぃな姿を見せつけてくれる。
白いハンカチでも噛みしめてキィってやりたい気分だぜ。
『2人ともリラックス出来た?仕方ないからカイ君には帰ってきたらご褒美のちゅーでもあたしがしてあげるわよ』
「え?ミサトさんのちゅーはいいっす……」
『ぬぁんですってぇええええ!』
『ミサト!作戦中よ!2人とも、融解部は簡易装甲で補修してます。ただあくまで簡易なのであまり過信はしないように』
リツコさんはやはり女神!
フィードバックを考えるとね、やはりすこしても裸族的な部分があるとメンタルが怯むからね!
「よし!行くぞ、シンジ。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール!」
『シンクロ率上昇。60%で安定しています』
シンジにコントロールを渡すとガッツリ上がるシンクロ率。
うっしゃさすがのシンジ様!
トウジとケンスケがいなくなって俺のシンクロ率も盛り返したけどやっぱシンジのメインコントロールが安定だよな~。
これはサクっといけるんじゃね。
「シンジ、戦闘中はあまり俺のこと気にしなくていいぞ。俺を気にした分の隙が出来るから気にせずぶちかませ!その方がダメージも少なくてすむだろ」
「わかった。けど辛いときはちゃんと言ってよ」
「もっちのろん!」
もちのろんで言わないけどイイ笑顔で言い放つ俺偉い。
プラグ内のウィンドウに表示されるミサトさんとリツコさんが微妙そうな顔をしてるってことはあの2人にはばれてんな~たはは。
まぁ俺は痛み耐性低いので気合入れてないとすぐ悲鳴あげちゃうけどな!
今度の射出位置は使徒の後方だったけど、すぐに気が付かれて正面を向かれてしまう。
「行くよ、カイ!」
「よし行けシンジ!」
走り出す初号機に向かって両腕の触腕を使徒が振るってくる。
両手に構えた試作プログレッシブ・ダガーとプログレッシブ・ナイフで先に初号機に届いた触腕を受け止めると、後からくる触腕も纏めて右手に払い。一気に距離を詰める。
シンジはその勢いを生かして左手に持った試作プログレッシブ・ダガーを使徒の右腕部に突き立て、続けて右手のプログレッシブ・ナイフを下から抉るようにコアへ突き立てた。
「これで、どうだぁあああああ!」
シンジの叫び声に答えるようにナイフを突き立てる初号機の力が増し、使徒の右腕部を切断する。
よっしゃと思ったのもつかの間、残った左の触腕が初号機の頭部を突き立てようと動いていた。
「シンジ、頭が狙われてる!」
「っく」
俺の声とほぼ同時に触腕が頭部に向けて突き立てられそうになるが、シンジは間一髪頭部を逸らせて回避をする。
無傷!回避成功頭部無傷であります!
「今度こそ!」
右腕部を切り落とした左手に持った試作プログレッシブ・ダガーをそのまま使徒のコアに向かって突き上げた。
さらに動こうとする使徒にダメ押しとばかりに初号機の両手に力を籠めさせるが、今度は触腕が胸部に向けて突き立て……られない!!!
使徒の触腕は力を失ったように地面に垂れた。
「はぁ……はぁ……やった?」
「いよっしゃ!やった!やったよな?」
肩で息をするシンジにはしゃぐ俺。
早く!状況報告はよ!
『使徒、完全に沈黙しました』
『シンジ君、カイ君お疲れ様。勝利よ!』
「「いぃぃぃやったぁあああああ!!」」
オペレーターとミサトさんの言葉に思わず俺とシンジは顔をあわせ、同時に歓声を上げたのだった。
はー、疲れた疲れた。
現在まったり第7ケイジに移動中~。
といってもリフト移動だからほんとインテリアでまったりしてるだけ。
「なぁシンジ」
「なに?」
シンジも体力使い果たしたって感じで俺と同じくにインテリアでだらりと休んでいる。
「お前さ、ほんとは残りたく無かったんじゃないか。ゲンドウパパの手紙は『来い』の2文字だけでわけわからんかったし、その後あのオッサンなんも言ってこないんだろ?ネグレクトとして出るとこ出てやっても良いんだぞ!って感じだよな」
「どうしたの急に。この前は僕から歩み寄れみたいなこと言ってたのに」
シンジは突然の話題に呆けた顔を少しだけこちらに向けた。
「いやあれは俺がどうかしてた。無理だろあんな自分の息子との交流にビビってるダメ親父。あれは威圧的な雰囲気だしてるだけでホントは恐くてまともに話せないだけだな」
「それはそうなのかも。けど、僕が逃げてるのも事実だよ。何を話していいかわからないんだ」
「はは!まぁお年頃の男子が親と話すってなかなか難易度高いよな」
うん、俺も昔は確かにそうだったかも。
今の俺はどうだろう。
そう考えると今の葦船の両親には罪悪感しかないかな。
血が繋がっていないこともあるし、自分は余所者って思っちまう。
絶対に本心で話なんてできない。
俺も人のこと言えねーや。
「まぁ、そんなゲンドウパパに呼び出されたのにさ、お前は残ってエヴァに乗ってるわけじゃん、凄いよ」
シンジからの返事は無いが、俺も気にせず続ける。
「だからな、エヴァに乗ってくれてありがとう」
「戦ってくれて、ありがとう」
「世界を守ってくれて、ありがとう」
「俺を守ってくれて、ありがとう」
「乗って当たり前じゃないんだ。誰もお前がエヴァに乗ることに感謝の言葉を口にしなくても、俺は言い続けるよ。お前は希望だ」
「けどな、乗りたくなくなったらいつでもいえよ。一緒に京都に帰ろう。その時は世界の終わりまで面白可笑しく過ごそうぜ」
真面目な話。
このタイミングで伝えておきたかった。
シンジは何も言わないし、正面を向いてしまったその顔がどんな表情を浮かべていたかは分からない。
ただ、小さく「うん」と答えた声が聞こえた気がした。
俺はそれで満足だよ。
■■■
初号機の中の会話は全て発令所に流れていた。
スピーカーがオンになったままだったのだ。
周知の事実とは言え、親としての立場を駄目だしされた碇ゲンドウに対して誰も何かを言えるはずがなく、葛城ミサトを始め、誰もが聞こえなかったフリをした。
冬月コウゾウを除いて。
「クク、碇。フォースチルドレンは辛辣だな」
「……問題ない」
「そうか、しかし今のお前の息子に対する態度をユイ君が知ったらどう思うかな」
「……冬月」
「いや、すまん。ついな」
冬月コウゾウが楽しそうにトップを弄るので、余計に発令所内は声を出しにくい雰囲気になっていた。
「あー、シンジ君たちそろそろケイジにつく頃かしら。あたし迎えに言ってくるわ」
「私も初号機の様子を見に行きます」
葛城ミサトと赤木リツコはわざとらしく大きな声で独り言をいうと、オペレーター達を置いてそそくさと発令所を逃げ出すのであった。